就業規則とは?期待できる効果や記載事項、作成・手続き方法を解説
就業規則は職場内の規律をまとめた規則集です。就業規則を作成しておけば、労使間のトラブルを予防できるほか、求職者にも自社を理解してもらいやすくなるでしょう。就業規則で期待できる効果や作成のポイントを解説します。
就業規則の基礎知識
就業規則には法律で規定されたルールがあります。正しく作成するためには、義務・罰則や法的効力を理解しておくことが重要です。
就業規則とは
就業規則は、企業の労働条件に関することや企業内で守るべきルールをまとめたものです。職場における規律意識を高めたり、労働条件の公平性を実現したりする目的があります。
労働基準法では就業規則に関するさまざまな規定が第9章で定められています。法律上のルールを押さえながら、作成のポイントを意識して自社に適した就業規則を作ることが重要です。
就業規則に関する義務と罰則
就業規則に関する義務は次の通りです。
- 作成義務(労働基準法第89条):常時10人以上の従業員を使用する企業では、就業規則を作成しなければならない
- 届出義務(労働基準法第89条):就業規則は原則として管轄の労働基準監督署へ提出しなければならない
- 周知義務(労働基準法第106条):就業規則は従業員に周知しなければならない
また、労働基準法第120条により、作成義務や届出義務を怠った場合は30万円以下の罰金に処せられる恐れがあります。
就業規則の法的効力
就業規則の法的効力には、次に挙げる3つがあります。
- 入社した従業員の労働条件を規律する効力(労働契約法第7条)
- 既存従業員に関する労働条件を変更する効力(労働契約法第10条)
- 労使間で定めた労働契約の最低基準を決める効力(労働契約法第12条)
上記の効力を発生させるためには、それぞれについて効力発生の要件を満たす必要があります。
就業規則の作成で期待できる効果
就業規則を作っておけば、企業にさまざまなメリットがもたらされます。就業規則の作成で期待できる主な効果を見ていきましょう。
労使間のトラブルを予防できる
就業規則は、労使間のルールを明確に定める重要な文書であり、企業と従業員の双方が遵守すべき基準となります。職場内で発生するさまざまな問題に対して、法律の範囲内で就業規則が判断基準として機能します。
労使間でトラブルが生じそうな状況でも、就業規則に立ち返ることで判断基準を確認でき、大きな問題に発展するのを未然に防げます。また、服務規程など企業内ルールを就業規則に明示することで、労務管理における迷いや不公平感を解消し、客観的かつ公平な対応を行うことが可能になります。
業務命令や懲戒処分を行える
就業規則に、時間外労働・休日労働・配置転換・出張などの具体的な規定を盛り込むことで、これらを業務命令として従業員に指示することができます。
さらに、懲戒事由や懲戒処分の種類を明確に定めることで、就業規則に違反する行為や企業秩序を乱す行為に対して、適切な懲戒処分を実施できるようになります。こうした規定があることで、職場の秩序を保ち、働きやすい環境を維持できます。
求職者が自社への理解を深められる
就業規則を作成することで、求職者が自社の労働条件や企業文化をより深く理解できるようになります。賃金規定や休暇制度といった労働条件を事前に確認してもらうことで、求職者が納得した上で応募を判断できるようになります。
労働条件は求職者にとって重要な関心事項であり、入社後に労働条件に対する認識のズレが発覚すると、早期離職の原因になりかねません。透明性の高い就業規則を公開することで、求職者の安心感を高め、信頼性のある企業イメージを構築できます。
さらに、既存の従業員にも就業規則の内容が明確であることで、信頼感が醸成されます。この結果、優秀な人材の採用や定着率の向上につながり、組織全体の競争力強化が期待できます。
助成金制度を利用できる
企業が利用できる助成金制度の中には、特定の就業規則の作成を申請条件としているものがあります。
例えば、65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)を利用したい場合、「定年を65歳以上に延長する」などの内容を就業規則に盛り込まなければなりません。
また、中小企業両立支援助成金(代替要員確保コース)の支給要件には、就業規則における「育児休業取得者を、育児休業終了後、原職又は原職相当職に復帰させる旨の取扱い」の規定が定められています。
就業規則の記載事項
就業規則の記載事項には、絶対的必要記載事項・相対的必要記載事項・任意的記載事項の3つがあります。それぞれの具体的な内容を紹介します。
絶対的必要記載事項
絶対的必要記載事項は、就業規則に必ず盛り込まなければならない項目のことです。労働基準法第89条で規定されています。
絶対的必要記載事項の具体的な項目は次の通りです。
- 始業時刻
- 終業時刻
- 休憩時間
- 休日
- 休暇
- 交替で就業させる場合に関する事項
- 賃金の決定・計算の方法
- 賃金の支払い方法
- 賃金の締切りや支払いの時期
- 昇給に関する事項
- 退職に関する事項や解雇事由
上記のうち1つでも欠けていると、法律上の不備がある就業規則とみなされます。
相対的必要記載事項
職場でルールを定めた場合に必ず記載しなければならない項目が相対的記載事項です。以下に挙げることについて制度を規定する場合は、就業規則に盛り込む必要があります。
- 退職金
- 賞与・最低賃金額
- 従業員に負担させる食費や作業用品費
- 安全・衛生
- 職業訓練
- 災害補償や業務外の傷病扶助
- 表彰や制裁
- 全従業員に適用されるその他の事項
制度を設けていない場合、相対的必要記載事項の記載は不要です。
任意的記載事項
任意的記載事項とは、就業規則に記載するかどうかを企業が自由に決められる項目です。次のような項目が考えられます。
- 服務規律:ハラスメントの禁止、機密保持、勤務時間中の業務への専念など
- 休職:一定期間仕事を休む場合の手続き、復職する場合の手続きなど
- 採用:採用の手続きや採用後に必要な書類、試用期間など
- 異動:転勤や職務内容の変更など
- 残業:残業時間や残業手当など
任意的記載事項の内容は、労務管理において重要なポイントになります。任意的記載事項を充実させることで、労務トラブルを回避しやすくなるでしょう。
就業規則の作成方法
就業規則の主な作成方法は、自社で作成する方法と専門家に依頼する方法の2つです。それぞれの具体的な内容や注意点を紹介します。
モデル就業規則を活用する
就業規則を自社のリソースで作成する場合は、厚生労働省のモデル就業規則を活用するのがおすすめです。PDF版とWord版が公開されており、使いやすい方で編集できます。
ただし、モデル就業規則はあくまでも例であり、自社の実態に合わせて作り変えなければなりません。また、厚生労働省の政策が反映されている部分が多いため、そのまま適用すると自社のルールとは違う内容になってしまう恐れがあります。
モデル就業規則を活用して就業規則を作成する場合は、内容を十分に検討することが重要です。
専門家に依頼する
就業規則は社内規程の一種であり、しっかりと作り込まなければトラブルの原因になりかねません。コストを抑えたいからといって簡単に内製してしまうと、トラブルにより余計なコストが生じるリスクもあります。
不利益を生まない就業規則を作成したいなら、社労士や弁護士などの専門家に作成を依頼するのが無難です。企業の実態に合わせた内容の就業規則を作成してもらえます。
就業規則の手続き
常時10人以上の従業員が働く事業所では、就業規則を定めて所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。届け出の際に必要な書類や、作成時・変更時の手続きについて解説します。
届け出が必要な書類
就業規則の届け出時に必要となる書類は次の通りです。
- 就業規則届
- 作成した就業規則
- 意見書
意見書の提出は労働基準法第90条で定められている義務です。事業所における過半数組合または労働者の過半数代表者の意見をまとめ、意見書として添付することが求められています。
意見書を作成する理由は、会社側の独断で労使間のルールを決めないようにするためです。従業員が就業規則の内容を知らずにトラブルが発生するのを防げるよう、意見書の作成を通じて従業員に就業規則を確認する機会を与える目的があります。
就業規則作成時の手続き
就業規則を作成したら、就業規則届と意見書を添え、所轄の労働基準監督署に届け出ましょう。受理されれば就業規則作成時の手続きは完了です。
e-Gov電子申請を利用すれば、就業規則の届け出をオンラインでも行えます。労働基準監督署に足を運ぶ時間を確保できない場合に便利です。
就業規則を労働基準監督署に届け出た後は、従業員に周知しなければなりません。労働基準法第106条で周知義務が規定されています。
就業規則変更時の手続き
就業規則を変更した場合の手続きも、基本的には作成時の手続きと同じです。変更した就業規則と就業規則変更届を提出する必要があります。変更時にも意見書の添付が必須です。
なお、就業規則を変更する場合は、就業規則の不利益変更に注意しましょう。就業規則の不利益変更とは、従業員にとって不利になる内容に就業規則を変えることです。
労働契約法第9条により、就業規則の不利益変更を行う場合は、原則として従業員全員から個別に合意を得る必要があります。ただし、労働契約法第10条は、合理性がある不利益変更では個別の合意が不要であるとしています。
就業規則の意味や作成方法を理解しよう
就業規則は企業が従業員に対して労働条件や職場内の規律などを定めた規則集です。常時10人以上の従業員を雇用している企業には就業規則の作成が義務づけられているなど、法律でさまざまなルールが決められています。
労使間のトラブルを回避しやすくなることや、求職者が自社への理解を深められることが、就業規則を作成する主なメリットです。就業規則の意味や作成方法を理解し、自社に適した就業規則を作成しましょう。