自己効力感とは?自己肯定感との違いや高めるために企業ができる方法

従業員が自信を持って業務に取り組むことは、企業の成長に直結します。その鍵となるのが「自己効力感」です。自己効力感が高いと、困難な課題にも前向きに挑戦でき、継続的な成長が期待できます。しかし、自己肯定感や自尊心との違いが分かりにくく、どのように高めればよいのか悩む企業も多いのではないでしょうか。本記事では、自己効力感の基本概念や形成要素を解説し、企業が従業員の自己効力感を向上させる具体的な方法を紹介します。

自己効力感の概要

従業員の成長を促し、組織全体の生産性を高めるために重要なのが「自己効力感」です。単なる自信とは異なり、自己効力感が高い人は困難な課題にも前向きに取り組み、継続的に努力を重ねる傾向があります。

まずは、自己効力感の基本概念や形成要因、そして企業が実践できる具体的な向上策を解説します。従業員のモチベーションを高め、組織の活性化を図るためのヒントにしてみてください。

自己効力感とは

自己効力感(セルフ・エフィカシー)とは「自分はある課題を遂行できる」という信念を指します。この概念は心理学者アルバート・バンデューラによって提唱され、人の行動や成果に大きな影響を与える要素とされています。

自己効力感が高い人は困難な状況でも「やればできる」と考え、主体的に行動できるのに対し、低い人は挑戦を避けがちです。企業においても、従業員の自己効力感を高めることが生産性向上や従業員満足度の向上につながるため、重要な要素といえます。

自己効力感は、単なる「自信」とは異なり、具体的な課題や状況に対しての信念である点が特徴です。企業は従業員の自己効力感を高める仕組みを整えることで、より強い組織を築くことができるでしょう。

自己肯定感や自尊心との違い

自己効力感は自己肯定感や自尊心とは異なります。

自己肯定感は「自分の存在そのものに価値がある」という感覚を指し、自己効力感が特定の行動に関する信念なのに対し、より広範囲の自己評価を含みます。

一方で、自尊心は「他者と比較した際の自分の価値」に焦点を当てた概念であり、社会的な評価に影響されやすい特徴があります。

例えば、ある従業員が「自分は有能なエンジニアだ」と思うのは自己肯定感に関するものですが、「新しい技術を学べば必ず習得できる」と思うのは自己効力感の表れです。

自己肯定感が低くても、特定のスキルに対する自己効力感は高いというケースもあり、これらの概念は独立しつつも相互に影響を及ぼします。

企業は、自己効力感を高める取り組みを通じて、結果的に自己肯定感や自尊心の向上にもつなげることができます。

自己効力感の3つのタイプ

自己効力感は、個人が自分の能力をどのように捉え、困難な状況に対処できると信じるかを示す心理的な概念です。これには主に以下の3タイプがあり、それぞれ異なる場面で発揮されます。

タイプ

概要

特徴・具体例

自己統制的自己効力感

自分の行動をコントロールし、どのような状況でも適切に対処できると考える能力

新しい仕事や前例のない問題にも「自分ならできる」と前向きに取り組む

一般的に「自己効力感」という場合、このタイプを指すことが多い

社会的自己効力感

人間関係の中での自己効力感

幼少期から発達し、大人になっても持続する

他者の気持ちに共感し、良好な関係を築ける

周囲から敬遠される人とも「自分ならうまく付き合える」と考える

学業的自己効力感

学びや学習に対する自己効力感

これまでの学習経験による達成感から育まれる

資格取得や難関試験の成功経験が自己効力感を高める

社会に出ても新たなスキル習得に積極的に取り組む

このように、自己効力感のタイプによって発揮される場面が異なり、それぞれが個人の成長や社会適応に大きな影響を与えます。

自己効力感を理解し、適切に伸ばすことで、従業員はより充実した生活やキャリアを築くことが可能になるでしょう。

自己効力感が高い人の特徴

自己効力感が高い人には、いくつかの共通した思考パターンや行動特性が見られます。

特徴

思考パターン

困難な課題を「成長の機会」と捉える - 失敗しても「改善すれば次は成功できる」と考える - 他人の成功を見て「自分にもできる」と感じる

行動特性

新しいことに積極的に挑戦する - 継続的な学習やスキル向上を意識する - 目標に対して計画的に行動し、途中で諦めない

例えば、営業職の従業員で自己効力感が高い人は、断られても「この経験を次に生かせる」と考え、改善策を模索します。一方で、自己効力感が低い人は「自分には営業の才能がない」と思い込み、努力を避ける傾向があります。

企業が従業員の自己効力感を高めることで、チャレンジ精神が促され、結果として生産性やモチベーションの向上につながります。特に、成功体験を積ませることや、周囲の支援を強化することで、従業員の自己効力感を育む環境を整えることが重要です。

自己効力感を形成する4つの要素

自己効力感は、単なる自信とは異なり、いくつかの要素によって形成されます。自己効力感を形成する代表的な四つの要素について詳しく紹介します。

過去の成功体験

自己効力感を高める最も強力な要素は、「過去の成功体験」です。人は一度成功を経験すると、「またできる」という自信を持ちやすくなります。

例えば、営業担当者が初めて大口契約を獲得した経験を持つと、それ以降も「交渉を成功させる力がある」と確信し、新しい商談にも前向きに取り組めます。

さらに、成功を適切に評価し、表彰制度や社内フィードバックを活用することで、従業員のモチベーションを継続的に高めることが可能です。

代理体験

「代理体験」とは、他者の成功を観察することで、「自分にもできるかもしれない」と感じることです。

これは特に、同じ環境や条件下にいる人の成功を見ると、より強い影響を受ける傾向があります。同僚が難しいプロジェクトを成功させた姿を見れば、「自分にもチャンスがある」と考えやすくなります。

そのためにも、チーム内で成功事例を共有する場を設け、成功プロセスを可視化することも検討しましょう。従業員の自己効力感を向上させる手段となります。

言語的説得

言語的説得とは、周囲からの励ましや肯定的なフィードバックによって、自己効力感が高まる要因の一つです。上司や同僚から「あなたならできる」「前回の成果も素晴らしかった」といった言葉をかけられることで、自信を持ちやすくなります。

ただし、説得の内容が具体的でないと効果が薄れるため、適切なフィードバックの仕方が重要になります。

適切なフィードバックのためには、1on1ミーティングを定期的に実施することやメンター制度の導入が効果的です。従業員の成長を継続的にサポートする仕組みをつくることで、自己効力感の向上につなげることができます。

生理的・情緒的喚起

自己効力感は、心理的・身体的な状態にも大きく左右されます。例えば、強いストレスを感じていたり、極度の疲労状態にあったりすると、自己効力感は低下しやすくなります。一方、心身が健康でリラックスしている状態では、「やればできる」という気持ちになりやすくなります。

企業では、ストレス管理や健康維持の取り組みを進めることが重要です

また、適度な運動習慣を促す施策や、リラックスできる休憩スペースの設置も、従業員の心身の健康を維持するのに役立ちます。

フレックスタイム制やリモートワークの導入などもおすすめです。柔軟な働き方を提供することで、ストレスの軽減と自己効力感の向上を両立させることができます。

従業員の自己効力感を高める効果的な方法

自己効力感を高めるためには、実際の職場でどのような取り組みができるのかを考える必要があります。以下では、スモールステップを活用した成功体験の積み重ね、身近なロールモデルの観察、称賛文化の醸成、ストレスの少ない環境づくりといった具体的な手法を紹介します。

小さな成功体験を積んでもらう

自己効力感を高める最も基本的な方法は、「小さな成功体験」を積ませることです。人は、達成可能な目標をクリアすることで、「やればできる」という感覚を強め、自信を持つようになります。

この「スモールステップ」の考え方は、特に未経験の業務や新しいチャレンジに直面した際に効果的です。

例えば、新入社員にはいきなり大きなプロジェクトを任せるのではなく、まずは小さな業務から経験させ、少しずつ難易度を上げる形でステップアップさせるとよいでしょう。

また、営業職であれば、最初は顧客とのあいさつや簡単なプレゼンを担当し、徐々に商談やクロージングに関与させることで、成功体験を積ませることができます。

身近なロールモデルを観察させる

自己効力感は、身近な成功事例を観察することで向上します。特に、同じ職場で活躍している先輩やリーダーの仕事ぶりを見ることで、「自分もできるはずだ」という感覚を得やすくなります。このような「ロールモデル」の存在は、新入社員や若手社員にとって大きな影響を与える要素となります。

さらに、「成功した社員に直接アドバイスをもらう機会」を提供することで、より実践的な学びを得られます。研修や社内勉強会を活用して成功のプロセスを可視化することで、より効果的に自己効力感を向上させることができます。

称賛文化を醸成する

自己効力感を向上させるには、「適切な称賛」が欠かせません。特に、成果を認められることで「自分はできる」という感覚が強まり、次の挑戦への意欲が高まります。しかし、称賛の仕方によっては逆効果になることもあるため、効果的なフィードバックを意識する必要があります。

効果的な称賛のポイントは、以下の三つです。

  • 具体的な行動を評価する
  • 成長の過程を認める
  • パブリックな場での称賛を活用する

また、フィードバックの仕組みを社内文化として根付かせることも重要です。例えば、月に一度の「称賛ミーティング」を設け、チームメンバーが互いに感謝や称賛を伝える場をつくったり、サンクスカードや社内ポイント制度などで、称賛を可視化する仕組みをつくってもよいでしょう。

上司だけでなく同僚からも称賛を受ける仕組みを整えることで、自己効力感の向上を促すことができます。

ストレスがたまりにくい環境を整える

自己効力感は、心理的・身体的な状態にも影響を受けます。過度なストレスや疲労が蓄積すると、「自分はできない」というネガティブな思考に陥りやすくなるため、企業は従業員が働きやすい環境を整えることが求められます。さらに、ストレスマネジメントの研修を実施することで、自己効力感の維持をサポートすることが可能です。

例えば、マインドフルネスやストレス対処法に関するセミナーを定期的に開催することで、従業員が自己管理能力を高め、ポジティブな思考を維持できるようになります。

また、チーム内での心理的安全性を確保することも重要です。上司や同僚に相談しやすい環境を整えることで、「困ったときに助けを求められる」という安心感が生まれ、自己効力感の低下を防ぐことができます。

上司は「相談しやすい雰囲気」を意識し、部下の話をしっかりと聞く姿勢を持つことが求められます。

自己効力感が高まりやすい職場づくりを

自己効力感を高めるためには、一人一人の成長を支援するだけでなく、それを促進する職場環境を整えることが不可欠です。

企業文化として、従業員が安心して挑戦し、失敗を成長の機会と捉えられる風土を醸成することが求められます。

そのためには、スモールステップを取り入れた目標設定や、ロールモデルの活用、適切な称賛とフィードバックの仕組みを整えることが重要です。

また、心理的安全性を確保し、上司や同僚との信頼関係を築くことで、従業員が自らの能力を最大限に発揮できる環境を提供することができます。

企業がこれらの取り組みを継続的に行うことで、従業員の主体性や意欲が高まり、組織全体の生産性向上やイノベーション創出につながる職場づくりが実現できるでしょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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