「やる気にあふれていたはずの社員が、ある日突然辞めてしまう」。そうした出来事に頭を悩ませる人事担当者は決して少なくありません。こうした事態に対し、経営層からは迅速な原因究明と再発防止策が強く求められます。 しかし、これを単なる「個人都合」として処理してしまうと、同様の退職が引き起こされる恐れがあります。本記事では、びっくり退職が発生する真の原因や前兆のサインをはじめ、組織として講じるべき離職防止策について詳しく解説します。
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びっくり退職と聞くと、予兆のない出来事だと感じるかもしれません。しかし、驚いているのは企業側だけというケースがほとんどです。では、社員の中では何が起きていたのでしょうか。まずは意味と主な原因から整理します。
「びっくり退職」とは、会社や上司にとって全く思いがけない時期に、従業員から突然退職の意志を告げられる意思を指します。特に、日常的にトラブルなく真面目に業務をこなし、不満を漏らさず安定して働いていた社員ほど、突然の申し出によって周囲に大きな衝撃を与えます。
ただし、突然だと感じているのは企業側だけかもしれません。本人の中では、不満やキャリアへの不安が何カ月も前から積み重なっています。転職活動を終え、内定を得た段階で初めて意思を伝えるケースも珍しくありません。
びっくり退職の原因は、大きく四つに整理できます。どれも突発的なものではなく、日常の積み重ねから生まれるものです。
厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」でも、転職入職者が前職を辞めた理由として、定年や契約満了を除くと「職場の人間関係が好ましくなかった」「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「給料等収入が少なかった」などが上位に並びます。特別な事情よりも、日常的な不満が引き金になっているといえるでしょう。
背景には、転職環境の変化もあります。スカウトサービスやオンライン面接が一般的になり、在職中でも周囲に気づかれずに活動を進められるようになりました。以前のように、転職活動の気配が社内に漏れることは少なくなっています。
問題は、これらの不満が会社に届かないまま退職に至る点です。原因ごとに、社員の本音と企業側の死角を整理しました。
主な原因 | 社員が抱えやすい本音 | 企業が見落とす理由 |
評価や待遇 | 頑張っても報われない | 評価面談で不満を口にしないため |
人間関係 | 上司には相談できない | 業務は問題なく回っているため |
キャリア | この先が見通せない | 目の前の成果で判断しているため |
業務負荷 | 断れずに抱え込んでいる | 優秀で処理能力が高い社員ほど仕事を任されやすいため |
いずれも、社員が声を上げなければ表面化しません。だからこそ、企業側から変化を捉える仕組みが必要になります。
びっくり退職には、まったく予兆がないわけではありません。日々の行動に、小さな変化として表れることが多いのです。ここでは見逃しやすい四つの兆候を紹介します。
最も分かりやすいのが勤怠の変化です。転職活動には、面接や書類作成の時間が必要になります。そのため、有給休暇や半休の取り方に変化が表れやすくなります。
例えば、これまで有給をほとんど使わなかった社員が、月に数回の半休を取り始めたとします。平日の午後や午前に集中している場合は、びっくり退職の兆候の一つとして注意して見ておきたいところです。遅刻や早退が増えるのも同じ理由です。
ただし、勤怠の変化だけで転職活動と決めつけるのは避けてください。体調や家庭の事情が背景にあることも多いためです。大切なのは、変化に気づいた時点で声をかけることでしょう。「最近忙しそうだけど大丈夫?」というひと言が、対話のきっかけになります。
勤怠データは客観的で、記録として残ります。月次で前年や前期と比較し、変化の大きい社員を把握する運用が現実的です。
退職を考えている社員は、先の予定に対して消極的になります。半年後、1年後に自分がこの会社にいる前提を持てないためです。
具体的には、新規プロジェクトへの立候補がなくなる、来期の目標設定が急に控えめになる、後輩の育成や引き継ぎに前向きな発言が減る、といった変化が見られます。会議での発言が「決まったことに従います」という受け身の姿勢に変わるのも同じサインです。
一方で、目の前の業務は淡々とこなします。ここがびっくり退職を見抜きにくいポイントでしょう。成果が落ちていないため、上司は問題なしと判断してしまうのです。
注目すべきは成果ではなく、未来に関する会話の量です。中期の役割やキャリアの話題に反応が薄くなっていないか、意識して確認してみましょう。
雑談や情報共有が減るのもびっくり退職の代表的な兆候です。退職を決めた社員は、必要以上に関わることを避ける傾向があります。気まずさを感じたり、引き留められたくないと考えたりするためです。
例えば、これまで参加していた懇親会を続けて欠席する、チャットの反応が業務連絡だけになる、休憩時間に離席することが増えるといった変化が挙げられます。オンライン中心の職場では、カメラをオフにする回数が増えることもあるでしょう。
注意したいのは、量ではなく質の変化です。管理職は「よく話している」と認識していても、社員側は「業務の話しかしていない」と感じている場合があります。この認識のずれが、兆候の見落としにつながります。
服装や身だしなみの変化も、びっくり退職の兆候として見落とされやすいサインです。変化には正反対の二つのパターンがあります。
ひとつは、急にきちんとした服装が増えるケースです。面接を控えている場合、私服勤務の職場でも落ち着いた装いになることがあります。髪型を整える、名刺入れや鞄を新調するといった変化も同様です。
もうひとつは、逆に無頓着になるケースです。会社への関心が薄れ、身だしなみに気を使わなくなる状態を指します。仕事へのモチベーションが下がっているサインと考えられます。
もちろん、服装だけで判断するのは危険です。プライベートの変化が理由という場合もあります。あくまで他の兆候と重ね合わせて捉える材料と考えましょう。
兆候を知るだけでは、再発は防げません。個人の観察力に頼らず、仕組みとして変化を捉える体制が必要です。ここでは、組織として取り組みたい五つの施策を紹介します。
びっくり退職を防ぐ上で、最も基本になるのが1on1ミーティングです。上司と部下が1対1で対話する場を、月1回など決まった頻度で設けます。頻度が高いほど、変化に早く気づけるでしょう。
重要なのは、進捗確認の場にしないことです。業務報告だけで終われば、本音は出てきません。仕事の手応え、負担に感じていること、今後やってみたいことなど、テーマを事前に共有しておくと話が深まります。
また、話した内容を記録に残す運用も欠かせません。異動や上司の交代があっても、対話の履歴が引き継がれるためです。過去の面談内容を振り返ることで、社員の変化にも気づきやすくなります。
評価への不満は、退職理由の上位に入り続けています。ただし、社員が求めているのは高い評価とは限りません。多くの場合、納得できる説明を求めています。
納得感を高めるには、次のような運用が有効です。
年に1回の面談だけでは、認識のずれは埋まりません。日常的な称賛や感謝を伝える機会も併せて設けたいところです。
優秀な社員ほど、仕事が集中しやすくなります。頼めば期待通りに応えてくれるためです。しかし本人は、断れないまま限界に近づき、びっくり退職に至る可能性があります。
まずは業務量の実態を把握しましょう。残業時間だけでなく、担当している案件数や役割の兼務状況も確認します。特定の社員に業務が集中していないか、部署単位で棚卸しすることが有効です。
その上で、属人化の解消に取り組みます。業務手順を文書化する、担当を複数人にする、といった対応です。結果として、突然の退職が起きた際の影響も小さくできます。
併せて、働き方の選択肢を広げることも検討したいところです。時差出勤や在宅勤務など、事情に合わせて働ける制度があれば、環境の変化を理由とした離職を防げます。制度をつくるだけでなく、実際に使われているかまで確認しましょう。
コミュニケーションの減少はびっくり退職の兆候のひとつですが、感覚では捉えにくいものです。そこで、つながりを可視化する発想が役立ちます。
例えば、社内SNSやチャットへの投稿頻度、社内制度の利用状況、感謝を伝え合う仕組みのやりとりなどが指標になります。これまで活発だった社員の反応が減っていれば、変化のサインと判断できるでしょう。
数値そのものより、変化の方向を見ることが大切です。部署をまたいだ関係が少ない社員は、孤立しやすい傾向もあります。定期的に確認し、必要に応じて上司や人事から声をかける運用を組み込みましょう。
面談だけでは拾えない声もあります。上司には言いにくい内容があるためです。そこで、従業員満足度調査やエンゲージメントサーベイを活用します。
月1回程度の短い調査を継続すると、変化を時系列で追えます。年1回の大規模な調査だけでは、状況が変わってからの把握になりがちです。設問は絞り、回答負荷を抑えることが継続のコツでしょう。
さらに重要なのが、結果を返すことです。集めるだけで何も変わらなければ、社員は答えなくなります。何が課題で、どう改善するのかを共有してください。この積み重ねが、本音を話せる土台を形成し、びっくり退職を防止します。
びっくり退職は、突然起きているように見えて、実は把握できていなかっただけかもしれません。社員の小さな変化を捉え、本音が上がってくる組織をつくることが再発防止につながります。
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記事で紹介した取り組みは、次のような形で運用できます。
いずれも、担当者の負担を抑えながら継続できる点が特徴です。導入企業では、社内コミュニケーションの活性化や定着率の改善といった変化が報告されています。
社員の本音を把握できる状態をつくることが、びっくり退職を防ぐ最短の道です。自社の仕組みを見直す一歩として、検討してみてはいかがでしょうか。