看護師の離職率はどのくらい?データの解説と定着に向けた具体策

看護師が心身ともに健康で、やりがいを持って働き続けられる職場環境を整えることは、離職率の低下や人材確保といった経営課題の解決に繋がるだけでなく、質の高い医療を提供し続けるための基盤となる、医療機関としての重要な責任です。一方で看護師の離職が多く、人事施策の方向性に悩みを抱えている医療機関は少なくないでしょう。看護師全体の離職率のデータは、現場の課題を把握するのに有用です。日本看護協会の調査をベースに、看護師の離職率やその原因・対策を紹介します。

看護師の離職率をデータから把握

看護師のみの離職率は、日本看護協会が実施している「病院看護実態調査」を見れば傾向が分かります。正規雇用の看護師の離職率を見てみましょう。

正規雇用看護師の離職率は11.3%

日本看護協会の「2024年 病院看護実態調査」によれば、2023年度における正規雇用看護職員の離職率は11.3%となり、コロナ禍でピークに達した2022年度の11.8%から低下しました。これはコロナ禍直前の2019年度(11.5%)の水準に近づく結果であり、やや落ち着きを取り戻した形です。新卒採用看護職員の離職率は8.8%、既卒採用看護職員は16.1%でいずれも前年度より減少しています。

しかし、依然として10人に1人以上が離職しているという深刻な状況に変わりはなく、看護職員の定着は引き続き医療界全体の重要な課題です。

なおこの調査の概要は以下の通りです。

  • 調査対象:全国8,079施設の病院(回答者は看護部長)
  • 調査期間:2024年10月1日〜11月15日
  • 有効回収数:3,417(有効回収率42.3%)

参考:ニュースリリース | 国民の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会「【「2024年 病院看護実態調査」 結果】」PDF1枚目・5枚目

看護師が離職する背景にある要因

看護師が職場を離れようと思う要因は、長時間労働や業務のハードさだけではありません。「2024年病院看護実態調査」で上がっている退職理由をベースに、看護師が離職する背景要因を解説します。

参考:ニュースリリース | 国民の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会「【「2024年 病院看護実態調査」 結果】」PDF10枚目

メンタル不調につながる業務や環境

2024年病院看護実態調査では、2023年度内に離職した新卒看護職員がいた病院を対象として、看護管理者にその理由を回答してもらっています。1位には、「健康上の理由(精神的疾患)※」が上がりました。理由のうち52.5%と、過半数を占めています。

これは新卒看護師の離職理由ですが、正規雇用看護職員全体においても心身の健康問題は離職の大きな要因の一つと考えられます。

また、2023年度に病気で1カ月以上の連続休暇を取得した正規雇用看護職員がいた病院は70.0%、うちメンタルヘルス不調者がいた病院は80.7%と、看護師にはメンタル不調者が多いことが分かります。メンタル不調を引き起こす原因として考えられるのは、過酷な労働環境や業務上の精神的・身体的負担などです。

※理由の項目に「健康上の理由(精神的疾患)」のほかに「健康上の理由(身体的疾患)」もあり、この調査では明確に区別されています。

適性・能力への不安

「自分が看護師として役立っているのか」という悩みも、看護師が離職する要因として挙げられます。「2024年病院看護実態調査」では、2023年度内に離職した新卒看護職員がいた病院について、看護管理者が答えた理由の2位に「自分の看護職員としての適性への不安」が上がりました。

理由のうち47.4%と、約半数を占めています。「自分の看護実践能力への不安」も41.6%と多くなっています。実際、看護師に求められる素質は、心身のタフさやコミュニケーション能力の高さ・冷静さなど多様で、悩む人が多いのも自然です。

能力についても、看護師国家試験に合格しているとはいえ、実務に当たってみて能力不足と感じる場合もあるでしょう。

人間関係の悩み

2024年病院看護実態調査では、2023年度内に新卒看護職員が離職した病院の看護管理者が答えた離職理由として、4位に「上司・同僚との人間関係」が上がりました。割合は29.8%と上位3位までに比べれば多くありませんが、3割近い新卒離職者が人間関係に悩んでいたという事実は無視できません。

人間関係の悩みは看護師に限らず多く、離職の原因として大きいと考えられます。特に看護師は医師その他の医療関係職種と連携する場面・患者やその家族と接触する場面が多いので、人間関係のストレスは大きいでしょう。

教育制度に対する不満

「2024年病院看護実態調査」で上位には入っていないものの、新卒看護職員の離職理由として看護管理者が考えるものに「進学・キャリアアップ」「教育体制への不満」も上がっています。

看護師は資格職なので、よりキャリアアップにつながる病院があれば容易に転職できる側面があるでしょう。向上心の強い看護師にとって、キャリアアップを望めない教育体制の病院は魅力を感じない可能性が高いと考えられます。

向上心や学習・キャリアアップへの意欲がある看護師が辞めてしまうと、病院にとって大きな痛手です。離職理由として割合が少ないからと、無視してよいとはいえません。

看護師の離職防止に病院ができること

新卒看護師の離職理由からは、病院側が取り組むべき課題解決のヒントが見えてきます。具体的な施策も、2024年 病院看護実態調査の中にヒントがあります。

柔軟な働き方ができる環境を整備する

メンタル不調に陥るような環境を是正する方法として挙げられるのは、柔軟な働き方の実現です。「2024年病院看護実態調査」では、正規雇用の看護職員に導入している働き方(複数回答)として多い順に以下の内容が上がりました。

  • 短時間勤務正職員:31.9%
  • 職務限定正職員:7.4%
  • 勤務地限定正職員:2.0%

多くの看護管理者は上記の制度を導入した効果として、「看護職員のワーク・ライフ・バランスが確保しやすくなった」「個々の生活事情を理由とした退職者数が減少した」と感じています。

ストレスの軽減・離職率の低下にもつながっていると考えられます。課題に応じて、これらの制度を導入するとよいでしょう。

参考:ニュースリリース | 国民の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会「【「2024年 病院看護実態調査」 結果】」PDF18枚目

タスク・シフト/シェアやICT活用で業務負担を軽減する

離職に至るまでのメンタル不調を引き起こす要因として挙げられるのが、過剰な業務負担です。日本看護協会は、医師に対する時間外労働の上限規制適用に対応するため、今後さらに看護師の裁量範囲を広げるべきとの見解を発表しました。今後より看護師の負担が重くなる可能性があるということです。

ただ協会は同時に、看護師が専門性を発揮するため、看護チームでの役割分担の見直しも必要と述べています。看護師の負担を減らして専門性を発揮できるようにし、医師の負担も減らす方法が「タスク・シフト/シェア」です。

2024年 病院看護実態調査では、看護師のタスク・シフト/シェア(医師以外の医療関係職種)を実施している病院は70.6%でした。タスク・シフト/シェアにより、看護師業務の充実につながったと思う人の割合は「そう思う」と「ややそう思う」を合わせて69.6%に上っています。余計な業務の負担が減り、看護師本来の役割を果たせていると考えてよいでしょう。

業務負担を軽減する方法として、ICT活用も挙げられます。同調査において、看護師が活用しているICTは以下の順に多くなっています。

  • 電子カルテシステム(看護記録):76.8%
  • 院内コミュニケーションツール:59.4%
  • 医療スタッフの教育プラットフォーム:56.3%

上記のICTは、看護業務の効率化につながるものが主です。ICT活用が、看護師の業務負担やストレスの軽減につながる可能性は高いと考えられます。

参考:役割分担(タスク・シフト/シェア、看護補助者) | 看護職の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会

参考:ニュースリリース | 国民の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会「【「2024年 病院看護実態調査」 結果】」PDF20〜21枚目・25枚目

メンター制度を導入する

新卒看護師の離職理由として多い「適性・能力への不安」に対しては、プリセプター制度に加えてメンター制度の導入が効果的です。

プリセプター制度は新人に導入する制度で、先輩看護師が新人看護師にマンツーマンで技術面の指導や教育を実施します。主に能力面の不安解消に役立ちますが、適性そのものに関する不安やメンタル面のケアまでプリセプターが請け負っていると、先輩看護師側の負担が大きくなってしまいます。

そこでプリセプターとメンターを同時に付けるという選択肢が出てきます。メンターは精神面のフォローをするため、新人看護師は適性に対する不安まで打ち明けられ、プリセプター役の先輩看護師の負担も減るでしょう。

コミュニケーションの改善で人間関係を円滑にする

看護師に限らず、人間関係の悩みはコミュニケーション不足が原因であるケースが少なくありません。

コミュニケーションの活性化には、普段から何げなく会話できるような雰囲気が必要です。特に看護師のようにほかの職種と連携する必要がある職種では、職種の垣根を越えたコミュニケーション環境が求められます。

円滑にやりとりできる土台が整えば、人間関係そのものが自然と良好になってくるはずです。コミュニケーションが改善されることで、連携不足から来るミスやトラブルの発生も防ぎやすくなります。

教育制度を充実させる

キャリアアップを求める向上心を持つ看護師を離職させないためには、教育制度の充実が必要です。現在はどの病院でも一定の教育制度を設けることにはなっていますが、「最低限」ではキャリアアップにつながらないと思われるケースが多いでしょう。

看護師のキャリア支援の例として、ラダー制度(キャリアラダー)の導入が挙げられます。ラダー制度とは、はしごを上るように段階的にスキル・知識を習得し、キャリアアップを目指す仕組みです。

一般的には新人看護師が該当するレベル1から、病院全体の運営に関与できるような管理職や教育職・高度専門職が該当するレベル5までの段階を設け、目標を設定します。キャリアアップの道筋を明確に示せるのが、ラダー制度導入のメリットです。

学習機会の提供という意味では、eラーニングを導入するという選択肢もあります。

データを参考に看護師の離職率を改善

日本看護協会の調査データには、看護師の離職率はもちろん、離職率を改善するためのヒントもあります。データを活用することで、自分の病院で特に離職率が高いのか、何が課題なのかを判断しやすくなるはずです。

看護師の離職率を下げる取り組み例として、多様な働き方の整備、ICT活用やタスク・シフト/シェアによる業務負荷の軽減、メンター制度の導入、教育制度の充実が挙げられます。

現在の課題を整理し、その課題に応じた施策を検討しましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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