ソーシャルキャピタルの意味や企業にとっての意義。向上させるには?

組織としての一体感がない、違う立場の従業員同士に溝があるなど、自社の「協調」に課題を抱えていませんか。そこで注目したいのが「ソーシャルキャピタル」という概念です。ソーシャルキャピタルの概要とともに、企業における役割や向上のポイント、具体的な施策例を解説します。

ソーシャルキャピタルという考え方

ソーシャルキャピタル(Social Capital)とは、アメリカの政治学者であるロバート・パットナムによって以下のように定義されています。

『人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴』

「社会的資本」や「社会関係資本」とも訳されますが、定訳はありません。

ソーシャルキャピタルを構成する「信頼」「規範」「ネットワーク」は、市民活動の量と正の相関関係にあるとされる要素です。

物的資本(Physical Capital)や人的資本(Human Capital)と並ぶ概念として、ビジネスでも注目されています。

企業がソーシャルキャピタルに注目する理由とは

主に市民活動との相関関係が語られるソーシャルキャピタルが、企業に注目される理由は何なのでしょうか。ソーシャルキャピタル(信頼・規範・ネットワーク)を高めると、どのような効果が得られるのかを解説します。

事業を円滑・効率的に進められる

ソーシャルキャピタルを高めるメリットは、まず事業の円滑化・効率化です。例えば、2社が同じ地域で事業を展開する場合、外部とのソーシャルキャピタルが高い(地域住民と良好な関係を築けている)企業の方が、店舗の工事に対して理解を得やすくなったりキャンペーンに協力してもらえたりと、円滑に事業を運営できます。

社内においても、ソーシャルキャピタルが高い組織では報告・連絡・相談のフローが自然に機能し、情報共有がスムーズに行われます。職場の規範が浸透している状態ともいえるため、ルール違反によるトラブルや手戻りといった非効率な事態を防ぎやすくなるでしょう。

特に部門間の連携が必要なプロジェクトにおいて、信頼関係に基づいた協力体制は業務効率を大きく向上させるのです。

チームワークが良好になる

チームワークが良くなるのも、企業がソーシャルキャピタルを高めることで得られる効果です。社内のソーシャルキャピタルが高まると、信頼感が醸成されているために、困ったときほかの人に助けを求められるようになります。

特定の従業員が困難な状況にあるとき、そのことを周囲に知ってもらいやすくなり、チームとしての助け合いが進むでしょう。結果として生産性の向上や働きやすさにつながります。

従業員の健康促進・離職防止につながる

ソーシャルキャピタルが高い人ほど、健康であるとされています。健康は従業員が充実した生活を送るための基盤であり、心身の健康が保たれていることは、仕事のパフォーマンスを高め、働き続けるための重要な要素です。

心身の不調による離職が多い場合、ソーシャルキャピタルの向上がその改善策として有効です。従業員同士の信頼関係や支え合いが深まることで、職場の心理的安全性が高まり、健康管理の意識も促進されるでしょう。

もし離職が多い状況が続くと、人手不足が深刻化し、過重労働や健康への負担が増すという悪循環が生じる可能性があります。健康面に配慮した環境作りを進めることが、結果的に組織の安定性にも寄与します。」

企業がソーシャルキャピタルを向上させる際の注意点

ソーシャルキャピタルの向上は組織にとって重要ですが、その取り組み方を誤ると逆効果になる可能性があります。特にネットワークという要素の扱い方には注意が必要です。

狭い範囲での結束が強まりすぎると、組織全体にとってマイナスの影響が生じることがあるため、以下の点に留意しましょう。

結束が排他性につながる可能性もある

ソーシャルキャピタルが特定の部門や小グループ内でのみ高まると、組織内に見えない壁が生まれる危険性があります。営業部では仲間意識が強いあまり他部門の提案を軽視する、開発チームが技術的優位性を理由に他部門を見下すといった排他的な文化が形成されることがあるのです。

このような排他性は、新入社員や中途入社者の受け入れにも悪影響を及ぼします。既存メンバーの結束が強すぎると、新しいメンバーが輪に入りづらく、貴重な外部視点や新しいアイデアが組織に取り込まれません。

排他的な組織文化を防ぐには、定期的な人事ローテーションや部門横断プロジェクトを通じて、風通しの良い組織風土を意識的に作ることが重要でしょう。

特定コミュニティだけの利益となる行動が発生し得る

狭い範囲でソーシャルキャピタルが高まりすぎると、部門最適を追求するあまり全社最適を損なう意思決定が行われる可能性があります。営業部が売上目標達成のために無理な納期を約束し製造部門に負担を強いる、管理部門が自部門の業務効率化のために現場に煩雑な報告書作成を求めるといった行動は、組織全体の生産性を低下させます。

このような問題は、評価制度とも密接に関連しています。部門別の業績評価が強すぎると、他部門との協力よりも自部門の数字を優先する行動が強化されてしまうのです。

全社的な視点での意思決定を促すには、部門横断的なKPIの設定や、他部門への貢献度を評価に組み込むことが有効です。

経営層は「部門の壁を越えた協働」を明確な行動規範として示し、部門利益と全社利益が対立した際の判断基準を従業員に周知することが求められるでしょう。

ソーシャルキャピタルを高めるための具体策

ソーシャルキャピタルの向上は、短期間で達成できるものではありません。信頼や規範・ネットワークといった要素は、いずれも醸成や定着に時間がかかります。一定の時間的コストがかかることを把握した上で、どのような施策が有効なのかを見ていきましょう。

メンター制度や面談で信頼感を醸成する

メンター制度では通常、年の近い先輩がサポート役として新入社員・若手社員につき、キャリアからメンタル面まで幅広い相談を受けます。

また、メンター制度の本来のやり方は、他部署や他部門などの社員を担当者にすることで、新入社員が業務以外の人間関係やメンタル的な面で客観的なサポートを受けられることにあります。他部署・他部門の人との関係を持てるため、閉鎖的になりがちなソーシャルキャピタルの課題を自然にクリアできるのです。

また、面談も信頼感の向上に効果があります。定期的な面談で従業員の課題や悩みをヒアリングすることで、企業や上司に対する信頼感が向上します。面談で従業員からスキルアップや課題解決の意欲を確認できれば、組織として従業員を信頼できるようにもなるはずです。

積極的な情報発信で規範を浸透させる

ソーシャルキャピタルの要素である「規範」は、企業にとって法的リスクの回避やグローバル化のために必須といってもよいでしょう。組織としての規範は、狭いネットワークの構築に伴うリスクの回避にもつながります。

規範は策定しただけでは意味がなく、一度の発信で定着させるのも現実的ではありません。経営陣が積極的・継続的に情報を発信して、確実に従業員へ届けるよう意識する必要があります。

ジョブローテーションでネットワークを広げる

ソーシャルキャピタルを向上させるには、人との交流が欠かせません。ジョブローテーションや人事異動は、普段接しない人との交流に効果的です。特にジョブローテーションは、半年以上の期間をかけて複数のポジションを経験させられるため、交流機会を増やせます。

ただしそれぞれにメリット・デメリットがあります。企業の状況や従業員の希望を考慮して、導入を検討しましょう。頻繁な人事異動が不当と見なされたり、希望に沿わないジョブローテーションが対象者のモチベーションを下げたりする可能性があります。

TUNAGでソーシャルキャピタルを高める施策例

ソーシャルキャピタルの醸成には、「TUNAG(ツナグ)」のようにエンゲージメント向上を包括的にサポートするクラウドサービスを活用するのも一つの手段です。施策の一例として、TUNAGを使ってソーシャルキャピタルを高める方法を紹介します。

社員プロフィールからメンターの候補を探す

メンターには適性が重要であり、業績だけでは選定が難しい部分があります。TUNAGの「社員プロフィール」は、オフィシャルな情報だけでなく「人となり」が分かる情報も記載できる仕様です。従業員の人柄に関する解像度が上がることで、メンターの適性がある人材を探しやすくなります。

タイムラインで経営層から規範を発信する

TUNAGのタイムラインには、課題解決の取り組みや社長メッセージを投稿できます。向上の施策に取り組む理由や、ソーシャルキャピタルの重要要素である規範を浸透させるのに役立つでしょう。従業員はスマホからでも投稿を見られる上、コメントやスタンプで反応できるため、規範の浸透を促進しやすくなるはずです。

組織図をジョブローテーションに活用する

TUNAGの組織図は、部署や委員会などさまざまな組織を分かりやすく可視化できます。ジョブローテーションや人事異動を実施するとき、社員プロフィールや面談結果など従業員の情報と併せてチェックすると、判断がスムーズです。

ソーシャルキャピタルを高めてつながりがある職場に

信頼・規範・ネットワークを構成要素とするソーシャルキャピタルは、市民活動だけでなく企業活動においても重要な意義を持ちます。立場の違う従業員同士をつなげ、信頼感と規範の下で円滑に事業を進められるのがソーシャルキャピタルを高めるメリットです。

施策の例としては、メンター制度の導入や経営陣からの発信、ジョブローテーションや人事異動の実施が挙げられます。自社で弱い要素が分かっている場合は、その補強を優先しましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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