エンタープライズサーチの比較、要件定義を考える
エンタープライズとは
エンタープライズサーチ(Enterprise Search)とは、企業内の情報を検索するためのシステムです。例えば、社内の文書やデータ、メール、Webページなどの情報を一元管理することで、情報の取得や共有が迅速化され、業務の効率化に繋がります。言わば企業用の社内検索エンジンです。「企業内検索エンジン」「エンタープライズ検索」などと呼ばれることもあります。
また、検索結果の分析により、情報の活用方法や新たなビジネスチャンスを発見することも可能です。そのため、エンタープライズサーチは、企業の競争力を高めるために欠かせないシステムだと言えます。
エンタープライズサーチの必要性、メリットは?
企業内に蓄積された膨大な情報を簡単に検索できるようにすることで、業務効率の向上や情報共有化、コスト削減につながります。
例えば、社員が業務に必要な情報をすばやく見つけることができるようになれば、業務がよりスムーズに進むことが期待できるでしょう。また、エンタープライズサーチを利用することで、企業内のデータの精度や正確性を向上させることが可能です。これにより、重要な意思決定のサポートに貢献できます。
さらに、社員同士で情報を共有することで、同じ情報を複数の人が探す必要がなくなり、業務の重複やミスの回避につながります。
エンタープライズサーチの市場規模
近年、ビジネスのデータ量が爆発的に増えているため、エンタープライズサーチ市場は急速に成長しています。 IMARC Services Private Limitedの調査によると、世界のエンタープライズサーチの市場規模は2021年の44億6,000万米ドルから2027年には87億8,000万米ドルに達するという予測です。企業は、顧客のニーズを把握するために、自社のデータを収集するだけでなく、競合他社のデータや市場動向の情報など様々な情報源からのデータを収集し、それを分析してビジネスに役立てる必要があります。
参考:市場調査レポート: エンタープライズサーチの世界市場 (2022-2027年) - IMARC Services Private Limited
このような大量のデータを効率的に管理するために、エンタープライズサーチは企業にとって重要なツールとなっています。
エンタープライズサーチの要件定義
エンタープライズサーチを導入する際は予め要件を整理した上で要件定義を実施すると良いでしょう。要件定義の不備はその後の開発プロジェクトの失敗につながってしまいます。
5W1Hの整理
要件定義を実施する上で大切なのは5W1Hで要件を整理することです。具体的には以下が挙げられます。
・Why:なぜ
・What:何が
・When:いつ
・Who:誰が
・Where:どこで
・How:どのように
特にシステム開発でよく陥りがちなのは「システムを構築する」というHowの部分が目的(Why)となる点です。目的・背景がしっかりしないと「システムを作ったが使えない」などといった事態ににもつながります。これらの指標に加えてコスト(How much)の観点もいれることでそもそも実現したい機能が予算内に収まるのかどうか、という観点も必要になるでしょう。いくら良いものができそうだったとしても開発費用が予算を超過してしまっては開発を進めることができません。
社内の情報を検索するのは、オフィスワーカーだけか?
エンタープライズサーチは、企業内に蓄積された膨大な情報を簡単に検索するためのシステムです。このシステムを利用することで、社内の業務プロセスを改善し、情報共有の価値を高めることができます。
しかし、社用PCが貸与されていない従業員がエンタープライズサーチにアクセスできない場合、情報共有の効果が十分に発揮されないことがあります。そこで、社内で必要な情報を探索し、アクセスできる環境を整えることが重要です。例えば、社内ポータルサイトや社内SNSなど、社用PCがなくてもアクセスできる環境を整備することで、従業員が必要な情報を探索し、共有することができます。また、モバイルデバイスを活用したアクセス方法も検討することができます。
このように、エンタープライズサーチを活用するためには、社内で必要な情報にアクセスできる環境を整備することが不可欠です。社用PCがない従業員でも、社内の情報に自由にアクセスできる環境を整えることで、情報共有の価値を最大限に高めることができます。
エンタープライズサーチ・5サービスの比較
ここからは主なエンタープライズサーチを5つご紹介します。今回はGartner社の「2021 Magic Quadrant for Insight Engines」やAccenture社発行の「GETTING THE BEST FROM ENTERPRISE CLOUD SEARCH SOLUTIONS」の内容を参考に主要な製品をピックアップしました。
1.Microsoft Search
Microsoft Searchは、Microsoft社が提供するエンタープライズサーチのサービスです。Microsoftが提供するサービスとの連携が強みで、Office 365やSharePoint Onlineなど、多くのサービスに対応していることが特徴です。
2.Elasticsearch
Elasticsearchは、オープンソースのエンタープライズサーチエンジンです。Luceneプロジェクトをベースにしており、高速な検索が可能です。また、Elasticsearchは、データのインデックス化にも優れており、大量のデータを処理することができます。
検索結果を可視化するための機能も備えており、ユーザーは効果的なビジュアルデータを得ることができます。
3.Google Cloud Search
Google Cloud Searchは、Googleが提供するエンタープライズサーチのサービスです。Googleが提供する検索技術を活用しており、検索精度が高く、利用しやすいインターフェースが特徴です。また、G Suiteとの連携が強みであり、GmailやGoogle Driveなどのサービスとシームレスに連携して検索することができます。
4.Amazon CloudSearch
Amazon CloudSearchは、Amazonが提供するエンタープライズサーチのサービスです。Amazonが提供する検索技術を活用しており、スケーラブルな検索インフラストラクチャを備えています。クエリの処理速度が速く、高度な検索機能を提供しているため、ビジネスにおいて非常に重要な役割を果たしています。
例えば、企業はこのサービスを使って、商品やサービスを探す顧客に対して、高度な検索機能を提供することができます。このサービスを使うことで、顧客はより正確な検索結果を得ることができ、企業は顧客の検索ニーズにより適切に対応することができます。
5.IBM Watson Discovery
IBM Watson Discoveryは、IBMが提供するエンタープライズサーチのサービスです。このサービスは、自然言語処理技術を活用して、検索結果をより正確にすることができます。
また、IBM Watson Discoveryを使用することで、機械学習技術を活用して、検索結果をカスタマイズすることが可能です。この機能により、ビジネスにとって重要な情報を迅速に見つけることができます。例えば、ある企業が競合他社と戦っている場合、競合他社の情報を検索することができます。
エンタープライズサーチの選定時のポイント
エンタープライズサーチの選定時には、いくつかのポイントに注意する必要があります。
まず、検索対象の情報の種類や検索精度、セキュリティ、コスト、導入方法など、自社の要件に合ったサービスを選ぶことが重要です。例えば、大量のデータを扱う場合は、高速で柔軟な検索エンジンを備えたサービスが必要になります。また、セキュリティについても、自社の情報を適切に保護できるサービスを選ぶ必要があります。
次に、サービス提供元の信頼性やサポート体制にも注目しましょう。エンタープライズサーチは、企業の情報を扱うため、万一の障害が発生した場合には迅速かつ適切な対応が必要です。また、サービス提供元との契約内容やSLA(Service Level Agreement)についても確認しましょう。
クラウドベースのサービスである場合、データの保管場所やセキュリティについても確認する必要があります。たとえば、海外にデータが保管される場合、国内法に抵触しないかどうかを確認する必要があります。また、データが暗号化されて保存されているかどうかも重要なポイントです。
エンタープライズサーチの主な機能
エンタープライズサーチの主な機能を4つ紹介します。
1.検索機能
エンタープライズサーチの最も基本的な機能は、検索です。ユーザーは、キーワードやフレーズを入力し、組織内の膨大なデータや情報から該当するものを見つけることができます。検索は、インターネット検索エンジンと同じように、複数の条件を指定することもできます。
2.分析機能
エンタープライズサーチは、収集されたデータや情報を分析することができます。たとえば、データの傾向やパターンを特定することができ、組織内での意思決定に役立つ情報を提供することは可能です。
3.ダッシュボード機能
エンタープライズサーチは、組織内のデータや情報を視覚化するためのダッシュボード機能を提供することができます。これにより、データの傾向やパターンを迅速に把握し、組織内での意思決定に役立つ情報を提供することができます。
エンタープライズサーチの活用例
エンタープライズサーチの活用例には、以下のようなものがあります。
1.社内の文書や情報の検索
エンタープライズサーチを活用することで最も一般的な使い方ですが、社内のドキュメントやメール、チャット履歴などの情報を簡単に検索することができます。これにより、社員が必要な情報を素早く入手することができ、業務効率の向上につながります。
2.社員データベースの管理
エンタープライズサーチを活用することで、社員データベースを簡単に検索することができます。これにより、採用や人事異動時に必要な情報を素早く入手することができ、人事業務の効率化につながります。
3.カスタマーサービスの応対支援
エンタープライズサーチを活用することで、カスタマーサポート担当者が必要な情報を素早く入手することができます。例えば、顧客からの問い合わせに対する回答や、製品に関する情報の提供など、サポート業務の効率化につながります。
エンタープライズサーチの導入後失敗例
これより、導入後の失敗パターンを3つ紹介します。
1.検索結果の精度が低い
検索結果の精度が低い場合、ユーザーは必要な情報を見つけることができず、業務効率が低下する可能性があります。検索結果の精度が低下する原因としては、以下の点が考えられます。
・データの品質が低いため、検索結果が正確でないことがある
・検索条件が複雑であるため、検索結果が予想と異なることがある
・検索結果の優先順位が不適切であるため、重要な情報が見つけにくいことがある
2.セキュリティが不十分である
エンタープライズサーチは、企業が保有する重要な情報を扱うため、セキュリティには十分な注意が必要です。セキュリティが不十分である場合、機密情報が漏洩するなどの深刻な問題が発生する可能性があります。セキュリティが不十分である原因としては、以下の点が考えられます。
・ユーザーアカウントの不正利用
・不正アクセス
・データの漏洩
3.コストが予算を超過している
エンタープライズサーチの導入には、導入費用や運用費用がかかります。コストが予算を超過すると、企業の財務状況に悪影響を与える可能性があります。コストが予算を超過する原因としては、以下の点が考えられます。
- 要件定義が不十分であるため、余分な機能が導入されている
- インフラストラクチャのスケールアップによるコスト増加
- 運用費用の見積もりが不十分であるため、予算を超える費用が発生した
エンタープライズサーチの未来
エンタープライズサーチの未来には、今後ますますAI(人工知能)技術が進化していくことが期待されています。
AI技術の進化により、検索結果の精度や速度が向上するとともに、より複雑な検索条件に対応することが可能になるでしょう。現在でも検索エンジンは、キーワード検索やフィルタリングなど、多様な検索条件に対応していますが、AI技術を活用することで、より高度な検索条件にも対応可能となると考えられます。
また、自然言語処理技術の進化により、より自然な言葉で検索することができるようになると期待されています。これにより、ユーザーはより直感的に検索を行うことができ、効率的かつ正確な情報検索が可能となるでしょう。例えば、音声入力による自然な言葉での検索が可能になると、作業中の手が塞がっている場合でも検索が行えるようになります。
企業はこれらの技術を活用することで、ビジネスの効率化や競争力の向上を図ることができるでしょう。
まとめ
エンタープライズサーチは、組織内のデータや情報を検索、抽出、分析するためのソフトウェアツールであり、検索、分析、ダッシュボード等主要な機能を持っています。これらの機能により、組織内の情報を効率的に管理し、意思決定や業務プロセスの改善に役立ちます。また、今後ますますAI技術や自然言語処理の進化によって高度化していくことが期待されています。