承継会社とは?会社分割との関係やメリット・リスク、手続きの流れ
企業再編における承継会社は、既存の事業を引き継ぎ新たな成長を目指す存在です。会社分割を通じて効率的に事業承継を行える一方で、株主や債務に関するリスクを負う場合もあります。本記事では、承継会社の基本や活用方法、手続きの流れを解説します。
承継会社とは
承継会社とは、企業の組織再編などにおいて、他の会社から切り離された事業をまるごと引き継ぐ会社のことです。多くの経営者や管理部門の方々が直面する事業再編の課題において、承継会社の仕組みを理解することで、効率的な組織再編の道筋が見えてきます。
ここでは、承継会社の基本的な仕組みから事業譲渡との違い、実務での活用方法、そして発生する費用まで、経営判断に必要な情報を詳しく解説していきます。
会社分割で事業を受け継ぐ会社
ある会社が自社の事業や権利義務の一部または全部を別法人に移転させる組織再編の手法が会社分割です。会社分割には吸収分割と新設分割の2つの方式があり、これらを通じて分割された事業を受け取り、自社で継続・運営する法人を承継会社と呼びます。
承継会社は、元の事業を切り出した企業から営業活動・契約・従業員・資産・負債などを包括的に引き継ぐため、ワンストップで事業を受け継ぐことが可能です。個別の契約の再締結や従業員の同意を都度取得する必要がないため、事業移転の効率化やスムーズな承継が期待されます。
会社分割と事業譲渡の違い
会社分割と事業譲渡では、事業を新しい会社へ移すという点は共通しますが、手続きやリスクの取り扱いが大きく異なります。
会社分割では、分割元から契約・資産・負債・従業員を包括的に引き継ぐため、個別の契約再締結や合意が不要で、事業移転の効率化が図れます。一方、事業譲渡では資産・契約・負債を個別に譲渡・承継するため、譲渡対象ごとの精査・交渉や取引先・従業員との再契約・同意取得が必要です。
また、事業譲渡では債務の引き受け方や譲渡範囲の設定によって、譲受企業のリスク負担や税務処理が細かく変わってきます。こうした違いを踏まえ、どちらの方式を選ぶかは目的やリスク許容度に応じて慎重に判断すべきです。
承継会社の活用方法
承継会社は会社分割において、多様な目的に応じた柔軟な使い方ができます。代表的な活用方法は以下の通りです。
- 後継者育成の一環として事業を承継し、経営をスムーズに引き継ぐ
- グループ内再編を行い、事業の選択と集中を実現する
- 複数の事業を分割して新会社に承継させ、効率的な運営体制を構築する
- 新規事業の立ち上げにあたり、既存事業を切り出して承継会社で展開する
- M&Aの手法として活用し、現金を伴わずに事業を取得する
- 一定の条件を満たせば、会社分割における税制優遇措置を享受できる
これらの手法を適切に活用することで、企業の成長戦略や事業承継の課題解決に役立てることが可能です。
会社分割で承継会社に発生する費用
承継会社を設立・運営する際には、会社分割に伴っていくつかの費用が発生します。主なものは登録免許税や官報公告費、専門家への報酬です。
吸収分割における承継会社の登録免許税は、資本金が増加しない場合は3万円、資本金が増加する場合はその増加分の0.7%(ただし最低3万円)となります。また、会社分割を公告するために官報掲載費用が必要で、文字数や行数によって3万円から10万円程度かかります。
さらに、弁護士・司法書士・M&A仲介会社といった専門家に依頼する場合には、その報酬も別途発生し、案件の規模や内容に応じて金額が変動します。
出典:官報公告掲載料金 | 官報公告 | 全国官報販売協同組合
承継会社になるメリット
承継会社は、現金を準備せずに事業を引き継げるなど、効率的な再編を可能にします。手続きの迅速さやシナジー効果も大きな利点です。
事業を買い取るための現金を用意する必要がない
承継会社が事業を買い取る際は、事業の対価を現金以外で支払う設計が可能であり、必ずしも現金を手元に準備する必要がありません。
特に吸収分割のスキームでは、承継会社が分割会社に対して自社株式やその他の財産で対価を支払うことで事業を引き継げるため、手元資金が乏しい企業でもM&Aが実現しやすくなります。
法的手続きが比較的スムーズに進む
会社分割は包括承継を基本とするため、事業譲渡のように資産や契約を個別に移転する手続きに比べ、法的な手続きが比較的短期間で完了する傾向にあります。
特に、従業員との関係においては、一人ひとりと個別に雇用契約を再締結する必要はありません。その代わり、労働契約承継法に基づいた丁寧な通知と協議が義務付けられています。これは、従業員の雇用と労働条件を保護し、不安を解消するための重要なプロセスです。こうした適切なコミュニケーションを通じて従業員の理解を得ることは、円滑な組織統合を実現し、承継後の事業の成功の礎を築くことにつながります。
シナジー効果を期待できる
承継会社が既存の事業全体を引き継ぐことにより、既存事業と新たに承継した事業との連携を深め、事業拡大や効率化を図るシナジー効果を期待できます。
例えば、顧客基盤や販売チャネル、人材・ノウハウが一体となることで、従来の市場以上の収益創出や新市場への展開が可能になります。さらに、統合によるコスト削減や販売力強化を通じて、事業価値の向上を図れる点もメリットです。
承継会社になるリスク
承継会社は事業承継を円滑に進められる一方で、思わぬリスクを抱える可能性もあります。前述したメリットだけでなく、リスクについても理解しておきましょう。
想定外の株主が経営に参加する可能性がある
会社分割により承継会社となる場合、事業の対価を株式で支払うケースでは注意が必要です。分割会社の株主が対価として承継会社の株式を受け取ることで、承継会社の株主構成が変化し、これまで想定していなかった株主が経営に関与する可能性があります。
株主構成が変化すると、経営の自由度や意思決定に影響を及ぼすリスクがあるため、あらかじめ株主の意向や関係性を十分に確認しておくことが重要です。
隠れた負債を引き継ぐ
会社分割では、承継会社が資産や契約と一緒に負債も包括的に引き継ぎます。この際、帳簿に記載されていない簿外債務や偶発債務が含まれている可能性があり、想定外の支出や経営リスクにつながる恐れがあります。
承継前にデューデリジェンス(買収監査)を徹底し、リスクの有無や範囲を明確にしておくことが重要です。
統合作業に時間がかかる
会社分割を通じて承継会社となる場合、事業自体の移転手続きは包括的に行える一方で、実際の統合作業には時間と手間がかかります。従業員やシステム、取引先との調整など、承継後の運営体制を整えるには相応の準備が必要です。
これらを十分に準備せずに進めると、業務の停滞や社内混乱を招くリスクが高まります。事前に綿密な計画とスケジュール管理を行うことが不可欠です。
承継会社の手続きの流れ
承継会社となるには、会社分割の方式に応じた手続きを踏む必要があります。吸収分割と新設分割における承継会社の手続きの流れを確認しましょう。
吸収分割における承継会社の手続き
吸収分割で承継会社となる場合には、明確な手続きが求められます。大まかな流れは以下の通りです。
- 分割会社との間で分割契約書を作成・締結する
- 取締役会や株主総会で承認決議を行う
- 債権者保護手続きを実施し、公告や個別催告を行う
- 労働契約の承継に伴う労働者への通知および協議を行う
- 必要に応じて、許認可や契約の承継について関係機関と調整する
- 登録免許税を納付し、登記申請を行う
新設分割における承継会社の手続き
新設分割で承継会社となる場合には、新会社を設立するためのプロセスを踏まえた上で手続きを進める必要があります。
- 分割会社との間で分割計画書を作成する
- 取締役会や株主総会で承認決議を行う
- 債権者保護手続きを実施し、公告や個別催告を行う
- 新設する会社の定款を作成し、公証人の認証を受ける
- 資本金の払い込みや出資財産の確認を行う
- 設立登記を行い、新会社を正式に成立させる
- 許認可・契約・労働契約の承継について、関係先と調整する
承継会社について理解を深めよう
承継会社は、会社分割を通じて事業を効率的に引き継ぐ仕組みとして、事業承継や企業再編の場面で大きな役割を果たします。現金を用意せずに事業を承継できる点や短期間での手続き完了、シナジー効果の創出などが主なメリットです。
一方で、株主構成の変化や隠れた負債、統合作業の複雑さといったリスクも存在するため、慎重な検討が求められます。吸収分割と新設分割では手続きの流れが異なり、必要な準備や対応範囲も変わってくるため、自社の目的や状況に合った方法を選択することが重要です。
適切な専門家のサポートを得ながら、計画的に進めることで成功確率を高められるでしょう。