アサーションとは?職場で実践する効果やトレーニング方法を解説
社内でアサーションを実践すれば、ビジネスにおいて円滑な人間関係を構築しやすくなります。また、アサーションはトレーニングで鍛えることが可能です。アサーションとは何か、職場で実践する効果やトレーニング方法と併せて解説します。
アサーションの基礎知識
アサーションは英語で「assertion」と表記し、元々は主張や断言といった意味を持ちます。まずは、アサーションの意味や言葉の歴史を見ていきましょう。
アサーションとは
アサーションとは、相手を尊重しつつ自分の意見も主張するコミュニケーションのことです。お互いの関係性を維持しながら言いたいことを言い合えるスキルを指します。
英語のassertionは断言や自己主張などと訳されますが、ビジネスで使われるアサーションは攻撃的なコミュニケーションというわけではありません。お互いに主張しながら価値観は尊重し合う点がポイントです。
相手の考えを聞かずに自分の意見だけを述べるケースや、逆に自分の意見を言わず相手の話を聞くだけのケースは、良質なコミュニケーションを取れているとはいえません。
アサーションは、自分も相手も大切にしながらお互いに主張し合える、絶妙かつ高度なコミュニケーション手法だといえるでしょう。
アサーションの歴史
アサーションは1950年代にアメリカで生まれた概念です。人間関係に悩んでいる人や自己表現がうまくいかない人のためのカウンセリング技法として実践されていました。
アサーションが日本に持ち込まれたのは1980年代です。当時は斬新なメソッドとして注目されましたが、「阿吽の呼吸」や「言わずもがな」など日本独自のコミュニケーションが組織の土台となっていたこともあり、定着するまでには至りませんでした。
しかし、ビジネス環境の多様化によりさまざまな人とコミュニケーションを取るケースが増えたことから、近年はアサーションが注目されています。
3種類のコミュニケーションスタイル
アサーションではコミュニケーションのスタイルを次の3つに分けて考えます。
- アグレッシブ:相手に配慮せず自分の意見だけを強く主張するスタイル
- ノンアサーティブ:相手を優先しすぎて自分の意見や感情を表現できないスタイル
- アサーティブ:相手に配慮しつつ自己主張もできるスタイル
アサーショントレーニングで目指すスタイルは、バランスのとれたアサーティブです。最初に自分がどのスタイルに当てはまるかをチェックした上で、アサーティブに近づくようトレーニングを進めていきます。
アサーションで重要な「説得の3原則」
アサーションを実践する際は、「説得の3原則」を意識しましょう。説得の3原則とは、哲学者アリストテレスが人を説得し動かすために重要だと説いたものです。
ロゴス(論理・理屈)
ロゴスは物事を論理立てて説明することです。なぜ自分はこのような主張をするのか、正確な情報を基にした事実やその根拠など明確な理屈を相手に伝えます。
アサーションで相手に納得してもらうためには、自分の考えや熱意だけでは不十分です。主張の根拠となるものを論理立てて説明し、自分の意見に説得力を持たせる必要があります。
パトス(情熱・感情)
説得の3原則のうち、相手からの共感や同情を得るための要素がパトスです。相手の感情をくみ取った上で、心理的な距離が縮まるように揺さぶりをかけます。
パトスの注意点は、熱い言葉を並べればいいわけではないことです。相手がどのような感情を抱いているかにより、効果的に説得できる内容は違ってきます。相手の置かれた状況を考慮することも重要です。
エトス(信頼・人柄)
エトスとは信頼や人柄を意味する言葉です。自分が相手に信頼されることで、意見や主張の説得力が増します。
コミュニケーションにおいては、話の内容より「誰の発言か」が問題になることもしばしばです。アサーションにおいても、相手からの信頼を得ることはとても重要な要素になります。
エトスを決定づけるのは肩書や実績だけではありません。相手に寄り添ったコミュニケーションを取れば、会話の中でも信頼を得ることは可能です。
職場におけるアサーションの効果
アサーションを用いたコミュニケーションが職場で実践されれば、さまざまな効果を期待できます。代表的なものを詳しく見ていきましょう。
健全な人間関係を構築できる
職場でアサーションが用いられると、自分の権利を主張しつつ相手の権利も尊重するようになるため、健全な人間関係を構築できます。例えば、スケジュールが詰まっているときに上司から仕事を依頼された場合、次のように返答することが可能です。
「ぜひやらせていただきたいのですが今週は時間を確保できず、高い品質を約束できません。来週まで締め切りを延長していただけないでしょうか」
このようなコミュニケーションを続けていれば、従業員と上司との間に長期的な信頼関係を築きやすくなるでしょう。
従業員エンゲージメントが高まる
アサーションの導入により、従業員エンゲージメントの向上も期待できます。以下に挙げる理由で従業員の満足度や貢献意欲が高まるためです。
- 自己主張できるためストレスが軽減される
- 良好な人間関係が構築され職場で一体感を得られる
- 職場の心理的安全性が確保される
従業員エンゲージメントが低いと感じている企業は、従業員にアサーションを導入してみるとよいでしょう。
ハラスメントを抑制できる
職場でパワハラが発生する大きな理由の1つに、上司と部下のコミュニケーションに問題があることが挙げられます。部下が自分の意見をうまく伝えられないため、上司とのやりとりが一方的な会話になってしまうのです。
アサーションを実践すれば部下が自分の意見を主張できるようになることから、パワハラの抑制につながる可能性があります。従業員にとって働きやすい環境を整えられるでしょう。
組織の生産性が向上する
アサーションにより自分の考えを主張できるようになると、従業員が自信を持って働けるようになります。また、お互いが意見をぶつけながら建設的な会話を行えるようになるため、組織としての問題解決力も向上するでしょう。新しいアイデアも生まれやすくなります。
アサーションの実践で明確な意思疎通を図れることもポイントです。認識の齟齬が発生しにくくなり、業務スピードがアップします。
これらの相乗効果で組織力が強化され、結果的に生産性の向上を期待できるでしょう。
組織風土の改善を図れる
多くの日本企業では、いまだに同調圧力が強い傾向があります。同調圧力は新しいアイデアが生まれるのを阻害するほか、メンタルヘルス不調やハラスメントにもつながりやすくなります。
職場にアサーションを取り入れれば、同調文化の改善を図ることが可能です。お互いを尊重するポジティブな組織風土への変革も期待できるため、従業員の仕事への意欲も高まりやすくなるでしょう。
アサーションのトレーニング方法
職場でのコミュニケーションにアサーションを取り入れるためには、地道なトレーニングを実施する必要があります。従業員がアサーションを身につけるのに役立つトレーニング方法を紹介します。
DESC法
DESC法は、アサーションのプロセスを次の4段階に分け、習得しやすいように体系化したトレーニング手法です。各プロセスの頭文字を取ってDESCとしています。
- Describe(描写):事実を客観的に伝える
- Express(表現):自分の意見や感情を伝える
- Specify(提案):相手が望む解決策を提案する
- Choose(選択):提案への反応に対して柔軟に応じる
段階を踏んで自分の主張を伝えることで、お互いの関係を維持しながら建設的な対話を進めることが可能です。
アイメッセージ
アイメッセージとは、常に「私」を主語とした表現を心掛けるコミュニケーション手法です。単に主張や要望を伝えるのではなく、「私は~と感じる」「私は~を望む」と表現することで、人間味のある温かいやりとりになります。
相手との関係性を崩さずに自分の意見を言えるようになるほか、表現に「私」という主語を据えればよいだけなので、アサーショントレーニングにも取り入れやすいでしょう。
ABCDE理論
自分の意見を適切に認識するための助けとなるのがABCDE理論です。物事に対する受け取り方を5つの要素に分けて理解できます。
- Activating event(出来事・現象)
- Belief(受け取り方・感じ方)
- Consequence(結果としての感情や行動)
- Dispute(非合理的なBへの反論)
- Effect(Dによる効果)
感情や行動(C)は出来事や現象(A)によるものではなく、受け取り方や感じ方(B)で変わるものです。また、Bが非合理的なら反論し(D)、より客観的かつ理性的な方向(E)に修正します。
ABCDE理論により自分の考え方が正しいかどうかを判断し、健全な考え方に変換できます。アサーションで自分の意見を述べる際にも取り入れることが可能です。
アサーション権
アサーション権とは、アサーションを初めて日本に持ち込んだ平木典子氏が、自身の著書で紹介したものです。著書の中では5つのアサーション権が挙げられています。
- 誰からも尊重される権利
- 他人の期待に応えるか決める権利
- 犯した過ちに責任を持つ権利
- 支払いに見合ったものを得る権利
- 自己主張しない権利
自分にもアサーション権があると自覚することで、自己表現の幅が広がり、相手を尊重する気持ちも生まれます。アサーションを実践する際は、アサーション権の行使に慣れることが重要です。
アサーションの実践で職場環境を改善
職場にアサーションを導入すれば、組織にとってさまざまなメリットが生じます。社内コミュニケーションにアサーションを取り入れ、職場環境の改善を図りましょう。
また、アサーションを社内に浸透させる方法としては、TUNAGの導入が効果的です。アサーションのようなコミュニケーションスタイルを、全従業員に浸透させるのは難しい側面があります。
従業員が毎日訪れる社内ポータルであるTUNAGを活用すれば、「アサーションに関するコラムを社内掲示板でお知らせして重要性を伝える」「アサーションに関するマニュアルや理解度チェックを実施する」などの取り組みによって、アサーションの浸透を行いやすくなります。また、社内チャット機能もあるため、従業員が学んだアサーショントレーニングをテキストで実践する機会も増えるでしょう。
▼TUNAGの詳しい説明はこちら
TUNAG(ツナグ) | エンゲージメント向上で働きがいのある組織を作る