過労とは?法律的な定義や危険性、企業がすべき対策について解説
現代社会において深刻な問題となっている過労は、労働者の心身に重大な影響を与え、時には生命に関わる事態も招きかねません。従業員の過労を防ぐために、主な症状や原因を踏まえた上で、企業がすべき対策について、ここで整理しておきましょう。
過労とはどういう状態を指すのか?
過労とは、身体的・精神的な疲労が蓄積し、健康に深刻な影響を及ぼす状態です。近年は働き過ぎによって不調を訴える人も増えているため、企業にとって無視できない大きな課題となっています。まずは、過労の定義やその危険性について、きちんと理解しておきましょう。
過労の定義
過労とは、労働時間の長期化や休息の不足・過度なストレスなどにより、心身に著しい負担がかかっている状態で、健康被害や生命の危険を伴うこともあります。明確な医学的定義はないものの、過労死や過労自殺に至る恐れがあるため、大きな社会問題とされています。
たとえ、死に至るほどの状態ではない場合であっても、過労は身体の機能低下を招き、仕事にも私生活にも悪影響を与える問題です。そのため、企業として徹底した対策が求められています。
※出典:しごとより、いのち。|厚生労働省
過労の危険性
過労が進行すると、まずは慢性的な疲労や不眠、集中力の低下といった兆候が現れます。それを放置すると、高血圧や心筋梗塞などの循環器系疾患、うつ病や適応障害といった精神的疾患へと発展する恐れがあります。
さらに進行すると、上記のように過労死や過労自殺といった、取り返しのつかない事態に至ることもあるため、早期の対策が不可欠です。過労の危険性は本人だけではなく、職場全体の生産性や安全性にも直結する問題であるため、その兆候を見逃さず、組織として責任を持って対応しなければいけません。
日本社会における過労の現状
日本では「働き過ぎ」が社会的な問題として、長年にわたり指摘されてきました。過労死という言葉が生まれるほど長時間労働が常態化しており、近年の労働人口不足により、さらに一人当たりの業務負担が増加する傾向も、問題視されています。
一方で、働き方改革などの取り組みは進んでいるものの、いまだに過労による健康障害が報告されているのが実情です。さらにテレワークの普及により勤務時間と私生活の境目が曖昧になり、企業が把握できないところで、過労に陥る従業員が増えているとの声もあります。
過労の主な症状は?
過労による症状は、肉体的なものと精神的なものに大別されます。肉体面では、慢性的な疲労感や頭痛・胃腸の不調・不眠などが現れ、身体の不調が長引くことで日常生活にも支障を来します。
一方、精神面では、気分の落ち込みやイライラ感、無気力などの変化が目立つようになり、うつ状態に陥るケースも珍しくありません。これらの症状が複合的に出現すると、判断力の低下や事故リスクの上昇にもつながり、業務の質や安全性にも悪影響を及ぼします。
過労が起こってしまう原因
過労には、複数の要因が複雑に絡み合っている場合が多く、個人の努力だけでは解決が困難です。
企業の労務管理体制や職場環境、業界の慣習など、さまざまな要素が過労を生み出す土壌となっています。企業として適切な対応をするために、過労が起こってしまう主な原因を理解しておきましょう。
長時間労働と休息不足
過労の最大の原因とされているのが、長時間労働です。時間外労働や休日出勤が続き、休息や睡眠時間が削られると、体はまともに回復できず、慢性的な疲労状態に陥ります。さらに十分な休息が取れない上に長時間労働が重なり、深刻な事態に陥っている労働者は決して少なくありません。
特に、繁忙期や人手不足の状況下では、労働者一人当たりの業務負荷が過度に集中し、休日出勤や深夜労働が常態化することがあります。企業がその状態を放置していると、最悪の場合は従業員の過労死を招きかねません。
職場環境や人間関係のストレス
物理的な職場環境や人間関係から生じるストレスも、過労の原因の一つです。騒音や照明不足・温度管理の不備・狭い作業スペースなどの物理的環境は、労働者の疲労を加速させ、作業効率の低下を招きます。
また人間関係においては、上司からのパワーハラスメントや同僚とのあつれきなど、精神的なストレスが過労を誘発するケースもあります。
とりわけ日本の場合、チームワークや協調性が重視される一方で、個人の意見を表明しにくい雰囲気を持つ職場は、決して珍しくありません。長時間労働を美徳とする文化的背景もあり、これらが過労を助長する要因となっています。
管理体制の不備や労務管理の甘さ
労働時間の管理体制や労務管理の不備は、従業員の過労を発生させる根本的な原因です。労働時間の適切な把握ができていない企業では、従業員の労働実態が分からず、過労のリスクを見逃してしまいます。
特にサービス残業の黙認や、管理監督者に対する労働時間管理の放棄は、違法な労働環境を助長し、長時間労働の温床となる恐れがあります。
また、不適切な人員配置も問題になりがちです。業務量に対して人員が不足している状況や、適性を考慮しない配置転換により、個人に過度な負担がかかってしまうケースは、決して珍しくありません。できる限り業務の偏りを避け、適材適所の人材配置を目指す必要があります。
企業としてすべき従業員の過労対策
従業員の健康を守るのは企業の社会的責任であり、業績にも直結する非常に重要な要素です。過労を未然に防ぐために、企業が取り組むべき対策を確認しておきましょう。
労働時間と業務量の適正な管理
企業の過労対策として求められるのは、まず従業員一人一人の労働時間を適切に把握し、過度な残業が発生しないように業務量を調整することです。労働時間を正確に記録し、管理職による確認を徹底しましょう。
業務が偏っている場合には人員配置の見直しを行い、特定の従業員に過重な負担がかからない体制を構築する必要があります。加えて、業務の優先順位や納期なども確認し、必要に応じてタスクの棚卸しや外部リソースの活用も検討しましょう。
ストレスチェックやメンタルヘルスケア
従業員の精神的な不調を早期に把握するため、定期的なストレスチェックの実施が有効です。アンケート調査などにより、従業員のストレスの度合いや負荷のかかっている業務、対人関係の悩みなどを把握しましょう。
また、産業医や社外のカウンセラーとの連携も検討しつつ、個別の面談やカウンセリング、休職制度の活用といったフォロー体制の整備も必要です。従業員が問題を抱えたまま、働き続ける事態を防ぐことが大事です。
働き方改革と柔軟な勤務制度の導入
テレワークやフレックスタイム制の導入など、多様な働き方を認めることで、従業員の過労リスクを軽減するのも効果的な取り組みです。勤務時間の柔軟性が高まることで、ワークライフバランスが改善され、長時間労働の抑制にもつながるでしょう。
また、有給休暇を取得せずにいる人も多いため、管理者からの積極的な取得の呼びかけや、チーム内で休暇を取りやすい雰囲気を醸成することも大切です。計画的な休暇の取得を促すことで、従業員の心身のリフレッシュにつながり、仕事へのモチベーションや業務効率の向上にも寄与します。
従業員の過労を防ぐ取り組みに注力する
過労は、従業員の健康や命を脅かす恐れがあると同時に、企業経営にも深刻な影響を及ぼしかねない問題です。働き方や職場環境の見直しに加えて、労務管理の強化など、組織全体で取り組むべき事柄は多くあります。
従業員の過労の兆候を素早く察知し、予防・改善につなげる体制を構築することで、一人一人が安心して働ける職場を目指しましょう。