契約社員と正社員の違いや共通点を解説。企業が制度を見直すときのポイントも
契約社員と正社員を同じ職場で雇用していると、待遇差から摩擦が起こるケースが少なくありません。契約社員・正社員双方のモチベーションを維持し、生産性の向上を目指すために企業は何ができるでしょうか。契約社員と正社員の違いや共通点と、制度を見直すポイントを解説します。
契約社員と正社員の違いを整理
契約社員と正社員には、主に「雇用期間」「待遇」「勤務形態」に違いがあります。具体的に何が違うのか、制度設計を検討するためにも、基本を把握しておきましょう。
雇用期間
契約社員は有期雇用契約です。労働基準法第14条により、原則として契約期間の上限は3年までとされています※。契約社員は、契約が更新されなければ退職することになります。
一方、正社員は無期雇用契約で、雇用期間に定めがありません。自己都合退職や解雇、倒産などがない限り長期雇用が前提として採用されます。
※同条第1号では、専門的業務や60歳以上の契約社員は最長5年まで契約期間の延長が可能とされている。
給与体系・賞与・退職金などの待遇
契約社員の給与体系は、時給制・日給制・月給制など契約内容によってさまざまです。時給制でシフトが増減するような働き方だと、経済的な安定が困難になるケースが考えられるでしょう。
月給制で毎月の収入は安定していても、契約社員には賞与や退職金を支払わない企業もあります。また、昇給がない契約社員は少なくありません。
正社員は月給制や年俸制が多く、賞与や昇給の制度も整備されているのが一般的です。ただ、賞与・退職金の支払いに法的義務はないので、企業の裁量によって正社員でも支給されない場合があります。
勤務形態や異動の有無
契約社員の場合、業務範囲や勤務時間・勤務地が明確に定められる傾向があります。短時間勤務やシフト制など、定時の出退勤・フルタイム以外の働き方を採用するケースも少なくありません。また、原則として契約社員に転勤や部署異動はないと考えてよいでしょう。
正社員の場合はフルタイム勤務が基本で、異動や転勤の可能性があります。幅広い業務を担当し、責任の範囲も広くなる傾向があるのも特徴です。ただ、転勤のない正社員を募集している企業も多く、正社員がリモートワークで働ける企業も年々増えてきています。
この点から、正社員にも多様な働き方が浸透してきていると考えられます。
契約社員と正社員で共通する点もある
契約社員と正社員は雇用形態が違いますが、共通点もあります。実態によっては、同等に扱わなければならない法的な定めがあるためです。(同一労働同一賃金)
自社の契約社員と正社員の間で待遇差による摩擦があるなら、まず共通しているべき点に差がないかを点検しましょう。
社会保険や有給休暇は条件を満たせば同じく適用
社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、条件を満たせば契約社員でも適用対象になります。2024年10月からは、従業員(厚生年金の被保険者数)が51人以上の企業において、雇用形態を問わず以下の条件を満たす従業員に社会保険の適用が義務化されています。
- 2カ月を超えて働く見込みがある
- 学生(休学中や定時制・通信制を除く)ではない
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月の所定内賃金が8万8,000円以上
有給休暇も所定労働日数や継続勤務年数などの条件を満たせば、雇用形態を問わず取得が可能です。フルタイムの契約社員でなくても、週の所定労働日数や1年の所定労働日数に応じた日数が付与されることになっています※。
ただし適用条件に満たない場合はいずれも対象外となるため、実態として格差が生じるケースもゼロではありません。
※労働基準法第39条第1項〜第3項に規定あり。
参考:社会保険適用対象となる加入条件|厚生労働省 | 社会保険適用拡大 特設サイト
参考:労働基準法 第39条第1項〜第3項|e-Gov法令検索
同一労働同一賃金で不合理な待遇差を禁止
「同一労働同一賃金」は、同じ企業の中で正社員と非正規雇用者(契約社員やアルバイト・パートなど)の間にある不合理な待遇差を解消しようという考え方です。
契約社員と正社員という雇用形態の違いがあっても、業務内容や責任範囲・配置転換の有無などの条件が同じなら、待遇差は設けられません。
不合理な待遇の格差は、パートタイム・有期雇用労働法の第8条に違反することになります。ただし、業務内容や責任範囲・配置転換の有無などの違いがあれば、待遇差の説明根拠となります。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第8条|e-Gov法令検索
福利厚生も企業によっては同等
法定外福利厚生(住宅手当、家族手当、慶弔金など)は企業の裁量で決定されるため、企業によって対応に違いがあるのが実情です。契約社員にも正社員と同じ福利厚生を用意している企業もあれば、正社員にのみ適用される福利厚生を設けている企業もあります。
ただし、同一労働同一賃金の考え方において、福利厚生も不合理な差を設けてはならない「待遇」の一つです。契約社員でも、正社員と業務内容や責任などの実態が同じであれば同等の福利厚生を提供しなければなりません。
企業にとっての契約社員と正社員の違い
雇用形態に関する制度設計を見直すにあたって、企業にとって契約社員と正社員がどう違うのかも明確にしておかなければなりません。契約社員・正社員それぞれの特徴から、企業にとっての違いを把握しましょう。
契約社員は柔軟な人材確保・コスト抑制に有効
有期雇用者である契約社員は、繁忙期や短期プロジェクトなどに対応しやすい人材です。繁忙期のみ、またはプロジェクト完成までといった有期雇用ができれば、社会保険の企業負担や賞与・退職金を抑えやすく、コスト削減につながります。
ただし、優秀な人材に契約更新で残ってほしいと思っても、契約社員側が更新を望まなければ雇用契約は更新時に終了してしまいます。社内ノウハウの蓄積には向かないといえるでしょう。
正社員は長期的な戦力として育成・配置がしやすい
正社員には異動・転勤を通じて、多様な経験を積ませられます。基本的に長く勤めてもらうことを前提に採用しているので、人事評価・昇進・教育体制を整えやすく、長期的な戦力化が可能です。
働き続ける中で社内のノウハウを吸収していけるため、中核人材として育てやすいというメリットもあります。一方で、採用コストの高さや短期間で離職された場合の負担の大きさ、簡単に辞めさせられないことなどデメリットも少なくありません。
契約社員と正社員の制度を見直すポイント
契約社員や正社員といった雇用形態を分けた採用制度について見直しを考えるとき、企業は何を意識すればよいのでしょうか。現場の摩擦を抑え、契約社員・正社員の双方が納得できる制度設計のポイントを解説します。
雇用形態に関する現場の声を集める
契約社員と正社員が同じ職場で働く企業では、双方に待遇や働き方の違いに対する不満・疑問が蓄積しやすい傾向にあります。結果として従業員間の摩擦や、モチベーション低下が起きるケースが少なくありません。
こうした摩擦を防ぐには、日々の業務や働き方に関する声を拾い上げる姿勢や仕組みが欠かせません。たとえば、現場の管理職や人事担当者が、定期的に従業員と対話を重ねることで、制度への違和感や不公平感を早期に把握できます。形式にこだわらず、雑談ベースのヒアリングや現場観察も含めて、継続的に声を集めることが重要です。
合理的な待遇の違いは明文化して周知する
契約社員と正社員の間に摩擦が起きる原因の一つに、待遇差があります。ただ、業務内容や責任の違いに基づく待遇差は合法です。しっかりと説明すれば、契約社員にも納得されやすくなります。
大切なのは、「なぜこのような差があるのか」を明確に伝えることです。制度の背景や判断基準を言語化し、就業規則やFAQ形式のガイドラインなどで確認できるようにしておくと、現場での誤解や不信感を抑えることにつながります。また、制度説明の場を設け、質問を受け付けるなど、双方向の理解促進も意識しましょう。
契約社員が正社員を目指せる制度を整備する
契約社員の待遇に関する不満に対処する方法として、「正社員登用制度」が挙げられます。正社員登用制度は本人の希望や勤務実績を踏まえ、雇用形態を契約社員などの非正規雇用から正社員に切り替える社内制度です。
法的に義務化されている「無期転換制度(5年ルール)」とは別物です。無期転換制度は労働契約法第18条第1項に定められており、5年を超えて勤務する労働者が契約終了前に無期雇用への転換を申し込んだ場合、企業側は拒否できないとされています。
一方、正社員登用制度の導入は義務ではありません。ただ、パートタイム・有期雇用労働法第13条では、一定の要件をクリアする非正規雇用者が、正社員として安定した雇用の恩恵を受けられる制度の整備は義務化されています。
その制度の選択肢として上がるのが正社員登用制度です。優秀な契約社員が雇用形態についての不満を抱えているなら、正社員登用制度の導入も検討しましょう。
参考:労働契約法 第18条第1項|e-Gov法令検索
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第13条|e-Gov法令検索
契約社員と正社員の違いを理解して制度設計を
契約社員と正社員の間に距離や摩擦がある、優秀な契約社員が契約更新に前向きでないなどの問題を抱えている企業は多いでしょう。問題の背景には待遇差だけでなく、キャリア展望や評価の不透明さといった複数の要因が潜んでいるかもしれません。
まずは従業員の視点、双方の置かれている立場の違いを想像しましょう。その上で企業にとっての契約社員と正社員の違いを整理し、採用の仕方や正社員登用などの制度を見直し・設計する必要があります。