パーパス経営が失敗する3つの原因とは?成功させるポイントと事例もご紹介
企業の社会的な存在意義や目的を表す「パーパス」に基づき、社会や地域、消費者、そして世界全体に伝え、企業を経営していく「パーパス経営」という言葉が注目されています。パーパス経営を推進することで、パーパスに基づいた迅速な意思決定ができる、従業員エンゲージメントが向上するなどのメリットがあると言われています。
その一方で、パーパス経営の実現を図ろうとするも「パーパス経営をどのように推進すればいくべきか」「パーパス経営の成功させるために必要な観点は何か」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、パーパス経営の失敗を招く3つの原因を踏まえて、パーパス経営を成功させるポイントや推進ステップについて解説していきます。
パーパス経営とは?
パーパス経営とは、企業が利益追求にとどまらず、社会への貢献と使命を重視する経営アプローチです。このアプローチでは、企業は社会的な目的を持ち、明確な価値観や使命を実践し、ステークホルダー(顧客、従業員、地域社会、環境など)の利益に焦点を当てます。簡単に言えば、パーパス経営は企業に利益だけでなく、社会への貢献と価値提供を追求させ、長期的な成功を目指す経営哲学です。
関連記事:パーパス経営とは?有名企業の事例9選と意味を解説
パーパス経営が失敗する3つの原因
パーパス経営に取り組む企業が増えている一方で、失敗してしまう企業も多くあります。パーパス経営の失敗とは、具体的に下記のような状態になっていることを言います。
- パーパスを策定したものの、経営に取り入れられていない
- 従業員がパーパスを理解していない、又はそもそも知らない
- 抽象的な言葉や綺麗事を並べただけのパーパスで、実際に行動が伴っていない
なぜ多くの企業でパーパス経営が失敗してしまうのでしょうか。原因として以下の3点があげられます。
パーパスの定義を勘違いしている
パーパス経営が失敗する原因の一つは、経営層がパーパスの定義を勘違いしていることです。
パーパスを抽象的な言葉で掲げてしまう企業も多いですが、この場合、自社の事業との直接関連のないパーパスを策定してしまう可能性があります。その結果、パーパスと事業の方向性に乖離が生まれたり、パーパスが従業員に浸透しにくくなってしまいます。
例えば「環境課題の解決」をパーパスとして掲げている企業があるとします。環境に直接関わりのある企業にとっては自社がすべき役割が明確になりやすいですが、多くの企業にとって自社ならではの役割を具体的に想像するのは困難でしょう。
パーパスを策定する際は、自社が求められている役割やパーパスを策定する目的を明確に定義し、わかりやすい言葉で従業員に共有することが重要です。
参照:なぜ「パーパス経営」が「御社」に実装できないのか(東洋経済)
パーパスが社員に浸透していない
パーパスは企業文化に根付き、社員が共感し、実践できるものでなければなりません。しかし、パーパスが抽象的で現実的な業務や日常の意思決定に結びついていない場合、社員はパーパスを理解し、共有することが難しくなります。
例えば、ある企業のパーパスが「地球をきれいにすること」だとしましょう。しかし、社員たちがこのパーパスの意味を知らずに、日々の仕事をこなしている場合、パーパスは浸透していないと言えます。社員たちがなぜ地球をきれいにすることが大切で、自分たちの仕事がどのようにその目標に寄与するのかを理解していないのです。
パーパスが具体的業務に落とし込めていない
パーパスは、企業の経営戦略と現場での実務を結びつける必要があります。もし、パーパスが抽象的で、具体的な行動やプロジェクトに関連づけられていない場合、組織のメンバーは目標達成のためのアクションガイドラインを持たないことになります。
例えば、ある企業のパーパスが「人々の生活を向上させること」だとしましょう。しかし、社員たちがこのパーパスを実際の仕事にどのように結びつけるべきかを知らない場合、パーパスが具体的業務に落とし込めていないと言えます。社員たちは、自分たちが何をすべきかや、どのようにパーパスに貢献するかが分かりにくいのです。
パーパスが具体的業務に落とし込めていない場合、社員たちは方向性を見失い、目標達成のための明確な行動が難しくなります。成功するためには、パーパスを実際の業務やプロジェクトに関連づけて、社員たちに具体的なガイドラインを提供することが重要です。
パーパス経営の成功事例5選
ここからはパーパス経営の成功事例を5つご紹介します。
ソニーグループ
ソニーグループは、2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げました。このパーパスは、「ソニーグループが何のために存在するのか」を明確にし、約11万人のグループ社員が同じベクトルで価値創出に取り組むために定められました。
同社はパーパス浸透のため、各事業のマネジメント層に、自分の事業戦略を語るときは必ずパーパスと関連付けて話すことと、各事業で決めるビジョンもパーパスに基づいて作るようにお願いし、浸透を図りました。また、社内のWEBサイトで「My Purpose」という特集を掲載し、パーパスををあなた自身に置き換えるとどうなるのか、日々の業務の中でどう実践しているのか、を様々なグループ社員にインタビューした記事を掲載することで、パーパスを自分ごと化しやすくする取り組みも行っています。
参照:Sony's Purpose & Values
参照:ソニーグループのPurpose経営
味の素グループ
味の素グループは2023年、「志」(パーパス)を従来の「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」から、「アミノサイエンスで、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」に進化させました。パーパス実現に向けた具体的なアウトカムとして、2030年までに「環境負荷の50%削減」「10億人の健康寿命を延伸」という目標も掲げています。
また、事業を通じて社会価値と経済価値を共創する取り組みを「Ajinomoto Group Creating Shared Value(ASV)」称し、パーパスを実現するための基本的な考え方として従業員に浸透しています。同社が運営するWebマガジン「ストーリー」でも、従業員が日々の業務のなかで取り組むASVについて語るインタビュー企画「私が語るASV」を掲載しています。
毎年実施する「エンゲージメントサーベイ」で、「ASVの自分ごと化」やASVの成果創出に向けた進度を可視化し、結果から抽出した課題を翌年の計画へ反映させています。
参照:味の素株式会社「トップメッセージ」
参照:ASVとは?味の素グループが推進する未来への取り組み
東京海上ホールディングス
東京海上ホールディングスはパーパスを「お客様や地域社会の“いざ”をお守りする」と定めています。これは1879年の創業以来変わることのないパーパスです。
同社が2021年度からスタートしている中期経営計画では、パーパスの実現のための具体的な取り組みについて記載されています。
- DX(デジタル・トランスフォーメーション)による価値創造
- 多様性と働きがいの向上
- 挑戦を支える企業風土や企業文化への変革
例えば「多様性と働きがいの向上」では、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進によるイノベーション創出を目指し、多様な社員が適材適所で個性や専門性を発揮できるような取り組みをしています。具体的な取り組みの例として、ジェンダーギャップの解消のため、2030年度までに女性管理職比率30%を目指しています。
また、パーパスの浸透については、「エンゲージメントサーベイ」や「カルチャー&バリューサーベイ」によって浸透度を測っています。
参照:東京海上グループの価値創造アプローチ
参照:東京海上ホールディングスに学ぶ、パーパス経営を実現させるD&I推進の取り組みと戦略
花王株式会社
花王株式会社のパーパスは「豊かな共生世界の実現」です。このパーパスは、2010年から毎年実施している「花王国際こども環境絵画コンテスト」で耳を傾けてきた、約10万人を超える子どもたちの未来への想いに応えたいという決意が込められています。
同社の各ブランドは、パーパスに関連したブランド・パーパスを掲げて活動しています。例えば、住居用のクリーナー「マジックリン」では、「生活空間の衛生不安を取り除き、誰もが、おうちで安心して、大切な人と過ごせる社会にする。」というブランド・パーパスを掲げ、家事をラクに済ませたい⽅はもちろん、⾼齢者や⾝体的な不具合を抱えた⽅にもやさしく使える商品の開発に取り組んでいます。
参照:花王のパーパスと価値創造
参照:パーパスドリブンなブランドの活動事例
富士通グループ
富士通グループのパーパスは、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」です。
同社は、パーパスを自分ごととして捉えることを重要視し、パーパス・カーヴィング (Purpose Carving) という取り組みを行っています。これは、社員一人ひとりが歩んできた道のりや大切にしている価値観を振り返り、未来に向けて想いを馳せながら、個人のパーパスを彫り出していくプログラムです。この取り組みは、日本の人事部「HRアワード2022」企業人事部門優秀賞も受賞しています。
参照:Fujitsu Wayについて
参照:富士通の「Purpose Carving」が、日本の人事部「HRアワード2022」企業人事部門優秀賞を受賞
パーパス経営を成功させるポイント
パーパス経営を成功させるためには、以下のポイントが重要です。
わかりやすい言葉でパーパスを策定する
パーパスは理解しやすく、共感を呼ぶ言葉で表現することが重要です。抽象的な言葉やビジョンだけでなく、具体的なアクションや目標を示すことで、社員が共感しやすくなります。
例えば、あるお店のパーパスが「人々に幸せな食事を提供する」だとしましょう。これはわかりやすい言葉で表現されています。誰でも「幸せな食事」は何かを理解できますし、お店のスタッフもこの目標に向かって行動しやすくなります。
自社ならではのパーパスを策定する
パーパスは企業の特性や業界に合わせてカスタマイズされるべきです。自社の強みや競争力を考慮して、独自のパーパスを策定しましょう。
企業や組織は、それぞれ異なる歴史や強みを持っています。このポイントは、その独自性を活かして、他のどんな企業とも違う特別なパーパスを見つけることを強調しています。
実現可能なパーパスを策定する
理想的なパーパスを設定することも重要ですが、実現可能な目標を持つことが成功の鍵です。現実的な目標を設定し、段階的に実現していく計画を立てましょう。
パーパスは組織の方向性や目標を示すものであり、大きな夢や理想を追求するものでもあります。しかし、その夢や理想が現実的でない場合、達成が難しくなります。
経営層と社員がコミュニケーションを取る
パーパスを組織全体に浸透させるためには、経営層と社員が積極的にコミュニケーションを取る必要があります。パーパスの意義や目標を共有し、社員のフィードバックを受け入れることが重要です。
経営層と社員がコミュニケーションを取ることによって、経営層が自分たちの考えや目標を社員に伝え、社員がそれを理解し、共感することができます。これにより、組織全体がパーパスに向かって一致団結しやすくなります。
失敗しないパーパス経営を実現する手順
パーパス経営を実現するために、以下の手順を追うことが役立ちます。
自社の歴史や理念・立ち位置などを分析する
まず、自社の歴史、理念、業界での立ち位置を詳しく分析しましょう。この分析には、過去の成果や取り組み、および業界のトレンドや競合他社の動向を考慮します。さらに、自社の強みや弱みを明確に把握し、それらをパーパスと結びつけるための具体的な戦略を策定します。これにより、自社のパーパスがより明確になり、競争力を高めることができます。
パーパスの言語化をする
パーパスは、組織やプロジェクトの目的や使命を明確に表現するものです。社員やステークホルダーが共感しやすく、理解しやすい言葉を選ぶことが重要です。パーパスは、組織の方向性や価値観を示し、行動の指針となる役割も果たします。適切なパーパスを設定することで、組織の統一感やエンゲージメントを高めることができます。
パーパスを事業や業務に落とし込む
パーパスを具体的な業務やプロジェクトに結びつけるための戦略を策定します。具体的には、パーパスが日常の業務にどのように貢献するかを明確に示し、その貢献を最大化するための実行計画を策定します。
従業員に浸透させる
パーパスを社員に浸透させるためには、パーパスの重要性や目的について学ぶための社内研修やワークショップを実施しましょう。これにより、社員がより深くパーパスを理解し、日常業務においても積極的に活用できるようサポートします。
参考:理念経営とは?実践事例5社や推進手順、失敗を招く要因を解説 | 社内ポータル・SNSのTUNAG
TUNAG(ツナグ)でパーパスの浸透を促進
パーパス経営を成功させるには、パーパスを従業員に浸透させ、実際の行動に反映させていくことが重要です。
TUNAG(ツナグ)は、経営層からパーパスや経営理念、メッセージ等を発信し従業員一人ひとりに届けられるので、パーパスの浸透を促進します。また、日報などでパーパスに基づく行動を現場から発信することもできるので、従業員にパーパスが浸透しているか可視化することが可能です。少しでも気になる方は、ぜひTUNAGの資料をダウンロードしてみてください。