ウェルビーイング経営とは、従業員が働き続けやすく、力を発揮しやすい職場をつくるために、経営課題と働く環境の課題を結びつけて改善を続ける考え方です。福利厚生や健康施策だけでなく、仕事の進め方や情報共有、マネジメントも見直しの対象になります。
一方で、「ウェルビーイングのために何をするか」から考えると、制度やイベントを増やすことが目的になりがちです。まず、自社でどのような問題が起きているのかを把握し、誰がどのように働ける職場を目指すのかを決めたうえで、必要な施策を選ぶことが大切です。
本記事では、ウェルビーイング経営の考え方から、方針の決め方、施策の選び方、KPI、社内での役割分担までを整理します。施策を導入して終わりにせず、結果を見ながら続けるか、変えるか、やめるかを判断するためにお役立てください。
▼記事のポイントまとめ
・ウェルビーイング経営は、働きにくさの原因を把握し、職場や制度を継続的に見直す考え方
・施策を選ぶ前に、対象となる従業員、目指す職場、経営課題の3点を整理する
・施策が使われたか、働き方に変化があったかを確認し、次の判断へつなげる
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ウェルビーイング経営は、従業員の幸福度を上げること自体を目的とするものではありません。従業員が働き続けにくい原因を把握し、企業が変えられる職場環境や制度を見直しながら、より働きやすい状態へ近づけていく考え方です。
ウェルビーイングの概念を理解する際は、WHOの説明を分けて捉える必要があります。WHO「Constitution of the World Health Organization」が定義しているのは「健康」で、その定義の中に身体的、精神的、社会的なwell-beingという表現が含まれています。この文章を、そのまま「WHOによるウェルビーイングの定義」とするのは正確ではありません。
一方、WHO「Promoting well-being」では、ウェルビーイングを個人や社会が経験する良好な状態として捉えています。ただし、企業がどのようにウェルビーイング経営を進めるべきかについて、WHOが共通の方法を定めているわけではありません。
企業で考える場合は、従業員の感情を会社が管理するのではなく、働きにくさを生んでいる原因に目を向けます。仕事が一部の人に偏っている、必要な情報が届かない、相談しにくいといった問題があれば、企業側で見直せる仕事の進め方や制度から改善します。
本記事では、ウェルビーイング経営を「経営課題を整理する→目指す職場を決める→原因を把握する→施策を選ぶ→現場で運用する→結果を確認する→次の判断へつなげる」という流れで捉えます。この順番で考えると、単発の施策と、経営として継続して見直す取り組みを分けやすくなります。
福利厚生や健康施策は、従業員を支える手段の一つです。ただし、制度やイベントを実施しただけでは、何の課題を改善したいのか、続けるべきかまでは判断できません。ウェルビーイング経営として進めるなら、目的、対象、実施後の確認までをあらかじめ決めておきます。
単発の活動、継続施策、経営として続ける取り組みは、次のように分けられます。
比較項目 | 単発の活動 | 継続的な施策 | 経営として続ける場合 |
主な目的 | 特定の機会をつくる | 特定の課題へ継続して対応する | 経営課題に対して職場や制度を見直し続ける |
例 | 健康イベント、社内交流会など | 1on1、健康支援、称賛制度など | 複数の施策を方針や予算、KPIと結びつけて運用する |
継続性 | 一度で終わる場合もある | 定期的に実施する | 結果を見て継続、修正、中止を判断する |
主に確認すること | 参加人数、感想など | 利用状況、対象課題の変化など | 施策が届いたか、仕事や職場に変化があったか |
経営との関係 | 必ずしも必要ではない | 課題に応じて設定する | なぜ取り組むかを経営課題から決める |
例えば、ウォーキングイベントを一度実施しても、それだけでウェルビーイング経営とは言い切れません。健康面で何が課題なのかを把握し、その課題に対してなぜイベントを行うのか、誰を対象にするのか、終わった後に何を見るのかまで決める必要があります。
福利厚生も同じです。制度を増やしても、そもそも知られていない、申請しにくい、勤務時間の都合で利用できないといった問題が残れば、期待した支援にはなりません。
ウェルビーイング経営では、施策の数ではなく、「何を改善したいのか」「施策は機能したのか」「次に何を変えるのか」までを続けて確認します。
ウェルビーイング経営の方針を決めるときは、施策を選ぶ前に3つの点を整理します。対象とする従業員、目指す職場、経営課題が決まれば、どの施策へ予算や人員を使うかも判断しやすくなります。
確認するのは、次の3つです。
社内で方針を共有する際は、次のように整理できます。
確認する視点 | 決める内容 | 具体例 |
誰を対象にするか | 最初に課題を確認する従業員や職場 | 全従業員、若手社員、店舗勤務者など |
どの状態を目指すか | 仕事をするうえで改善したい状態 | 必要な情報が届く、相談できる、成長について話せる |
どの経営課題と結びつけるか | なぜその改善へ取り組むのか | 拠点間の分断、人材育成、管理職の負担など |
「全社員のウェルビーイング向上」とだけ掲げると、働き方も課題も異なる従業員を一括りにしやすくなります。まずは、どの従業員や職場で課題が強く出ているのかを確認します。
本社勤務者と店舗勤務者では、情報を受け取る方法や勤務時間が異なります。若手社員と管理職でも、仕事上の悩みや負担は同じではありません。対象を分けて見ることで、全社平均だけでは気づきにくい問題を見つけやすくなります。
最初から全員へ同じ施策を広げるのではなく、課題が強く表れている従業員や職場から確認します。
対象を絞ることは、一部だけを優先し続けるという意味ではありません。まず確認する範囲を決め、結果を見ながら他の職種や拠点へ広げます。
対象が決まったら、「ウェルビーイングが高い状態」のような言葉を、その職場で確認できる形に置き換えます。企業が従業員の感情を決めるのではなく、企業側で改善できる働き方や職場環境として考えます。
例えば、拠点間の分断が課題なら「必要な情報を勤務地にかかわらず確認できる」、人材育成が課題なら「上司と今後の成長について話せる」といった形です。ここまで具体化すると、必要な施策や確認項目も決めやすくなります。
健康面でも同じです。「健康な社員を増やす」と会社側で状態を決めるより、無理な働き方が続いていないか、必要な支援を利用できるかといった職場側の条件を確認します。
目指す職場を、実際の働き方や業務の場面が分かる言葉で表すことがポイントです。
目指す職場が決まったら、それが何の経営課題と関係するのかを整理します。この関係が曖昧だと、予算や人員をどこまで使うのか、続けるべき施策なのかを経営側が判断しにくくなります。
多拠点間の情報格差を減らしたいのであれば、情報を全員へ届ける仕組みは拠点間連携の課題と結びつきます。若手育成が課題なら、上司と成長について話せる機会をつくる施策は、人材育成の取り組みとして位置づけられます。
ただし、職場の改善が離職率や業績へ必ず直結するわけではありません。経営指標には、報酬制度や採用、市場環境などほかの要因も影響します。
経営課題と結びつけるのは、成果を先に約束するためではなく、「なぜこの施策へ予算や人員を使うのか」を説明できるようにするためです。
方針が決まったら、次は具体的な施策を選ぶ前に、どの課題へ優先して人員や予算を使うかを決めます。福利厚生、研修、1on1などの施策名から考え始めると、今の課題に本当に必要なのかを見失いやすいためです。
本記事では、検討する領域を次の4つに分けます。
4つすべてへ同時に取り組む必要はありません。自社で何が働きにくさにつながっているかを確認し、影響が大きいところから優先します。
ここでいう健全性とは、従業員が無理なく働き続けるための土台です。業務量が多すぎる、休みにくい、制度に不公平感があるといった問題があれば、交流施策や称賛制度より先に職場側の原因を見直します。
厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」でも、職場環境等の改善がメンタルヘルス対策の一つとして位置づけられています。個人のセルフケアだけでなく、仕事の進め方や職場環境にも目を向ける考え方です。
例えば、管理職の残業が常態化しているなら、リフレッシュイベントを追加するより、業務量や役割分担を見直す方が課題に近い対応です。
この領域では、従業員本人に改善を求める前に、会社側で変えられる働き方や制度に原因がないかを確認します。
なお、病気や心理状態の診断は企業が行うものではありません。専門的な判断や支援が必要な場合は、産業保健などの専門職へつなぎます。
働くための土台が整っていても、必要な情報が届かなかったり、上司や他部署へ相談しづらかったりすれば、仕事は進めにくくなります。この領域では、人間関係そのものより、業務上のやり取りでどこに問題があるかを確認します。
例えば、店舗と本部の間で現場の意見が伝わりにくいなら、交流イベントを増やすより、現場から意見を返せる方法や管理職との対話の場を整える方が直接的です。
目指すのは「仲の良い職場」ではなく、必要な情報や意見をやり取りし、仕事上の相談をしやすい職場です。
心理的安全性も、「何を言っても許されること」ではありません。業務上の責任を保ちながら、疑問や懸念を伝えられる状態として考えます。
仕事を続けるなかで、何を学べるのか、次にどのような仕事へ挑戦できるのかが見えないと、成長を実感しにくくなります。この場合は、研修の数を増やすだけでなく、学んだことを仕事で試せるかまで見ます。
若手育成が課題なら、研修後に実務で試す機会があるか、上司から振り返りを受けられるかを確認します。キャリア面談も、話した内容が仕事の機会や配置とまったく結びつかなければ、本人にとって将来を考える材料になりにくいでしょう。
人材育成では、学ぶ機会だけでなく、学んだことを仕事で使い、次の経験へつなげられるかまで確認します。
従業員が目指すキャリアは一つではありません。会社側で一律の将来像を決めるのではなく、職種や本人の希望に応じて選択肢を持てるようにします。
日々の仕事と会社の方針が結びついていないと、従業員は「なぜこの仕事をするのか」を理解しにくくなります。この領域では、理念を掲示することより、自分の仕事と会社の目指す方向をつなげることが中心です。
例えば、経営層が方針を発信していても、現場の従業員が「自分の仕事では何を変えるのか」を理解できなければ、仕事の進め方には反映されません。顧客の声や社内の取り組みを共有し、方針が実際の仕事とどう関係するかを示す方法があります。
理念への共感を求めるだけでなく、従業員が自分の仕事と会社の目的との関係を理解できるようにします。
4領域を同時に強化する必要はありません。働き続ける土台に問題がある企業なら、理念浸透より先にその原因へ対応するなど、課題の順番に合わせて施策を選びます。
優先する課題が決まったら、方針を実際の施策へ落とし込みます。ここで施策の実施だけを急ぐと、現場で使われなかったり、続けるかどうかを判断できなかったりします。最初の目的設定から実施後の見直しまでを一つの流れで進めます。
実行の流れは、次の7つです。
プロセス | 企業が決めること、確認すること |
1.経営課題と目的を整理する | 何の問題を改善するために取り組むのかを決める |
2.対象を決める | どの従業員や職場から確認するかを決める |
3.目指す状態を定義する | どのような職場にしたいのかを具体化する |
4.現状と阻害要因を把握する | 目標との差と、うまくいっていない原因を確認する |
5.投資する領域と施策の優先順位を決める | 原因に合う施策を選び、必要な予算や人員を決める |
6.施策を現場の日常へ組み込む | 日々の仕事の中で無理なく使える運用にする |
7.結果を経営レビューへ反映する | 結果を見て、続けるか、変えるか、やめるかを判断する |
最初に行うのは、施策選びではありません。多拠点間の情報格差を減らしたいのか、若手育成を進めたいのかによって、見るべき従業員や職場は変わります。まず何のために取り組むのかを決めます。
次に、対象と目指す職場を具体化します。「ウェルビーイングを高める」ではなく、「必要な情報を勤務場所にかかわらず確認できる」「上司へ相談できる」など、実際の仕事で確認できる形にします。
そのうえで、現状との違いと原因を調べます。サーベイだけに頼らず、勤怠や制度の利用状況、従業員から寄せられる声など、課題に関係する情報を組み合わせます。
原因が分かってから施策を選びます。情報が届かないことが問題なら情報共有の方法を、管理職の負担が大きいなら業務量や会議の持ち方を見直すなど、課題とのつながりから選びます。
施策は、流行しているかではなく、確認した原因に合っているかで決めます。
施策が決まったら、実際に使える運用へ落とし込みます。特に店舗や工場では、PCを前提にした情報発信が合わないこともあります。誰が、いつ、どの方法で利用するのかまで決めておくことが欠かせません。
最後は、実施した施策をそのまま続けるのではなく、結果を見て判断します。参加率や閲覧率だけでなく、仕事の進め方や職場での実感に変化があったかを確認し、続けるか、変えるか、やめるかを決めます。
ウェルビーイングへの投資は、施策を始めた直後に離職率や業績へ表れるとは限りません。まず施策が対象者へ届き、働きやすさや仕事の進め方に変化があるかを確認し、その後に経営課題との関係を見ていきます。
確認する流れは、次のように整理できます。
段階 | 主に確認する内容 | 確認する目的 |
施策を始める | 制度、情報発信、対話機会など | 課題に合う取り組みを実施したか |
届く・使われる | 認知、閲覧、参加、利用など | 対象者が施策を知り、利用できたか |
働くうえでの実感 | 相談しやすさ、所属感、成長実感など | 目指した職場へ近づいているか |
仕事の進め方 | 対話、学習、協働など | 実際の仕事に変化が出ているか |
経営指標 | 定着、業務品質、顧客指標など | 経営課題との関係を中長期で確認する |
ここでいう「従業員状態」とは、従業員が仕事をするうえで感じていることを指します。例えば、困ったときに相談できるか、必要な情報を得られるか、成長を感じられるかといった項目です。
上司との対話機会を増やしたなら、面談回数だけではなく、実際に相談しやすくなったかを確認します。制度を実施した事実と、従業員が働きやすくなった実感は分けて見る必要があります。
この段階では、施策の実施有無ではなく、当初改善したかった働きにくさが減っているかを確認します。
全社平均だけを見ると、職種や拠点ごとの差が隠れる場合があります。課題が特定の部署に偏っているなら、その単位でも確認します。
確認するのは、従業員の性格や意識ではなく、仕事の進め方に変化があったかです。部署を越えた相談や情報共有が増えたかなど、当初の課題に関係する変化を見ます。
例えば、「他部署へ相談しやすくなった」という回答が増えていても、実際には部門間のやり取りが増えていない可能性もあります。従業員の実感だけでなく、仕事の進め方まで変わっているかを見ることで、施策がどこまで機能しているかを判断しやすくなります。
「良くなったと感じていること」と「仕事の進め方が変わったこと」は、分けて確認します。
投稿数や面談回数なども、増やすこと自体を目的にしません。経営課題と関係する変化があったかを見ます。
働きやすさや仕事の進め方に変化が出てきたら、次に経営課題との関係を確認します。ただし、離職率や業務品質などは、ウェルビーイング施策以外の影響も受けます。
例えば、若手社員が上司へ相談しやすくなり、その後に定着率にも変化があった場合は、両方の推移を見ます。同じ時期に報酬制度や採用方法を変えていれば、その影響も考慮します。
経営指標は、特定の施策の効果を証明するためではなく、職場で起きた変化と経営課題の関係を長い目で確認するために使います。
途中の変化を見ておけば、翌月の離職率や売上だけで施策を判断する必要はありません。どの段階で止まっているかを確認し、見直す場所を決めます。
ウェルビーイング経営のKPIは、幸福度や満足度だけに絞らないことが大切です。施策を始めても、まず対象者へ届かなければ職場の変化にはつながりません。そのため、準備、利用、働くうえでの実感、仕事の変化、経営指標を分けて確認します。
KPIは、次のように整理できます。
KPIの段階 | 指標の例 | 主に判断すること |
準備 | 予算、担当者、確認する会議など | 継続して運用できる体制があるか |
利用 | 認知率、閲覧率、参加率、利用率など | 対象者が施策を知り、実際に利用しているか |
職場での実感 | 所属感、成長実感、相談しやすさなど | 改善したい職場へ近づいているか |
仕事の変化 | 対話、学習、協働など | 実際の仕事の進め方に変化があるか |
経営指標 | 定着、業務品質、顧客指標など | 経営課題との関係を中長期で確認する |
最初に確認するのは、成果ではなく、施策を続けられる準備ができているかです。担当者が決まっていない、確認する会議がない状態では、施策を始めても改善の判断が止まりやすくなります。
複数拠点で施策を行うなら、周知や問い合わせ対応を誰が担うのか、結果を誰が確認するのかまで決めます。予算額の大きさそのものより、必要な人員と時間を確保できているかを見ることが大切です。
最初に見るのは成果ではなく、施策を運用し、結果を見て判断できる準備が整っているかです。
施策を始めたら、対象者へ届いているかを確認します。制度を作ったことと、従業員が存在を知り、実際に利用できることは別です。
本社では閲覧率が高くても、店舗や工場では勤務中に情報を見る時間がなく、利用が進まないこともあります。その場合は、施策内容より先に情報の届け方を見直します。
認知率、閲覧率、参加率、利用率は、対象者が施策を知り、実際に使っているかを確認する指標です。
利用率が低いときも、従業員の関心が低いと決めつけず、周知方法や利用条件に問題がないかを確認します。
施策が使われていることを確認したら、当初改善したかった働きにくさに変化があるかを見ます。ここで測る項目は、自社が最初に決めた課題とつながっている必要があります。
若手育成が課題なら、研修への参加率だけでなく、上司と今後の成長について話せているかを確認します。多拠点間の分断が課題なら、必要な情報を得られているかを見る方が、目的に合った指標です。
この指標は「幸福度を高く見せるため」ではなく、最初に改善したかった職場へ近づいているかを見るために使います。
従業員の実感に変化があっても、仕事の進め方が変わっていなければ、経営課題への影響はまだ判断できません。次に、日々の仕事で実際に何が変わったかを確認します。
部署間の連携が課題なら、交流イベントの満足度ではなく、部門を越えた相談や情報共有が行われているかを見ます。理念浸透が課題なら、理念に触れた回数より、仕事の判断に方針が使われているかを確認します。
回数を増やすことではなく、改善したかった仕事の進め方に変化が出ているかを指標にします。
投稿数や面談回数だけを目標にすると、形式的な運用が増えることもあるため注意が必要です。
最後に、職場で起きた変化と経営課題との関係を中長期で確認します。定着率や業務品質などは判断材料になりますが、ウェルビーイング施策だけで決まるものではありません。
若手の定着率が変化していても、同じ時期に報酬制度や採用方法を変えていれば、その影響も考える必要があります。特定の施策だけを原因とせず、従業員の実感や仕事の変化と合わせて見ます。
確認する時期も分けます。施策開始直後は認知や利用、中期では働くうえでの実感や仕事の変化、長期では経営指標との関係を見ると、短期の数字だけに振り回されにくくなります。
経営指標は、施策の効果を単独で証明するためではなく、職場で起きた変化が経営課題とどう関係しているかを継続して確認するために使います。
KPIを決めても、誰が確認し、誰が判断するのかが曖昧では改善は進みません。経営層、人事・専門職、管理職、従業員で役割を分け、施策を始める人と結果を見て判断する人を明確にします。
主な役割は、次の4つです。
全体の役割分担は、次のように整理できます。
主体 | 主な役割 |
経営層 | 目的と優先順位を決め、結果を見て次の判断をする |
人事、総務 | 課題を把握し、施策の設計、運用、確認を進める |
産業保健、専門職 | 健康面や心理面で専門的な支援や判断を担う |
情報システム | 利用環境、権限、データ管理を支える |
管理職 | 日々の仕事の中で対話や業務量の調整を行う |
従業員 | 施策を利用し、使いにくさや改善意見を伝える |
ウェルビーイング経営を続けるには、経営層が「何の課題を改善するために取り組むのか」を明確にします。人事へ企画を任せるだけでは、予算や人員の優先順位を決める場面で取り組みが止まりやすくなります。
多拠点間の情報格差が課題なら、経営層は「必要な情報を拠点にかかわらず確認できる状態を目指す」といった方針を示します。そのうえで、どこまで予算や人員を使うのかを判断します。
経営会議では、参加率やサーベイ結果だけでなく、最初に設定した課題が改善しているかを確認します。変化がなければ、従業員側に原因を求めるのではなく、施策や職場の仕組みを見直します。
経営層の役割はウェルビーイングを掲げることではなく、何を改善し、どこへ予算や人員を使い、何を見直すかを判断することです。
経営方針が決まったら、人事、総務は実際の職場で運用できる形にします。どの課題へどの施策を当てるのか、何を見れば改善したと判断できるのかを整理します。
人事だけですべてを抱える必要はありません。業務量や配置の問題は現場責任者、システムやデータ管理は情報システム、健康や心理面は産業保健など、課題に応じて担当を分けます。
人事、総務は施策を増やす担当ではなく、経営方針を現場で実行できる形にし、必要な担当者をつなぐ役割を担います。
制度を作っても、職場で使われるかどうかは管理職の関わり方に左右されます。1on1や情報共有を「人事から追加された業務」として形式的にこなすだけでは、本来の課題は改善しません。
例えば、部下が相談しやすい職場を目指して1on1を行うなら、実施率だけでなく、進捗確認以外の相談ができているかを見ます。一方で、管理職自身が忙しすぎるなら、面談回数を増やす前に業務量を見直す必要があります。
人事は管理職へ実施を依頼するだけでなく、何を確認する場なのか、どこから先を人事や専門職へつなぐのかまで共有します。
管理職には施策の実施だけを求めず、日々の仕事の中で何を見るのか、どこまで対応するのかを明確にします。
経営層や人事だけで制度を決めると、実際の働き方に合わない運用になることがあります。特に店舗や工場では、本社が想定した利用時間や端末が現場に合わないこともあります。
施策を始める前後で、従業員が利用できているか、負担が増えていないかを確認します。すべての要望を反映する必要はありませんが、利用されない理由を「従業員の意欲が低い」で片づけないことが大切です。
サーベイやイベントへの参加を実質的に強制すると、率直な反応を得にくくなります。回答や参加の目的、集めた情報の使い方をあらかじめ伝えます。
従業員の声は、施策が実際の働き方に合っているかを確かめ、運用を直すための材料として扱います。
推進する担当者がいても、目的や運用を誤れば、制度だけが残って改善につながらないことがあります。特に、数値を上げることや施策を続けること自体が目的になると、本来の課題から離れてしまいます。
代表的な失敗は、次の5つです。
サーベイを実施しても、スコアを上げること自体が目標になると、職場で起きている問題を見つけにくくなります。数値が低い部署へ肯定的な回答を求めれば、調査の意味そのものが失われます。
サーベイ結果を個人評価へ安易に結びつけることにも注意が必要です。率直に答えにくくなるため、何のために実施するのか、誰が見るのか、どの単位で集計するのかを事前に決めます。
サーベイは良い点数を取るためではなく、どこに働きにくさがあるのかを見つけるために使います。
他社で話題になっている施策から始めると、自社の課題と合わないまま運用が続くことがあります。1on1やサンクスカードそのものが問題なのではなく、「なぜ自社で行うのか」が決まっていないことが問題です。
若手育成が課題なら、交流イベントを増やす前に、上司との対話や成長機会に問題がないかを確認します。多拠点間の情報格差が課題なら、必要な情報がどこで止まっているのかを見る方が先です。
施策は、経営課題とその原因を確認したうえで、なぜ選ぶのかを説明できるものにします。
新しい施策を増やし続けているのに、何をやめるべきか判断できない場合は、目的と施策の関係が曖昧になっている可能性があります。
経営層や人事が制度を決めても、対象となる従業員が知らなければ利用されません。店舗や工場では、本社と同じPC環境を前提にすると、そもそも情報へアクセスしにくい場合があります。
社内ポータルへ制度を掲載しても、勤務中にPCを見ない従業員には届きません。サーベイも、回答する時間や端末がなければ、回答率の低さだけで関心がないとは判断できません。
制度を用意したかではなく、対象となる従業員が知り、利用できるところまで設計できているかを確認します。
全社平均だけでなく、拠点や職種ごとに利用状況が偏っていないかも見ます。
働きにくさを個人の気持ちや生活習慣だけの問題として扱うと、職場側にある原因を見落とします。業務量が多すぎる、相談できる時間がないといった問題は、本人の意識だけでは変えられません。
例えば、「もっとコミュニケーションを取ろう」と呼びかけても、管理職が忙しすぎて話す時間を確保できないなら、従業員の積極性だけを求めるのは適切ではありません。
従業員に変化を求める前に、会社側で変えられる仕事の進め方や制度に原因がないかを確認します。
また、企業が従業員の私生活や感情へ過度に踏み込むことも避けます。企業が責任を持って見直せる範囲に絞ります。
施策を毎年続けていても、「昨年も実施したから」という理由だけでは、経営として見直しているとは言えません。参加率やサーベイ結果を集計しても、人事部の報告で終われば、次の判断には使われません。
経営会議では、最初に設定した課題が改善しているかを確認します。変化が小さい場合も、施策そのものが悪いと決めつけず、そもそも対象者へ届いていたか、原因に合う施策だったかを見直します。
反対に、参加率が高くても、当初の課題との関係が薄ければ続ける理由はありません。
経営会議では、施策を続けることを前提にせず、結果をもとに「続けるか、変えるか、やめるか」を判断します。
方針や施策が決まっても、従業員へ届かなかったり、継続して使われなかったりすれば改善にはつながりません。一方、健康や心理面の専門支援、経営方針の設計は、社内コミュニケーションの仕組みだけでは対応できない領域です。自社で足りない支援に合わせて手段を選びます。
活用できる主な選択肢は、次の4つです。
ツール・ サービス | 主に支える範囲 | 向いている課題 |
社内SNS | 情報共有、参加、称賛、利用状況の確認 | 施策が届かない、継続しにくい、拠点間の情報共有が弱い |
サーベイ | 従業員の実感や職場環境の把握 | 現状や変化を定期的に確認したい |
健康管理、EAP | 健康面や心理面の専門支援 | 専門的な相談や支援体制が必要 |
コンサルティング | 方針、優先順位、KPIの設計支援 | 社内だけでは取り組み方を整理しにくい |
制度を作っても現場へ届かない場合は、情報発信の回数を増やすだけでなく、従業員が普段使う環境へ案内や申請をまとめる方法があります。
TUNAG「機能一覧」では、社内掲示板、タイムライン、サンクスカード、社内アンケート、分析ダッシュボードなどの機能が公開されています。スマートフォンから利用できるため、店舗や拠点を含めた情報共有にも活用できます。
例えば、経営方針を発信する、従業員同士の貢献を共有する、制度の閲覧状況や利用状況を確認するといった運用が可能です。日報や申請など日々の仕事でも使う環境にまとめれば、施策ごとに別のツールへ移動する負担も減らせます。
TUNAGはウェルビーイング経営そのものを担うサービスではなく、決めた施策を従業員へ届け、日々の運用を続ける部分を支えるサービスです。
経営戦略や人事制度そのものを設計したい場合や、健康面や心理面の専門支援が必要な場合は、別のサービスや専門家と役割を分けます。
<<TUNAG
施策が利用されていることを確認した後は、当初改善したかった働きにくさに変化があるかを見ます。そのための手段の一つが従業員サーベイです。
質問項目は、「幸福ですか」といった一つの尺度だけではなく、自社の課題に合わせて設定します。多拠点間の分断が課題なら、必要な情報を得られているか、他拠点へ相談しやすいかを確認する方が目的に合います。
サーベイは従業員を評価するためではなく、職場のどこを見直すべきかを判断するために使います。
回答目的や閲覧権限を明確にし、少人数の部署では個人を推測できないよう配慮します。
職場環境を見直すだけでは対応できず、健康や心理面で専門的な支援が必要になる場合があります。その領域は、人事や管理職が自己判断で対応せず、産業保健や医療や心理の専門職、EAPなどと役割を分けます。
企業側が担うのは、相談先を用意し、必要な従業員が専門支援へつながれるようにすることです。管理職が相談を受けた場合も、自ら診断したり治療方法を示したりせず、決められた窓口へつなぎます。
健康や心理面で専門的な対応が必要な場合は、会社の中だけで抱えず、適切な支援先へつなげる体制を整えます。
社内コミュニケーションの改善と、医学的、心理学的な支援は分けて考えます。
施策を選ぶ前の段階で、「何を優先するか」「何をKPIにするか」を社内だけで整理しにくい場合は、外部の専門家へ支援を求める方法があります。
複数の経営課題が絡んでいる企業では、ツールや福利厚生を先に導入するより、まず課題と優先順位を整理した方が、各施策の役割を決めやすくなります。ただし、外部へ任せきりにすると、現場の実態と離れた計画になるおそれがあります。
外部支援を使う場合も、最終的に何を優先し、何を続けるかは自社で判断します。
社内SNS、サーベイ、専門サービス、コンサルティングは、どれか一つでウェルビーイング経営が完成するものではありません。自社で足りない部分を見極め、それに合う手段を選びます。
ウェルビーイング経営は、福利厚生やイベントを増やすことではありません。従業員が働きにくさを感じている原因を把握し、会社側で変えられる仕事の進め方や制度を見直し、その結果を次の判断へつなげる取り組みです。
経営会議で方針を決めるだけでも、現場で施策を実施するだけでも十分ではありません。経営側は何を改善するのかを決め、現場では施策が実際に使われているか、仕事のしやすさに変化があるかを確認します。
また、企業が目指すのは、従業員の幸福度を上げること自体ではありません。会社側で見直せる仕事の進め方や制度に目を向けます。施策を始めた後も、一つのスコアだけで判断せず、施策が対象者に届き、実際に使われているか、仕事の進め方に変化があったかまで確認します。
まずは、自社で改善したい課題を一つ決めてください。そのうえで、「誰に起きているか」「どのような職場にしたいか」「何が原因になっているか」を整理し、現在の制度や仕事の進め方で対応できているかを確認するところから始めましょう。