リスキリングとは?定義や注目される背景、特徴について解説

急速なデジタル化やAI技術の進展により、ビジネス環境は大きく変化しています。この変化に対応するため、多くの企業が注目しているのが「リスキリング」です。本記事では、リスキリングの定義から導入方法まで、企業の人材戦略に欠かせない情報をわかりやすく解説します。人材育成の新たな潮流を理解し、自社の競争力強化につなげましょう。

リスキリングとは?

リスキリングは、企業の未来を左右する重要な人材戦略です。ここでは、リスキリングの定義や関連する概念との違いを明確にし、その本質を理解していきましょう。

リスキリングの定義

リスキリング(Reskilling)とは、既存の従業員に新しいスキルを習得させ、異なる職務や役割に対応できるよう育成することを指します。

例えば、営業職の社員にデータ分析のスキルを身につけさせ、マーケティング部門で活躍できるようにするといったケースが挙げられます。

近年、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する中で、ITスキルの習得を目的としたリスキリングが注目を集めています。しかし、リスキリングの対象はITスキルに限らず、ビジネススキルや対人スキルなど、幅広い領域に及びます。

重要なのは、単なるスキルアップではなく、会社の戦略に沿った形で従業員のスキルを再構築することです。つまり、リスキリングは個人の成長と企業の成長を同時に実現する、win-winの人材育成戦略と言えるでしょう。

リカレント教育との違い

リスキリングと混同されやすい概念に「リカレント教育」があります。両者は似ているようで、実は大きな違いがあります。

リカレント教育は、社会人が学校などの教育機関に戻って学び直すことを指します。例えば、大学院に通って最新の経営理論を学んだり、専門学校で新しい資格を取得したりすることがこれにあたります。つまり、主に個人のキャリアアップを目的とした、より広範な学び直しを意味するのです。

一方、リスキリングは企業主導で行われる、より焦点を絞った学習プログラムです。現在の職務や将来の事業戦略に直結するスキルの習得に重点を置いているのが特徴です。

例えば、製造業の企業がIoT技術を活用した新製品の開発を計画している場合、エンジニアにIoTやクラウド技術のリスキリングを行うことで、新事業に必要な人材を社内で育成することができます。このように、リスキリングは企業の具体的なニーズに応じた、実践的なスキル習得を目指すのです。

アンラーニングとの違い

リスキリングを効果的に進める上で、「アンラーニング」という概念を理解することも重要です。

アンラーニングとは、既存の知識や習慣を一度手放し、新しい考え方や方法を受け入れる過程を指します。

例えば、長年紙ベースで顧客管理を行ってきた営業部門に、最新のCRMシステムを導入する場合を考えてみましょう。単に新しいシステムの使い方を教えるだけでは不十分で、従来の仕事の進め方や顧客との関わり方そのものを見直す必要があります。この「古い習慣を手放す」プロセスがアンラーニングなのです。

リスキリングがスキルの「追加」に重点を置くのに対し、アンラーニングは既存のスキルや考え方の「除去」に焦点を当てます。

しかし、実際のリスキリングプログラムでは、この両者を組み合わせて進めることが多いでしょう。新しいスキルを効果的に身につけるには、古い思考パターンや習慣を一度リセットすることが不可欠だからです。

リスキリングを成功させるには、新しいスキルの習得と同時に、従業員の意識改革も促す必要があります。「今までのやり方」に固執せず、常に学び続ける姿勢を育むことが、真の意味でのリスキリングにつながるのです。

リスキリングが注目される理由

近年、リスキリングが企業の人材戦略において重要なトピックとなっています。その背景には、ビジネス環境の急速な変化があります。ここでは、リスキリングが注目を集める主な理由を探っていきましょう。

DXの推進

デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が、あらゆる業界に押し寄せています。DXとは、単にデジタル技術を導入することではなく、ビジネスモデルや組織文化そのものを変革することを意味します。

例えば、小売業界では、実店舗とEコマースを融合したオムニチャネル戦略が主流となっています。これに伴い、店舗スタッフにもデジタルマーケティングやデータ分析のスキルが求められるようになってきました。

また、製造業では、IoTやAIを活用したスマートファクトリーの実現に向けて、従来の製造ノウハウに加えて、デジタル技術の理解が不可欠になっています。

このようなDXの流れの中で、既存の従業員のスキルセットを時代に合わせてアップデートする必要性が高まっているのです。リスキリングは、まさにこのニーズに応える戦略として注目を集めています。

デジタル人材の確保

DXの推進と表裏一体の問題として、デジタル人材の深刻な不足が挙げられます。多くの企業が、データサイエンティストやAIエンジニアといった専門人材の確保に苦心しています。

しかし、外部からの人材獲得には限界があります。人材の絶対数が足りないうえに、獲得コストも高騰しているのが現状です。そこで注目されているのが、社内人材のリスキリングです。

例えば、ある金融機関では、長年投資商品の営業に携わってきた社員をデータアナリストとして再教育しました。顧客との対話から得られる定性的な洞察と、データ分析から得られる定量的な知見を組み合わせることで、より効果的なマーケティング戦略を立案できるようになったのです。

このように、既存の業務知識とデジタルスキルを組み合わせることで、単なるデジタル人材以上の価値を生み出すことができます。リスキリングは、人材不足の解消と同時に、自社独自の競争力強化にもつながる戦略なのです。

政府によるリスキリング支援

リスキリングの重要性は、企業だけでなく政府レベルでも認識されています。日本政府は「人への投資」を成長戦略の柱の一つと位置付け、リスキリングを推進するための様々な支援策を打ち出しています。

例えば、厚生労働省が実施する「人材開発支援助成金」では、企業が従業員に対して行う職業訓練の経費や賃金の一部を助成しています。特に、デジタル人材の育成に関する訓練については、高率の助成が受けられるようになっています。

このような政府の支援策を活用することで、中小企業でもリスキリングに取り組みやすくなっています。自社の人材育成戦略を検討する際には、こうした公的支援の可能性も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

リスキリングを行うメリット

リスキリングは、企業にとって大きな投資を必要とする取り組みです。しかし、適切に実施することで、従業員個人と企業の双方に多くのメリットをもたらします。ここでは、リスキリングを行うことで得られる主なメリットについて、具体例を交えながら解説していきましょう。

市場価値が高まる

リスキリングを通じて新しいスキルを習得することで、従業員の市場価値が高まります。これは、個人のキャリア発展にとって大きなメリットとなるだけでなく、企業にとっても重要な人材の流出を防ぐ効果があります。

例えば、製造業の現場で働く技術者が、IoTやデータ分析のスキルを身につけることで、スマートファクトリー推進の中核人材として活躍できるようになります。その技術者の社内外での評価が高まり、モチベーションの向上にもつながるでしょう。

また、企業にとっては、高度なスキルを持つ人材を社内で育成できることで、外部からの高額な人材獲得コストを抑えることができます。また、社内の他部署でも活躍の幅が広がり、より多様な役割を担えるようになります

ひいては業界特有の知識や企業文化を理解している既存社員をリスキリングすることで、新しい技術と既存のノウハウを融合させた、他社には真似できない独自の強みを築くことができるのです。

業務効率が向上する

適切なリスキリングは、従業員の業務効率を大幅に向上させる可能性があります。新しいスキルや技術を習得することで、業務プロセスの効率化や質の向上が図れるからです。

一例として、営業部門の社員がデータ分析のスキルを身につけることで、顧客の行動パターンやニーズをより深く理解し、効果的な提案ができるようになります。これにより、成約率の向上や顧客満足度の改善につながり、結果として生産性が向上するのです。

また、社内のコミュニケーションツールや業務管理システムが刷新された際に、全社員がこれらのツールを効果的に使いこなせるようリスキリングを行うことで、情報共有の円滑化や意思決定のスピードアップが実現します。これも、組織全体の生産性向上に大きく貢献します。

新しいアイディアが生まれやすくなる

リスキリングは、単に新しいスキルを身につけるだけでなく、従業員の視野を広げ、創造性を刺激する効果があります。異なる分野のスキルや知識を組み合わせることで、革新的なアイデアが生まれやすくなるのです。

例えば、製品開発部門のエンジニアがデザイン思考のワークショップに参加し、ユーザー中心の発想法を学ぶことで、より使いやすく魅力的な製品の開発につながる可能性があります。

また、人事部門の社員がデータサイエンスのスキルを身につけることで、従来の経験則だけでなく、データに基づいた新しい採用戦略や人材育成プログラムを考案できるようになるかもしれません。

このように、リスキリングは組織に新しい視点や発想をもたらし、イノベーションの源泉となる可能性を秘めているのです。

変化に適応することができる

ビジネス環境が急速に変化する現代において、変化への適応力は企業の生存に直結します。リスキリングは、この適応力を高める有効な手段となります。

例えば、小売業界では、実店舗とEコマースの融合が進んでいます。このような状況下で、店舗スタッフにデジタルマーケティングやオンラインカスタマーサービスのスキルを身につけさせることで、オムニチャネル戦略にスムーズに対応できるようになります。

また、金融業界では、フィンテックの台頭により、伝統的な銀行業務が大きく変わりつつあります。このような中、既存の銀行員にブロックチェーンやAIといった最新技術のリスキリングを行うことで、新しい金融サービスの開発や運用に柔軟に対応できる人材を育成できるのです。

リスキリングを通じて、従業員が新しい知識やスキルを継続的に吸収する文化を醸成することで、組織全体の変化への耐性が高まり、どのような環境変化にも柔軟に対応できる「学習する組織」を作り上げることができるでしょう。

リスキリング導入のステップ

リスキリングの重要性は理解できても、実際にどのように導入すればよいのか悩む企業も多いでしょう。ここでは、リスキリングを効果的に導入するための具体的なステップを解説します。

リスキリングの目的を明確にする

分析結果を基に、リスキリングの具体的な目的を設定します。「何のために」「どのようなスキルを」「誰に対して」リスキリングを行うのかを明確にしましょう。

例えば、「3年以内に、営業部門の30%の社員がデータ分析スキルを習得し、データドリブンな営業戦略の立案・実行ができるようになる」といった具体的な目標を設定します。目的を明確にすることで、従業員の動機付けにもつながり、リスキリングの効果を最大化することができます。

教育プログラムを決める

目的が定まったら、具体的な教育プログラムを設計します。ここでは、対象者のレベルや学習スタイル、業務との両立可能性などを考慮し、最適な学習方法を選択することが重要です。

例えば、基礎的なデジタルスキルの習得には、オンラインの動画学習と社内メンターによるフォローアップを組み合わせる方法が効果的かもしれません。

一方、より高度なプログラミングスキルの習得には、外部の専門機関と連携した集中研修を実施するなど、スキルの特性に応じて適切な方法を選択しましょう。

また、学習の進捗を可視化し、適切なフィードバックを行う仕組みも重要です。例えば、定期的なスキルチェックテストや、実務での適用状況の評価など、客観的な指標を設定することで、リスキリングの効果を測定し、必要に応じてプログラムを改善することができます。

研修の実施

いよいよ実際の研修を開始します。ここで重要なのは、単なる知識の詰め込みではなく、実践的なスキル習得を目指すことです。

例えば、データ分析スキルのリスキリングでは、座学だけでなく、実際の業務データを使ったワークショップを取り入れるなど、学んだスキルを即座に実務に適用できるような工夫が効果的です。

また、グループワークや課題解決型の学習を取り入れることで、他の参加者との相互学習も促進されます。

さらに、リスキリング中の従業員のモチベーション維持も重要です。定期的な成果発表の機会を設けたり、スキル習得の進捗に応じた認定制度を導入したりするなど、学習意欲を持続させる工夫も検討しましょう。

知識やスキルを実務で活用する

リスキリングの真価は、学んだスキルを実際の業務で活用することで発揮されます。研修終了後、すぐに新しいスキルを活かせる機会を提供することが重要です。

例えば、データ分析スキルを習得した営業社員に対して、実際の顧客データを分析し、その結果を基に新しい営業戦略を立案・実行するプロジェクトを任せるなど、実践の場を設けましょう。

また、リスキリングを受けた従業員が、その経験や学びを他の社員と共有する「社内勉強会」を開催するのも効果的です。これにより、組織全体の知識レベルの底上げと、学び合う文化の醸成につながります。

リスキリングは一度行えば終わりではありません。ビジネス環境の変化に合わせて、継続的にスキルをアップデートしていくことが重要です。定期的に効果を検証し、必要に応じてプログラムを見直すなど、PDCAサイクルを回しながら、常に進化し続ける組織づくりを目指しましょう。

リスキリングの導入事例

リスキリングの重要性は理解できても、具体的にどのように導入すればよいのか悩む企業も多いでしょう。ここでは、実際にリスキリングを成功させた企業の事例を紹介します。これらの事例から、自社に適したリスキリングの方法のヒントを得てください。

DX推進に向けて基礎教育プログラムを開発

大手IT企業の富士通株式会社は、IT業界におけるデジタル人材不足という課題に対応するため、グローバルな教育プログラム「Global Strategic Partner Academy」を開始しました。

この事例は、特にグローバルに展開する企業や、急速なデジタル化に対応する必要がある企業にとって、参考になる取り組みです。この取り組みの狙いは、組織全体のデジタル化を推進し、技術革新を通じてサステナブルな社会の実現に貢献することです。

デジタル化の推進を目指す企業にとって、この事例は理想的なモデルと言えるでしょう。

コロナをきっかけデジタル研修を導入した日本の事例

近年、日本企業においてもリスキリングへの取り組みが活発化しています。かつては出遅れていると指摘されていた日本企業ですが、今や多くの大手企業がデジタル技術を中心としたリスキリングプログラムを積極的に展開しています。

例えば、大日本住友製薬は2021年から全社員約3000人を対象にデジタル研修を実施しています。この背景には、新型コロナウイルスの影響で、従来は対面が中心だった病院への営業活動がオンラインに移行したことがあります。

あらゆる業種や階層でデジタル技術が不可欠になってきたという認識が高まり、全社的なリスキリングの必要性が認識されたのです。

TUNAG(ツナグ)でリスキリング・社内教育を効率化

企業がリスキリングや社内教育の効率化に取り組もうとしても、「うまく施策推進が進まない」「優先度が高い他の業務がありなかなか着手できない」「効果が見えにくい」などの課題にぶつかることも多いです。企業としてはITツールなどを活用して、従業員が効率的にスキルアップできる体制や自ら学ぶ組織文化を構築していくことが重要です。

人材教育・定着率・情報共有・生産性などの様々な組織課題を解決する取り組みができるクラウドサービス「TUNAG」を活用すれば、リスキリング・社内教育の効率化を実現できます。例えば、下記のような取り組みをアプリ一つで実施することが可能です。

  • 業務マニュアルや動画マニュアルをアプリで簡単に管理可能
  • 1on1や日報などで、従業員の学びを可視化
  • 業務や新しい技術に関するテストをスマートフォンで受験でき、新人教育・オンボーディングの時間を削減

会社全体として社内教育に力を入れていきたいとお考えの経営者・人事担当の方は、ぜひTUNAGのサービス資料をご確認ください。

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リスキリングで人材を有効活用する

リスキリングは、単なるスキル習得の取り組みではありません。それは、企業の最も重要な資産である「人材」を最大限に活用し、企業の持続的な成長を実現するための戦略的アプローチです。

現在はデジタル化やグローバル化を含めて、市場の変化は劇的に早くなっています。そのような状況下で何もせずに手をこまねいていると、社員の生産性がどんどん落ちてしまいます。従業員がリスキリングによって現在の市場に適応し、生産性を向上させることが不可欠と言えます。

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