企業買収とは?M&Aとの違いやメリット・リスク・成功のポイントを解説

企業買収は、他社を取り込み経営権を獲得する重要な経営戦略の一つです。M&Aや企業合併との違いを理解することで、目的や効果を正しく把握できます。本記事では、企業買収のメリット・リスクや代表的な手法、成功のポイントを解説します。

企業買収とは?

企業買収と似た用語としてM&Aや企業合併がありますが、それぞれの意味や手法には明確な違いがあります。企業買収の基本的な定義から整理し、混同されやすい概念との違いを明らかにすることで、経営戦略における位置づけが理解できるでしょう。

ここでは、企業買収の定義と関連用語との違いを詳しく見ていきます。

企業買収の定義

企業買収とは、他社の株式や事業を取得して経営権を確保し、自社の成長戦略に組み込む手段です。M&Aの一形態であり、株式取得による支配や事業譲渡など複数のスキームが存在し、M&Aの中でも特に経営権の移転を伴う手法として位置づけられます。

企業買収により、技術・人材・販路といった経営資源を一挙に取り込み、競争優位性の強化や市場拡大を図ることが可能です。一方で、簿外債務や統合後の組織摩擦などのリスクが伴うため、デューデリジェンスとPMI(統合プロセス)の徹底が成否を左右します。

企業買収とM&Aの違い

M&Aは「Mergers & Acquisitions(合併と買収)」を意味し、買収だけでなく合併や資本・業務提携も含む広い概念を指します。つまり、企業買収はM&Aの中の一つの手段であり、M&Aという大きな枠組みの一部として位置づけられる言葉です。

M&Aという枠組みの中で、企業買収は主に経営支配を目的とするケースが多くみられます。市場拡大やシナジー創出といった効果を狙い、対象企業の経営権を握ることで自社の戦略に組み込むのが特徴です。そのため、両者を混同せずに理解することが、適切な経営戦略を描く第一歩となります。

企業買収と企業合併の違い

企業の再編には合併と買収があります。合併は複数の会社を一つにまとめる方法で、一方または両方の法人格が消滅し、契約や資産・負債は新しい会社や存続会社にすべて引き継がれます。

これに対し、企業買収は相手企業の株式や事業を取得して経営権を握る手法です。特に株式取得を用いた買収では、買収された企業が法人格を維持したまま子会社として存続するケースが一般的です。

つまり、合併は法的統合を伴う「一体化」、買収は支配関係を通じた「支配の移転」という違いがあります。経営層としては、税務面や労務面への影響も含めて、どちらの手法が自社の戦略に適しているかを慎重に判断する必要があるでしょう。

企業買収の目的とメリット・リスク

企業買収により得られるメリットは大きい一方で、統合の難しさやリスクも伴います。ここからは、企業買収の目的とともに、メリットとリスクを整理して解説します。

企業買収の目的

企業買収は、技術力・ブランド力・販路・人的資産を即座に獲得し、自社の戦略的ギャップを埋める有力な手段です。また、買収対象の既存事業や組織を活用することで、新規事業への迅速な参入や事業スピードの加速を実現し、成長軌道の短期化を図れます。

加えて、統合によるスケールメリットやコスト効率の改善を通じたシナジー効果、および長期的な財務リターンの獲得を見込んだ投資としての側面も重要です。

企業買収のメリット

企業買収は、既存の成長戦略を加速させると同時に、新規市場参入や事業多角化を実現する有効な手段です。対象企業の技術・ブランド・販路・人的資源を即時に取り込むことで、研究開発や市場開拓に要する時間とコストを大幅に削減できます。

また、水平型の買収による市場シェア拡大や、垂直型の買収によるバリューチェーン強化は、規模の経済や範囲の経済を通じて収益性を高めます。さらに、シナジー効果を最大化することで、競争優位の確立と企業価値の向上も期待できるでしょう。

企業買収のリスク

企業買収には、デューデリジェンスで見落とされた簿外債務や偶発債務を引き継ぐリスクがあります。また、想定したシナジー効果を得られず、統合コストだけが膨らむケースもしばしば見られます。

さらに、買収後のPMIの失敗によって買収された企業の従業員が強い不安や不満を抱き、優秀な人材の離職や組織摩擦が起こることで、買収効果が損なわれるケースにも注意が必要です。加えて、期待通りの利益成長が得られない「M&A失敗」の可能性にも常に備える必要があります。

企業買収の手法

企業買収には、目的や状況に応じてさまざまな手法が存在します。代表的な買収手法の概要と、それぞれの違いについて整理します。

代表的な買収手法

企業買収の代表的な手法としては、株式取得・事業譲渡・会社分割の3つが挙げられます。

株式取得

株式取得や増資引受を通じて経営権を掌握する方法。最も一般的なスキーム。

事業譲渡

対象企業の特定事業や資産のみを承継する方法。不要なリスクを切り離せる。

会社分割

吸収分割・新設分割で事業を切り出して承継させる方法。再編や整理に活用される。

これらの選択肢は、税務・法務・PMI戦略の設計によって成否が左右されるため、慎重な設計と実行が求められます。

友好的買収と敵対的買収の違い

企業買収のスタンスを分類すると、大きく友好的買収と敵対的買収に分けられます。

友好的買収

買収される企業の経営陣や株主と合意したうえで進められる買収。事前調整と協力があり、統合の円滑性や協働によるシナジーが期待される。

敵対的買収

対象企業の同意を得ず、TOB(株式公開買付け)などを通じて支配権の獲得を目指す買収。防衛策や反発リスクが強く、交渉が困難になる可能性がある。

買収の進め方によって、その後のPMIやガバナンスの戦略が大きく変わるため、どちらのアプローチを取るかは慎重な検討が不可欠です。

企業買収のプロセスと成功のポイント

企業買収は、検討から実行まで複数のステップを踏む複雑なプロセスです。適切な手続きを理解し、必要となる費用の目安を把握することは、買収を成功に導くための前提条件となります。企業買収の流れと費用、成功のポイントを見ていきましょう。

企業買収の手続きの流れ

企業買収は一般的に次の段階を踏んで進められます。

  1. 戦略立案:買収の目的や方針を明確化する
  2. 候補探索:対象企業を探し、マッチングを行う
  3. トップ面談・基本合意:経営者同士の面談を経て基本合意書を締結する
  4. デューデリジェンス:財務・法務・税務など詳細調査を実施する
  5. 最終契約の締結:条件を調整し、正式に契約を結ぶ
  6. クロージング:買収を実行する
  7. PMI(統合プロセス):組織・業務・システムの統合を進め、シナジー効果を実現する

一連の流れを押さえることで、スムーズかつ確実に買収を進められます。

企業買収に必要な費用

企業買収では、買収対価に加えて次のような費用が発生します。

  • デューデリジェンス費用:財務・法務・税務などの調査を専門家に依頼する費用
  • M&Aアドバイザリー手数料・仲介手数料:取引支援やマッチングにかかる手数料
  • 法務・契約関連の専門家費用:弁護士や司法書士などによる契約書作成・手続きサポート費用
  • ファイナンス関連費用:買収資金の調達に伴う融資手数料、アレンジメントフィー、金利負担など
  • 税務関連費用:買収スキームに応じた税務申告や最適化に必要な費用

これらの費用を事前に把握することで、無理のない資金計画を立てやすくなります。

企業買収の成功のポイント

企業買収の成否は、徹底したデューデリジェンスによるリスクの把握と、戦略目的の明確化にかかっています。対象企業の選定では自社の成長シナリオとの整合性を重視し、交渉過程では双方の利害を調整しながら条件を精緻化することが重要です。

買収後は、PMIの事前設計や組織文化の統合を丁寧に進め、シナジーを計画的に実現することが求められます。特に、従業員に対して今後のビジョンや処遇について真摯な対話を重ね、不安を払拭することは極めて重要です。こうしたステークホルダーとの信頼構築が、持続的な成功の鍵を握ります。

企業買収の全体像を理解し戦略的に活用しよう

企業買収は、成長や競争力強化のために有効な経営戦略であり、M&Aの中でも重要な手法の一つです。目的やメリットを正しく理解すると同時に、リスクや費用、手続きの流れを把握することが成功の前提となります。

さらに、統合プロセスを計画的に進め、ステークホルダーとの信頼関係を築くことで、買収による効果を最大化できます。企業買収を全体像から捉え、戦略的に活用することが、持続的な成長につながるのです。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
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