DX時代に必要なリスキリングとは?実施の必要性と注意点を解説
DXや第四次産業革命によって社会が大きく変わりつつある中、企業では「リスキリング」の重要性が高まっています。「再教育」の意味がありますが、社会人の学び直しとは何が違うのでしょうか?リスキリング制度を導入するメリットや注意点を理解しましょう。
リスキリングとは何か?
近年になって、リスキリングという言葉を耳にする機会が多くなった人もいるでしょう。英語の「Reskilling」が語源ですが、企業では「従業員への再教育」の意味で使われています。リスキリングの意義や注目されるようになったきっかけを解説します。
従業員に対する再教育のこと
リスキリングの語源であるReskillingは、「新しい技術を身に付けさせる」「再教育をする」を意味する動詞です。個人の学び直しと混同されやすいですが、会社やビジネスシーンでは「組織が従業員に対して行う職業能力の再開発」の意味で使われています。
リスキリングの対象は、組織に所属する全ての従業員です。新しい職務やポジションに適応できるように、企業が実施主体となって従業員に必要なスキルを習得させます。ITやデジタル分野の再教育が多いものの、特定の分野に限定したものではありません。
リスキリングが注目されたきっかけ
リスキリングが注目されたきっかけは、2020年のダボス会議で発表された「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」です。
AIやIoT 、ロボットなどの登場で、世界では新たな雇用機会が生まれていますが、労働者のスキルは十分とはいえないのが現実です。社会や産業の変化に対応したスキルが育たなければ、労働市場が流動的になったり、社会に不安が広がったりする恐れがあります。
会議では、「2030年までに10億人により良い教育・スキル・経済的機会を提供すること」が目標として掲げられました。リスキリングを社会に根付かせるため、日本でも官民一体の取り組みが進められています。
日本政府の取り組みと支援
社会人のキャリアアップ・スキルアップを支援する制度には、「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」や「教育訓練給付制度」などがあります。
2022年6月には、デジタルスキルトレーニングを行う「リスキリングコンソーシアム」が設立され、官民が一体となってリスキリングに取り組む体制が整備されました。
「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」には、地域の産学官プラットフォームのリスキリング対象者に経営者を追加し、2029年までに約5,000人の能力構築を目指すことが盛り込まれています。
また、「令和4年度補正予算・令和5年度当初予算のポイント」によると、リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業に753億円の補正予算が充てられており、キャリア相談・リスキリング・転職を一体的に支援する体制が整いつつあります。
出典:政府における取組
経済産業省関係 令和4年度補正予算・令和5年度当初予算のポイント
企業がリスキリングを実施するメリット
個人が自由に行う学び直しと違い、リスキリングは企業が実施主体です。従業員に新たなスキルを習得させることで、企業にどのようなメリットがもたらされるのでしょうか?
DX人材を確保できる
第四次産業革命に伴い、今後はIT・デジタル分野での新たな仕事が生まれます。DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が取り上げられる中、多くの企業ではDX人材が圧倒的に不足しているのが現状です。
採用活動を強化するとしても、専門性の高い人材は採用コストがかかる上、企業間の人材獲得競争を勝ち抜けるとは限りません。大手企業のような知名度がない中小企業や零細企業は、採用難が続くでしょう。
自社の従業員にリスキリングを実施すれば、少ないコストでDX人材を確保できるのがメリットです。新たなスキルを身に付けた人材の活躍により、業務の効率化や生産性の向上がもたらされます。
新たなアイデアの創出につながる
従業員が新たなスキルを身に付けると、視野が大きく広がったり、インスピレーションを得られたりします。業務の効率化が実現するだけでなく、これまでになかった画期的なアイデアが生まれる可能性があるでしょう。
ビジネス環境が目まぐるしく変わる現代、企業が生き残るには変化への適応力とイノベーションが欠かせません。新たなアイデアや技術は組織に変革をもたらし、市場における競争優位性を強化します。長年培ってきたノウハウとデジタルの知見を融合すれば、新規事業や利益の創出にもつながるでしょう。
従業員エンゲージメントが高まる
社内でリスキリング制度が確立すれば、従業員は「新たな知識やスキルを獲得する」という新たな目標が得られます。モチベーションが高まり、主体的に行動しようとする人が増えるでしょう。
リスキリングによる従業員の能力向上は、昇給や昇進という良い結果をもたらし、最終的に「従業員エンゲージメント」の向上につながります。
従業員エンゲージメントは、愛社精神と同義です。エンゲージメントが低下すると離職率が増え、生産性も低下します。企業への信頼度や従業員同士のつながりを強化したいと考える企業は、「TUNAG(ツナグ)」の導入を検討しましょう。
「エンゲージメント向上機能」と「業務改善機能」の両方を備えたオンラインのプラットフォームで、従業員の定着率向上や情報共有の強化、業務DXの促進などに活用できます。
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リスキリング制度の導入手順
リスキリングは、企業の成長戦略の一つです。リスキリング制度を導入するに当たり、目的を明確にした上で、求める人材像に合ったプログラムを実施しなければなりません。導入手順とポイントを解説します。
実施の目的とテーマの明確化
リスキリングは、自社の経営戦略や事業戦略に基づいて実施するのが基本です。プログラム内容を策定する前に、目的とテーマの明確化を行いましょう。
まずは、「企業の外で起こっていること(外的要因)」と「企業の中で起こっていること(内的要因)」を洗い出すところからスタートします。理想と現状のギャップを把握した上で、誰に・どのようなスキルを獲得させるべきかをまとめた「人材ポートフォリオ」を作成しましょう。
習得すべき知識・スキルが多岐にわたるときは、優先順位を付ける必要があります。従業員の経歴やスキルを可視化したデータベースを構築しておくと便利です。
プログラムの作成と環境整備
目標やテーマを明確にした後は、プログラム内容を検討し、リスキリングに適した環境を整備します。業務の繁忙期にリスキリングが重なると、生産性の低下や学習意欲の低減につながりかねません。
プログラム内容が充実していても、実施のタイミングや手順を誤れば効果は半減するため、いつ・誰に・どのような方法で・何を学ばせるかを明確にすることが重要です。
実施方法は多種多様で、代表的なものには「社内研修」「外部講師によるトレーニング」「通信講座」「オンライン(eラーニング)」「OJT」などがあります。予算や習得期間を考慮しながら、最適な方法を選択しましょう。
プログラムの実施
リスキリングのプログラムを作成した後は、従業員に実際に取り組んでもらいます。個人の関心に基づいた資格取得学習と違い、リスキリングは「業務時間内」に行うのが基本です。就業時間内にリスキリングを行う仕組みを整備し、就業規則や人事評価制度に内容を反映させましょう。
スキル習得のポイントは、学習と実践をしっかりと結び付けることです。適切なアウトプットにより、学びが定着しやすくなります。上司は定期的にフィードバックやフォローを行い、部下の成長をサポートする必要があります。
効果測定と改善
リスキリングは、学びを業務に生かせなければ意味がありません。開始前に定量的な目標を設定し、スキルの習得が順調に進んでいるかを定期的にチェックしましょう。
効果測定では、スキルの習熟度はもとより、「業務に活用できているか」「成果を生み出しているか」を確認することが重要です。ただし、リスキリングの内容によっては、すぐに成果が表れるとは限らないため、中長期的な視点で評価していく必要があります。
振り返りやフィードバックなどが一通り終了したら、課題を基にプログラム内容や手順などの改善を行います。
リスキリングを実施する上での留意点
リスキリングは企業や従業員に多くのメリットをもたらしますが、デメリットが全くないわけではありません。うまく実施されなかった場合、コストの増大や人材の流出につながる可能性があります。企業がリスキリングを行う上で意識すべきポイントを解説します。
モチベーションを維持する工夫が必要
リスキリングの成果は一朝一夕で得られるものではなく、継続的に取り組んでこそ目に見える結果となります。専門性が増すほど長丁場になるため、従業員のモチベーションや学習意欲を維持する工夫が欠かせません。
- リスキリング対象者へのインセンティブを設ける
- コミュニティやサークルなど、仲間と一緒に学べる環境を作る
- リスキリングによる優良事例を表彰する
従業員の中には、「現在の業務だけに集中したい」「本来の業務に支障が出る」と考える人もいます。経営者や人事担当者は、リスキリングの重要性を周知すると同時に、取り組みを給与や昇進・昇格に反映させる必要があります。
導入コストがかかる
人材の採用コストを大幅に削減できる一方で、リスキリング制度の導入にも一定のコストが発生します。
- 教科書・教材費
- 会場費・設備費
- 講座の受講料
- 外部講師への謝礼
- 資格試験の受講料
- 環境整備に必要な人的・時間的なコスト
専門的なトレーニングほど費用がかさむため、スキル獲得までにかかる時間・費用をできるだけ正確に見積もることが重要です。「人材開発支援助成金」をはじめとする国の補助金や支援金を最大限に活用しましょう。
他社に転職する可能性がある
企業がリスキリングを行う目的は、自社の成長に貢献する人材を育成することです。導入がうまくいけば企業は多くの恩恵を得られますが、従業員の今後のキャリアにプラスになることを示せなければ、リスキリング後の離職・転職が相次ぐでしょう。
また、新たなスキルを生かせるポジションや機会を提供できない場合、これまでのコストが無駄になってしまいます。リスキリングを単なる転職の武器としないためにも、以下のような施策を講じる必要があります。
- スキル習得後の職務や待遇がどう変わるのかを示す
- キャリアの長い従業員から対象者にする
- 事前に面談を実施し、今後のキャリアプランや転職の意思を確認する
リスキリングで時代の変化に適応する
リスキリングは、企業の人的資本を向上させる戦略の一つです。社会のIT化・デジタル化が進展するにつれ、新たな職務や仕事が生まれますが、従業員のスキルが追い付かなければ、企業全体の業績にも大きな影響が及びます。
経営層や人事部門は、自社の将来を見越した上で、経営戦略・事業戦略を基にしたリスキリング制度の導入を検討しましょう。スキルの習得には一定の期間を要するため、プランニングや実行は早いほどよいといえます。