人的資本経営の取り組み事例は?江夏幾多郎先生とのインタビューを踏まえて解説

人的資本経営とは?_TUNAG(ツナグ)お役立ち資料「人的資本経営で押さえるべき4つのポイント」はこちら

■江夏 幾多郎(えなつ・いくたろう) 神戸大学経済経営研究所・准教授 1979年生まれ。一橋大学商学部卒業。同大学にて博士(商学)取得。名古屋大学大学院経済学研究科を経て2019年より現職。専門は人的資源管理論、雇用システム論。主著に『人事評価における「曖昧」と「納得」』(NHK出版)など。 2019年5月よりTUNAG(ツナグ)のアドバイザーに就任

経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」の影響もあり、「人的資本経営」への注目が非常に高まっていますが、大企業で取り組みが推進されていく一方で、中小企業としてどう取り組めば良いのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 人的資本経営を社内でうまく浸透させるには、「周りもやっているしとにかく何かやらなければ」と他社の取り組みをそのまま自社で実施するのではなく、一度立ち止まって「そもそも何故、人的資本経営に注目が集まっているのか」「どんなことに気をつければいいのか」を考えてみることが必要です。 今回の記事では、人的資本経営の前提となる考え方や注意すべきことについて、神戸大学で人的資源管理論や雇用システム論を研究されている江夏幾多郎先生にお話を伺いました。

人的資本という概念自体は新しいものではない

「賃金格差」「経済成長」との関連で論じられてきた人的資本

人的資本という概念は、経済学を中心に200年以上前から徐々に形作られました。同じ仕事をしている労働者間の賃金格差の背景には、教育訓練によって培われた技能や熟練、ひいては生産性の差があるのではないか。教育訓練が国の経済成長を説明するのではないか。こうした議論の中で形成されたのです。 「人的資本」という名称のもとに概念が確立し、研究が一気に進んだのが1960年ごろからです。代表的な論者の一人のゲイリー・ベッカーは、その後ノーベル経済学賞も取っています。物的資本への投資がそれを上回る収益をもたらすように、人への投資つまり教育も本人や国全体に対して収益をもたらすことを説明してきました。「コンクリートから人へ」は日本では一過性のものに終わった感がありますが、世界的には長らく政策の基本です。

「人的資源」も、「人的資本」の概念から生まれている

労働市場や企業組織における教育訓練や技能形成に関する経済学的な議論を横目に見て、経営や人事領域の研究者が人的資本に着目し出したのがこの40年くらい、1980年代あたりからですね。企業の競争力や独自性を支える人的要因として、「人的資源(human resource)」と言い換えられることが多いです。「人的資源管理」の研究や実務では、この40年ほど、経営戦略や経営状況に即しつつ、企業の競争力や収益性につながる人材投資、あるいは雇用調整のあり方が論じられてきました。人件費を削って企業の利益を稼ぎ出すだけでなく、人に投資をしてそれに対するリターンを得る、このバランスですね。 今日の先進的な人事は、人的資本という経済学の考え方を企業経営に寄せて、経営学的に捉え直した人的資源管理という考え方を大なり小なり実現させたものですし、考え方としては割と伝統的なんです。だから、「人的資本の時代へ」といったキャッチについては、学術的にも実務的にも「今更?」という部分はあります。理論も実例も多くあったのに、なぜ社会全体で実践されてこなかったのか?という問いかけ、自省が必要です。

日本企業における人への投資のこれまで

日本企業における人への投資のこれまで

経済成長期の日本企業は人に投資してきたか?

「人的資本」という言葉が今のように注目を集めるずっと以前から、日本企業ではジョブローテーションやOJTなど、いろいろな方法で従業員の技能形成のために投資をしてきました。そしてその動きは、1980年代の日本企業の競争力の背景を解明するため、アメリカを中心とした海外でも、むしろ海外で盛んに研究されました。大まかな経営方針の元で現場主導で事業を構想・運営するというスタイルの背景にあるものとして、長期雇用の中での技能形成、それを促す報酬をめぐる社員間競争が指摘されました。 ただ、投資対効果を検証する、それをもとに何にどのくらい投資するかを判断するなど、戦略的な経営判断として日本企業がやっていたかというと、あまりそうとは言えません。それぞれの職場での人員の過不足の調整のためのローテーション、一部の社員への「ご褒美」としての社内外の研修機会への派遣などといったケースも多かったんです。また、「背中を見せる=OJT」といった誤解が多かった。

バブル崩壊後、人への投資を抑えるようになった日本企業

そしてバブル崩壊後、ここ30年ほど日本企業は人材育成に投資をしなくなりました。世界的に見ても、今日の日本企業は社員の人材育成投資にコストをかけない部類です。 これは、人事として人への投資に意味がないと思って投資してこなかったのではなく、むしろ人事としては投資したいんだけれども、なかなか経営や財務が許さないとか、そういうところがまず一つあったんだと思います。人事の側として「これはいい」と思っていても、経営者や財務が「財務的な裏付けがあるのか?」と言い出したら、効果測定をしていないとなかなか説得しづらいですよね。 また、人に投資するという経営判断がされなかったのは、経営側のリスクへの姿勢というものもあったと思います。たとえ「面白そうだね」と思っていても、「でも100%じゃないんでしょう」というためらいが先立ってしまう。株主の意向を伺うようになった他にも、必要なスキルを外部調達で確保しやすくなったという側面もあるのでしょうが。 いずれにせよ、人材育成というのは5年10年どころか社員のキャリア全体を見据えて行うべきものなので、景気動向で投資額を増やしたり減らしたりというのは極力避けないといけないんですけども、日本企業は景況に過剰適応してきた可能性があります。

人的資本という概念が注目されるようになった背景

社会やテクノロジーの変化の中で、人への投資に注目が集まってきた

最近になって人的資本が注目されている背景には、「人への投資って大事だけどなかなか取り組めないよね」という迷いを、社会の変化やテクノロジーの変化が払拭しつつあることがあります。 社会の変化というのは、具体的にはESG投資とか、最近ではSDGsという言い方をしますが、要は「非財務的な指標も重要な経営指標として株主も含めた社会全体のステークホルダーに開示しよう」という社会の動きです。ISO30414という人的資本情報を開示するガイドラインも存在します。 テクノロジーでいうと、HRテックの台頭もあって、組織のさまざまなものが非財務的なものも含めて見える化できるようになり、投資対効果も測れるようになってきたということですね。もちろんその精度については今はまだ玉石混交ですが。 さらに、行政としてもいわゆる「人材版伊藤レポート」を発表したりして、こうした動きを日本に定着させようとしています。説明内容は、概念的には既に述べたような昔の議論の繰り返しの感はありますが。 だからと言って、軽視したり無視したりするのは難しいでしょう。経営学では「ネットワーク外部性」や「同型化」と言ったりしますが、こういう社会の流れに各企業で乗っかることそのものによって得られる便益があります。ブームに乗らないと、「この会社、大丈夫?」とか思われたりするわけですね。つまり、人的資本経営の合理性は、その考え方そのものに加え、「合理的だ」「よさそうじゃない?」とみんなが思ってしまっていることにも由来します。もちろん、ただ人的資本経営を名乗っていればいいわけではなく、あくまでやり方次第ではありますが。

人への投資に取り組むための前提

人への投資に取り組むための前提

施策の新陳代謝を通じた柔軟な人事

企業が変化し続けるには、人を入れ替えるか、定着した人に自己変革を継続してもらうか。人が入れ替わるんだったら、それだけで組織内の知識の構造が変わるので、別に個人として学習しなくてもいいんです。ただ、日本の雇用システムって、いい意味でも悪い意味でも人が定着しやすいので、個々人の学習、あるいは個々人の集まりとしての組織の学習が生命線になってきます。そこに、人的資本投資の必然性があります。 従来にない形で社員への投資を行おうとすると、新しい人事施策や取り組みが必要になってきます。それはもちろん大事なことですし、担当者の人事評価的にもいいのかもしれませんが、組織的には取り組みが増え続けたり、ルールが足され続けたりするのは良いこととは言えません。 「新しくこのルールを足すのであれば、これはなくそう」「これとこれは統合した方がいいな」とか、そういう新陳代謝を着実に進めるのが大事です。取り組みをどんどん足していくだけでは、柔軟に変化できる組織とは言えません。 柔軟な人事において大事になってくるのが、さまざまな施策や取り組みの間での一貫性です。新陳代謝を進める中でも、「会社ってここを目指そうとしているんだな」「社員とこんな関係を作ろうとしているんだな」というメッセージが明確でぶれない形で示されていることが、社員の安心感や納得感につながってきます。

「攻め」だけでなく「守り」を組織として評価する

会社の人事のあり方を柔軟にしていく時には、何か新しいことをやることの他に、守るべきことは守ったり、撤退するというか、無くす・減らすということも大事になります。それぞれの仕事に従事している担当者を公平に、バランスよく評価したいものです。 確かにその取り組みやルール自体は用無しになったから無くすんでしょうけど、そうすることで他の制度が生きる、社員がちょっと楽になることもあります。そういう地味な整理をする人にもちゃんと報いないと、新しい施策や取り組みばかりが数多く、しかもまとまりなく群がっているということになりかねない。 「守り」や撤退の仕事のほかにも、失敗経験の評価も工夫の余地があるかもしれません。もちろん失敗そのものに報償を与えるわけにはいきませんが、そこから何を学び、どうリカバーしたかや、経験の共有を通じて周りの失敗確率をどれだけ下げられたかについては、もし可視化できればその社員の貢献として報償を与えることもできるでしょう。

HRテックやデータとの付き合い方

データドリブンの罠に注意

テクノロジーによって投資対効果が見えやすくなってきたという話をしましたが、一方で「測定できる」と「測定すべき」は違います。とりあえず測定できるところから始めようという方向に行きやすいですが、それでは本質からずれてしまう。それがデータドリブンの怖いところです。ビッグデータを解析すると何らかの変数間関係は出るでしょうが、それが解釈不可能であったり、経営上重要なことでないなら、振り回されすぎないほうがいいです。 「なるほど」と思うような分析結果というのは、良いリサーチデザイン、つまり調査設計がなければ生まれません。良い調査設計の背景にあるのは、日頃の仕事の中での思考習慣です。調査や分析をする前に、現実味があり、かつ体系的な論理をもとに仮説を立て、それをもとに適切な手続きでデータを収集し、分析する。そういった手続きで検証していかなければ、「なるほど」という結果にはなりません。

主観データと客観データ、どちらも一長一短

HRテックでいうと、主観データと客観データどちらが良いのかという話も良くありますが、どちらにも注意すべき点があります。 主観データとは、例えば「あなたは1から10でいうとどの状態ですか」のように、ある概念に基づいて尺度を設計して答えてもらうものなので、理論的な解釈はしやすいんです。 ただ、回答にバイアスがかかる可能性もある。あとは、「会社がやれって言ってるから仕方なくやるか。8をつけておけば怒られないだろう」みたいなポリティカルなものが働いてしまっていたら、良質な分析ができなくなる。だから、主観データを取る場合には会社と個人の間の信頼関係、正直に言い合える関係性が、良質なデータのための条件になってきます。 客観データは、例えば行動データやバイタルデータなど、数値自体をある概念の代理変数として扱うものですが、「本当にその数値は概念を反映しているのか」というところが常に問われます。例えば心拍数みたいなものも、ネガティブなストレス反応としての心拍数なのか、何か新しいことをやるという高揚感での心拍数なのか、色んな解釈がありえますよね。客観データの場合には、「本当にこれってこの代理変数として使っていいの?」という部分を慎重に議論して、「いいんだ」というところに辿り着くまで、思考を重ねていかないといけません。 そういうところをないまぜにして使ってしまうと適切な解釈に辿り着かない可能性があるので、主観データだから駄目で客観データがいいと必ずしも言いきれないですし、HRテックと言えどもベースにあるのはアナログだなと思います。どちらのデータもそれなりに手順を踏まなければいけません。同じ概念を主観データと客観データの双方で捉え、整合しているかを確認するといったことも有用でしょう。

過剰なデータ依存を避ける

ただし、データ活用については、これは個人的にこれから考えていきたい部分でもあるんですが、データがないと前に進めないような働き方や経営で、そもそも良いのでしょうか。 データというのは振り返るためのツールとしてはものすごくいいのかもしれませんが、データで意思決定が縛られる、判断を全てデータに委ねてしまう、あるいはバイタリティみたいなのもデータに吸い取られてしまうとしたら、組織のためにデータを活用しているのではなくて、データに使われているだけの人や組織になってしまいそうです。 データを見ることで、「なるほどね、ここを変えたらいいんだ」と取り組むポイントがわかるのはもちろん大切ですが、そこで思考停止せず、どんな組織状態にしていきたいか、といった願望ベース、別の言い方をすると妄想ベースの取り組みも必要でしょう。

大企業先行の人的資本経営ブームの中で、中小企業がすべきこと

大企業先行の人的資本経営ブームの中で、中小企業がすべきこと

中小企業の人材活用の難しさ

今の「人的資本経営」ブームを見ていると、いつもの通り大企業先行に見えます。多くの中小企業が、どうやって取り組めば良いのかについて、大企業以上に戸惑っているのでしょう。 確かに昔から、多くの中小企業は大企業ほど雇用環境の改善に取り組めてこなかったり、人事の専門家がいなかったりしてきました。ただ、中小企業だからその辺りがおろそかになるのは仕方がない、という話ではないんですよね。結局、中小企業の人が納得できる、その期になるような人材活用のロジックをまだ政策も研究者も、人材サービス企業も作りきれてないのでしょう。これは反省しないといけないところです。

中小企業だからこその意義

中小企業こそ人への投資に向き合う意義が大きいと思っています。中小企業では大企業ほど社内の分業や業務の標準化が進んでいない分、従業員一人の能力と経営の成果が直結しやすいのではないでしょうか。 会社に対する責任も、中小企業の経営者だと結構大きい部分があると思います。特に創業家の場合には無限責任というか、任期を全うしたからそれで終わりというわけでもないですし。 会社とはどうあるべきか、社員とはどう関わるべきかみたいなことって、本来中小企業の経営者こそ真剣に考えないといけない部分があって、そういう意味でも社員とちゃんと関わるためのツールを色々試してみるのはとても大切なことだと思うんです。

中小企業ならではの利点を活かし、大事だと思ったことをちゃんとやる

それに、財務的な余裕や人事の専門家の数など、中小企業が大企業と比べて不利な点はあるでしょうけど、有利な点もあるんですよね。特に、中小企業の経営者の方が現場や社員との距離が近く、何かを始めるにしても撤退するにしても社内調整がシンプルでしょうし、社員の声も聞きやすく、メリットとデメリットの発見、効果測定もしやすいでしょう。大企業の人事担当者からすると、こういった経営者の「使い方」はできないことが多いでしょう。 中小企業は否が応でも経営と現場が近いので、そこから見えてくる「人的資本ってこうだよね」という尺度のようなものを最低限作り込んで、適宜調整していくっていうやり方がいいのかなと思います。手間や時間をかけて作り込むのはおそらく難しいと思うので、「うちの会社にとってはこういう能力とか考え方が大事だよね」というものだけ決めておく。そして、そこを目指して頑張っていくためにコミュニケーションをとっていこうという動機づけだけ作っておいて、あとは調整していく。そんな形で取り組んで行けばよいのではないでしょうか。 中小企業ならではの利点を活かし、大事だと思ったことをちゃんとやる 〜江夏先生、お話しいただきありがとうございました!〜

人的資本経営とは?

人的資本とは「ヒト」を資本とする考え方です。個人が習得している技能や資格、能力などを資本とし、積極的に投資する経営のことを指します。 ここでは、人的資本経営の考え方や定義などについてご紹介します。

人的資本の定義とは

人的資本とは、従業員が習得した技能、資格、能力を資本とみなす考え方を指します。企業における終身雇用制が浸透していた日本において、従来から人件費はコストとして捉えられており、消費するものという考え方でした。人的資本では、人は長期的に見て経営に必要な資本であると位置づけています。 長期的に経営を安定させ、維持していくためには、人財戦略は大きなカギになるでしょう。近年では投資家なども人的資本に注目しているとされ、人的資本に対しての取り組みが投資判断の有無にも影響してくることが考えられます。

人的資本経営とは

人的資本経営とは、人材を資本と定義し、その価値を最大限に活かすような経営のことです。中長期的に企業価値を向上させる手段として注目されています。 近年、グローバル化やコロナ禍によって先が見通しづらくなっています。そうした環境下においては、無形固定資産や非財務情報などに関心が集まるようになりました。その結果、人的資本がより注目されているのです。

人的資源と人的資本の違い

人的資本経営_人的資源と人的資本
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  人的資本とよく似た概念に「人的資源」があります。人的資源は、経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報のヒトを指す言葉で、従業員そのものを企業の「資源」として見出す考え方です。人材を資源として消費し、コストとして人件費がかかるという捉え方をします。 一方、人的資本は従業員のスキルや能力、知識など、人に付随する能力を企業の「資本」とする考え方です。人材に投資することで資本としての価値が高まるという捉え方をします。 近年では、これまで一般的だった人的資源に代わり、人的資本が注目を集めています。 お役立ち資料「人的資本経営で押さえるべき4つのポイント」はこちら

人的資本経営が注目される背景

昨今、人的資本経営が注目されているのはなぜなのでしょうか。ここでは、3つの背景についてご紹介します。 関連記事:人への投資とは?「骨太の方針2022」新しい資本主義に向けた改革について

人的資本経営とSDGs

人的資本経営が注目されている背景の一つに、SDGsへの世界的な取り組み強化が挙げられます。国連は2015年に、SDGs(持続可能な開発目標)について発表しました。これは人類が今後地球で持続的成長を遂げるため、2030年までに達成が必要な17個の目標のことです。 その17個の取り組みの一つとして、日本では企業へのダイバーシティの推進、働き方改革などを掲げています。さらに企業では、人材育成や雇用環境の改善などが挙げられました。 SDGsの達成には、人的資本に関わる内容が多く含まれています。そのため、人材資本経営の取り組みも、今後ますます重要な位置づけとされていくでしょう。

人的資本経営とISO30414

人的資本経営は、ISO30414の観点からも注目されています。ISO30414は、ISO(国際標準化機構)が2018年に発表した人的資本の情報開示に関する国際的なスタンダードです。開示すべき情報が11領域49項目にわたってまとめられており、以下のような項目が含まれます。
  • 人件費などの労働コスト
  • 組織文化
  • リーダーシップ
  • ダイバーシティ など
欧米では既に、上場企業などに人的資本に関する情報の開示が義務化されています。日本でも今後人的資本に関する情報開示の在り方が変化していくと考えられており、人的資本経営に注目が集まっています。

人的資本経営とESG投資

人的資本経営は、ESG投資への取り組みを強化できる意味でも注目されています。ESG投資とは、環境や社会、企業統治に配慮している企業に注目して行う投資のことです。ESG評価が高いと事業の社会的意義や成長の持続性などに優れた企業といえるため、積極的に投資してもらいやすくなります。 ESG評価を意識する企業にとっても、人的資本経営は重要な経営手法です。

人材ポートフォリオとは?

近年注目が集まる人材ポートフォリオも、人的資本経営に関係のあるキーワードです。人材ポートフォリオの意味や重要性について解説します。 人的資本経営_人材ポートフォリオ
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人材ポートフォリオの定義

人材ポートフォリオとは、経営戦略を遂行するための組織内の人材構成を可視化したものです。具体的には、組織のどんな部署や役職に、どんなスキル・資格、能力のある人が、どのくらいの人数、どの期間に在籍すれば経営戦略を遂行できるか、をまとめたものです。 人材をタイプ別に可視化することで経営戦略に適した人材構成を組むことができ、採用、人材育成、人事評価などの観点で近年注目されています。

人的資本経営における人材ポートフォリオの重要性

人材ポートフォリオは、人的資本経営にも大きな意味を持ちます。従業員のスキルや資格、能力などを資本と捉えて投資の対象とする人的資本経営では、人材のスキル・資格、能力を分類してまとめた人材ポートフォリオをもとに何に対して投資すべきなのか見極めることができるからです。 実際、以下で紹介する人材版伊藤レポートでは、人的資本経営に必要な枠組みである3P・5Fモデルの中で「動的な人材ポートフォリオ」が紹介されています。

人材版伊藤レポートとは?

ここでは、人材版伊藤レポートとは何か、人的資本経営とどんな関係があるのかについて紹介します。

人材版伊藤レポートについて

人材版伊藤レポートとは2020年に経済産業省が発表したもので、人的資本経営についての取り組みや、人材戦略に関わる経営陣、取締役、投資家の役割などの方策などを検討する研究会の報告書です。正式には、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」と言いますが、通称「人材版伊藤レポート」と呼ばれています。 一橋大学の特任教授 伊藤邦雄氏を座長として発表されたもので、人的資本の情報開示や「高め方」などが記載されています。人的資本の重要性が記されており、日本企業において人的資本の情報開示が進むきっかけになったともされています。 参照:https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf

人的資本経営と3P・5F モデル

人的資本経営_3P・5Fモデル 3P・5F モデルとは、人的資本経営を行う際の人材戦略に必要な3つの視点(Perspectives)と 5 つの共通要素(Factors)のことで、人材版伊藤レポートの中で提唱されている枠組みです。 3つの視点では、人材戦略を検討する際にどのような視点から俯瞰すべきかが説明されています。
  1. 経営戦略と人材戦略の連動
  2. As is‐To be ギャップの定量把握
  3. 人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着
また5つの共通要素では、どのような企業でも共通して組み込むべき人材戦略の要素が提唱されています。
  1. 動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化
  2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
  3. リスキル・学び直し
  4. 従業員エンゲージメント
  5. 時間や場所にとらわれない働き方
「動的な人材ポートフォリオ」については、HR領域のITサービス等を活用して、現在の人材ポートフォリオの状況を把握すること、適時最適な状態とすることが必要だと述べられています。 参照:https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf

人的資本経営に取り組むメリット

企業が人的資本経営に取り組むメリットには主に以下の2つが挙げられます。

人的資本の情報開示が投資家の積極的な投資につながる

企業が人的資本の情報を開示することで、投資家の積極的な投資につながることが考えられます。環境の変化が激しい現代において、さまざまな状況に対応できる人的資本は、投資判断に大きな影響を与えるとされています。 そのため、アメリカでは2020年8月に米国証券取引委員会が上場企業に対して「人的資本の情報開示」を義務付けました。アメリカの上場企業は、人材の育成や採用、維持に関する情報を開示する必要が出てきたのです。これは投資家の強い希望があったからといわれています。 日本においても人的資本の情報開示の流れは広がっています。積極的に情報開示を行う企業は、投資家の投資の対象となる可能性が高いでしょう。投資家が多くの自社株を購入すると株価が上がり、企業としての価値を上げることができます。

従業員のスキルや生産性の向上により企業価値が高まる

企業は人的資本へ積極的に投資をすることで、従業員のスキルアップが期待できるでしょう。従業員の質が上がれば生産性が向上し、今まで以上に会社に利益をもたらしてくれることが考えられます。その利益をさらに人的資本に投入すれば、さらに生産性が向上するなどの好循環を生んでくれるでしょう。企業が持続的に成長することは、企業価値を高めることにもつながります。

人的資本経営の取り組み事例3社

各社で人的資本経営への取り組みと開示が行われていますが、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。ここでは、人的資本経営を推進する3社の取り組み内容と開示状況を解説します。

1. 株式会社丸井グループ

百貨店などを運営する丸井グループでは、「人の成長=企業の成長」を経営理念に掲げ、企業文化の変革と人的資本に対する取り組みと開示を積極的に実施しています。具体的には以下のような取り組みを実施しています。
  • 人材の育成や採用への投資額をみえる化
  • 職種変更やスタートアップ企業への出向
  • 自ら手を挙げる組織風土
  • キャリアアップ支援制度
  • グループ一体での情報共有
2017年からの5年で、人的資本に投資した金額は約320億円。また、これらの取り組み・投資によって2012年から2022年の10年間で社員のエンゲージメントを向上させることに成功しています。 参照:人的資本経営 | IRライブラリー | 投資家情報 | 丸井グループ-maruigroup website-

2. オムロン株式会社

産業向け制御機器や電子部品、ヘルスケア製品を展開する電気機器メーカーのオムロン株式会社では、2022年からの3年間で累計60億円(19〜21年比で3倍)の金額を人材開発に投じることをコーポレートサイトにて公表しています。グローバル全社員を対象に以下の3つの軸に基づき、施策を実施する予定です。 1. リーダー育成と登用 2. 多様で多才な人材の活躍 3. コト視点に適用できる能力獲得 具体的には、「DXなどの新しいスキル獲得・強化」「海外留学や社外への派遣などによるリーダーの育成」「ジョブポスティング制度の拡大」などに取り組み、従業員が能力を存分に発揮できる組織への変革を進めています。また、同グループが掲げる長期ビジョン「Shaping the Future 2030(SF2030)」において、人件費あたりの付加価値額「人的創造性」を指標として定め、2024年に2021年比+7%を定量目標として設定しています。 参照:人財アトラクション | 社会 | サステナビリティ | オムロン

3. アサヒグループホールディングス株式会社

飲食料品事業を展開するアサヒグループホールディングス株式会社では、中期経営戦略において人的資本の高度化を掲げています。同グループでは、「ありたい企業風土の醸成」「継続的な経営者人材の育成」「必要となるケイパビリティの獲得」の3つのアプローチから人材戦略を策定しています。 ■ありたい企業風土の醸成 中期経営戦略を実行するためにも、優秀な人材を採用・維持することが不可欠であると考え、エンゲージメントの高い組織づくりに取り組んでいます。同社は「ピープルステートメント」として「学び、成長し、そして共にやり遂げる(Learning, growing, achieving TOGETHER )」を掲げ、①セーフティ&ウエルビーイング②ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン③学習する組織④コラボレーションの4つを策定しています。 ■継続的な経営人材の育成 同社は、長期戦略を実現するためにもグローバル経営を推進できる人材の育成・確保を重要事項として掲げています。その戦略の一つとして、「アサヒグローバルリーダーシップコンピテンシーモデル」を開発し、アサヒグループのリーダーに求めるコンピテンシー(行動特性)を定義し、キータレントの可視化を進めています。加えて、人材育成面では毎年30名以上のグローバル経営人材を輩出すべく、プログラムの拡充に着手しています。 ■必要となるケイパビリティの獲得 同社は中長期経営方針で掲げた「目指す事業ポートフォリオ」「コア戦略」「戦略基盤強化」の実現に向けたケイパビリティ(組織力)の確保に取り組んでいます。具体的には、人材の能力を最大限発揮されsるための適所適材と育成、専門性に秀でた人材の採用、パートナーシップやアライアンスなど社外リソースの活用等の施策を組み合わせ、ケイパビリティの獲得を目指しています。 参照:人的資本の高度化 | サステナビリティ | アサヒグループホールディングス

人的資本経営に取り組むには?

人的資本経営への取り組みとして、具体的にはどのような方法があるか紹介します。

3P・5F モデルに関連するサービスを活用する

この記事の「人的資本経営と3P・5F モデル」でも紹介したように、人的資本経営には3つの視点・5つの共通要素が必要です。そこで、3つの視点・5つの共通要素に取り組めるサービスを活用することも有効です。 例えば、各種サービスを活用して以下のような取り組みを実施していくことができます。
  • Web社内報サービスで、経営陣から「経営戦略と人材戦略の連動」についてメッセージを発信する
  • 1on1の実施、従業員のプロフィールの見える化、表彰制度の蓄積ができるサービスで「動的な人材ポートフォリオ」に取り組む
  • サンクスメッセージのサービスで経営理念の浸透や称賛文化の醸成に取り組み、「企業文化への定着」をはかる
  • チャットや稟議申請などのサービスでDXを推進し、「時間や場所にとらわれない働き方」を社内で推奨する
  • 情報共有やコミュニケーション活性化のサービスで「従業員エンゲージメント」を高める / 組織診断の「従業員エンゲージメント」の結果をもとに施策を実施する

『TUNAG(ツナグ)』なら人的資本経営の取り組み全般に対応可能

人的資本経営にはさまざまな要素が絡んでいるからこそ、上記で紹介した各種取り組みをなるべく一箇所で集約し、効果測定できるのが理想的です。また、一口に「人的資本経営」と言っても取り組み方はさまざまで、自社の文化や課題に合わせて取り組みをしなければ、思うような結果が得られなかったり、従業員の不満や不信感を招いてしまう可能性があります。 そこでおすすめなのが、上記の取り組みを集約できる『TUNAG(ツナグ)』というサービスです。自社に合わせた取り組み・施策を設計して、TUNAG(ツナグ)上で運用し、従業員の利用データを見ながら、改善まで実施していくことができます。 『TUNAG(ツナグ)』で、人的資本経営への取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。 お役立ち資料「人的資本経営で押さえるべき4つのポイント」はこちら

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