カッツモデルを管理職研修に活用。マネジメント階層ごとの重要スキルとは

プレイヤーとして優秀でも、管理職に昇進した途端に業績が落ちるという人はいます。管理職の育成に悩んでいるとき参考にしたいフレームワークが「カッツモデル」です。カッツモデルの基本から、管理職育成にカッツモデルを活用する方法まで解説します。

カッツモデルとは

管理職育成において多くの企業が直面する課題は、優秀なプレイヤーが必ずしも優秀な管理職になれないという現実です。

カッツモデルは、この課題を解決する有効なフレームワークとして、世界中の企業で活用されています。

ここでは、カッツモデルの基本概念と、混同されがちなドラッカーモデルとの違いを整理します。

マネジメントのフレームワーク

カッツモデルは、アメリカの経営学者ロバート・L・カッツが1955年に提唱した、マネジメント層の育成に特化したフレームワークです。このモデルの最大の特徴は、マネジメント階層を三つに分類し、それぞれに求められるスキルの重要度を明確に示している点にあります。

【カッツモデルの三つの階層】

  • トップマネジメント(CEO・COO・会長・社長などの経営層)
  • ミドルマネジメント(部長・課長・エリアマネージャーなどの管理職)
  • ロワーマネジメント(係長・主任・プロジェクトリーダーなどの現場監督)

このフレームワークは、単に理論として提示されているだけでなく、実際の企業経営において人材育成の指針として機能します。

各階層の役職者が必要なスキルを習得することで、組織全体のマネジメント力が向上し、持続的な成長を実現できるのです。

ドラッカーモデルとの違い

カッツモデルとよく混同されるフレームワークに、ピーター・ドラッカーが提唱したドラッカーモデルがあります。両者はマネジメントに関する理論という共通点を持ちながら、その対象と視点において明確な違いがあります。

ドラッカーモデルは知識労働者全般を対象とし、知識労働者の重要性とその育成がイノベーション創出につながることを示したモデルです。対象は役職者に限定されず、専門知識を持つすべての従業員が含まれます。知識社会における競争優位性の源泉として、知識労働者の創造性と生産性向上に焦点を当てています。

一方でカッツモデルは、役職者のマネジメントスキル向上に特化しています。現代の企業経営においては、両モデルを相互補完的に活用することが重要です。

知識労働が主流となった現代では、ドラッカーモデルの視点を踏まえつつ、管理職育成にはカッツモデルの階層別アプローチを適用することで、組織全体の能力向上を図ることができるでしょう。

カッツモデルで取り上げられる三つのスキル

カッツモデルではマネジメント階層ごとの必要スキルを提示しており、スキルは三つに分類されています。カッツモデルを理解するには各スキルの掘り下げが必要です。それぞれどのようなスキルなのか見ていきましょう。

コンセプチュアルスキル

コンセプチュアルスキルは、概念化能力とも呼ばれ、複雑な事象を体系的に理解し、本質を見極める能力を指します。このスキルは、具体的な事象を抽象化して方針や戦略に変換する場面や、逆に抽象的な経営理念を具体的な施策に落とし込む場面で不可欠です。

コンセプチュアルスキルを構成する主な能力は、以下の通りです。

  • 論理的思考
  • 批判的思考
  • 水平思考
  • 戦略的思考
  • 創造性

重要なのは、これらの能力が後天的に習得可能であるという点です。適切なトレーニングプログラムや実践的な経験を通じて、段階的に向上させることができます。

経営層に近づくほど重要度が増すスキルですが、若手の段階から意識的に育成することで、将来の経営人材候補を計画的に育成できるでしょう。

ヒューマンスキル

ヒューマンスキルは、対人関係を円滑に構築し、維持する能力全般を指します。このスキルは、部下のモチベーション向上、チームビルディング、取引先との交渉、上司への報告など、あらゆる場面で必要とされる基本的な能力です。

ヒューマンスキルには、例として次のような能力が含まれます。

  • リーダーシップ
  • 傾聴力
  • 共感力
  • コミュニケーション能力
  • プレゼンテーション能力

特筆すべきは、ヒューマンスキルがすべての階層で一定以上必要とされる点です。経営層から現場の一般従業員まで、立場に関わらず人との関わりは避けられません。管理職においては、上下左右すべての方向への調整役として、特に高度なヒューマンスキルが求められることから、継続的な向上が必要となるでしょう。

テクニカルスキル

テクニカルスキルとは、日々のタスク遂行に必要な知識や能力です。求められるテクニカルスキルは、階層だけでなく業種・職種によって変わります。テクニカルスキルの例は以下の通りです。

  • 業務に関する専門知識や技術
  • 事務処理能力
  • プレゼンテーションスキル
  • 業務に応じた資格

管理職にとってのテクニカルスキルの意義は、部下の業務を理解し適切な指導ができることにあります。

現場の実情を把握せずに指示を出すことは、非現実的な目標設定や無理な業務改善につながりかねません。そのため、管理職になってもテクニカルスキルの維持と更新は重要な課題となるのです。

カッツモデルで提唱された階層ごとの重要スキル

結論を言えば、紹介した三つのスキルにマネジメント階層によって「全く必要ない」ものはありません。カッツモデルでは、トップマネジメント・ミドルマネジメント・ロワーマネジメントという階層ごとに、重要度の高いスキルを提示しています。

トップマネジメント「コンセプチュアルスキル」

経営層に当たるトップマネジメントは、事業の経営方針を決定する立場にあります。企業理念や経営方針という形のない概念を戦略として具体化するには、コンセプチュアルスキルが不可欠です。経営者として同業者や取引先のトップマネジメント層とやりとりするには、一定以上のヒューマンスキルも求められるでしょう。

一方で、現場での実務作業に直接関わることはほとんどないため、テクニカルスキルの重要度は相対的に低くなります。

ただし、業界動向や技術革新を理解する程度の知識は必要です。ヒューマンスキルも一定水準は必要ですが、コンセプチュアルスキルほどの重要性はありません。経営層の育成においては、概念化能力の向上に重点を置いた教育が効果的でしょう。

トップマネジメントにとってのスキルの重要度は、「コンセプチュアルスキル>ヒューマンスキル>>テクニカルスキル」です。

ミドルマネジメント「ヒューマンスキル」

部長・課長などの管理職に当たるミドルマネジメントは、経営層(トップマネジメント)から現場統括(ロワーマネジメント)への伝達・橋渡しをする立場です。部下のマネジメントも業務に含まれるため、円滑な人間関係の構築や食い違いのないコミュニケーションにヒューマンスキルが重視されます。

特に重要なのは、多様な価値観を持つメンバーをまとめ、組織目標に向かって動機づける能力です。世代間ギャップや働き方の多様化が進む現代において、個々の特性を理解し、それぞれに適した対応ができるヒューマンスキルの重要性は増しています。管理職研修では、コミュニケーション技法や傾聴力の向上に重点を置くことが効果的でしょう。

ロワーマネジメント「テクニカルスキル」

係長や主任などのロワーマネジメントにとって最も重要なのは、テクニカルスキルです。現場の最前線で業務を監督し、部下を指導する立場にあるため、業務に関する深い専門知識と実践的な技術が不可欠です。

部下からの技術的な質問に答え、問題解決の具体的な方法を示し、品質や生産性の向上を実現するには、高度なテクニカルスキルが必要となります。

同時に、小規模なチームをまとめるためのヒューマンスキルも重要です。部下との日常的なコミュニケーション、動機づけ、簡単な労務管理などが含まれます。コンセプチュアルスキルについては、日々の問題解決や改善活動において基礎的なレベルが求められます。ロワーマネジメントの育成では、専門性の深化と基本的なマネジメントスキルの習得を両立させることが重要です。

カッツモデルを生かした管理職育成の2ステップ

カッツモデルの全体像を理解したら、実際の管理職育成にどう生かすかを考える段階です。管理職を「ミドルマネジメント」としたとき、カッツモデルの考え方を取り入れて管理職を育てる方法を解説します。

管理職に必要なスキルのチェック

管理職育成の第一歩は、現在の管理職が保有するスキルレベルを客観的に評価することです。ミドルマネジメントである課長や部長には、ヒューマンスキルを中心に、コンセプチュアルスキルとテクニカルスキルのバランスが求められます。

評価では、各スキルの現状レベルと理想レベルのギャップを明確にし、優先的に強化すべき領域を特定します。

スキルチェックの方法として、360度評価、行動観察、面談、テストなどがあります。特に効果的なのは、実際の業務場面を想定したケーススタディやロールプレイングを用いた評価です。部下からの評価も重要な指標となり、リーダーシップやコミュニケーション能力の実態を把握できます。デジタルツールを活用した社内テストも、効率的なスキル評価に有効です。

評価結果に基づき、個人別の育成計画を立案します。スキルが著しく不足している場合は、研修だけでなく、メンタリングやコーチング、一時的な役職変更なども検討します。重要なのは、一度の評価で終わらせず、定期的にスキルレベルをモニタリングし、成長の進捗を確認することです。これにより、育成プログラムの効果を検証し、必要に応じて修正を加えることができるでしょう。

足りないスキルを補える研修内容の検討

スキルチェックで明らかになった課題に対して、効果的な研修プログラムを設計することが次のステップです。ヒューマンスキルの強化には、実践的な演習を中心とした参加型研修が有効です。グループディスカッション、ロールプレイング、ケーススタディなどを通じて、実際の場面で活用できる対人関係能力を身につけます。傾聴技法、フィードバック手法、コンフリクトマネジメントなどの具体的なスキルを体系的に学びます。

コンセプチュアルスキルの向上には、思考力を鍛えるワークショップが効果的です。自社の事例を題材に、具体的な問題を抽象化して本質を見極める練習、抽象的な方針を具体的な施策に落とし込む演習などを行います。クリティカルシンキング、システム思考、デザイン思考などのフレームワークを学び、実務での応用方法を習得します。

研修の実施方法も重要な検討事項です。社内講師による研修は自社の文化や実情に即した内容にできる利点があり、外部講師による研修は最新の理論や他社事例を学べる機会となります。eラーニングと集合研修を組み合わせたブレンデッドラーニングも、効率的な学習方法として注目されています。

カッツモデルを参考に管理職の研修を考えよう

カッツモデルは、マネジメント階層ごとに重要なスキルを提唱したフレームワークです。トップマネジメント・ミドルマネジメント・ロワーマネジメントという階層によって、コンセプチュアルスキル・ヒューマンスキル・テクニカルスキルの中でどのスキルが重要かを示しています。

ミドルマネジメントに当たる管理職の研修には、ヒューマンスキルは前提として、テクニカルスキル・コンセプチュアルスキルも含めて足りない部分を補強するプログラムを用意しましょう。事前にテストを実施して現状持っているスキルをチェックすると、無駄なく効率的な研修が実現します。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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