休職とは?企業が知っておくべき制度の種類と対応について解説
急に社員から「休職したい」と相談を受けたとき、どのように対応しますか?制度はあっても、実際の運用フローが曖昧なまま場当たり的に対応していると、後々トラブルに発展するリスクがあります。本記事では、人事担当者や管理部門の責任者が知っておくべき休職制度の基本から実務対応まで、網羅的に解説します。
休職制度の法的な位置付け
休職者が出たとき、まず押さえておきたいのは制度の基本です。休職とは何か、有給休暇との違いを明確にしておきましょう。
休職とは?
休職とは、社員が病気・けが・家庭の事情などの理由により、一定期間仕事を休む制度のことです。就業規則に基づいて定められており、一定期間後に復職することが前提となっています。
法律上、休職制度の設置は企業の義務ではありませんが、多くの企業では従業員のケアや人材確保の観点から制度として取り入れています。休職制度があることで、優秀な人材の離職を防ぎ、安心して治療に専念できる環境を提供することができるのです。
例えば、A社では従業員のメンタルヘルス不調に対し、最長1年間の休職期間を設けるとします。この間、従業員は治療に専念でき、回復後に元の職場に戻れる安心感から、結果的に採用コストの削減と組織への信頼向上につながっていくでしょう。
休職と有給休暇の違い
休職と有給休暇は、一見似ているようで全く異なる制度です。その違いを理解しておくことは、適切な運用のために欠かせません。以下にその違いをまとめました。
休職 | 有給休暇 | |
目的 | 長期間の療養や特定事由による休業 | 心身のリフレッシュや私用のための休暇 |
期間 | 数週間〜数年(就業規則による) | 法定日数(最大40日)の範囲内 |
給与 | 原則無給(会社規定による) | 有給(100%支給が原則) |
取得条件 | 就業規則に定められた要件を満たす必要あり | 6カ月継続勤務で法的に付与される権利 |
申請手続き | 診断書など証明書類が必要なケースが多い | 原則自己申告のみ(理由不要) |
例えば、うつ病で数カ月の療養が必要な場合、まず有給休暇を取得し、その後必要に応じて休職へ移行するというのが一般的なフローとなります。
有給休暇は法的権利であり、休職は会社の制度という違いを押さえておきましょう。
休職制度の種類
休職にはさまざまな種類があります。企業としてどのような休職制度を設けるべきか、各種類の特徴を理解しておきましょう。
私傷病休職は最も一般的な休職制度
私傷病休職とは、業務を原因としない病気やけがで従業員が就業できなくなった場合に、事業主が従業員の就業を免除して休ませることを指します。最も一般的な休職制度であり、多くの企業で導入されています。
私傷病休職の期間は、一般的に勤続年数に応じて3カ月〜1年程度と設定されていることが多いですが、会社によって異なります。自社の就業規則を確認し、必要に応じて見直すことも検討しましょう。
自己都合休職
自己都合休職は、社員の個人的な事情による休職制度です。例えば、家族の介護、配偶者の転勤に伴う帯同、資格取得のための修学などが理由として挙げられます。
自己都合休職は義務ではなく、企業の裁量で設けることができる制度です。導入する場合は、対象となる事由や期間、給与の取り扱いなどを就業規則に明確に定めておくことが重要です。
出向休職
出向休職は、従業員が他の会社に出向する際に適用される休職制度です。出向とは、雇用関係を維持したまま他社で働くことを指します。
グループ企業への出向や、取引先企業への応援など、さまざまなケースで活用されます。出向中の給与や社会保険の取り扱いについては、出向元と出向先で取り決めを行い、明確に文書化しておくことが望ましいでしょう。
起訴休職
起訴休職は、従業員が刑事事件で起訴された場合に適用される休職制度です。有罪が確定する前の段階で、企業イメージへの影響や職場秩序の維持を考慮して設けられています。
起訴休職を適用する際は、「推定無罪の原則」を念頭に置き、慎重な判断が求められます。起訴の内容や会社への影響度などを総合的に検討し、対応を決定することが重要です。
組合専従休職
組合専従休職は、労働組合の専従役員として活動するために認められる休職制度です。この制度は憲法で保障された労働三権に基づき、労使間の協約により運用されています。
組合専従者は労働組合の業務に専念するため、会社業務からは離れますが、雇用関係は維持されます。専従期間中の賃金支払いは労組への経理上の援助とみなされる可能性があるため、労使間で慎重に協定を結ぶことが必要です。
休職発生時の実務対応フロー
休職者が発生した際の対応は、初動が肝心です。法的リスクを避け、円滑に進めるための実務フローを確認しておきましょう。
休職申し出の受理
社員から休職の申し出があった場合、まず冷静に対応することが重要です。具体的な流れは以下の通りです。
- 面談の実施:休職理由や状況を丁寧にヒアリングする
- 診断書の提出依頼:特に私傷病休職の場合は、医師の診断書を提出してもらう
- 休職願の受理:社内規定の書式で休職願を提出してもらう
- 休職条件の説明:期間や給与、社会保険の取り扱いなどを説明する
- 社内手続きの開始:人事システムの更新や社内連絡など
この初動対応を丁寧に行うことで、後々のトラブルを防ぐことができます。
休職中の給与・社会保険・手当の取り扱い
休職中の経済面は社員の大きな不安要素です。主なポイントを押さえておきましょう。
給与は原則として無給が一般的ですが、私傷病休職の場合は健康保険から傷病手当金(標準報酬日額の2/3)が最長1年6カ月支給されます。会社によっては独自の休業補償制度を設けているケースもあります。
社会保険(健康保険・厚生年金)は継続されますが、保険料の本人負担分の支払い方法を事前に確認しておく必要があります。同様に住民税についても、普通徴収への切り替えなど対応が必要です。
通勤手当などの実費支給は原則不支給となりますが、役職手当や賞与の取り扱いは会社規定によります。
これらの内容は就業規則に明記し、休職者に丁寧に説明することが大切です。
参照:「傷病手当金」について
休職者との適切なコミュニケーションを取る
休職中も社員とのつながりを維持することは、スムーズな復職に向けて非常に重要です。しかし、過度な連絡は負担になる可能性もあるため、適切な頻度を保つことが求められます。
以下のようなポイントを押さえてコミュニケーションを実施するとよいでしょう。
- 連絡頻度と方法を事前に本人と相談して決める
- 本人の状態に合わせて柔軟に対応する
- 業務の話より本人の回復状況を優先する
- プライバシーに配慮し、必要以上の情報収集は避ける
- 復職を焦らせるような言動は控える
こうした配慮あるコミュニケーションが、休職者の安心感につながり、結果的にスムーズな復職を後押しするのです。
休職制度の適切な運用が組織の信頼を築く
休職制度は単なる人事制度ではなく、組織の価値観を示すものです。適切な運用は、従業員からの信頼獲得につながります。
近年、メンタルヘルス不調による休職が増加している中、企業の対応力が問われています。単に制度を整備するだけでなく、「困ったときに頼れる会社」という認識を社員に持ってもらうことが重要です。
休職制度の運用では、制度や規則を機械的に適用するのではなく、一人一人の状況に合わせた柔軟な対応を心掛けましょう。それが結果的に、組織全体の信頼構築につながるのです。
休職制度は、従業員のセーフティーネットであると同時に、企業の姿勢を示す重要な制度です。適切な制度設計と運用により、従業員が安心して働ける環境を整え、組織全体の信頼関係を強化していきましょう。