組織行動学とは?主要理論と企業成長への活用法を解説

社員一人ひとりに向けた施策を行うことはできても、組織全体として見ると多くの課題を抱えている企業は少なくありません。本記事では、組織行動学の基本概念や主要な理論を分かりやすく解説し、企業成長への活用方法を紹介します。

組織行動学の定義

企業経営において、従業員の行動や心理を理解することは、職場の生産性向上やチームワーク強化に不可欠です。組織行動学は、人や組織の行動パターンを科学的に分析し、その知見を生かしてより良い職場環境を構築するための学問です。

本章では、組織行動学の基本的な定義とその重要性について解説します。

組織行動学とは何か

組織行動学は、企業や組織における人間の行動を体系的に分析し、その知見を経営や人事戦略に生かす学問です。

個人、グループ、組織全体の3つのレベルで人々の行動を研究し、職場の生産性向上や組織文化の醸成に役立てます。

例えば、従業員のモチベーション向上、円滑なコミュニケーションの促進、リーダーシップの強化など、企業の持続的成長に必要な要素を理論的に探求します。

実践においては、心理学や社会学、経済学などの知見を統合し、働きやすい職場環境の構築や、より効果的な意思決定をサポートする点が特徴です。

組織行動学の歴史と発展

組織行動学の起源は、19世紀後半に発展した「産業心理学」にあります。産業革命により工場で働く労働者が増え、彼らの働き方や心理を科学的に分析する必要性が高まりました。

ドイツの心理学者ミュンスターバーグは、心理学を活用することで労働生産性を向上させ、社会全体の利益につながると提唱しました。

その後、1920年代のホーソン研究では、労働者の生産性が物理的な環境だけでなく、心理的・社会的な要因にも大きく影響を受けることが判明しました。

1960年代には「組織心理学」が生まれ、個人だけでなく、チームや組織全体の行動を分析する学問へと発展しました。

現代では、テクノロジーの進化やリモートワークの普及に伴い、働き方の多様化に関する研究も進んでいます。組織行動学は、社会の変化に適応しながら発展を続け、企業の経営戦略や職場環境の改善に役立てられています。

組織行動学の主要な理論

従業員のモチベーション、リーダーシップ、組織の生産性向上には、さまざまな心理学的理論が関係しています。

マズローの欲求階層説、ハーズバーグの二要因理論、リーダーシップ理論、モチベーション理論など、企業経営に役立つ理論を紹介します。

マズローの欲求階層説

マズローの欲求階層説は、人間の欲求を5段階に分類し、低次の欲求が満たされると次のレベルへと移行するという理論です。

この理論では、生理的欲求(食事・睡眠など)から始まり、安全の欲求、社会的欲求、承認の欲求、そして自己実現の欲求へと段階的に進みます。

欲求の段階

欲求の種類

ビジネスシーンにおける具体例

第5段階

自己実現の欲求

自己の能力や才能を活かし、新規プロジェクトを企画・実現する

第4段階

承認の欲求

仕事で成果を上げ、上司や同僚から評価・称賛される

第3段階

社会的欲求

職場のチームや同僚との良好な関係、仲間として受け入れられる

第2段階

安全の欲求

安定した雇用、十分な給与、健康保険や福利厚生の充実

第1段階

生理的欲求

十分な休憩や休暇、適切な勤務時間、快適な労働環境の整備

企業活動においても、この考え方は重要です。環境整備の方針として、まずは食事や睡眠がとれること、次いで安全に働ける環境を整えるなど、環境改善の優先度の指針としてよく用いられます。

ハーズバーグの二要因理論

ハーズバーグの二要因理論は、仕事における満足を「動機づけ要因」と「衛生要因」の2つに分けて考えます。

動機付け要因(成長機会・やりがい・達成感)が満たされると、従業員の仕事満足度が向上し、生産性が高まります。

一方、衛生要因(給与・職場環境・人間関係)は欠如すると不満が生じますが、これを改善しても必ずしもモチベーションが高まるわけではありません。企業は、基本的な労働条件を整えつつ、従業員がやりがいを感じられる仕組みを導入することが重要です。

リーダーシップ理論

リーダーシップ理論とは、組織やチームを成功へ導くために必要な能力や考え方を探求する学問です。

時代とともに変化し、さまざまな理論が提唱されています。リーダーシップには明確な定義がなく、求められるスキルや役割は状況によって異なります。

現代におけるリーダーの役割は、目標を設定し、優先順位を決め、チームを適切に導くことです。

また、リーダーは特権を持つ立場ではなく、失敗の責任を引き受け、メンバーが安心して力を発揮できる環境を作ることが求められます。組織にとって適切なリーダー像を定義することから始めてみましょう。

モチベーション理論

モチベーション理論は、人間の行動を引き起こし、持続させる要因を研究する心理学の分野です。

なぜ人は特定の目標に向かって努力を続けるのか、その背景にはどのような動機があるのかを解明するためのフレームワークとして発展してきました。

この理論の基本的な考え方は、「人の行動は、何らかの欲求によって動機づけられる」というものです。

組織や企業において、従業員のモチベーションを高めるためには、給与や福利厚生の充実だけでなく、やりがいや成長の機会を提供することも重要であるということを説いています。

モチベーション理論を学ぶことで、従業員のモチベーションが高い組織を作ることができるでしょう。

なぜ組織行動学を学ぶ必要があるのか

組織行動学は、組織内での人間の行動や心理を科学的に分析する学問です。特に経営者や管理職にとっては、組織全体の生産性や従業員のパフォーマンスを最大化するために不可欠な知識です。

組織行動学の理解を深めることで、リーダーは単なる経験則や勘に頼ることなく、客観的なデータや理論に基づいた意思決定が可能になります。本章では、組織行動学を学ぶことで得られる具体的なメリットや活用の場面について詳しく解説します。

適切な意思決定と組織の方向性の確立

組織行動学は、従業員の心理状態や行動傾向を客観的に把握することで、経営判断の質を高める手助けをします。

例えば、変革に対して抵抗感を示す従業員が多い職場では、トップダウン型の急激な改革が反発を招き、かえって逆効果になることもあります。

こうした反応を事前に予測し、段階的な施策や対話型のアプローチをとることで、スムーズな組織改革が実現できます。

経営者の主観や過去の経験だけに依存すると、思わぬ方向に進んでしまうリスクもありますが、組織行動学の知見があれば、従業員の受け止め方や職場の空気を的確に捉え、的を射た施策立案が可能になります。

その結果、明確な組織目標の設定とその実現に向けたブレのない舵取りができるようになるでしょう。

多角的な視点での経営判断の実現

組織行動学を学ぶことで、経営層は個人・チーム・組織全体という複数のレイヤーから物事を捉えられるようになります。

従業員のモチベーションが低下している場合に、その原因を単なる業務の非効率さだけでなく、リーダーシップスタイルや組織文化との相性にまで踏み込んで考察できます。従来の一面的な分析では見落とされがちな要因を発見し、組織にとって最適な対策を導き出せるのです。

さらに、短期的な利益の最大化だけでなく、中長期的な成長のために必要な施策──たとえば人材育成やダイバーシティ推進──などにも着目できるようになり、持続的な経営戦略の立案につながります。

このように、経営者が多面的な視点で意思決定を行うための「視座」を高める点で、組織行動学は極めて有効です。

従業員のエンゲージメント向上と人材定着

組織行動学の知見は、従業員一人ひとりの心理的欲求や行動の動機を理解するための指針を提供します。たとえば、評価制度や職場環境が個々の価値観と合致していない場合、従業員のエンゲージメントは低下し、離職リスクが高まります。

組織行動学では、こうした問題に対し、動機づけ理論や心理的契約といったフレームワークを用いて分析を行い、改善策を導き出します。

従業員の内発的な動機を高めることで、仕事への主体性が生まれ、パフォーマンスも向上するでしょう。

また、信頼関係をベースとしたマネジメント手法の導入によって、職場の心理的安全性が確保され、組織への帰属意識が強まります。結果として、人材の定着率が向上し、採用コストや教育コストの削減にもつながるのです。

組織行動学を生かして企業成長を実現する

組織行動学は、企業の持続的な成長を支える重要な学問です。組織内の人間の行動を理解し、適切なマネジメントを行うことで、従業員のモチベーション向上やエンゲージメントの強化が可能になります。

現代の企業経営においては、単に業務の効率化を図るだけでなく、従業員一人ひとりの行動や心理を考慮した戦略が求められます。

組織行動学の知見を活かすことで、変化の激しいビジネス環境においても柔軟に対応し、競争力のある企業を築くことができるでしょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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