中小企業M&Aとは?目的やメリット、成功させるためのポイントを解説

近年、中小企業のM&Aは件数が増加し、事業承継や成長戦略の手段として一般化してきました。その背景には、経営者の高齢化や人材不足といった社会背景が存在します。本記事では、中小企業M&Aの意義・メリットや基本的な流れを整理し、成功に向けた視点を紹介します。

中小企業M&Aとは?現状と背景

中小企業のM&Aは経営課題への対応策として重要性を増しています。まずは、中小企業M&Aの現状と背景を見ていきましょう。

中小企業のM&A件数・成約件数の推移

近年、日本のM&A件数は右肩上がりで増加しており、2024年には4,700件規模に達しています。

特に、中小企業のM&Aは事業承継を背景に成約件数が急速に伸びており、事業承継・引継ぎ支援センターを通じた成約は2015年度の約200件から2024年度には2,000件を超える水準まで拡大しました。

こうした動向は、経営者の高齢化や後継者不在といった社会課題に対応する手段として、中小企業M&Aが広く浸透してきたことを示しています。

出典:2025年版 中小企業白書(HTML版) 第3節 スケールアップに向けた投資行動と海外展開 | 中小企業庁

出典:令和6年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について 「第三者承継(M&A)の成約件数が過去最高を更新」

高齢化・後継者不在という社会的背景

日本の中小企業においては、経営者の高齢化と後継者不在が深刻な構造的課題として浮上しています。帝国データバンクの調査によれば、後継者がいない・候補がいないと回答する中小企業の割合は極めて高く、将来的に自社を廃業する可能性を示す経営者も少なくありません。

また、人口の高齢化や少子化が進行する中で、職人や創業者が引退することで企業が存続の危機に直面するケースも増えており、こうした背景が、「廃業リスクの回避」「雇用の維持」「地域の事業資産の継承」を目的とした中小企業M&Aの増加を後押ししていると考えられます。

出典:全国「後継者不在率」動向調査(2024年)|株式会社 帝国データバンク[TDB]

中小企業M&Aの目的とメリット

中小企業のM&Aは、売り手と買い手の双方にとって経営課題を解決する有力な手段となっています。立場によって目的は異なりますが、いずれも企業の存続と発展につながる点が大きな魅力です。売り手・買い手それぞれの視点から目的とメリットを整理します。

売り手側の目的・メリット

中小企業の売り手(譲渡側)がM&Aを選ぶ主な目的としては、後継者不在の解決や事業承継によって廃業を回避し、会社を存続させる点が挙げられます。

また、株式や事業の譲渡を通じて創業者利潤を確保し、引退後の豊かな生活設計や、新たな事業への挑戦資金とすることも可能です。

さらに、従業員の雇用や取引先との関係を維持し、地域経済への貢献を続けることは、経営者がこれまで培ってきた企業の価値を守り、社会的責任を全うする上で重要な選択肢となります。

買い手側の目的・メリット

買い手側にとって中小企業M&Aの大きな魅力は、既存の事業や販路・顧客基盤を一気に取り込めることです。ゼロからの立ち上げでは時間とコストがかかる新規事業や販路拡大を、M&Aを通じてスピーディーに実現できます。

また、技術・ノウハウ・人材の獲得によって、事業や生産体制の強化や多角化が可能になり、競争力の向上やリスク分散も期待されます。さらに、シナジー効果による既存事業との統合や効率化を通じ、収益性の改善や成長の加速が見込める点もメリットです。

これらは中小企業のM&Aにおける買い手企業の戦略的な投資先としての魅力を示しています。

ただし、これらのメリットを最大限に享受するためには、買収後の統合プロセス(PMI)を計画的かつ丁寧に進め、組織文化や業務の融合を成功させることが不可欠です。

主要なM&A手法とその特徴

中小企業M&Aには複数の手法があり、特徴や適用場面がそれぞれ異なります。主要な方法と特徴を確認しましょう。

株式譲渡

株式譲渡とは、売り手が保有する株式を買い手に譲り渡すことで、会社の経営権を移転させるM&A手法です。中小企業M&Aでは利用しやすいため、最も一般的なスキームとして広く採用されています。

譲受企業が過半数の株式を取得すれば支配権を獲得でき、3分の2以上を保有すれば特別決議も可能になります。株式譲渡には手続きが比較的簡易であるというメリットがありますが、譲渡制限の確認や簿外債務のリスク確認など、慎重な準備が必要です。

事業譲渡

事業譲渡とは、企業が営む事業の全部または一部を第三者に売却・移転するM&A手法です。譲渡対象には工場・設備・知的財産・契約、それらに関連する従業員や販売活動などが含まれ、移す資産や負債を選択できます。

売り手は不要な事業や不採算部門を切り離しつつ、譲渡後の法人を残して他事業を続けられるため、再編にも活用することが可能です。一方で買い手は、取得したい事業だけを選んで引き受けられることから、簿外債務や未払労務リスクを避けながら効率的に事業を取り込めるメリットがあります。

ただし、債権者対応や契約の名義変更、従業員の雇用承継などの手続きが個別に必要となり、株主総会の承認や契約の再調整などが必要です。

会社分割

会社分割とは、企業が特定の事業や部門を切り出し、新しい法人に移したり既存の別法人に吸収させたりすることで事業承継や再編を図るM&Aスキームです。

主に「新設分割」と「吸収分割」の2種類があり、分社化や子会社化によって事業構造を整理できる点が大きな特徴です。中小企業では、不採算事業を切り離したり成長分野に経営資源を集中したりするための戦略として用いられることが多く、雇用の承継を維持しながらリスクの分散を図れます。

一方で、債務や不要な資産の引継ぎリスクや税務・許認可の再取得といった課題もあるため、専門的な検討と準備が不可欠です。

株式交換・株式移転

株式交換と株式移転は、いずれも企業グループの再編やホールディングス化、経営統合を目的としたM&A手法です。

株式交換では、買い手企業が売り手企業の全株式を取得し、その対価として自社の株式を売り手の株主に交付します。売り手企業は完全子会社となり、法人格を維持することが可能です。

株式移転では、既存の複数の会社がその発行済株式を新たに設立した持株会社に移転し、持株会社が完全親会社として各企業を傘下に収める形になります。

これらの方式は、キャッシュアウトを抑えた買収手段として活用することが可能です。経営統合の柔軟性を保持しつつ、組織再編後の統合戦略を描きやすい点が評価されますが、一方で法的・税務的手続きや債権者保護、少数株主への配慮について慎重な検討を求められます。

M&Aの基本プロセス

中小企業のM&Aは、準備からクロージングまで複数の段階を経て進められます。売り手と買い手では注力すべきポイントが異なるため、それぞれの流れを理解することが重要です。

売り手側のプロセス

中小企業が売り手としてM&Aを進める際の主な流れは以下のとおりです。

  1. 売却ニーズの整理:事業承継や資金回収など目的を明確化する
  2. 専門家への相談:仲介会社やアドバイザーに依頼し、準備を進める
  3. 候補先とのマッチング:秘密保持契約(NDA)を締結し、企業概要書(IM)を提示する
  4. トップ面談・基本合意:経営者同士の面談を経て基本合意書(LOI)を取り交わす
  5. デューデリジェンス対応:買い手による財務・法務・人事などの調査を受ける
  6. 最終契約の締結:条件を確定し、株式譲渡契約などを締結する
  7. クロージング:株式や資産の引渡し、対価の授受、登記変更を完了する

売却プロセスは長期化することも多いため、計画的な準備と外部専門家の支援が成功の鍵となります。

買い手側のプロセス

中小企業が買い手としてM&Aを進める際の主な流れは以下のとおりです。

  1. 目的と方針の整理:成長戦略や新規事業進出など、M&Aの目的を明確にする
  2. 候補企業の探索:仲介会社やマッチングサービスを利用して対象企業を探す
  3. 秘密保持契約(NDA)の締結:売り手と契約を結び、企業概要や資料の提供を受ける
  4. 意向表明・基本合意:買収条件を提示し、基本合意書を取り交わす
  5. デューデリジェンスの実施:財務・法務・人事などの詳細調査を行い、リスクを確認する
  6. 最終契約の締結:調査結果を踏まえて条件を確定し、売買契約を結ぶ
  7. クロージングと統合準備:代金の支払い、株式や事業の移転、統合作業(PMI)を進める

買い手側は、調査や契約交渉の過程でリスクを適切に把握し、統合後の運営を見据えた準備を進める必要があります。

中小企業M&Aを成功させるためのポイント

M&Aを円滑に進めるには、売り手・買い手双方が計画的に動き、外部の専門家や仲介機関を有効に活用することが重要です。また、マッチングの精度を高めることで、取引後の円滑な統合や企業の成長にもつながります。

専門家・仲介機関の活用

中小企業のM&Aでは、仲介会社やアドバイザーなど専門家の支援を受けるのがおすすめです。マッチングや企業価値評価、交渉支援などを担い、手続きを円滑に進めてくれます。

また、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録された機関を利用すれば、補助金の申請対象となるほか、手続きの透明性確保などのメリットも期待できます。

出典:M&A支援機関登録制度

計画的な準備と事前評価の実施

M&Aを成功させるには、適正な売却価格の見極めと明確な戦略設計が重要です。企業価値や将来キャッシュフローなどを基に売却価格を評価したうえで、適切な価格帯を設定する必要があります。

事業の強み・弱みや後継者の有無、雇用維持の方針などを踏まえたM&A戦略を策定し、売却のタイミングや条件、譲渡後の働き方などをあらかじめ明確にしておくことも大切です。

マッチング精度の向上と関係構築

中小企業のM&Aでは、単に条件面が合致する相手を探すだけでなく、利害関係者への影響を踏まえたマッチングが欠かせません。従業員・取引先・地域社会などへの波及効果を事前に検討し、スムーズな承継につながる候補を選定することが重要です。

また、譲受企業に対しては早期から情報を共有し、双方の期待や課題を明確にして信頼関係を築くことが求められます。丁寧な対応をとることで、単なる条件交渉にとどまらず、成約後の統合プロセス(PMI)を見据えた実効性の高いM&Aを期待できます。

中小企業M&Aは準備と戦略的判断が成功の鍵

中小企業M&Aは、事業承継や成長戦略を実現する上で極めて有効な手段ですが、交渉が不調に終わったり、期待したシナジー効果が得られなかったりするリスクも伴います。だからこそ、十分な準備と適切な戦略的判断が不可欠です。専門家の支援を受けつつ、適正な価格設定や相手選び、関係者との信頼構築を丁寧に進めることで、事業の存続と発展につながる円滑なM&Aが可能になります。

将来を見据えた長期的な視点を持ち、一つひとつのステップを着実に準備して進めていきましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

経営戦略」の他の記事を見る

TUNAG お役立ち資料一覧
TUNAG お役立ち資料一覧