ハラスメントの種類と定義。経営者が知っておくべき対策も解説
近年、企業におけるハラスメント問題が深刻化し、その対策が経営課題として浮上しています。ハラスメントは従業員のモチベーションの低下や離職、企業のイメージを損なうリスクのある重大な問題です。本記事では、ハラスメントの定義や種類、法的責任、そして効果的な予防策について詳しく解説します。ハラスメントのない健全な職場環境を構築するための指針としてご活用ください。
ハラスメントの定義
ハラスメントとは、他者に対する言動や行為によって、相手に精神的・身体的な苦痛を与えたり、不快な思いをさせたりすることを指します。職場環境を悪化させ、生産性の低下や人材流出につながる深刻な問題です。
ハラスメントは、加害者の意図にかかわらず、相手の受け取り方によって判断される点が特徴的です。「冗談のつもりだった」という言い訳は通用しません。そのため、企業としては従業員全員がハラスメントについて正しく理解し、お互いを尊重し合える職場づくりが求められています。
ハラスメントの種類
ハラスメントにはさまざまな種類があり、それぞれの特徴を理解することが対策の第一歩となります。ここでは、職場で特に問題となりやすい四つのハラスメントについて解説します。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワハラとは、職場における優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、労働者の就業環境を害することを指します。具体例としては、上司が部下に対して「お前は使えない」と人格を否定するような発言をしたり、必要以上に長時間の残業を強いたりすることが挙げられます。
最近では、テレワークの増加に伴い、オンライン上でのパワハラも問題となっています。例えば、深夜や休日にもかかわらず頻繁にメッセージを送り、即座の返信を求めるなどの行為がこれに該当します。
パワハラは、単に個人間の問題ではなく、組織全体の生産性や雰囲気に大きな影響を与えます。経営者の方々は、パワハラが起こりにくい組織文化の醸成に努めることが重要です。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクハラは、相手の意に反する性的な言動により、職場環境を悪化させたり、不利益を与えたりする行為を指します。
例えば、不必要に身体に触れる、性的な冗談やからかいを言う、デートを執拗に迫るなどが該当します。最近では、LGBTQに対する差別的な言動もセクハラとして認識されるようになってきました。
セクハラは、被害者に深刻な精神的ダメージを与えるだけでなく、企業のイメージダウンにも直結する問題です。職場での飲み会や懇親会の際にも注意が必要で、「お酒の席だから」という言い訳は通用しません。
マタニティハラスメント(マタハラ)とパタニティハラスメント(パタハラ)
マタニティハラスメント(マタハラ)は、妊娠や出産、育休取得を理由に、女性従業員に対して不利益な扱いや嫌がらせを行う行為です。例えば「妊娠していると会社に迷惑だ」といった発言がこれに該当します。
一方で、パタニティハラスメント(パタハラ)は、男性従業員が育休を取得する際に、「男性が育休を取るのはおかしい」といった発言や不利益な扱いを受けることを指します。どちらも違法であり、企業はすべての従業員が安心して育児に取り組める環境を整備する責任があります。
モラルハラスメント(モラハラ)
モラハラは、言葉や態度、身ぶりや文書などによって、相手の人格や尊厳を傷つけたり、不快な思いをさせたりする精神的な嫌がらせを指します。
具体的には、無視をする、必要な情報を与えない、うそのうわさを流すなどの行為が該当します。最近では、SNSを使った誹謗中傷(ソーシャルハラスメント)もモラハラの一種として問題視されています。
モラハラは目に見えにくい行為が多いため、発見や対応が難しい場合があります。しかし、被害者の精神的ダメージは大きく、長期化すると深刻な問題に発展する可能性があります。
主なハラスメントに関する法律と罰則
ハラスメントに関する法律や罰則を理解することは、企業のリスク管理において重要です。近年、ハラスメント対策の法制化が進んでおり、企業の責任がより一層重くなっています。
パワハラ防止法の定義と罰則
2020年6月に施行された『改正労働施策総合推進法』(パワハラ防止法)により、大企業にはパワハラ防止措置が義務化されました。中小企業に対しては、2022年4月から同様の義務が課されています。
具体的には、社内規定の整備、相談窓口の設置、研修の実施などが求められています。違反した場合、企業名の公表や是正勧告などの行政処分を受ける可能性があります。
また、パワハラによって従業員が精神的・身体的な被害を受けた場合、企業は損害賠償責任を負う可能性があります。最近の判例では、数千万円の賠償金を命じられるケースも出ています。
セクハラに対する法律
セクハラに関しては、男女雇用機会均等法により、企業に対して防止措置を講じることが義務付けられています。
具体的な防止措置としては、セクハラの内容や、セクハラに関する方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応などが挙げられます。
最近では、取引先や顧客からのセクハラ(第三者によるハラスメント)への対応も求められるようになってきました。企業は自社の従業員を守る立場にあることを認識し、適切な対応を取ることが重要です。
悪質な場合は罪に問われることも
ハラスメント行為が悪質な場合、刑法上の罪に問われる可能性があります。例えば、身体的な暴力を伴うパワハラは暴行罪や傷害罪に、性的な強要を伴うセクハラは強制性交等罪(刑法177条)や強制わいせつ罪(刑法176条)に該当する可能性があります。
また、モラハラの一種である誹謗中傷行為は、名誉毀損罪や侮辱罪に問われる可能性があります。
最近では、SNS上での誹謗中傷に対する罰則が強化される傾向にあり、企業としても従業員のSNS利用に関するガイドラインを整備するなどの対策が求められています。
ハラスメントの横行が企業に及ぼす問題
ハラスメントは個人の問題にとどまらず、企業全体に深刻な影響を与えます。その影響を正しく理解し、対策を講じることが経営者には求められています。
企業イメージの低下
ハラスメント問題が公になると、企業イメージは大きく損なわれます。特にSNSの発達により、企業の不祥事は瞬く間に拡散されてしまいます。
例えば、ある大手企業では役員によるセクハラ問題が報道され、株価の下落や取引先からの信頼低下につながりました。こうした事態を避けるためにも、日頃からハラスメント防止に取り組むことが重要です。
法的責任を問われる
ハラスメントが起きた場合、企業は法的責任を問われる可能性があります。前述の通り、パワハラやセクハラの防止措置を怠ると行政処分の対象となりますし、被害者から損害賠償を請求される可能性もあります。
最近では、ハラスメントの加害者個人だけでなく、それを防止できなかった企業の責任を問う判例も増えています。企業としては、ハラスメント対策を「コスト」ではなく「リスク管理」の一環として捉える必要があるでしょう。
定着率の低下につながる
ハラスメントが横行する職場では、従業員の定着率が低下します。特に優秀な人材ほど、ハラスメントを理由に退職する傾向があります。
例えば、あるIT企業では、上司のパワハラを理由に若手エンジニアの離職が相次ぎ、新規プロジェクトの遂行に支障を来しました。人材確保が困難な昨今、ハラスメント対策は人材戦略の観点からも重要です。
職場全体の雰囲気が悪くなる
ハラスメントは、直接の当事者だけでなく、周囲の従業員にも悪影響を与えます。ハラスメントを目撃した従業員は、自分も被害に遭うのではないかという不安から、萎縮してしまいます。
結果として、職場のコミュニケーションが減少し、創造性や生産性の低下につながります。経営者は、ハラスメントが企業の競争力に直結する問題であることを認識し、積極的な対策を講じる必要があります。
ハラスメントが起こった場合の対応
ハラスメントが発生してしまった場合、迅速かつ適切な対応が求められます。ここでは、ハラスメント事案への対応手順を解説します。
事実関係の確認
ハラスメントの相談や報告を受けたら、まず事実関係をしっかり確認します。被害者と加害者の両方から丁寧に話を聞きます。この時、被害者の気持ちに配慮し、プライバシーを守ることが大切です。
話を聞く際は、被害者が加害者を怖がって本当のことを言えないかもしれないことに注意します。また、両者の言い分が違う場合は、その場にいた他の人にも確認することがあります。
最近では、メールやチャットの記録が証拠として使われることも増えています。こういったデジタルな証拠の扱いにも気をつける必要があります。場合によっては、会社の外部の専門家に相談したり、労働局に調停を申し込んだりすることも考えられます。
加害者の処分を決定
事実関係が分かったら、会社のルールに基づいて加害者の処分を決めます。処分の内容は、ハラスメントの程度や回数、加害者が反省しているかどうかなどを総合的に判断して決めます。
処分には、軽いものから重いものまでいろいろあります。例えば、口頭で注意する、書面で警告する、給料を減らす、役職を下げる、一時的に出勤を停止する、退職金を減らして辞めてもらう、解雇するなどがあります。
最近では、ハラスメントに対する世間の目が厳しくなっているため、給料を減らしたり役職を下げたりといった、厳しい処分を科す会社が増えています。会社は、毅然とした態度で対応することが求められています。
被害者のフォローと再発防止
被害者のケアも重要です。必要に応じて、会社の医師との面談や休暇を取ることを勧めます。被害者の気持ちに寄り添い、きめ細かなフォローが必要です。
同時に、ハラスメントが二度と起こらないようにする取り組みも大切です。例えば、全社員を対象にした研修を行ったり、相談窓口の存在を改めて周知したりします。
再発防止のためには、会社全体でハラスメントに対する意識を高め、お互いを尊重し合える職場環境を作ることが大切です。
ハラスメントを予防するポイント
ハラスメントは、起こってからの対応よりも、予防することが重要です。ここでは、効果的なハラスメント予防策について解説します。
従業員に周知徹底する
ハラスメント防止のためには、まず従業員全員にハラスメントの定義や具体例を周知徹底することが大切です。どのような行為がハラスメントに該当するのかなどを詳細に伝えることで従業員の認識改善につながります。
周知徹底には、情報共有ツールの活用が効果的です。紙の掲示や朝会での全体連絡などとは異なり、欠席者も確認できる点や、スマホから手軽に情報共有ができる点がメリットです。また、既読機能のあるツールを使えば、誰が情報を確認したかも一目で判別できます。
「TUNAG」は、そうした課題を解決できるオンラインプラットフォームです。社内掲示板の機能による全体連絡、リアクションによる既読確認などが行えます。ハラスメントはもちろん、社内のちょっとした情報共有に活用してみてください。
情報共有ツールはTUNAG|マルチデバイス対応で全社員が使いやすい情報共有ツール
相談窓口を作る
ハラスメントの早期発見・対応するために、相談窓口を作ることが大切です。会社の中に窓口を作るだけでなく、最近では外部の専門家に任せる会社も増えています。
新しい取り組みとして、AIチャットボットを使った匿名で相談できるシステムを導入する会社も出てきました。このようなシステムを使うと、相談しやすくなるので、普段は気づきにくい問題も早期に発見できる可能性があります。
相談窓口があることを従業員に周知し、誰でも気軽に使えるようにすることが大切です。また、相談を受ける人がきちんと対応できるよう、トレーニングをすることも忘れてはいけません。
風通しを良くする
ハラスメントは、閉鎖的な環境で起こりやすいので、職場の風通しをよくすることが大切です。例えば、上司と部下が定期的に1対1で話をする機会を設けたり、異なる部署の人たちが交流する会を開いたりするのが効果的です。
こういった機会があると、従業員同士のコミュニケーションが活発になり、お互いのことをよく理解できるようになります。情報共有の機会が増えることで、ハラスメントが起こる前に問題を解決できる可能性が高まります。
また、会社の上層部の人と現場で働く従業員が直接話す機会を増やすのも、組織全体の風通しをよくするために重要です。風通しのよい職場は、ハラスメントを防ぐだけでなく、従業員がやりがいを感じて生き生きと働ける環境づくりにもつながります。
企業全体でハラスメント防止に取り組むことが重要
ハラスメント防止は、一朝一夕には実現できません。しかし、地道な取り組みを続けることで、必ず成果は表れます。皆さまの会社で、ハラスメントのない、働きやすい職場づくりが実現することを願っています。
具体的なアクションとして、まずは自社のハラスメント対策の現状を確認することをおすすめします。社内規定は整備されているか、相談窓口は機能しているか、研修は定期的に行われているかなどをチェックしてみてください。そして、不十分な点があれば、本記事で紹介した方法を参考に、一つずつ改善していきましょう。
ハラスメント対策は、企業の持続的な成長と発展のために不可欠ですので、コストではなくリスクとして認識し、全社で取り組むことが重要です。