M&Aと事業承継の違いは?事業承継型M&Aのメリットや注意点も解説
M&Aと事業承継は、企業の経営戦略や後継者問題を検討する際に重要なキーワードです。どちらも企業の継続・発展を図る経営手法ですが、目的や方法には明確な違いがあります。本記事では両者の違いを整理しつつ、近年注目される事業承継型M&Aのメリットや注意点を解説します。
M&Aと事業承継はどう違う?
M&Aと事業承継の違いがわかりにくいと感じる経営者は少なくありません。実際には目的と手段という明確な違いがあります。以下の表で主要な違いを比較してみましょう。
比較項目 | M&A | 事業承継 |
性質 | 手段・方法 | 目的・ゴール |
対象範囲 | 企業の売買・統合 | 経営の包括的な引き継ぎ |
主な目的 | 事業拡大・競争力強化 | 会社の存続・発展 |
承継方法 | 第三者への売却 | 親族・社内・第三者の3パターン |
この表からわかるように、事業承継は「会社を次世代につなぐ」という目的であり、M&Aはその目的を実現するための選択肢の一つなのです。
つまり事業承継の3つの方法(親族承継・社内承継・第三者承継)のうち、第三者承継で使われるのがM&Aということになります。自社の状況に応じて最適な承継方法を選択することが重要でしょう。
事業承継とは
事業承継とは、経営者が会社を次の世代に引き継ぐことです。対象は経営権や株式などの資産にとどまらず、取引先との関係や従業員との信頼、経営理念なども含まれます。
承継の方法は、親族に引き継ぐ「親族内承継」、社内の役員や従業員に引き継ぐ「社内承継(MBO等)」、外部の第三者に引き継ぐ「第三者承継(M&A)」の3つに分類されます。つまり、事業承継は「目的」であり、M&Aはその目的を達成するための「手段の一つ」であるといえます。
事業承継型M&Aのメリット
会社を次世代へ託す決断は容易ではありませんが、事業承継型M&Aは経営者にとって将来を前向きにつなぐ手段となります。後継者不足の解消や従業員の雇用の維持、創業者利益の確保といった複数の効果が期待できるからです。ここからは、売り手の立場に立った具体的なメリットを解説します。
後継者不在でも事業を継続できる
中小企業では、経営者の高齢化に伴い「後継者が見つからない」という課題が深刻化しています。事業承継型M&Aを活用すれば、親族や社内に適任者がいなくても、外部の第三者に会社を引き継ぐことが可能です。
買い手企業にとっては新たな事業領域の獲得につながり、売り手企業にとっては築き上げてきた事業やブランドを存続させる手段となります。従来は選択肢が限られ、廃業に至るケースもあった企業が、M&Aを通じて事業を未来につなげられる点は大きな魅力といえます。
従業員の雇用や取引先との関係を守れる
事業承継型M&Aの大きな利点の一つに、従業員の雇用が守られることが挙げられます。会社の存続を前提とした引き継ぎが行われるため、従業員は原則としてそのまま働き続けることが可能です。
廃業を選んだ場合、従業員は職を失い、取引先も取引停止による影響を受けます。しかし第三者への承継であれば、既存の雇用契約や取引関係が継続されやすく、長年培ってきた信頼関係を維持することが可能です。
売り手企業にとっては従業員や取引先を守る安心感が得られ、買い手企業にとっても優秀な人材や安定した取引基盤を引き継げるため、双方にメリットのある選択肢といえます。
譲渡対価を得て創業者利益を確保できる
親族や従業員への承継では、後継者への負担を考慮して無償あるいは低額での引き継ぎになることが少なくありません。しかし、M&Aによる第三者への承継であれば、企業の資産価値・収益力・将来性などを適正に評価した価格をベースに交渉が進められます。
これにより経営者は、長年築き上げてきた事業の成果を「創業者利益」として確保でき、引退後の生活資金の安定や相続対策、新たな投資や事業への挑戦など多様な選択肢を得られます。単なる廃業では得られない利潤を手にできることは、経営者にとって大きな安心感につながるでしょう。
事業承継型M&Aの注意点
事業承継型M&Aは多くのメリットがある一方で、注意すべき点も少なくありません。条件に合う承継先を見つける難しさや、経営方針・文化の違いによるリスク、株主や従業員との調整など、乗り越えるべき課題が存在します。売り手が直面しやすい注意点を見ていきましょう。
条件に合う承継先を見つけるのが難しい
事業承継型M&Aでは、会社の将来を託せる承継先を見つけることが最大の課題の一つです。経営理念・事業内容・地域性などの条件に合致する相手を、自力で探すのは非常に困難です。
さらに、市場には常に多くの買い手が存在するわけではなく、タイミングや条件が合わなければ理想的な相手と出会えない可能性もあります。そのため、良い承継先が必ずしも見つかるとは限らない点を理解しておく必要があります。
経営方針や企業文化の変化によるリスクがある
事業承継型M&Aでは、買い手によって経営方針や企業文化が大きく変わる可能性があります。新しい経営体制のもとで従来の方針が見直されれば、従業員が戸惑ったり、社風に違和感を覚えたりすることも少なくありません。
また、企業文化の統一には時間がかかり、場合によっては従業員の離職や取引先との関係悪化につながるリスクもあります。売り手としては、事前に買い手の経営姿勢や理念を十分に確認し、自社との相性を慎重に見極めることが不可欠です。
株主や従業員など関係者の理解と調整が不可欠
事業承継型M&Aを成功させるには、株主・従業員・取引先といった関係者の理解と協力が欠かせません。承継の内容や目的を十分に説明して納得を得られなければ、不信感や不安が広がり、事業継続に支障をきたす恐れがあります。
株主には譲渡価格や条件に関する合意形成が必要であり、従業員や取引先には雇用や取引が守られることを丁寧に伝えることが重要です。関係者の立場や思いを尊重しながら調整を行うことで、円滑な事業承継とM&A後の安定的な経営につなげられます。
事業承継型M&Aを成功させるためのポイント
準備不足や独断での判断は、スムーズな承継を妨げる大きな要因です。売り手が特に重視すべき実践的なポイントを紹介します。
早期に準備を始める
事業承継型M&Aを成功させるには、できるだけ早い段階から準備を始めることが重要です。経営者が引退を決意してから動き出すのでは遅く、候補者の選定や企業価値の向上、関係者への説明などに十分な時間を確保できません。
事業承継は長期的な視点で取り組むべき課題であり、少なくとも5年から10年程度の計画を立てて進めることが望ましいとされています。十分な準備期間を確保することで、後継者教育や組織体制の整備を余裕を持って進められ、より円滑な承継が実現します。
信頼できるM&A仲介会社や専門家に相談する
事業承継型M&Aは複雑な手続きや調整を伴うため、経営者だけで進めるのは容易ではありません。適切な相手探しや条件交渉、法務・税務への対応など、専門的な知識と経験が求められます。そのため、信頼できるM&A仲介会社や、弁護士・公認会計士などの専門家に相談し、助言を受けながら進めるのがおすすめです。
また、中小企業庁が設置する事業承継・引継ぎ支援センター(全国47都道府県に設置)など公的機関によるサポートも活用すれば、より安心して準備を進められます。専門家の知見を取り入れることで、トラブルを回避し、納得度の高い承継を実現できるでしょう。
M&Aと事業承継の違いを理解しよう
M&Aと事業承継は、ともに企業のバトンをつなぐ方法ですが、仕組みや狙いが異なります。事業承継型M&Aは後継者不足の解決策となり、雇用や取引先を守りながら経営者に利益をもたらす有効な手段です。
ただし、承継先選びや文化の違いなどの課題もあるため、十分な準備と専門家の助言が欠かせません。両者の違いを正しく理解し、自社に最適な方法を選択することが、将来の成長につながります。