事業承継マッチング支援とは?日本における事業承継の現状と重要性について解説

日本では経営者の高齢化が進み、後継者不足による廃業リスクが増しています。こうした課題を解消する有効な手段の一つが事業承継マッチング支援です。本記事では、支援の仕組みや事業承継の現状、承継成功のポイントを紹介します。

事業承継マッチング支援とは

中小企業の存続と地域経済の維持に欠かせないのが事業承継の成功です。事業承継マッチング支援は、後継者不足に悩む企業と承継希望者をつなぐ役割を担います。本章では、その概要や利用に必要な手続きについて詳しく見ていきます。

出典:事業承継マッチング支援のご案内

日本政策金融公庫のマッチング支援サービス

日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援は、後継者不足に悩む中小企業と承継希望者を結び付ける無料のサービスです。

2020年4月の開始以来、従業員9人以下の小規模事業者を主な対象として、事業の存続と地域経済の維持に重要な役割を果たしています。

このサービスでは、利用者が登録した希望条件をもとに、日本政策金融公庫が保有するデータベースから適切な候補を提示します。融資実績がない企業や事業を受け継いで創業する人も条件によっては利用可能で、仲介や交渉は行わないものの、信頼性の高い公的支援として多くの企業が活用しています。

事業承継マッチング支援の手続きに必要な書類

事業承継マッチング支援の手続きに必要な書類をケース別にまとめました。

必要書類

譲渡希望者(事業を譲りたい側)

事業概要書(所定様式・申込書)

確定申告書または決算書の写し(直近1期分)

本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)

会社案内や商品・製品パンフレットなど(任意・推奨)

(日本政策金融公庫の融資利用がない場合)専門家による紹介状

譲受希望者(事業を引き継ぎたい側)

事業概要書(所定様式・申込書)

本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)

(法人の場合)定款や登記事項証明書など事業実態を確認できる書類

(個人事業の場合)確定申告書の写し(直近1期分)

(日本政策金融公庫の融資利用がない場合)専門家による紹介状

継ぐスタ(承継を機に創業する人)

継ぐスタ計画書(所定様式、申込時に作成)

本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)

(必要に応じて)創業に関する補足資料

※紹介状は不要

提出書類はケースによって異なるため、自身の立場に合った内容を確認して整えておくことが大切です。

事業承継マッチング支援を利用する流れ

事業承継マッチング支援を利用する大まかな流れは次の通りです。

  1. 日本政策金融公庫に相談し、申込書や必要書類を提出して希望条件を登録する
  2. 登録内容をもとに候補者が検索され、ノンネームシートを通じて相手が提示される
  3. 双方が関心を持てば秘密保持契約を交わし、詳細な情報を開示しながら交渉準備を進める
  4. 経営者同士の面談や条件交渉を経て基本合意をまとめる
  5. デューデリジェンスを経て譲渡契約を締結し、事業の承継が完了する

流れを理解しておくことで手続きの不安を減らし、円滑な承継につなげられるでしょう。

その他の事業承継マッチングサービス

後継者不足への対応は国全体で強化されており、事業承継マッチングの仕組みも公的・民間の両面で整えられています。事業承継マッチング支援以外のサービスを確認しましょう。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁が全国各地に設置している公的な相談窓口です。後継者不足や廃業リスクに悩む中小企業を対象に、事業承継やM&Aに関する無料相談を受け付け、マッチング支援や専門家紹介を行っています。

各センターには事業承継コーディネーターが配置されており、親族内承継から第三者承継、M&Aによる引継ぎまで幅広く対応できるのが特徴です。また、地域金融機関や商工団体とも連携しており、企業の状況に応じた具体的な支援を提供しています。

信頼性の高い公的サービスとして、多くの中小企業が安心して相談できる体制が整っています。

出典:トップ|事業承継・引継ぎポータルサイト

民間企業が提供する支援サービス

民間企業が提供する事業承継マッチングサービスは、M&A仲介会社や会計事務所、金融機関の専門部署などが主体となり、譲渡・譲受希望者をつなぐ仕組みです。

公的支援が原則無料かつ中立的な立場で相談対応を行うのに対し、民間サービスは成功報酬や着手金などの費用が発生するのが一般的です。その分、各社が持つ豊富な専門知識とネットワークを活用し、よりスピーディで多様なマッチングが期待できるという特徴があります。

案件によってはデューデリジェンスや契約交渉のサポートまで一貫して受けられるなど、手厚い実務支援が強みとなるケースもあります。公的支援との違いを理解し、自社の状況や規模に応じて最適な選択を行いましょう。

事業承継の現状と重要性

日本では経営者の高齢化が進み、後継者不足が深刻な社会課題となっています。事業承継がうまくいかず廃業に追い込まれる企業も多く、地域経済や雇用に影響を及ぼしています。事業承継の現状と重要性について整理しました。

深刻化する後継者不足

日本の中小企業では経営者の高齢化が進み、年齢のピークが20年前の50代から現在は60~70代に移行しています。2024年の帝国データバンク「後継者不在率」調査によれば、後継者が「いない」または「未定」とする企業の割合は52.1%に達し、依然として半数を超える水準です。

さらに、後継者不足を原因とした「後継者難倒産」は2024年度に507件に上り、過去2番目の高水準を記録しています。このような状況は、適切な承継準備の遅れや承継後の支援不足が企業存続の大きなリスクとなっていることを示しています。

出典:2024年版「中小企業白書」 第6節 事業承継 | 中小企業庁

出典:全国「後継者不在率」動向調査(2024年)|株式会社 帝国データバンク[TDB]

出典:後継者難倒産の動向調査(2024年度)|株式会社 帝国データバンク[TDB]

事業承継の重要性

事業承継は、企業の存続と地域経済の安定において極めて重要な課題です。長年にわたって培った技術やノウハウ、顧客基盤、ブランド力などの経営資源は、適切な承継が行われなければ社会から失われてしまいます。従業員の雇用維持や取引先との継続的な関係、地域での事業活動も、承継の成否に大きく左右されるのです。

特に中小企業では、経営者個人の技術力や人脈が事業の核となっているケースが多く、後継者不在による廃業は企業価値の完全な消失を意味します。地域の雇用機会の減少、取引先への影響、税収の減少など、その影響は企業単体にとどまらず地域全体に波及します。こうしたリスクを回避し、貴重な経営資源を次世代に引き継ぐためにも、計画的な事業承継への取り組みが不可欠といえるでしょう。

事業承継を成功させるためのポイント

事業承継を成功させるには、現状を把握し計画を立て、必要な改善を行うという基本的なプロセスが不可欠です。それぞれの具体的なポイントを解説します。

資産や経営状況を正確に把握する

事業承継を進めるには、まず自社の「ヒト・モノ・カネ・情報・知的資産」を洗い出し、保有状況や評価額まで把握することが必要です。

決算書を確認して売上・利益・キャッシュフローを点検し、必要に応じて専門家の助言を受けます。さらに自社株や経営資源の価値を評価し、SWOT分析を通じて強みや弱み、将来的な課題を明らかにしておくと準備が整います。

事業承継の計画を立てる

資産や経営状況を整理したら、次は承継に向けた計画を立てる段階です。後継者の育成や経営改善には相応の時間がかかるため、目安として5年程度の中長期的な視点で、専門家に相談しながら事業承継計画を作成します。

税務や法務の課題を早期に把握し、資金調達や節税策を準備できるようにしておくと、余裕を持って承継に臨めます。公的機関が提供する計画ツールを利用するのも効果的です。

経営改善の取り組みを進める

経営改善の目的は、事業の強みや価値を客観的に可視化し、後継者が安心して引き継げる盤石な経営体制を整えることです。例えば、業務の効率化やノウハウの共有を進めると、後継者がスムーズに引き継げます。また、定款や規程を見直して組織運営を明確にすることも効果的です。

加えて、在庫や資産の整理、債務の圧縮や株式の集約を行えば、企業価値はさらに向上します。こうした取り組みを積み重ねることで、事業の将来性がより明確になり、円滑な事業承継の実現につながります。

事業承継するならマッチング支援サービスの検討を

経営者の高齢化や後継者不足が深刻化するなか、事業承継の準備を先送りすると廃業リスクが高まります。マッチング支援サービスを活用すれば、自力では出会えない後継候補との接点が生まれ、承継の可能性を大きく広げることが可能です。

大切な会社を次世代へつなぐために、今から支援サービスの活用を積極的に検討していきましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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