退職証明書とは?発行手続き・記載内容・必要なケースについて解説

人事総務部門にとって、退職手続きは多岐にわたる業務の一つです。その中でも「退職証明書を発行してください」と元従業員(退職者)から依頼されたとき、正しく対応できているでしょうか。退職証明書は法的義務を伴う重要な書類であり、適切な対応が求められます。本記事では、退職証明書の基本知識から発行手続き、注意点まで詳しく解説します。

退職証明書とは何か

退職証明書について基本的な知識を整理しておくことは、人事総務担当者にとって不可欠です。法的な根拠や目的、類似書類との違いを明確に理解することで、適切な対応ができるようになるでしょう。

退職証明書の定義と法的根拠

退職証明書とは、従業員が会社を退職したことを証明するための公的な書類です。労働基準法第22条により、労働者から請求があった場合、使用者は遅滞なく交付する義務があります。

証明できる事項は使用期間、業務の種類、事業における地位、賃金、退職の事由の5項目に限定されており、労働者が請求しない事項については記載してはいけません。

参考:労働基準法第22条|e-Gov法令検索

退職証明書を発行する目的

退職証明書を発行する主な目的は、退職した従業員が新しい環境で必要な手続きをスムーズに進めるためです。

転職先企業に提出することで、前職での勤務状況を客観的に証明でき、勤務期間、職種、役職などの情報は転職先での待遇決定や社会保険手続きに活用されます。

また、国民健康保険や国民年金への加入手続きを行う際にも、前職の退職を証明する書類として求められることが多く、退職者の新たなスタートを支援する重要な役割を果たしています。

国民健康保険や国民年金への加入手続きでは、一般的には「資格喪失証明書」が利用されますが、発行に時間がかかるため、急ぐ場合には退職証明書が利用されます。

離職票や離職証明書との違い

退職手続きに関連する書類として、退職証明書以外にも離職票や離職証明書があります。これらの違いを正しく理解しておくことが大切です。

書類名

発行義務

主な用途

記載内容

退職証明書

労働者(退職者)の請求があった場合のみ

転職先への提出、各種手続き

退職者が請求した事項のみ

離職票

雇用保険被保険者は必ず発行

失業給付の申請

退職理由、賃金支払い状況など

離職証明書

ハローワークへの提出用

離職票作成の基となる書類

詳細な退職理由、賃金明細など

退職証明書は労働者からの請求に基づいて発行するものです。一方、離職票は失業給付の手続きに必要なため、原則として全ての退職者に発行します。

退職証明書が必要となるケース

退職証明書の発行依頼があった場合、どのような用途で使用されるのかを理解しておくことが重要です。適切な記載事項を判断するためにも、主な使用場面を把握しておきましょう。

転職活動時の提出

転職先企業からの退職証明書提出要求は、選考過程での職歴確認や社会保険手続きで頻繁に発生します。

経験者採用では履歴書記載内容と実際の勤務実態の整合性確認が重要であり、客観的な証明書類として活用されるのです。

特に大手企業や公的機関への転職では、コンプライアンス強化の観点から退職証明書の提出が標準化されており、転職活動における必須書類となっています。

国民健康保険・国民年金の加入手続き

退職後に転職まで期間が空く場合や自営業に転向する際には、国民健康保険や国民年金への加入手続きで退職証明書や社会保険資格喪失証明書などが必要になります。

国民年金への種別変更手続きでも、厚生年金からの切り替えタイミングを明確にするために退職証明書が求められるのです。

特に退職日翌日からの切り替えが必要なため、正確な日付が記載された証明書の提出が手続き上不可欠といえます。

扶養手続きや副業確認

配偶者の扶養に入る手続きや、副業の確認において退職証明書が必要になるケースもあります。

配偶者が勤務する会社の健康保険組合では、扶養認定の際に被扶養者の収入や就労状況を詳細に確認します。この際、前職の退職を証明し、現在無職であることを示すために退職証明書が求められることがあります。

また、副業や業務委託の契約を結ぶ際にも、前職を退職していることの証明として活用される場合があります。競業避止義務の確認や利益相反の防止という観点から、クライアント企業が求めることがあるでしょう。

退職者に退職証明書の発行を求められた場合の対応

元従業員から退職証明書の発行依頼があった場合の具体的な対応手順を整理しておくことで、スムーズな発行が可能になります。

適切なプロセスを踏むことで、記載ミスや法的リスクを回避できるでしょう。

退職者に記載事項についてヒアリングする

退職証明書の発行依頼を受けたら、まず退職者に対して記載が必要な事項をヒアリングしましょう。労働基準法では、労働者が請求しない事項を記載することを禁じているためです。

具体的には以下の項目について確認します。

  • 使用期間:入社日から退職日まで必要か
  • 業務の種類:職種や担当業務の記載が必要か
  • 地位:役職や職位の記載が必要か
  • 賃金:基本給や手当の記載が必要か
  • 退職事由:自己都合・会社都合の記載が必要か

ヒアリング時には、どのような用途で使用するのかも併せて確認することをおすすめします。転職先への提出なのか、社会保険の手続きなのかによって、必要な記載事項が異なる場合があるためです。

離職票と照合して記載内容を確定する

ヒアリング内容を踏まえて、離職票や人事記録と照合しながら記載内容を確定することが重要です。

正確性を担保するために複数の資料で事実確認を行い、特に退職日については最終出勤日と退職日が異なる場合があることに注意が必要です。

賃金については基本給だけでなく各種手当も含めた正確な金額を記載し、離職票に記載された賃金情報との整合性を保つことが求められます。

退職事由については離職票と同一の内容で記載することが原則であり、自己都合退職と会社都合退職ではその後の手続きに大きな影響があるため、正確に記載しなければなりません。

証明書を作成する

記載内容が確定したら、法定様式はないものの必要な項目を漏れなく記載し、会社として正式な文書であることを示す体裁を整えることが重要です。

会社の正式名称、代表者名、所在地、電話番号を明記し、社印または代表者印を押印することで文書の信頼性を担保します。

記載する内容については事実のみを正確に記載し、推測や憶測は避けなければなりません。また、労働者が請求していない事項は一切記載しないよう注意し、発行日については証明書を作成した日付を記載することが必要です。

これらの要件を満たすことで、法的に有効な証明書となります。

退職者に交付し、記録を保管する

完成した退職証明書は、退職者に直接交付または郵送で送付します。交付時には、記録として発行台帳を作成し、適切に保管することが大切です。交付記録には以下の情報を記載しておきます。

  • 発行日:証明書を作成・交付した日付
  • 申請者:退職者の氏名と退職日
  • 記載事項:証明書に記載した内容の概要
  • 交付方法:直接交付、郵送などの方法
  • 受領確認:受領書や配達証明など

発行した退職証明書のコピーは、労務管理の記録として一定期間保管しておくことをおすすめします。後日問い合わせがあった場合や、記載内容に関する確認が必要になった際に活用できるでしょう。

退職証明書の発行手続きと注意点

退職証明書の発行には法的な義務と制約があります。適切なタイミングでの発行と、発行拒否による法的リスクを正しく理解しておくことで、労務トラブルを未然に防げるでしょう。

発行のタイミングと期限

労働基準法第22条では「遅滞なく」交付することが定められており、具体的な期限は明示されていません。しかし、実務上は可能な限り迅速な対応が求められます。

一般的には、退職者からの請求後1週間以内での発行が望ましいとされています。ただし、記載内容の確認や社内決裁に時間を要する場合もあるため、退職者には発行予定日を事前に連絡することが大切です。

退職から相当期間が経過した後の発行依頼もありえます。この場合でも、人事記録が保管されている限り、発行義務は継続します。

ただし、記録の保管期間は2年間とされているため、できるだけ早期の発行を心がけましょう。

緊急性の高い依頼の場合は、退職者の事情を考慮して柔軟に対応することも必要です。例えば、転職先への提出期限が迫っている場合などは、優先的に処理することも検討しましょう。

発行拒否のリスクと罰則

退職証明書の発行を正当な理由なく拒否した場合、労働基準法違反として罰則の対象となります。具体的には労働基準法第22条に定められた30万円以下の罰金が課される可能性があります。

発行を拒否できる正当な理由は限定的です。労働者ではなかった場合(業務委託契約など)や、請求者が本人以外で正当な代理権がない場合には、発行を拒否できます。

一方で、以下のような理由では発行拒否はできません。

  • 退職時のトラブルがあった
  • 在職中の勤務態度が悪かった
  • 競合他社への転職である
  • 退職手続きが完了していない

発行拒否により労働者が損害を被った場合、損害賠償責任を問われる可能性もあります。転職機会を逸失した場合などは、その損害が具体的に算定される場合もあるでしょう。

参考:労働基準法第22条|e-Gov法令検索

退職証明書の適切な対応が労務管理の信頼性を高める

退職証明書への適切な対応は、単なる法的義務の履行を超えて、企業の労務管理能力と信頼性を示す重要な指標となります。元従業員との良好な関係維持にもつながるでしょう。

適切な退職証明書の発行体制を構築することで、労務管理の信頼性向上と業務効率化を同時に実現し、より良い組織運営につなげることができるのです。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

業務DX」の他の記事を見る

TUNAG お役立ち資料一覧
TUNAG お役立ち資料一覧