ディーセント・ワークとは?意味や取り組むメリット、導入のポイント

ディーセント・ワークは、企業が持続可能な経営を実現する上で不可欠な労働概念です。SDGsにおける企業責任の一環であり、日本でも注目が高まっています。ディーセント・ワークの意味や取り組むメリット、実現に向けたポイントを解説します。

ディーセント・ワークの基礎知識

ILOが提唱するディーセント・ワークは、働きがいと人間らしい労働環境の両立を目指す考え方です。まずは、定義やSDGsとの関連、注目される背景を見ていきましょう。

ディーセント・ワークとは

ディーセント・ワークとは、働く人の権利と尊厳を守り、仕事のやりがいと生活の安定を両立させる労働のあり方を示す言葉です。ILO(国際労働機関)が1999年の総会で提唱しました。

働く人々が権利を保障されつつ適切な収入を得て、安全かつ公正な環境で就労できることを核心としています。具体的には、「生産性のある仕事とそれに見合った報酬」「労働の安全と社会的保護」「自己実現や社会参加の機会」「表現や団結の自由」「機会均等と差別のない待遇」が含まれます。

単なる雇用確保にとどまらず、働くことの尊厳と包括的な福祉を統合した、持続可能な労働のあり方を示すものです。

ディーセント・ワークとSDGsの関係

SDGsにおいてディーセント・ワークの実現を中心に据えているのが、目標8「働きがいも経済成長も」です。完全かつ生産的な雇用と人間らしい働き方を世界中で促進することが掲げられています。

ディーセント・ワークの推進は、貧困削減や不平等是正、教育機会の拡大など他の目標とも密接に結び付き、社会全体の持続可能性を高める役割を果たすものです。そのため、企業にとっても、経済的成果と社会的責任を両立させるための重要な取り組みと位置付けられています。

出典:8.働きがいも経済成長も | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)

ディーセント・ワークが注目される背景

ディーセント・ワークが注目される背景には、貧困や格差の拡大といった世界的な社会課題があります。経済成長が進む一方で、非正規雇用の増加や労働者の権利軽視など不安定な雇用環境が広がり、働く人の生活基盤や尊厳が脅かされているのです。

日本においても、長時間労働・ハラスメント・ジェンダー格差といった課題が依然として残っており、安心して働ける職場環境の整備が求められています。こうした社会的要請を背景に、ディーセント・ワークは持続可能な社会の実現に不可欠な取り組みとして大きな注目を集めています。

日本におけるディーセント・ワーク

日本では長時間労働や非正規雇用などの課題を背景に、ディーセント・ワークの重要性が高まっています。以下では、評価項目と達成度の判定方法を見ていきます。

ディーセント・ワークの評価項目

ディーセント・ワークを評価する際には、労働環境を多面的に捉えることが求められます。主な観点は以下の通りです。

  • 働き方と生活の調和:ワークライフバランスが確保され、安心して長く働ける環境か
  • 公正性と平等性:性別や雇用形態にかかわらず、公平な待遇と成長機会が与えられているか
  • 安全性と権利保障:従業員の健康と安全が守られ、権利を行使できる職場か
  • 持続可能な基盤:安定した収入と社会保障制度が整い、生活の安心を支えられているか

これらの項目は、制度の整備だけでなく従業員が実際に認知し活用できるかという実効性の観点からも評価されます。

ディーセント・ワークの達成度の判定軸

ディーセント・ワークの達成度は、七つの判定軸に基づいて職場環境を総合的に判断する方式が一般的です。主な判定軸は以下の通りです。

  • ワークライフバランス軸:仕事と生活のバランスを保ち、長く働き続けられる環境か
  • 公正平等軸:性別や雇用形態に関係なく、公平・平等に扱われているか
  • 自己鍛錬軸:能力開発やキャリア形成の機会が確保されているか
  • 収入軸:持続可能な生活を支える十分な収入が得られるか
  • 従業員の権利軸:従業員が声を上げやすく、権利が保障されているか
  • 安全衛生軸:身体的・精神的に安全な職場環境か
  • セーフティネット軸:社会保障制度への加入など、公的な保護が整備されているか

実効性に重点を置くことで、形式的な制度整備にとどまらない、実際に機能する職場環境の評価が可能となります。

企業がディーセント・ワークに取り組むメリット

企業がディーセント・ワークに取り組むことは、従業員の働きやすさを高めるだけでなく、組織全体の成長を促進します。具体的なメリットを三つの側面から整理しました。

生産性が向上する

ディーセント・ワークの実現により、長時間労働の是正や柔軟な働き方の推進が進みます。限られた時間で成果を上げる意識が高まり、効率的な業務遂行が可能になるでしょう。

また、従業員の能力開発やスキル向上の機会が拡大し、一人一人の専門性や自律性が高まります。これにより個々のパフォーマンスが向上し、組織全体の生産性向上につながります。

従業員満足度が高まる

企業がディーセント・ワークに取り組むことで、働き方の柔軟性や明瞭な評価制度の導入などを通じて、従業員の仕事への満足感を高める効果が期待されます。働きがいや納得感が向上すれば、離職の防止や組織への信頼の深化にもつながるでしょう。

また、満足度の向上は社内コミュニケーションや組織への愛着にも好影響を与え、従業員が主体的に業務に取り組む動機づけとなります。満足した従業員は精神的な安心感を得やすくなり、組織全体の安定性や持続的な成長を期待できます。

企業イメージがアップする

ディーセント・ワークに取り組む企業は、従業員の権利を尊重し、働きやすい環境整備に配慮していると外部から見なされます。その結果、社会的信頼や透明性、責任ある経営のイメージが強まり、ブランド価値の向上や採用競争力の強化につながるでしょう。

ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の視点でも、ディーセント・ワークの推進は企業の「社会性」の評価に直結し、投資家からの支持を得やすくします。こうしたポジティブな評価は、顧客やステークホルダーからのロイヤルティにもつながり、企業にとって大きな戦略的資産となります。

ディーセント・ワークの実現に向けたポイント

働きがいのある職場をつくるためには、多角的な取り組みが必要です。ワークライフバランスや職場環境の整備、評価制度の改善が重要なポイントとなります。

ワークライフバランスを推進する

労働時間の適正化や残業の削減は、従業員の疲労軽減と生活の質向上につながります。仕事と私生活を両立しやすくなり、心身の健やかさが保たれます。

柔軟な働き方の導入によって、従業員は自律的に時間を管理しやすくなり、仕事への集中力や創造性も高まるでしょう。結果として、オン・オフのバランスが整った働き方が定着し、組織全体の持続可能性が向上します。

やりがいのある労働環境を整備する

従業員がやりがいを持って働ける環境づくりは、組織の活力を高める重要な取り組みです。信頼関係や公平性が保たれ、意見が尊重される職場は、働く意義への共感を育みます。

また、清潔で快適な職場環境や、適切な人間関係が整っていることも安心感につながり、モチベーションを高めます。さらに、成長機会や挑戦できる仕組みがあれば、従業員は自らの能力を発揮しやすくなるでしょう。

評価制度を見直す

全ての従業員が能力や成果によって公正に評価され、性別や雇用形態にかかわらず平等に扱われる評価制度は、ディーセント・ワークの重要な要素です。透明性のある基準と具体的なフィードバック体系を整備することで、従業員の納得感や主体性が高まります。

労使が対等な立場で労働条件や職場環境について対話できる仕組みを設けることも不可欠です。このような制度設計によって、従業員は自らの役割や成長機会を実感できるようになり、組織全体の信頼と健全な関係が築かれます。

ディーセント・ワークを推進し職場環境を改善

ディーセント・ワークは、従業員の権利を守りつつ、やりがいや安心を感じられる労働環境を実現する考え方です。日本企業にとっても、持続可能な経営や人材確保に直結する重要な取り組みといえます。

ワークライフバランスの推進や評価制度の改善を通じて、働きやすい職場を整え、企業と従業員の双方が成長できる環境を築いていきましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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