2025年の崖でIT人材不足が加速。企業がすべき人材面の対策を解説
経済産業省が警鐘を鳴らす2025年の崖では、IT人材が最大約43万人不足すると指摘されています。2025年の崖とIT人材不足の関係を理解し、今のうちから具体的な取り組みを始めることが重要です。DX推進を阻む諸問題や企業がすべき人材面の対策を解説します。
2025年の崖の基礎知識
2025年の崖という言葉が初めて登場したのは、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」です。DXレポートでは、企業のDXに関する現状・課題・対策がまとめられています。
2025年の崖とはどのようなことなのか、2025年問題との違いと併せて解説します。
2025年の崖とは
経済産業省はDXレポートにおいて、多くの日本企業でDXが推進されない場合、2025年以降最大で年12兆円の経済損失が生じるとしています。この問題を表現しているのが2025年の崖という言葉です。
2025年の崖では、次の3つを課題として挙げています。
- 経営面:レガシーシステムのブラックボックス化や複雑化
- 人材面:IT人材不足の深刻化
- 技術面:急速なデジタル化への対応
2025年の崖に対処するためには、上記の課題を克服することが重要であり、課題の克服に取り組まない企業はデジタル競争の敗者になるとしています。
2025年問題との違い
2025年の崖と一緒に取り上げられることの多いテーマが2025年問題です。2025年以降、超高齢化が社会にさまざまな影響を及ぼすことを指しています。
「令和6年版高齢社会白書」によると、2025年に団塊の世代が全員75歳以上になり、後期高齢者の人口は約2,180万人に達します。国民の約5人に1人が75歳以上になる計算です。
少子化による労働人口の減少も相まって、2025年問題では主に以下のような問題が発生します。
- 現役世代の社会保険料負担が増す
- 医療・介護の体制維持が困難になる
- 労働力不足に拍車がかかる
- 後継者不足による廃業が続出する
2025年の崖が日本企業のDX推進に関することであるのに対し、2025年問題は高齢化による社会の諸問題です。どちらも今後の日本に警鐘を鳴らしている点では共通しています。
出典:令和6年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況 P4 | 内閣府
2025年の崖でIT人材はどうなる?
2025年の崖で指摘されている人材面での課題が、IT人材不足の加速です。DXレポートでは具体的にどのようなことを問題としているのでしょうか。
最大約43万人が不足するといわれている
DXレポートによると、2025年にはIT人材不足が約43万人まで拡大すると予測しています。実際に、労働人口の不足による人材の不足と、AIをはじめとするIT領域での需要の差は、格差が開く一方です。
DX推進に取り組もうと思っても、人材を確保できなければDXはスムーズに進まないでしょう。システム面の改善と並行して、企業は人材の確保・育成にも力を入れる必要があります。
また、古いシステムを動かせる人材が減ってきている点もポイントです。時代遅れのシステムを放置していると、人材難の影響をより強く受けてしまうことになります。
将来的にはIT人材の需要も変化する
2025年の崖に向けて人材対策に取り組むなら、IT人材の需要の変化にも注意する必要があります。今後需要が伸びるとされているのは、市場の拡大が予想されるビッグデータ・IoT・AI分野の人材です。
経済産業省の試算によると、ビッグデータ・IoT・AI分野のいずれにおいても、今後は人材不足が拡大するとしています。人材不足の解消が市場のさらなる成長を促進すると指摘している点もポイントです。
また、産業界全体で重要な役割を担うことが期待されている情報セキュリティ人材も、今後の人材不足の拡大が予想されています。
出典:参考資料(IT人材育成の状況等について)P6 | 経済産業省 商務情報政策局情報処理振興課
2025年問題もIT人材不足の加速に関係する
2025年問題は後期高齢者の増加が社会に与える諸問題ですが、同時に少子化の進行が社会に及ぼす影響も指摘しています。
「令和6年版高齢社会白書」によると、15歳以上64歳未満の生産年齢人口の推移予測は、今後も減少傾向です。1995年の約8,716万人をピークに、2025年には約7,170万人、2065年には約4,529万人にまで減ると推計しています。
今後はあらゆる業界で労働力が不足し、人材競争が激化するでしょう。IT業界も例外ではなく、IT人材不足の深刻化には2025年問題も少なくない影響を与えることが予想されます。
出典:令和6年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況 P4 | 内閣府
2025年の崖が示すその他の問題
2025年の崖で指摘している問題は、経営面・人材面・技術面の3方面に及びます。IT人材不足の加速以外にどのようなことが懸念されているのか、経営面と技術面の問題について詳しく見ていきましょう。
レガシーシステムのブラックボックス化
レガシーシステムとは、長期間使い続けて老朽化した基幹システムのことです。DXレポートによると、使用期間が21年以上経過した基幹システムは、2025年に全体の6割を超えるとしています。
レガシーシステムが企業に及ぼす主なデメリットは次の通りです。
- 部分的なカスタマイズを繰り返し複雑化している
- 単独業務にしか対応していないケースが多い
- 保守運用の担い手不足によりシステムトラブルやデータ滅失のリスクが高い
- 維持管理費が高額化しIT予算を圧迫する
DXではレガシーシステムの刷新を求められますが、そのためには業務自体の根本的な見直しが不可欠です。経営層の理解不足や現場の抵抗により、システム刷新が困難になっている企業が多いのが実情です。
IT市場の急速なデジタル化
DXレポートによると、従来型ITサービス市場とデジタル市場の割合は、2017年の9:1から2025年には6:4になるとしています。
デジタル市場とは、取引に関する機能が高度にデジタル化された市場のことです。デジタル市場に参入すれば、さまざまなサービスや活動を実現しやすくなります。
ただし、デジタル市場では膨大なデータを扱わなければならず、DXを推進しなければ市場のデジタル化にはついていけないでしょう。
また、5Gの実用化やAIの一般利用の進展、紙からデジタルへの対応など、さまざまな領域で技術は進化しています。これらに対応するためにはDXの推進が必須です。
2025年の崖で生じるリスク
DXレポートでは、2025年の崖でユーザーとベンダーのそれぞれに生じるリスクも指摘しています。課題を放置することによる主なリスクについて解説します。
ユーザー側のリスク
市場のデジタル化に対応するためには、膨大なデータを扱う必要があります。DX推進に取り組まなければ膨大なデータを扱えず、市場における優位性を確保できないでしょう。
また、短期的な観点でシステムを開発すると、長期的には保守費や運用費が高騰しやすくなります。技術的負債が多くなり、業務基盤そのものの維持・継承が困難になる恐れがあるのです。
サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失・流出などのリスクの高まりにも注意が必要です。社会的信用の失墜につながれば、企業の存続も左右しかねません。
ベンダー側のリスク
ベンダーとは、製品やサービスをユーザーに販売する事業者のことです。DX推進に取り組まないユーザーが多いと、ベンダーにもリスクが生じます。
ベンダーはDX推進の中心的な役割を担っており、市場のデジタル化に対応するために新たなサービスを開発していく使命を負っています。
しかし、レガシーシステムが多い現状では、古いシステムの保守・運用に多くのリソースを割いているのが実情です。最先端のデジタル技術を担う人材を確保できなくなっており、業界全体の発展を阻む大きな原因になっています。
IT人材不足に対する国の対策
2025年の崖で指摘されているIT人材不足の深刻化を受け、国もさまざまな取り組みを進めています。IT人材不足に対する国の主な対策を確認しましょう。
小学校におけるプログラミング教育の必修化
公立小学校では、2020年度からプログラミング教育が必修科目になりました。パソコン・タブレット・情報通信ネットワークなどのICT環境は、学校側で整備されています。
プログラミング教育の対象は全学年ですが、具体的な授業内容は決められていません。スタートの時期や学習内容については、学校側が自由に決められるようになっています。
IT人材の育成を目指す施策の促進
国は社会のデジタル化を促進する目的で「デジタル田園都市国家構想」という施策を進めており、2026年度までにIT人材の230万人育成を目指しています。
デジタル人材の育成・確保に向けた具体的な取り組みは次の通りです。
- 幅広い教育コンテンツを提供するプラットフォームの構築
- 職業訓練におけるデジタル分野の重点化
- 大学・高等専門学校・専門学校でのデジタル人材の育成
2025年の崖に向けた人材戦略
IT人材不足の加速に対応するために、企業としてどのような対策を講じればよいのでしょうか。2025年の崖に向けた企業の人材戦略について解説します。
経営層の意識を変える
DXは単なる技術の導入ではなく、企業の変革です。制度・権限・風土など、組織の根幹にかかわる部分を継続的に変えていかなければなりません。
DX推進には経営層の意識改革が不可欠です。IT担当者にDX推進の指示を出したら終わりではなく、経営層が率先して改革を先導する必要があります。
経営層が先頭に立ってDXを進めていけば、組織全体の意識が変わり、人材確保に向けた施策も進めやすくなるでしょう。
多様な人材を活用する
IT人材不足を解消するためには、人材のダイバーシティ化を推進し、多様な人材の受け入れ体制を整えることも重要です。ダイバーシティとは、性別・人種・年齢・価値観など、多様な属性の人が共存している状態のことを指します。
ダイバーシティ化を推進すれば、今までの組織では生じ得なかった意見が生まれるため、イノベーションも創出されやすくなります。誰もが職場で受け入れられる雰囲気が醸成され、定着率の向上も期待できるでしょう。
従業員エンゲージメントの向上を図る
従業員エンゲージメントとは、組織や仕事に対して従業員が抱く愛着や貢献意欲のことです。従業員エンゲージメントが高い状態だと、業務への意欲が高まり、生産性の向上につながります。定着率が向上するため人材確保を図れることもメリットです。
2025年の崖に向けた人材戦略として従業員エンゲージメントの向上を目指すなら、エンゲージメント向上プラットフォーム「TUNAG」の導入を検討しましょう。
チャットやサンクスカードなど豊富な機能を活用すれば、社内交流の活性化に効果を発揮します。社内コミュニケーションの活性化が促進されれば、従業員のモチベーションアップを図れるほか、定着率の向上も期待できるでしょう。
詳細:TUNAG導入事例一覧
2025年の崖によるIT人材不足に対応しよう
DXレポートに登場する2025年の崖では、将来的なIT人材不足の加速を指摘しています。DX推進に取り組むためには、IT人材の確保に向けた施策の立案が不可欠です。
2025年の崖が警鐘を鳴らすリスクや企業におけるDX推進の重要性を理解し、今のうちから人材対策を講じておきましょう。