変形労働時間制とは?種類やメリット・デメリット、導入の注意点

変形労働時間制を導入する際は、慎重な検討が必要です。業務の繁閑に合わせて労働時間を柔軟に設定できる一方で、導入手続きや運用管理が複雑になるなどのデメリットも考慮する必要があります。本記事では、変形労働時間制とは何かを詳しく解説します。

変形労働時間制の基礎知識

企業に多様な働き方の導入が求められる現代社会においては、柔軟な勤務形態を提供することが重要なテーマの一つです。変形労働時間制の導入を検討しているなら、まずはどのような働き方なのかを理解しておきましょう。

変形労働時間制とは

変形労働時間制は、業務の繁閑や特殊性に応じて労働時間を柔軟に調整し、一定期間で平均すると法定労働時間内に収まるようにする制度です。1週・1カ月・1年単位で労働時間を計算します。

例えば、月末のみ忙しい場合は、月初に時間の余裕が生じたり、月末に残業が発生したりしがちです。

このようなケースで変形労働時間制を導入すれば、忙しさに応じた労働時間を設定できるため、働き方に無駄がなくなります。

企業と労働者が工夫して労働時間を配分し、全体的な労働時間を短縮することが、変形労働時間制の主な目的です。変形労働時間制を導入する場合は、労使協定を締結する必要があります。

他の働き方との違い

変形労働時間制以外の代表的な働き方には、次のようなものがあります。

  • 固定時間制:始業時間と終業時間が毎日決まっている働き方
  • 裁量労働制:実際の労働時間に関係なく、事前に定めた時間を労働時間とする働き方
  • シフト制:一定期間ごとに労働日や労働時間が変わる働き方
  • 時差出勤制:一定の範囲内で始業時間と終業時間を自由に選択できる働き方

近年は従業員のワークライフバランスを実現する目的で、多様な勤務形態を導入する企業が増えています。

変形労働時間制の導入ステップ

変形労働時間制導入の手順を以下にまとめました。

1.  現状の勤務実態を把握し適切な制度を選択する

まず、現在の勤務状況や労働時間のパターンを把握し、業務の繁閑や従業員の働き方に合わせた変形労働時間制の種類(1カ月、1年、1週間単位)を選択します。企業の業務形態やピーク時に合わせた最適な制度を選ぶことが重要です。

2. 変形労働時間制の対象者と労働時間を決める

変形労働時間制を適用する対象者(例:特定の部門、全従業員など)を決定し、具体的な労働時間の配分や、月ごと・年ごとの労働時間をどのように調整するかを設定します。

3. 就業規則を改定する

変形労働時間制を導入する際は、既存の就業規則を改定し、従業員が制度の内容や運用方法を理解できるように記載します。特に、変更点が明確に伝わるよう、従業員の労働条件や時間管理方法に関する規定を整備する必要があります。

4. 労使協定を締結する

労働者と使用者が合意する形で、労使協定を締結します。この協定では、変形労働時間制の適用対象となる従業員、運用期間、労働時間の配分などを具体的に明記します。

5. 労働基準監督署へ届出を行う

労使協定が締結された後、所定の書類を労働基準監督署に提出し、届出を行います。届出を行うことで、法的に問題がないか確認され、制度が正式に認可されます。

6. 従業員に周知し運用を始める

従業員に変形労働時間制の内容、運用方法、メリット・デメリットなどを十分に説明し、制度を周知します。周知後、運用を開始し、問題があれば随時改善策を検討しながら運用を進めます。

なお、労使協定の締結が必須なのは、1週間単位または1年単位の変形労働時間制を導入する場合です。1カ月単位の変形労働時間制を導入する場合、就業規則に規定の内容を定めていれば、労使協定を締結する必要はありません。

変形労働時間制の種類

変形労働時間制の種類は、1カ月・1年・1週間単位で労働時間を決める3つのタイプがあります。また、フレックスタイム制も、変形労働時間制の一種として労働基準法に位置づけられています。

出典:労働時間:変形労働時間制(変形労働時間制) | 徳島労働局

1カ月単位の変形労働時間制

1カ月単位の変形労働時間制では、1カ月における週平均の労働時間が原則40時間を超えない範囲で、日や週の所定労働時間を弾力的に設定できます。1日・1週の労働時間の上限は特に定められていません。

月初・月末・特定週に業務が忙しいケースに向いています。例えば、業務が忙しくなる月末の労働時間を1日10時間とし、業務にゆとりがある月初の労働時間を1日6時間にするといった調整が可能です。

1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制は、1カ月を超える1年以内の期間を平均して、1週間の労働時間が40時間を超えない範囲内で、特定の週や日に法定労働時間を超えて労働させられる制度です。労働時間の上限は、1日10時間、1週52時間と定められています。

1年の間に繁忙期と閑散期がある場合に適しています。例えば、特定の季節や特定月に業務が忙しい場合、繁忙期の労働時間を長くし、業務が暇な時期にその分を減らすことが可能です。変形労働時間制の中でも、1年単位の制度は比較的多くの企業に採用されています。

1週間単位の変形労働時間制

1週間単位の変形労働時間制は、1週あたりの法定労働時間の上限40時間を超えない範囲で、労働時間を1日ごとに調整できる制度です。1日あたりの労働時間は10時間まで設定できます。

1週間単位の変形労働時間制を導入できるのは、労働者数が30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店のみです。1週間の中で繁閑が生じやすい場合に適しています。

フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、事前に一定期間の総労働時間を決めた上で、始業時間と終業時間をその範囲内で自由に決められる制度です。所定労働時間を定める期間のことを清算期間と呼び、3カ月を上限として法定労働時間の範囲内で総労働時間を設定します。

フレックスタイム制では、必ず出勤しなければならない時間帯(コアタイム)と、始業・終業時間を自由に決められる時間帯(フレキシブルタイム)を設定する場合があります。コアタイムなしのフレックスタイム制(スーパーフレックスタイム制)で運用することも可能です。

変形労働時間制を導入するメリット・デメリット

変形労働時間制を導入する際には、メリットとデメリットを十分に理解し、自社の状況に合わせて適切な制度設計を行うことが重要です。変形労働時間制の企業側のメリット・デメリットを紹介します。

メリット

変形労働時間制を導入する企業側のメリットは、主に以下の4点です。

  • 業務量に合わせて柔軟に労働時間を調整できるため、残業代を削減できる
  • 繁忙期には人員を増やして閑散期には人員を削減するなど、人員配置を最適化できる
  • 柔軟な働き方が可能になり、従業員のワークライフバランスが向上する
  • 多様な働き方を推進する企業としてイメージが向上し、優秀な人材の確保につながる

変形労働時間制は、効率的なリソース配分や短期的なコスト削減にとどまらず、組織全体の活性化をもたらし、未来に向けた競争優位性を築く基盤となります。

デメリット

変形労働時間制を導入する企業側のデメリットには、次のようなものがあります。

  • 従業員ごとに労働時間が異なるため、勤怠管理が煩雑になる
  • 複雑な勤怠管理や残業代計算により、人事担当者の業務負担が増加する
  • 導入には就業規則の改訂や労使協定の締結を求められ、手間と時間がかかる
  • 繁忙期に労働時間が長くなり、従業員の生活リズムに影響を与える恐れがある

変形労働時間制の導入には勤怠管理や法的手続きに関する負担が伴いますが、適切なツールや対策を講じることでリスクを軽減することが可能です。従業員の健康面でのリスクも考慮しつつ、十分な準備と配慮をしましょう。

変形労働時間制を導入する際の注意点

変形労働時間制では、残業時間を適切に取り扱う必要があります。内容決定後に途中で変更できないことにも注意しましょう。

残業時間を適切に取り扱う

変形労働時間制でも、法定労働時間を超える残業時間が発生した場合は、残業代を支払う必要があります。変形労働時間制における残業代は、所定労働時間を超え、かつ法定労働時間を超えた時間に対して計算されます。

そもそも法律では、労働者の残業を原則的に認めていません。従業員に法定時間外労働・休日労働・深夜労働をさせる場合は、労使間で36協定の締結が必要です。

また、変形労働時間制では労働時間が複雑になるため、所定労働時間があいまいになるケースがあります。従業員とのトラブルを防ぐためにも、所定労働時間を就業規則に明記しましょう。

決定後に途中で変更できない

変形労働時間制で設定した労働時間は、原則として運用期間中に変更できません。設定段階で適切な労働時間をしっかりと見極め、残業が発生しないようにすることが重要です。

なお、正当な理由があれば例外的に変更が認められるケースもありますが、やむを得ない理由に該当するとみなされない場合は、変形労働時間制の適用が否認される恐れもあります。

変形労働時間制について理解を深めよう

変形労働時間制とは、業務の繁閑に合わせて労働時間を柔軟に調整できる制度です。繁忙期には労働時間を長く、閑散期には短く設定することで、人件費の削減やワークライフバランスの向上を期待できます。

変形労働時間制は、適切に運用すれば企業と従業員の双方にメリットのある制度です。メリットとデメリットを十分に理解した上で導入を検討しましょう。

著者情報

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