会社の緊急連絡網の作り方と連絡手段について考える
緊急事態の種類
そもそも緊急事態とは、日本国語大辞典によると、「重大で対策を至急に必要とする事態である」と定義されています。では、具体的にどのようなことが緊急事態の要因として考えられるのでしょうか。
緊急事態の種類については、これからご紹介する3つに大きく分類されます。一つずつみていきましょう。
自然災害
緊急事態の一つめに挙げられるのが自然災害です。自然災害とは、危機的な自然現象によって、人命や人々の社会的活動に被害が生じる現象を言います。具体的には「落雷・風・ひょう・雪災・水害・地震」といった異常な自然現象により起こる被害が自然災害に当たります。
これらの自然災害に対して、適切な危機管理がされてなかったり、防災計画が無いことにより、さらに大きな被害を及ぼす可能性が高まります。
人災
次に、人災も緊急事態の一つに該当します。具体的には「火災・破裂・爆裂・飛来・落下・衝突・水濡れ・破壊・盗難・破損」などが人災に当たります。
その他
緊急事態は、自然災害や人災のみならず、以下で挙げる集団感染やテロなども該当します。
集団感染
集団感染とは、共通する感染源により特定の集団が何らかの病気に感染することを言います。近年では、新型コロナウイルス感染症による流行に伴い、あらゆる場所で集団感染が発生したことは記憶に新しいところです。
集団感染を早期に食い止め、感染を最小限に抑えるためには、いち早く異変に気付き、迅速に対応することが重要です。また、集団感染が再発しないよう原因を突き止め、対策を講じることも大切と言えるでしょう。
テロ
警察庁組織令第三十九条によると、テロリズム(通称:テロ)とは、「広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動」と定義されています。
また近年では、テロの一つとしてサイバーテロが日本国内では猛威を振っています。総務省が2019年に公表したデータ「サイバーセキュリティ政策の最新動向」では、2017年に発生したサイバーテロによる個人情報が漏えいした件数は、519万件以上となっており、想定損害賠償総額は1,914億円を超えたと言われています。なお、そのターゲットの多くはIoTとされているため、社内においてサイバーテロに対するセキュリティ構築は急務と言えるでしょう。
参照:総務省「サイバーセキュリティ政策の最新動向」
緊急時の連絡方法
実際に災害やトラブルなど緊急事態が発生した場合、どのような連絡方法があるのでしょうか。
ここでは、緊急時に使える一般的な連絡方法に加え、実際に被災地域において役に立った手段などもご紹介します。
伝言ダイヤル171
災害時、被災地への通信が繋がらない状態になった場合に使える連絡方法が「伝言ダイヤル171」です。「171」をダイヤルしたあと、固定電話もしくは携帯電話の電話番号を宛先に、音声伝言の録音や再生が可能となります。
大手3大キャリアの災害用伝言版
大手3大キャリアである「NTTドコモ」「ソフトバンク」「au」では、災害用の伝言板サービスが提供されています。災害が発生した場合などの緊急事態において、通信が繋がりづらい状況になった場合、サービス内でメッセージを残すことができ、それを家族や友人、仕事仲間などへ届けることができます
SNS
災害が発生した場合、電話は多くの人が一斉に電話をかけるため、通信回線が混雑しがちです。そのため電話よりもLINEやTwitter、FacebookといったSNSの方が繋がりやすいケースがあります。
総務省の公表する「熊本地震におけるICT利活用状況に関する調査」(平成28年)によると、熊本地震が発生した際、情報収集時に役に立ったICTメディアの中で、『家族・友人等の安否情報の取得』に関しては、LINEの利用率が77.6%と高い傾向がみられました。
参照:総務省「熊本地震におけるICT利活用状況に関する調査」(平成28年)
会社の緊急時の連絡方法
会社では、緊急時に備えて、どのような連絡方法を取るのか事前に決めておくことが大切です。もちろん会社によっても緊急時の連絡方法は異なりますが、一般的には以下のような4つの方法があります。
方法1.電話を利用する
会社の緊急時の連絡方法として、まずはじめに挙げられるのが電話による安全確認です。この方法を取る場合は、電話で連絡を取り合うため緊急連絡網を作成し、従業員社員へ配布する必要があります。
電話で連絡を取るメリットは、相手に口頭で状況を詳しく伝えられたり、スピーディに双方向のやり取りができます。そのため、緊急時すぐに安否確認したい場合や返事がほしい場合などは電話を利用することが有効的な方法と言えます。
しかしながら、電話を利用することで、相手と話した内容が残らなかったり、複数人と同時にやりとりするといったことができないため、情報の伝達スピードが遅くなるほか、手間がかかるといったデメリットもあります。
そのほか、実際に災害やトラブルなど緊急事態が発生した場合、安否確認や業務上の確認などにより、多くの人が電話を一斉にかけるため、通信回線が混雑し電話が繋がりにくくなりやすい点や、個人の携帯電話番号を連絡網に載せることで、個人情報保護の観点から配慮が必要といった課題があることも忘れてはいけません。
方法2.メールや社内ポータルの利用
会社の緊急時の連絡方法として、メールや社内ポータルを利用することも有用です。メールを利用すると、電話と違って文書として残すことができるため、正確な情報の伝達が可能となります。また複数人に情報を伝えたい場合でも、メールの一斉送信機能を利用することで、一斉に情報を伝達をすることができ、電話と比較しても連絡する側の手間がかからないといったメリットがあります。
その一方で、メールの場合だとすぐに気付かれないことがあったり、やりとりが複数回に重なった場合、内容を見返すことが難しいほか、誰が返信したかなど集計が大変になるといったことが考えられます。もし会社の緊急時の連絡方法としてメールを採用するのであれば、他のメールに埋もれないように件名を目立たせるといった工夫や、日頃から訓練メールを送信するなど、実際に連絡網して機能するかどうかをあらかじめ確認しておく必要があるでしょう。
また、社内ポータルを設けている会社は、緊急時にツールを利用することで迅速かつ正確な情報を社員に向けて配信できるため、メールと併せて利用するといいでしょう。
方法3.LINEやビジネスチャットアプリを活用する
コミュニケーションツールのLINEやビジネス用チャットアプリを会社の緊急連絡網として活用することも有効的でしょう。LINEは、2022年12月末時点で月間ユーザー数9,400万人を突破しており、プライベートで多くの人が利用するコミュニケーションツールです。
また、ビジネスチャットの機能の一つであるグループチャットを利用すれば、社員に一斉に連絡することができる上、メールと違ってやりとりの流れが掴みやすいため、状況に合わせて素早いコミュニケーションを取ることが可能です。
方法4.安否確認システムの利用
緊急連絡に特化したサービスである「安否確認システム」を利用することも方法の一つです。安否確認システムは、緊急時のメッセージを全社員へ一斉に送信することが可能です。災害の状況に応じて、指示する内容を編集することもできる上、サービスによってはメッセージを受信者が開封したかを表示する機能も搭載しているため、安否確認の際にも役立てることができます。
しかし、安否確認システムを利用する際は、事前に社員の個人情報を登録しておく必要があるため、不測の事態に備えてスムーズに利用できるよう社員へ使用方法をを伝えておく必要があるため、やや手間がかかる点はデメリットと言えるでしょう。
連絡網を作る必要性は?
会社の場合、緊急時に備えて連絡網を作成するかどうか悩んでいる会社担当者もいることでしょう。会社では、地震や台風などの自然災害のみならず、社内における事故やオフィス内でトラブルが起きた場合でも素早く社員へ周知しなければなりません。そのため、企業運営の観点から考えても緊急連絡網の作成は必要だと考えられます。
会社における緊急連絡網の作成は、災害・トラブルが発生した際に、どのような順番で・誰がどこに連絡するのかを明確にすることができます。加えて連絡網により、重大な情報をいち早く社員に伝えることで、災害の被害を最小限に抑えたり、二次被害の発生を防止することにもつながります。
実際に、2011年に発生した東日本大震災以降から、社員の安否確認や企業から家族へ連絡を取る目的として、緊急連絡網を作成する企業が増加していると言われています。また近年においては、緊急時の連絡も電話のみならず、メールやチャット、掲示板といったさまざまなサービスが提供されていることから、従来と比べて緊急連絡網の作成も比較的容易になっています。
連絡網を作成する目的
会社における緊急連絡網の作成は、災害時のほかに以下の目的で活用することができます。
- 自然災害や大きな事故が起きた際の安否確認
- 自然災害が発生した際、自宅待機命令などの対応指示
- 個人情報流出などのクライアント対応が必要とされるトラブルの社内周知
- オフィスビルのシステム障害やオフィス内の事故といった事業継続に関する事項の社内周知
このようなことから、会社では、緊急時に備えて事前に緊急連絡網を作成しておくことが賢明と言えるでしょう。
緊急連絡網を作成する際のポイント
会社の緊急連絡網を作成するポイントとして抑えておきたいポイントをご紹介いたします。
連絡網を使う状況を明確化する
まず情報をいち早く届ける必要があるため、一斉に連絡ができて届きやすいかといったことは重要です。
そのほか、会社から社員へ情報を一方向で届けるだけでなく、社員からも安否報告ができるなど双方向でコミュニケーションが取れるツールであるかといったことも、緊急連絡網を作成する上では押さえておきたいポイントと言えるでしょう。
緊急時に繋がりやすい連絡先を収集する
社用携帯が支給されていない場合、社員のプライベートな連絡先や番号を緊急連絡先として使用することになります。その際、連絡先を登録する前に必ず本人の同意を得ることが必要です。また、収集した個人情報を適切に保護するためには、セキュリティ対策を徹底することが重要です。
データの管理場所については、ローカルフォルダやクラウドなど複数の場所に分散させておくと、緊急時にデータを取り出せないトラブルを避けることができ、安心です。
緊急連絡網を回す順番やグループを決める
収集した連絡先はリスト化し、グループ分けを行います。早急な情報伝達を目指す場合、社員の在住地域や部署・事業所ごとにグループを分けると効率的です。また、社員には事前に連絡網を使用する状況に応じて最適なグループ分けが異なることを理解をさせておくことが重要です。
各役割の担当者を決める
グループや連絡網が決まり次第、役割を決めます。この際の役割とは
- 緊急連絡網の発令を指示する人
- 結果を取りまとめる人
- 最終的な報告をする人
などが該当します。
ただし、緊急事態の際には全員が連絡が取れるわけではありません。10人以上に連絡が取れないことや、各担当者に30分以上連絡が取れないといった際は代役として〇〇さんが入る、といった状況に応じて柔軟に対応できる役割決めをしましょう。
連絡方法を決める
現代には、様々な連絡手段があります。主な手段として挙げられるのは、電話・メール・LINEなど(SNS)・アプリやシステム・SMSです。それぞれの連絡手段にはメリットとデメリットがあり、会社の形態や規模、または風土によって最適な方法は異なります。例えば、電話はリアルタイムで情報を共有できるという利点がありますが、相手が出ない場合や繋がらない場合があるというデメリットもあります。そのため、各連絡手段の特徴をよく理解した上で、自社の状況に最適な方法を選定することが重要です。
対応フローの周知を知る
緊急時の連絡対応フローや連絡網について、社員に周知徹底を図ります。連絡網は2部印刷し、それぞれ自宅と会社に保管しておくことを推奨します。また、クラウドにデータを保存しておけば、オンライン・オフラインの両方でアクセスできるため、さらに安心です。この際、連絡先には個人情報が記載されているため取り扱いには注意が必要です。
緊急連絡網を発令する2つのパターン
緊急連絡網を発令する条件を事前に定めておくことで、情報発信を最適なタイミングで行うことができます。発動条件は、内的要因と外的要因の2種類に分けられます。
内的要因
社内の緊急トラブルや事故があった際に責任者が連絡網を回す必要があると判断する必要があるものが内的要因です。基準が曖昧なため、社内の責任者は対応フローを社内に落とし込む前に明確な基準を決めておくことをおすすめします。
外的要因
外的要因は、緊急地震速報や台風による暴風警報、大雨警報といった気象庁や政府が発令するため、客観的な判断のもと連絡網を回すかを決められます。
ただ、自然災害などの緊急事態が発生した場合、責任者が対応できない可能性があります。そうした予期しない状況に備えて、事前に対処方法を検討し、社内全員で準備を整えておくことが重要です。
緊急連絡網にはセキュリティ対策が不可欠(個人情報の漏洩を防ぐ)
緊急連絡網を運用する際には、個人情報の漏洩を防ぐためにセキュリティ対策が必要です。個人情報保護のために実施すべき代表的な対策を2つご紹介します。
ウイルス対策や不正アクセス防止
個人情報を適切に保護するためには、ウイルス感染や不正アクセスからデータを守るための厳重な対策が求められます。例えば、クラウドサービスにデータを保存する際には、必ずアクセス制限を設定し、情報にアクセスできるのは社内の指定された担当者のみとすることが重要です。加えて、パソコンやモバイル端末でデータを保管する場合、最新のウイルス対策ソフトを導入し、定期的にアップデートを行うことで、ウイルス感染のリスクを最小限に抑えることができます。
私用端末での情報使用を避ける
業務用の端末が支給されている場合、プライベートの端末を利用して収集した緊急連絡先や個人情報を使わないようにしましょう。私用端末に不正アクセスやウイルス感染が発生した場合、情報漏洩や悪用のリスクが高まります。もし私用端末をどうしても使わなければならない場合は、連絡先情報や登録データを最小限に抑え、端末のセキュリティ設定(パスワードや指紋認証など)を強化することで、十分な防護対策を講じることが不可欠です。
災害リスクを評価する
会社経営における災害リスクは、人や建物、設備、システムなどの経営資源へと大きく影響します。そのため会社では、万が一起きた場合の災害時に備えて、まずどこが弱点になるのか、被害がどの程度になるのかといったリスクを可能な限り正しく定量的に評価・把握することが重要です。災害リスクを適切に評価することで、自然災害に関しては一定の予測が可能となります。
ここでは、災害リスク評価に使えるデータをご紹介します。
重ねるハザードマップ
災害リスクを知る方法として、国土交通省や各地方公共団体等が提供する「ハザードマップ」の活用が挙げられます。ハザードマップを使用することで、災害時の被害状況を一目で把握することができ、想定される被害に対して災害リスクを評価することができます。
なお、ハザードマップは、国や各自治体ごとにさまざまな種類のものが公開されています。その中でも国土地理院が提供する「重ねるハザードマップ」では、災害リスク情報や防災に役立つ情報を、全国どこでも一つの地図上に重ねて閲覧することができます。
たとえば「土砂災害+避難場所+道路防災情報」といったように複数の情報を重ねて表示できるため、緊急時のさまざまな防災に役立てることができるでしょう。
参照:国土地理院「重ねるハザードマップ」
まとめ
今回は、緊急時に使える連絡方法や会社の緊急連絡網の必要性などについて解説しました。
会社の緊急連絡網とは、災害などの緊急事態が起きた場合に社員が迷わず判断できるよう定めたものとなります。社員の安否確認のほか、今後も長く事業を継続していくことを考えれば、もはや緊急連絡網の作成は必須と言えるでしょう。
現在、緊急連絡網の作成を検討している会社は、全員へ一斉に連絡ができて届きやすいかといったことや、社員からも安否報告ができるかなどのポイントを踏まえた上で作成を進めていきましょう。
関連記事:クライシスマネジメント(危機管理)とは?リスクマネジメントとの違い、対応プロセスを解説 | 社内ポータル・SNSのTUNAG