年末調整とは?対象者・控除制度・ミス防止の社内対応を分かりやすく解説
年末調整で従業員の記入ミスや書類の提出漏れが多く、対応に苦難している企業も多いでしょう。企業としては年末調整の正しい知識を従業員に周知しなければなりません。年末調整の基本からよく使われる控除、年末調整で発生しやすい問題とその対応策まで解説します。
年末調整とは?
年末調整のトラブルを解決するには、まず企業や労務担当者が制度について正しい知識を身に付ける必要があります。年末調整の定義とともに、過不足があったときの対応についても押さえておきましょう。
年末に最終的な税額を計算して精算する手続き
年末調整は、1年間の給与所得に対する所得税額を確定し、源泉徴収された税額との過不足を調整する手続きです。毎月の給与支払い時に概算で徴収された所得税と、年末に確定した所得税額との差額を精算するために行われます。
年末調整は所得税法第2節で定められた義務です。企業は対象となる従業員について、確実に年末調整をしなければなりません。従業員は年末調整を受けることによって初めて、正しい額の所得税を支払えます。
参考:源泉徴収義務者(給与の支払者)の方へ(令和6年分)|国税庁
参考:所得税法 第2節(年末調整)|e-Gov法令検索
源泉徴収に過不足があれば12月支給分の給与で調整する
年末調整の結果、源泉徴収された税額に過不足がある場合、通常は12月の給与支給時に調整します。源泉徴収額が正確な税額より多すぎて還付金が発生する場合は、12月の給与に上乗せして支給するのが基本です。控除を減らす形で手取りを増やすことも少なくありません。
源泉徴収額が正確な税額より少なく追加徴収が必要な場合は、12月の給与から差し引いて徴収します。ただし、徴収しきれないときは翌年1月の給与から差し引くことも可能です。
なお企業が不足額を納付する期限は、1月10日となっています。遅くとも1月10日までには年末調整が全て終わり、国に従業員の所得税を納付できる状態になっていなければなりません。逆算してスケジュールを立て、従業員には早めに必要書類を提出してもらうよう促しましょう。
年末調整の対象者とは?
年末調整は企業としての義務ですが、誰が対象で誰が例外なのかを把握するのが難しい担当者もいるかもしれません。対象となる人や例外的に対象外となる人を、それぞれ紹介します。
原則として年末時点で在籍している従業員全て
12月末に実施する年末調整の対象者は、原則としてその年の12月31日時点で在籍している従業員です。ただし、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していることが前提となります。
年末調整は、正社員や契約社員・パート・アルバイトなど、雇用形態に関係なく行う必要があります。
特定の条件に当てはまる人は対象外
以下の条件に当てはまる従業員は、年末時点で在籍していても年末調整の対象となりません。
- 1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円を超える
- 災害減免法により、その年の給与に対する所得税・復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けている
- 複数の勤務先から給与を受け取っており、別の勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している(自社では提出していない)
日雇い労働者など同一の雇用主に継続して雇用されない人も、基本的に年末調整の対象外とされます。いずれのケースにも当てはまらず、12月31日時点で在籍していても「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していないと年末調整ができないため、対象外です。
参考:令和6年分 年末調整のしかた「年末調整とは」PDF|国税庁
年末調整でよく使われる控除制度を確認
年末調整では、従業員に適用される各種の控除を反映して正確な税額を計算しなければなりません。どのような控除があるのか、それぞれどのような人に適用されるのかを解説します。従業員もつまずきやすいポイントと考えられるため、内容をしっかりと理解して社内周知に生かしてください。
基礎控除や扶養控除などの主要な控除
年末調整では、多くの従業員に適用される控除と一部にしか適用されない控除があります。まず全ての従業員に適用される、または適用される従業員が多い控除を見てみましょう。
- 基礎控除:全ての納税者に適用される控除で、所得金額に応じて控除額が変動する
- 扶養控除:扶養親族がいる場合に適用される控除で、扶養親族の年齢や所得により控除額が異なる
- 配偶者控除・配偶者特別控除:配偶者の所得に応じて適用される控除
これらの控除は年末調整の基本ともいえます。労務に携わるのであれば、しっかりと意味や控除額を理解しておかなければなりません。従業員に説明する際は、「控除」の意味からかみ砕いて伝えるなど相手の知識レベルに応じた対応が必要です。
参考:No.1199 基礎控除|国税庁
参考:No.1180 扶養控除|国税庁
参考:No.1191 配偶者控除|国税庁
参考:No.1195 配偶者特別控除|国税庁
生命保険料控除・地震保険料控除
生命保険料控除や地震保険料控除は、一部の従業員にのみ適用される控除です。それぞれどのような控除なのかを簡単に解説します。
- 生命保険料控除:生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の支払いに応じて適用される控除
- 地震保険料控除:地震保険料の支払いに応じて適用される控除
控除を適用する手続きには、保険会社(保険者)から発行される証明書の提出が必要です。年末調整でこれらの控除が適用される従業員には、証明書が必要であることを周知しましょう。
参考:No.1140 生命保険料控除|国税庁
参考:No.1145 地震保険料控除|国税庁
住宅ローン控除・医療費控除は確定申告が必要
控除の中には、給与所得者でも個人で確定申告をしなければ適用できないものもあります。住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)や医療費控除は、原則として従業員側での確定申告が必要です。
住宅ローン控除とは、一定の条件を満たす住宅を購入したときのローンの年末残高から、一定割合の額を課税所得から控除できる制度です。医療費控除は、年間の医療費が一定額を超えた場合に適用されます。これらの控除対象となる従業員には、自分で確定申告をするよう促しましょう。
ただし、住宅ローン控除については、2年目以降から年末調整で手続きが可能です。
参考:No.1213 認定住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
参考:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
年末調整で発生しがちな問題と社内の対策方法
年末調整で起こるトラブルは、ある程度決まっています。あらかじめ問題とその原因を知って対策を用意しておくことで、年末調整業務がスムーズに進みやすくなるはずです。
申告書の記載ミスが多い
年末調整の申告書に記載ミスが多く、修正依頼の対応に追われている労務担当者も少なくありません。従業員による申告書の記載ミスは、年末調整業務の効率を低下させる要因です。
よくあるミスの例としては、扶養控除等申告書の記入漏れや誤記、控除証明書の添付忘れなどが挙げられます。これらのミスを防ぐには、事前の説明会や記入マニュアルの配布、チェックリストの活用が効果的です。
従業員への説明不足による混乱が起きる
従業員が年末調整の目的や手続きの流れを十分に理解していない場合、提出書類の不備や遅延が発生しやすい状態になります。特に若年層や新入社員は、年末調整に関する知識が乏しい傾向があるため、企業側には丁寧な説明が求められます。
情報提供の方法として挙げられるのは、紙資料の配布や個別での質問対応、マニュアル動画の提供などです。従業員の属性や理解度に合わせて、多様な手段を用意しておきましょう。
年末調整対応の社内フローが曖昧になりがち
社内で年末調整の業務フローが明確に定義されていない場合、担当者間での認識のズレや手続きの漏れが発生する可能性があります。特に中小企業や新設の事業所では、年末調整に関する知識や経験が不足していて、適切な対応が難しい場合もあるでしょう。
業務フローの明確化と標準化を図るには、ワークフローシステムの導入やマニュアルの整備が有効です。特に従業員が多い事業所の年末調整には、システムを活用した方がスムーズに進みます。
勤怠管理ツールや人事管理ツールには、年末調整対応を行えるものもあります。
制度理解と情報共有で年末調整の負担を軽減
年末調整はさまざまな控除が絡む、複雑な制度です。従業員が制度をよく理解しておらず、ミスをしてしまうのも自然でしょう。
企業として年末調整をスムーズに伝えるには、まず経営層や労務担当者・問い合わせ担当の部署などが年末調整について正しく知る必要があります。その上で従業員に分かりやすい説明や資料を提供することで、ミスの軽減や提出遅延などの問題の軽減が可能です。
勤怠管理や人事管理ツールの導入も視野に入れつつ、全社的に年末調整への理解を促し、対象となる従業員に周知できる仕組みを整えましょう。