裁量労働制とは?メリット・デメリットや導入手順を詳しく解説

裁量労働制は、働き方改革や生産性向上の観点で見るとメリットがある一方で、適切な運用をしなければ、従業員の不満やトラブルを引き起こす可能性があります。本記事では、裁量労働制の基本概要からメリット・デメリット、導入手順までを詳しく解説します。

裁量労働制の基本概要

働き方改革の推進や長時間労働が問題視される日本の労働環境の中で、裁量労働制は解決策の一つです。裁量労働制とはどのような制度なのでしょうか。その種類やフレックスタイム制との違いについてまずは見ていきましょう。

裁量労働制とは何か

裁量労働制とは、労働時間制度の一つであり、実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度です。

この制度では、実際の勤務時間に関係なく、労使間で決めた一定の時間分の労働をしたと見なされます。たとえば、1日8時間の「みなし労働時間」が設定されている場合、実際の労働時間が6時間であっても、8時間分の給与が支払われます。

裁量労働制の種類と対象業務

裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」の2種類があります。専門業務型は、高度な専門性が求められる業務に適用され、対象例として研究者、デザイナー、システムエンジニアなどが挙げられます。

一方、企画業務型は、企業の意思決定に関与するような業務を担当する従業員が対象です。これは経営企画や事業戦略の立案などに適用されることが一般的です。

重要な点は、それぞれの適用には条件が異なることです。例えば、専門業務型では個人のスキルや経験が重視され、企画業務型では企業内での役割や業務範囲が明確に定義されている必要があります。

フレックスタイム制と何が違うのか

裁量労働制とフレックスタイム制は、どちらも柔軟な働き方を提供する制度ですが、その仕組みには大きな違いがあります。

フレックスタイム制では労働者が始業と終業の時間を自由に調整できる一方、労働時間の総枠が管理されています。一方、裁量労働制では、労働時間そのものが成果とは直接結び付かず、業務の進め方や時間配分を完全に労働者に委ねる形となります。

また、法的にも異なります。フレックスタイム制は労働基準法第32条の3に規定され、勤務時間を一定期間内で調整する仕組みです。一方、裁量労働制は労働基準法第38条に定められた「みなし労働時間制」に該当し、特定の業務内容とみなし労働時間が労使協定で定められます。

どちらの制度も導入には労使間の協議と合意が必要ですが、裁量労働制では特に業務内容の明確化と従業員の理解促進が重要です。

参考:フレックスタイム制|厚生労働省

参考:裁量労働制の概要|厚生労働省

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

裁量労働制のメリットとデメリット

裁量労働制は柔軟な働き方を提供しますが、運用を誤ると従業員の不満やトラブルを招く可能性があります。本章では、メリットとデメリットを整理し、適切な活用方法を考える手助けをします。

裁量労働制のメリット

裁量労働制の最大のメリットは、労働者に働き方の自由度を提供できる点です。具体的には、労働時間の固定がなく、自分のペースで仕事を進められるため、業務内容やライフスタイルに応じた柔軟な働き方が可能です。

特に専門職やクリエイティブな業務では、集中しやすい時間帯に仕事を進められることで、成果を最大化できる環境が整います。

さらに、生産性の向上も期待できます。労働者が自身の裁量で業務を計画することで、無駄な会議や時間外労働を削減し、効率的に目標を達成できるケースが多いです。

また、企業側にとっても、従業員の自主性を促すことで、チーム全体のモチベーションアップやイノベーションの創出につながる可能性があります。

裁量労働制のデメリット

一方で、裁量労働制にはデメリットも存在します。最も懸念されるのは長時間労働のリスクです。労働時間が実態として管理されない場合、業務量の過多や過剰な成果へのプレッシャーが原因で、従業員が必要以上に働いてしまう可能性があります。

他のデメリットとしては、適正な評価の難しさが挙げられるでしょう。裁量労働制では成果が評価の中心となるため、業務のプロセスや努力が見落とされる場合があります。その結果、従業員が不公平感を抱いたり、モチベーションが低下したりすることが懸念されます。

裁量労働制の導入方法と手順

専門業務型と企画業務型、それぞれの裁量労働制を導入するための具体的な手順を解説します。さらに、2024年4月の法改正による手続き変更についても紹介しますので、導入時の参考にしてください。

専門業務型裁量労働制の導入手順

2024年4月1日以降に専門業務型裁量労働制を導入するには、まず過半数労働組合または過半数代表者と労使協定を締結し、対象業務や健康確保措置を明確に定める必要があります。

次に、就業規則や労働契約の規定を整備し、常時10人以上の労働者がいる場合は労働基準監督署へ届出を行います。その後、所定の様式で協定を届け出た上で、対象業務や賃金制度について説明し、労働者本人の書面による同意を取得しなければなりません。

導入後は、労働時間の状況を把握し、健康・福祉確保措置や苦情処理の対応を実施することが求められます。また、協定期間中および満了後3年間は、各種記録を保存する義務があります。

なお、2024年3月末までに既存の制度を継続する場合でも、新制度に基づいた労使協定の再締結と本人同意の取得が必要です。

参考:専門業務型裁量労働制の解説|厚生労働省

企画業務型裁量労働制の導入手順

企画業務型裁量労働制を導入するには、まず労使委員会を設置し、労働者代表と使用者代表で構成します。

設置後、委員の5分の4以上の多数で制度の対象業務、範囲、みなし労働時間、健康確保措置、同意撤回手続きなどを決議し、議事録を3年間保存します。

それを経て、就業規則や労働契約に制度を規定し、過半数組合の意見書を添付して労働基準監督署に届け出ます。

その後、労働者本人の同意を得る際には、制度の詳細や賃金・評価制度、同意しない場合の処遇を説明し、書面で取得します。

制度導入後は労働時間の把握や健康措置を実施し、労使委員会で定期的にモニタリングを行います。6カ月以内および1年ごとに実施状況を監督署へ報告し、決議の有効期間満了時には再度労使委員会で決議が必要です。

参考:企画業務型裁量労働制の解説|厚生労働省解説

2024年4月の法改正による新たな手続き

2024年4月1日から施行された裁量労働制の改正により、導入・継続する事業場は新たな手続きが義務付けられています。

専門業務型では労使協定に「労働者本人の同意取得および撤回手続き」を明記し、記録保存が必要です。

企画業務型では、運営規程に「同意取得・撤回手続き」「賃金・評価制度の説明」「制度運用の把握・改善」「6カ月ごとの労使委員会開催」を定め、これらを決議に含める必要があります。

また、賃金・評価制度の変更時には労使委員会への事前説明や報告が求められます。健康確保措置として、勤務間インターバルや深夜労働回数制限の導入が推奨され、これらは労働者保護と制度の適正運用を目的としています。

2024年3月末までの届け出が必須であり、対応が済んでいない場合は速やかな対応が求められます。

参考:裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です|厚生労働省

自社に合うかを慎重に検討することが重要

裁量労働制は、柔軟な働き方を提供し、業務効率や生産性向上を目指す有効な制度ですが、適切な導入と運用が不可欠です。

特に、制度の種類(専門業務型・企画業務型)や適用条件を正しく理解し、労使間の協議を十分に行うことが重要です。

また、労働者の同意取得や健康管理措置、定期的な運用状況の確認を通じて、透明性の高い運用を目指す必要があります。一方で、長時間労働や不十分な評価制度といったデメリットがあるため、導入前に自社の業務内容や労働環境に適しているかを慎重に検討しましょう。








著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
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