親族経営の現状やメリット・リスクを解説。成功させるポイントも
親族が経営に関わる企業では、迅速な意思決定や理念の継承といった強みを発揮できます。しかし、ガバナンス体制の不備や不公平な人事評価が、優秀な人材の流出や組織の信頼低下を招くケースも少なくありません。親族経営を成功させるには、公平性と透明性を確保する仕組みづくりが不可欠です。本記事では、親族経営が抱える課題を明確にし、リスクを管理しながら強みを生かすための具体的な方法を詳しく解説します。
親族経営の基本知識
親族経営に対し、「古い」「身内びいきになりやすい」といったイメージを持つ人もいるでしょう。しかし、メリットと課題を整理することで、親族経営の実態が見えてきます。
親族経営の特徴と見分け方
親族経営とは、経営者本人やその親族が株式や経営権を保有し、会社の意思決定に大きく関与する経営形態のことです。中小企業を中心に日本で広く見られる形であり、創業者一族が経営の中心を担うケースや、複数の親族が役員として参画するケースなど、形態は企業ごとに異なります。
見分け方のポイントは、株主構成に親族が多く含まれているか、役員に親族が就任しているかを確認することです。
経営判断において親族間の話し合いや承認が重視される場合も、親族色の強い経営体制と判断できます。株式保有・役員構成・意思決定プロセスの三つを確認することで、親族経営かどうかを判断できるでしょう。
データで見る親族経営
中小企業庁の調査によると、多くの中小企業が親族内承継を望む傾向が強く見られており、M&Aなど第三者承継の選択肢が増える中でも、親族内承継は事業承継の主要な手段として選ばれ続けています。
多くの経営者は、まず親族への承継を検討します。次に従業員への承継、最後にM&Aによる第三者承継という順で選択肢を考える傾向があるのです。
また、国税庁の統計によれば、税法上の「同族会社」に該当する法人は全体の約7割を占めます。同族会社とは、特定の株主グループ(親族を含む)が会社の議決権の過半数を保有する企業を指します。
これらのデータから、親族経営は日本の企業構造において一般的な経営形態として定着していることがわかります。
出典:親族内承継に関する現状分析と今後の検討の方向性について(令和7年6月)
親族経営のメリットとリスク
親族経営には独自の強みがある一方で、運営を誤れば組織の機能不全を招くリスクもあります。どのような点がメリットとなり、どのような点に注意すべきなのでしょうか。
親族経営のメリット
親族経営の最も大きな強みは、経営理念を長期的に継承できる安定性です。
創業者が築いた価値観や事業方針が世代を超えて受け継がれることで、短期的な利益に左右されにくい経営が可能になります。
他に、意思決定の速さと高いコミットメントも大きなメリットです。経営者と幹部が親族関係にあることで意思疎通がスムーズに進み、経営判断を迅速に行えます。親族同士は企業の存続を自分事として捉えるため、困難な局面でも粘り強く経営にコミットする姿勢が生まれやすいのです。
さらに、外部の影響を受けにくく長期的な投資判断が可能であることも利点の一つです。親族が株式の多くを保有していることで、短期的な株主利益よりも会社の将来性を優先した戦略を取りやすくなります。
このように、親族経営には企業の持続的成長を支える独自の強みがあるのです。
親族経営のリスク
親族経営で最も注意すべきリスクは、感情的な対立が経営判断に影響することです。
親族同士の感情的なわだかまりが経営に持ち込まれると、意思決定が合理性を欠き、企業にとって最善の判断ができなくなります。このリスクが表面化すると、重要な意思決定が遅れ、市場での競争力を失う恐れがあります。
それ以外には親族外の従業員のモチベーション低下もリスク要因となります。重要ポストや昇進が親族に優先的に割り当てられると、社員は「努力が正当に評価されない」と感じ、離職につながる可能性があります。
親族経営では、私的な資金利用や社内ルールの形骸化といった公私混同の問題も起こりやすく、企業統治(コーポレートガバナンス)の欠如が不正や不透明な経営につながる危険性もあります。
親族経営を成功させるポイント
親族経営を成功させるためには、起こり得るリスクを事前に認識し、仕組みによって防ぐ体制づくりが不可欠です。
親族経営を健全に継続するための実践的なポイントを解説します。
ガバナンス体制を強化する
感情や身内の関係性に左右されない経営を実現するには、ガバナンス体制を強化することが重要です。取締役会・監査役・経営会議といった意思決定機関を、形式だけでなく実質的に機能させ、経営判断のプロセスを明確化する仕組みづくりが求められます。
また、親族間での内々の話し合いだけで重要な事項を決定するのではなく、議事録の作成や承認フローを設けることで経営の透明性を高めることが可能です。
公私混同を防ぐためには、経費精算ルールや権限規定の整備も必要です。規定に基づいた運営を徹底することで、不正や不信感を未然に防ぐことができます。
必要に応じて外部の専門家や社外取締役を登用し、第三者視点を経営に取り入れることも有効です。
公平な評価制度を構築する
親族経営を巡るトラブルの多くは、親族と従業員の間に生まれる不公平感から発生します。役職・昇進・待遇が親族を優先して決められていると、非親族の従業員は努力が正当に評価されないと感じ、組織への不信感や離職につながります。
これを防ぐためには、親族と非親族を区別しない公平な人事評価制度を整備することが重要です。
加えて採用や昇進において親族だけが優遇されていないことを示すために、評価プロセスの透明性を高めることも効果的です。昇進の判断を複数の管理者が参加する会議で行う、評価内容をフィードバックする面談制度を導入するなどが考えられます。
理念やビジョンの共感を得る
親族経営においては、企業の方向性を見失わないために、経営理念やビジョンを社内に浸透させることが特に重要です。
親族が中心となる企業では経営が属人的・感覚的に進みやすく、判断基準が曖昧になる傾向があります。その結果、親族間でも意見が分かれたり、従業員が経営方針を理解できず不信感を持ったりすることがあります。これを防ぐためには、企業が大切にする価値観や目指す方向性を明文化し、共有する仕組みが必要です。
経営理念を単に掲げるだけでなく、日常業務・人事評価・事業計画に反映させることが効果的です。会議の場で理念に基づいて意思決定を行う、社内研修で経営方針の解説を行うなど、組織の文化として浸透させていくことで、社員一人一人が同じ方向を向くようになるでしょう。
理念の共有は、感情的な判断を防ぎ、組織全体が一貫した方針のもとで行動する基盤となるのです。
信頼と透明性が親族経営の成功を左右する
親族経営は、経営理念の継承や迅速な意思決定といった強みを持つ一方で、不公平感や公私混同といったリスクも抱えています。このような課題に対してはガバナンス体制の整備や公正な評価制度の導入により、これらのリスクを軽減することが可能です。
親族間の信頼関係だけに頼らず、透明性と公平性を確保することが求められます。外部からも信頼される経営体制を構築することで、持続的な成長が可能になるのです。親族経営の強みを生かしながら、仕組みによってリスクを管理する健全な経営体制を構築しましょう。













