ゼークトの組織論とは?人材の4分類と、問題となりがちな「無能な働き者」の特徴を解説
組織運営において人材の適性を見極めることは、極めて重要です。その指標の一つとして知られるのが「ゼークトの組織論」で、人材を4タイプに分類し、それぞれ適切に対応することを推奨しています。各タイプの特徴を押さえておきましょう。
ゼークトの組織論とは?
組織マネジメントの古典的理論の一つであるゼークトの組織論は、人材評価の視点を提供し、効率的な組織運営のための重要な示唆を与えるものです。まずは、ゼークトの組織論の概要を見ていきましょう。
ゼークトの組織論の概要
ゼークトの組織論は、組織内の人材を「有能・無能」と「怠惰・勤勉」の2軸で分類し、それぞれのタイプが組織に与える影響を分析したものです。
詳しくは後述しますが、組織内の人材は、能力の高低と勤勉さの度合いによって4つのタイプに分類できます。この分類により各タイプの人材の特性を理解し、適切な配置や育成方針を検討しやすくなります。
ただし、少し極端な理論であるため、あくまでも参考程度にとどめておき、組織の実情に応じた人材配置を考えることが大切です。
ゼークトの組織論が生まれた背景
ゼークトの組織論は20世紀初頭、組織の効率化と生産性の向上が、重要な課題となっていた時期に生まれました。当時の組織では勤勉さを重視する傾向が強く、必ずしも組織全体の効率性の向上につながっていないケースが、多く観察されていたようです。
そこで単純な勤勉さの評価だけではなく、能力との関係性を考慮した、新しい人材評価の枠組みが必要とされました。ゼークトの理論は、この課題に対する一つの解答として提示された側面があり、組織マネジメントに新しい視点をもたらした経緯があります。
組織論はゼークト自身の言葉ではない?
その名の通りゼークトの組織論は、ドイツ軍のハンス・フォン・ゼークトが提唱したものだと思っている人は多くいます。しかし、ゼークト自身が提唱した理論ではないとする説が有力です。
実際には、ゼークトと同時期のドイツ軍人である、クルト・フォン・ハンマーシュタイン・エクヴォルトによる言とするのが正確なようです。また、現代においてゼークトの組織論として広まっているのは、後世の研究者や実務家によって整理された部分もあるでしょう。
しかし、複雑な背景は理論の価値を損なうものではありません。むしろ、実践的な観察と経験から導き出された知見であり、現代でも高い有用性を保っています。
ゼークトの組織論における人材の4分類
ゼークトの組織論では、人材を「有能・無能」と「怠惰・勤勉」の2軸で分類し、4つのタイプに分けています。この分類は単なる特性の整理ではなく、各タイプの人材が組織に与える影響や、適切な配置の重要性を示すものです。それぞれのタイプを整理して覚えておきましょう。
有能で怠惰なタイプ
「有能」で「怠惰」なタイプは、十分な知識や能力を持ちながらも、無駄な努力を避けようとする傾向があります。一見すると単なる怠け者に映るかもしれませんが、効率的に成果を出すための工夫をするため、戦略的なポジションに適した人材です。
ゼークトの組織論では、このタイプを指揮官に向いていると評価しており、組織のリーダーとしての役割を推奨しています。自らの能力を生かし、短時間で質の高い成果を出せる人材が多く、新しい方法や効率化の提案をすることも珍しくありません。組織にとっては、業務改善のきっかけとなる存在としても価値があります。
有能で勤勉なタイプ
「有能」で「勤勉」なタイプは、組織にとって理想的な人材とされています。優秀で真面目に業務に取り組む姿勢を持っているため、高い成果を期待できる人材です。困難な課題に対しても粘り強く取り組み、創造的な解決策を見いだせる傾向があります。
また周囲への良い影響力も持っており、チームの生産性の向上にも貢献します。ただし、完璧主義の傾向もあるため、組織管理よりも実務担当者としての適性が高いでしょう。適切なマネジメントにより、うまくかじ取りをする必要があります。
無能で怠惰なタイプ
「無能」で「怠惰」なタイプは能力が低く、かつ仕事に対する意欲も低い人材です。一般的に組織にとってマイナスの影響を与えると考えられており、最も不要だと感じる人も多いでしょう。しかしゼークトの組織論では、大きな害を及ぼすことはない人材と考えられています。
それは積極的に行動しないため、誤った判断を下すリスクが少ないためです。自らの限界を理解していることが多く、重要な判断や決定に関与するケースはほとんどないので、組織全体への負の影響は限定的といえるでしょう。むしろ優秀な人材がやりたがらない、単純作業をこなす役割として機能します。
無能な勤勉なタイプ
「無能」で「勤勉」なタイプは、能力は高くないものの、非常に熱心に働く人材です。一見すると良い人材に見えますが、実は組織にとって最も問題となる可能性が高いとされています。
実際、能力が低いにもかかわらず積極的に行動するため、誤った判断・行動で状況を悪くしたり、無駄な仕事を増やしたりする原因となりがちです。組織の効率を低下させ、周囲の生産性を損なうため、管理者にとって注意すべき存在といえるでしょう。
また、自らの能力不足を認識せず、周囲の助言や指導を受け入れにくい傾向もあります。組織としてどのように対応すべきか、慎重に考える必要があります。
組織の問題となる「無能な働き者」の特徴
ゼークトの組織論における4分類のうち、組織にとって最も問題となるのは、上記のように「無能」で「勤勉」なタイプとされています。
いわゆる「無能な働き者」のことで、行動的であるがゆえに、組織の足を引っ張ってしまう人材として注意が必要です。どういった特徴があるか、ここで整理しておきましょう。
誤った判断や行動を熱心に推し進める
無能な働き者の危険な特徴は、誤った判断や行動を、熱心に推し進めてしまう点です。能力不足により、状況を正確に把握できないにもかかわらず、強い意志を持って行動するため、組織に大きな損害をもたらす恐れがあります。
例えば、市場のニーズを誤って解釈したまま製品開発を進めたり、効率の悪い業務プロセスを固守したりすることがあります。その熱心さゆえに周囲が問題点に気付いても、指摘しにくい雰囲気をつくってしまうことも少なくありません。
報告・連絡・相談をしない
自らの判断に自信を持っているため、上司や同僚への報告・連絡・相談を怠りがちなのも、無能な働き者の特徴です。必要な情報共有がされないことで、問題の早期発見や対応が遅れてしまい、結果として組織に深刻な影響をもたらす可能性があります。
また、仕事に対する強い責任感から、他者の介入を好まない傾向もあります。チーム内のコミュニケーションが阻害され、組織の連携や効率性が低下する場合もあるでしょう。
自己評価が高い
無能な働き者は、自分の努力量を成果と同一視する傾向があり、自己評価が実際の能力や成果と乖離しがちな点も特徴です。能力向上の必要性を認識できず、改善の機会を逃してしまうため、ほとんど成長しない人も珍しくありません。
さらに自己評価が異常に高く、周囲からの助言やフィードバックを受け入れない人もいます。結果として同じ失敗を繰り返したり、盲目的に非効率な活動を継続したりする原因となります。
無責任で他責思考の傾向がある
自らの行動により問題が発生した際、能力不足や判断ミスを認められず、原因を外部要因や他者に求める傾向があるのも、無能な働き者の特徴です。他責思考により本質的な問題の解決が困難になり、組織の足を引っ張ってしまうケースも多くあります。
自分の行動が引き起こした問題の責任を回避しようとするため、周りとの信頼関係を損なう要因にもなるでしょう。結果的にチームの士気の低下や、職場の雰囲気の悪化をもたらす可能性も考えられます。
「無能な働き者」の対処法
組織として無能な働き者に対処するには、明確な業務指示を与えて、判断を任せる範囲を制限することが効果的です。また、定期的な報告・連絡・相談の徹底を求め、独断専行をしないように注意する必要があります。
それでも勝手に判断して行動してしまう場合もあるため、適宜フィードバックを実施し、問題行動を修正する努力が求められます。場合によっては役割の再配置や、別なポジションへの異動も検討しましょう。
さらに、チーム全体でのチェック体制を構築し、重要な判断や決定には、必ず複数の目を通すようにすることで、誤った判断による損害を未然に防げます。ただし、こういった対処をする際には、当事者の自尊心を傷つけないように、慎重かつ建設的なアプローチを心掛けることが大事です。
バランスを考えた人材配置の参考に
ゼークトの組織論は人材の特性を理解し、適切な役割を与えるのに、参考となる考え方の一つです。特に「無能な働き者」の問題は、放置すると組織全体の生産性の低下を招きかねないため、対処法を考えておく必要があるでしょう。
ただし、人材を極端にカテゴリー分けする理論であるため、妄信しないように注意が必要です。人材の配置・育成の際には、組織全体のバランスを考えながら、一人一人の特性をきちんと把握することが大切です。個々の強みや成長の可能性を見極め、適切なサポートや指導を行いましょう。