ウェルビーイング経営の事例を紹介。企業の取り組みについても解説
近年、従業員のウェルビーイングへの関心が高まっています。離職率の上昇や生産性の低下に悩む企業が増える中、ウェルビーイング経営は企業にどのようなソリューションをもたらすのでしょうか。本記事では、ウェルビーイング経営の意義や成功のポイント、さらに具体的な企業の取り組み事例をご紹介します。
そもそもウェルビーイングとは何か
従業員の健康や幸福度が企業の持続的な成長に直結するという認識が広がっています。そこで注目を集めているのが「ウェルビーイング経営」です。まずは基本的な概念から、企業における実践方法までを詳しく解説していきます。
ウェルビーイングとは「良好な状態」のこと
ウェルビーイングとは、単なる健康状態だけでなく、身体的、精神的、社会的に良好な状態を指す概念です。世界保健機関(WHO)は、ウェルビーイングを「単に病気でない、虚弱でないというだけでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態」と定義しています。
現代社会において、この考え方は個人の生活の質を測る重要な指標となっています。具体的には、充実した人間関係、仕事での達成感、経済的な安定性などが含まれ、総合的な幸福度を表す言葉として使われています。
ビジネスで使われるウェルビーイングの意味
企業におけるウェルビーイングは、従業員が心身ともに健康で、仕事に対して充実感や満足感を持てる状態を指します。
具体的なシーンとしては、適切なワークライフバランスの実現、職場での良好な人間関係の構築、キャリア開発の機会提供などが挙げられます。
そのため、企業は従業員の健康管理だけでなく、働きがいの創出や成長機会の提供にも注力する必要があります。これらの取り組みは、結果として企業の生産性向上や人材定着率の改善につながることが期待されています。
ウェルビーイングが求められる背景
現代社会において、企業がウェルビーイングに注目する背景には複数の要因があります。その一つが、働き方改革の推進による労働環境の見直しです。
加えて、Y世代・ミレニアル世代やZ世代による社会での活躍により、従業員の価値観や働き方に対する考え方が大きく変化しています。
また、新型コロナウイルスの影響でリモートワークが一般化したことで、従業員の心身の健康管理がより重要になっています。そのため、企業は従業員の総合的な幸福度を高める施策の実施が不可欠となっているのです。
ウェルビーイング経営のメリット
企業がウェルビーイング経営に取り組むことで、様々な経営課題の解決につながります。ここでは、具体的なメリットと、それらが企業にもたらす価値について解説していきます。
従業員の生産性と創造性の向上
ウェルビーイング経営の導入により、従業員の心身の健康状態が改善され、仕事への集中力や意欲が高まります。
実際の企業では、フレックスタイム制度の導入や休憩スペースの整備により、従業員の生産性が向上したケースが報告されています。
心身の状態が良好であることで、創造的な発想が生まれやすくなり、イノベーションの創出にもつながります。その結果、企業全体の業績向上に寄与することが期待できます。
離職防止
従業員のウェルビーイングに配慮することで、職場への満足度が高まり、離職率の低下につながります。
一例を挙げると、メンタルヘルスケアの充実や柔軟な働き方の導入により、従業員の定着率が改善した企業があります。
加えて、社内コミュニケーションの活性化や公平な評価制度の確立により、従業員の帰属意識が高まることも報告されています。
これらの取り組みにより、優秀な人材の流出を防ぎ、組織の安定性を維持することができます。
組織の持続可能性と競争力の強化
ウェルビーイング経営は、組織の長期的な発展に大きく貢献します。従業員が健康で活力に満ちた状態で働くことで、組織全体の生産性が向上し、持続的な成長が可能となります。
具体的には、従業員の健康管理コストの削減、業務効率の改善、新規事業の創出などにつながっています。
その結果、企業の競争力が強化され、市場での優位性を確保することができるのです。
ブランドのイメージアップ
ウェルビーイング経営に積極的に取り組む企業は、社会的な評価が高まる傾向にあります。ある企業では、従業員満足度の向上や働き方改革の推進により、企業ブランドの価値が向上したケースがあります。
そのため、優秀な人材の採用や取引先との関係強化にもつながり、企業価値の向上に寄与します。
さらに、ESG投資の観点からも、ウェルビーイング経営は重要な評価指標となっています。
ウェルビーイング経営を成功させるためのポイント
ウェルビーイング経営を効果的に推進するには、いくつかの重要なポイントがあります。以下では、成功のための具体的な施策と実践方法についてご紹介します。
経営層のコミットメントと全社的な理解
ウェルビーイング経営の成功には、経営層の強いコミットメントが不可欠です。経営者自らが率先して取り組むことで、従業員全体への浸透が促進されます。
具体的には、定期的な従業員との対話の機会創出や、施策の効果測定、改善点の把握などが重要です。
そのためには、経営層と現場のコミュニケーションを密にし、全社一丸となって取り組む体制を構築する必要があります。
個々の従業員ニーズに応じたカスタマイズ
従業員一人ひとりのニーズは異なるため、画一的なアプローチではなく、個別の状況に応じた施策が求められます。
ケースとしては、育児や介護との両立支援、キャリア開発プログラムの提供、メンタルヘルスケアなど、多様なニーズに対応した取り組みが挙げられます。
このようなカスタマイズの結果、従業員の満足度が高まり、施策の効果を最大限に引き出すことができます。
労働環境を改善し働きやすい職場を作る
快適な労働環境の整備は、ウェルビーイング経営の基盤となります。具体的には、オフィスの環境改善、休憩スペースの充実、リモートワーク環境の整備などが重要です。
また、ハラスメント対策や公平な評価制度の確立も、働きやすい職場づくりには欠かせません。
これらの取り組みにより、従業員が安心して能力を発揮できる環境が整います。
DXの推進
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、ウェルビーイング経営を支える重要な要素です。
業務の自動化やデジタルツールの活用により、従業員の業務負担を軽減し、より創造的な業務に注力できる環境を整えることができます。
加えて、データ分析を活用することで、施策の効果測定や改善点の把握が容易になり、より効果的なウェルビーイング施策の実施が可能となります。
ウェルビーイング経営の成功事例
日本を代表する企業各社は、独自の視点でウェルビーイング経営を実践し、着実な成果を上げています。業界や企業規模は異なっていても、経営層の強いコミットメントと、従業員一人ひとりに寄り添った施策の展開という共通点が見られます。ここでは、トヨタ自動車、楽天グループ、丸井グループ、積水ハウス、イケア・ジャパンの5社の具体的な取り組みを紹介し、その成功要因を探ります。
トヨタ自動車
トヨタ自動車では、「トヨタフィロソフィー」を通じてウェルビーイング経営を実践しています。同社が掲げる「幸せの量産」という独自のミッションは、従業員のウェルビーイングを超えて、世界中の人々の幸せを創出することを目指しています。
社内では健康経営を重要な経営課題として位置づけ、従業員の心身の健康管理を徹底的にサポートしています。
具体的には、健康管理システムの導入による予防医療の推進や、働き方改革による労働生産性の向上に取り組んでいます。
また、キャリア開発支援プログラムを充実させることで、従業員の自己実現をサポートし、組織全体の活力向上にも成功しています。
楽天グループ
楽天グループでは、「Well-being First」を掲げ、包括的なウェルビーイング施策を展開しています。特筆すべきは、CWO(Chief Well-being Officer)を置き、Body(健康的な体)、Mind(健康的な心)、Social(健康的な社会とのつながり)の3つの観点から従業員の健康を支援している点です。
具体的な取り組みとしては、定期的なウェルビーイングサーベイの実施によるモニタリング、社内ウォークラリーイベントの開催、全社朝会でのストレッチタイムの設定などがあります。
また、産業医との連携や健康管理アプリの活用により、従業員の健康状態を継続的に把握し、必要に応じて個別サポートを提供しています。
丸井グループ
丸井グループは、従業員主導型のウェルビーイング経営を実践しています。特徴的なのは「手挙げ式」のウェルビーイングプロジェクトで、健康経営のビジョン策定から社内研修の企画まで、従業員が自発的に参画できる仕組みを構築しています。
プロジェクトメンバーの募集では、従業員の積極的な参加を促すため、氏名や所属を伏せた作文による選考を実施。
定期的なメンバーの入れ替えにより、新しい視点を取り入れながら、組織全体への浸透を図っています。この取り組みにより、従業員のエンゲージメント向上と組織の活性化を実現しています。
積水ハウス
積水ハウスは、「世界一幸せな会社」を目指し、企業理念に基づくウェルビーイング経営を展開しています。
同社の特徴は、「人間愛」を根本に据え、「人の幸せを願って親切に」「感謝を伝え合うこと」を重視している点です。具体的な施策として、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、キャリア自律の3つを柱に据え、社員の成長を支援しています。
特に上司と社員のコミュニケーションを重視し、個々の社員の希望や課題に寄り添った支援を提供することで、持続可能な成長を実現しています。
イケア・ジャパン
イケア・ジャパンは、「より快適な毎日を、より多くの方々に」というビジョンを従業員(コワーカー)にも適用し、独自のウェルビーイング施策を展開しています。
特筆すべきは、多様なライフスタイルに対応した働き方の選択肢を提供している点です。週12〜24時間勤務と週25〜38時間勤務の短時間正社員制度を導入し、無期限雇用契約で雇用の安定性を確保しています。
また、充実した福利厚生として、事業所内保育施設の設置、コワーカー割引、食事補助などを提供しています。さらに、ヘルスケアサポートや長期療養補償保険の導入により、従業員の心身の健康をサポートしています。
ウェルビーイングで企業価値を高める
ウェルビーイング経営は、もはや企業の「付加的な取り組み」ではなく、持続的な成長に不可欠な経営戦略となっています。
本記事で紹介した事例からも明らかなように、従業員のウェルビーイングへの投資は、生産性の向上、イノベーションの創出、人材の定着率向上など、具体的な経営成果につながっています。経営層の強いコミットメント、デジタル技術の活用、従業員参加型の取り組みなど、各社の成功要因を参考に、自社の状況に応じた施策を検討することが重要です。
今後は、従業員の声に真摯に耳を傾け、データに基づいて効果を検証しながら、継続的に施策を改善していくことが求められます。そして、個々の企業の取り組みが、社会全体のウェルビーイング向上につながっていくことが期待されます。ウェルビーイング経営は、企業と従業員、そして社会全体がWin-Winとなる、これからの時代における新しい経営モデルと言えるでしょう。