全国医療情報プラットフォームとは?2つのサービスや医療DXを解説
全国医療情報プラットフォームは、「医療DX令和ビジョン2030」の3本柱の1つです。電子処方箋が既に運用されており、電子カルテ情報共有サービスも2025年度中に本稼働となる予定です。医療DXや全国医療情報プラットフォームの基本的な知識について解説します。
医療DXの基礎知識
そもそも医療DXとはどのようなことを指すのでしょうか。政府が医療DXを推進する理由や医療DX令和ビジョン2030と併せて解説します。
医療DXとは
医療DXとは、医療分野においてデジタル技術を活用し、医療に関する情報やデータを医療界全体で共有・活用する取り組みのことです。医療分野のあり方を変え、より質の高い医療を提供することを目的としています。
医療DXにおける主な取り組みは次の通りです。
- オンラインでの予約・問診・診断
- 電子カルテの導入
- ビッグデータの活用
身近な例では、マイナンバーカードと健康保険証の一体化が医療DXに関する取り組みの1つです。
医療DXは医療機関でIT機器を導入することではありません。医療の世界を根本的に変える取り組みが医療DXであり、医療機関のIT化やデジタル化より大きな考え方です。
出典:医療DXの推進に関する工程表について(報告) P5 | 厚生労働省
政府が医療DXを推進する理由
医療DX推進の背景にある大きな問題は、加速する高齢化です。高齢者が増えると医療ニーズが高まるため、より迅速かつ質の高い医療の提供が求められるようになります。
医療DXにより国民自らが医療情報にアクセスできることもポイントです。今までより効率的・効果的な医療の提供を期待できるでしょう。
医療DXが推進されれば平時からデータ収集を迅速に行えるため、感染症拡大時にも必要な医療体制を構築しやすくなります。
医療DX令和ビジョン2030とは
「医療DX令和ビジョン2030」は、自由民主党政務調査会が2022年に公表した方針です。日本の医療分野における情報のあり方を根本から解決するための取り組みを示しています。
医療DX令和ビジョン2030で総合的に進めていく3つの取り組みは以下の通りです。
- 全国医療情報プラットフォームの創設
- 電子カルテ情報の標準化
- 診療報酬改定DX
これらの取り組みを進めることの具体的な目的は、次のようにまとめられます。
- 効率的かつ質の高い医療の提供を通して、国民の健康の維持・向上を図る
- デジタル技術の活用により、医療機関の業務効率を改善する
- システム関連の人材を効果的に活用し、医療システムの改善を図る
出典:「医療DX令和ビジョン2030」の提言 | 自由民主党政務調査会
医療DX令和ビジョン2030の3つの柱
自由民主党政務調査会の提言では、3つの取り組みを総合的に進めていく医療DX令和ビジョン2030を、極めて重要な国家事業として重要視されています。どのような取り組みを進めていくのか、日本の医療DXを支える3本の柱の具体的な内容を見ていきましょう。
全国医療情報プラットフォームの創設
全国医療情報プラットフォームは、さまざまな医療・介護情報を広範囲で共有・交換できるプラットフォームです。医療機関・介護施設・自治体などがデータを共有し、全国的な医療・介護情報基盤となります。
全国医療情報プラットフォームが構築されることで、以下のような効果を期待できます。
- 救急・医療・介護の現場における迅速な情報提供
- 医療機関や自治体での業務効率化や負担軽減
- 国民の健康管理や疾病予防などのサポート
- 情報の二次利用による公衆衛生や医学・産業の振興
出典:第4回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料について 資料2-2 全国医療情報プラットフォームの概要 | 厚生労働省
電子カルテ情報の標準化
全国医療情報プラットフォームでは、電子カルテ情報の共有を目指しています。ただし、電子カルテはメーカーがそれぞれ独自に開発してきたため、導入している医療機関ごとに規格が異なっているのが実情です。
電子カルテ情報をスムーズに共有するためには、規格をそろえる必要があります。医療機関により異なる電子カルテ情報の規格をそろえるための施策が、電子カルテ情報の標準化です。
現在は標準型電子カルテの開発が進められており、2026年度以降に利用が広まる見通しです。2030年までに電子カルテの普及率が100%になることを目指しています。
出典:「医療DX令和ビジョン2030」の提言 P5 | 自由民主党政務調査会
診療報酬改定DX
診療報酬改定DXとは、診療報酬改定における医療機関やベンダーの負担軽減を図る取り組みです。診療報酬改定がある年は大きな業務負担が生じやすいため、医療機関やベンダーの作業を国で一本化する施策が進められています。
診療報酬改定DXで実施される具体的な取り組みは次の4つです。
- 共通算定モジュールの開発・運用
- 共通算定マスタの整備と電子点数表の改善
- 標準様式のアプリ化とデータ連携
- 診療報酬改定施行時期の後ろ倒し
医療DX工程表に基づき、上記の施策を2024年から段階的に進めるとしています。
出典:第4回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料について 資料3 診療報酬改定DX報告資料 | 厚生労働省
全国医療情報プラットフォームの「電子処方箋」
全国医療情報プラットフォームの構築に向けた重要な2つの取り組みが、電子処方箋と電子カルテ情報共有サービスです。まずは、電子処方箋の仕組みや流れ、導入メリットについて解説します。
電子処方箋の仕組みや流れ
電子処方箋とは、従来型の紙の処方箋をデジタルデータに変え、通信ネットワークを利用して情報連携する仕組みのことです。2023年1月から既に運用が開始されています。
電子処方箋のサービスでは、病院・診療所・薬局が電子処方箋管理サービスに登録した情報を、医療関係者や患者がオンラインで取得できます。
電子処方箋ではオンライン資格確認の仕組みを活用するため、利用の際はオンライン資格確認等システムの導入が必要です。
電子処方箋を導入するメリット
病院や診療所で電子処方箋を導入することで、患者の直近の処方・調剤情報を容易に確認できます。電子処方箋管理サービスの重複投薬等チェックを実施すれば、実効性の高い重複投薬防止が可能です。
薬局ともリアルタイムに情報連携できるため、より質の高い診察・処方を期待できます。処方箋の印刷にかかっていた費用も大幅に削減できるでしょう。
全国医療情報プラットフォームの「電子カルテ情報共有サービス」
全国医療情報プラットフォームを支えるもう1つの重要なサービスが、電子カルテ情報共有サービスです。概要や補助金について解説します。
電子カルテ情報共有サービスの概要
電子カルテ情報共有サービスでは、主に次の4つのサービスが提供されます。
- 診療情報提供書送付サービス:診療情報提供書を共有できる
- 健診結果報告書閲覧サービス:医療機関や患者が各種健診結果を閲覧できる
- 6情報閲覧サービス:医療機関や患者が患者の6情報を閲覧できる
- 患者サマリー閲覧サービス:患者サマリーを患者が閲覧できる
全体的には、医療機関で登録された各種情報を文書情報管理データベースに保存し、医療機関・医療保険者・患者などが情報を取得・閲覧できるという仕組みになっています。
補助金の利用が可能
電子カルテ情報共有サービスの導入にあたっては、補助金の利用が可能です。20床以上の病院において、健診実施の有無や病院の規模により、補助率や上限額が異なります。
補助金を申請するために満たすべき条件は次の通りです。
- オンライン資格確認等システムと電子処方箋管理サービスを導入している
- 電子カルテ情報共有サービスを利用できる環境が整っている
補助金を利用する場合は、補助金申請後に電子カルテ情報共有サービスの利用を申請できます。
出典:電子カルテ情報共有サービス - 電子カルテ情報共有サービスの導入に係る補助金
全国医療情報プラットフォームについて理解を深めよう
国が推進する医療DXでは、「医療DX令和ビジョン2030」が示されています。この方針の柱の1つになっているのが、全国医療情報プラットフォームです。
全国医療情報プラットフォームが整備されれば、電子化された医療情報を広範囲で共有できるようになります。概要や利用方法について理解を深め、今のうちから準備を進めておきましょう。