会社相続とは?手続きの流れから税金・トラブル対策やポイントまとめ

会社を誰かに引き継ぐとき、何から手をつければよいのでしょうか。会社の相続は一般的な財産相続とは異なり、株式の承継という独特の仕組みがあります。手続きを誤ると経営権を失ったり、想定外の税負担が発生したりするリスクもあるため、慎重に進める必要があるのです。この記事では、会社相続の基本から具体的な手続き、実務上の注意点まで解説します。

会社の相続とは?押さえるべき3つの基本

会社を相続する際には、一般的な財産相続とは異なる知識が求められます。株式という形で経営権を引き継ぐ仕組や、保有割合による権限の違いを正しく理解しておく必要があるでしょう。

相続後も安定した経営を続けるためには、以下に紹介する基本事項を押さえておくことが重要です。

経営権の承継は「株式」の承継

会社の相続で最も重要なポイントは、引き継ぐのが会社そのものではなく「株式」であることです。株式を相続することで、株主としての地位と経営への関与権を取得する仕組みになっています。

会社の土地や建物、設備などの資産は法人が所有しているものであり、これらは相続の対象にはなりません。

株式には財産的価値があり、会社の純資産や収益力に応じて評価額が決まります。そのため相続税の課税対象となるのです。株式を相続すれば配当を受け取る権利も得られますし、株主総会での議決権も行使できます。相続人が受け取るのは、あくまで株式という権利証書だけですが、それによって会社への影響力を持つことになるでしょう。

株式の保有割合で決まる経営権の強さ 

株式の保有割合によって、会社経営への影響力は大きく変わります。会社法で保有割合ごとに行使できる権限が定められています。以下の表で、主要な保有割合と権限の関係を確認してみましょう。

保有割合

行使できる主な権限

3分の2以上

定款変更、事業譲渡、合併などの特別決議を単独で可決できる

過半数

取締役の選任・解任、配当決定などの普通決議を単独で可決できる

3分の1超

特別決議事項に対する拒否権を持つ

3%以上

株主総会の招集請求、会計帳簿の閲覧請求ができる

この表からわかるように、過半数の株式を保有すれば実質的な経営権を握ることができます。多くの企業で創業者が過半数の株式を保有しているのは、安定的な経営権を確保するためです。

相続によって株式が複数の相続人に分散すると、経営の意思決定に支障が出る可能性があります。相続後も安定した経営を続けるには、後継者に株式を集中させる必要があり、生前から計画的に株式の集約を進めることが重要です。

法人と個人事業主では、手続きが全く異なる

法人として会社を経営している場合と、個人事業主として事業を営んでいる場合では、相続の手続きが根本的に異なります。

法人の場合は株式の相続手続きを行いますが、会社の代表者が変わっても法人格は存続し続けるのが特徴です。取引先との契約や従業員との雇用関係も、基本的には引き継がれます。

一方、個人事業主の場合は事業用資産を一つずつ相続する必要があります。店舗や設備、在庫、売掛金などすべての資産が相続財産となります。

屋号や取引関係は自動的には引き継がれないため、取引先への通知や契約の巻き直しが必要になります。税務署への届出も異なり、法人では株主名簿の書き換えと登記が中心ですが、個人事業主では廃業届と新規開業届の両方を提出する必要があるのです。

会社相続の手順と期間

会社相続には法定の期限があり、段階的に手続きを進める必要があります。相続開始から10カ月以内に完了させなければならない手続きもあるため、スケジュール管理が重要です。

期限を過ぎると延滞税などのペナルティが課されるリスクもあるため、早めに着手することをおすすめします。

相続開始から3カ月以内にやること

相続が発生したら、まず以下の手続きを進める必要があります。特に相続放棄の判断は3カ月以内という厳格な期限があるため、早めの対応を心がけましょう。

  • 相続人の確定:被相続人の戸籍謄本を取り寄せ、法定相続人が誰なのかを確認する
  • 株式の保有状況の把握:株主名簿や定款を確認して保有株数を把握する
  • 財務状況の確認:会社の決算書を入手し、資産と負債のバランスを確認する
  • 保証債務の確認:代表者が連帯保証人になっているかチェックする
  • 相続放棄の検討:会社の債務が資産を大きく上回る場合、相続放棄を検討する
  • 必要に応じて期間延長の申立て:判断に時間がかかる場合は家庭裁判所に申立てを行う

相続放棄は相続開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所に申立てをしなければなりません(民法第915条)。この期限は厳格に運用されるため、早めに専門家に相談することをおすすめします。

株式の評価額を調べる

相続税の計算には、株式の正確な評価額が必要です。上場企業と非上場企業では評価方法が大きく異なります。上場企業の株式は市場での取引価格をもとに評価しますが、相続発生日やその前後の平均額のうち、最も低い価格を採用するのが一般的です。

非上場企業の株式評価は複雑で、中小企業の株式評価では、純資産価額方式や類似業種比準方式、またはこれらの併用方式が用いられます。評価計算は専門的な知識が必要なため、税理士に依頼するのが確実です。

株式の名義変更の具体的な流れ

株式の相続が決まったら、名義変更の手続きを進めます。以下のステップで進めることで、スムーズに手続きを完了できるでしょう。

【株式名義変更の5ステップ】

  1. 遺産分割協議の実施:相続人全員で誰がどの株式を相続するか決定する
  2. 遺産分割協議書の作成:相続人全員の署名と実印での押印を行う
  3. 必要書類の準備:遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本などを揃える
  4. 株式名義書換請求書の提出:準備した書類とともに会社に提出する
  5. 株主名簿への記載完了:正式に株主としての権利を行使できるようになる

株主名簿の書き換えには数日から数週間程度かかる場合があります。余裕を持って手続きを進めてください。なお、相続による株式取得は、たとえ定款に譲渡制限があっても会社の承認は不要です。ただし、定款の定めによっては、会社がその相続人に対して株式の売渡しを請求できる制度(会社法第174条)があるため、定款の内容は確認しておくとよいでしょう。

10カ月以内の相続税申告

相続税の申告と納付は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内に完了させる必要があります(相続税法第27条)。この期限を過ぎると延滞税が課されるため注意が必要です。

申告書は税務署に提出しますが、納税は現金で行うのが原則です。株式は換金性が低いため、納税資金の確保が課題になることが多いでしょう。

納税資金が不足する場合は、延納や物納という制度もありますが、延納には利子税がかかりますし、物納には厳しい要件があります。生命保険金を活用して納税資金を準備しておくのも有効な対策です。

会社相続を成功させる3つのポイント

会社相続を円滑に進めるには、計画的なアプローチが求められます。以下、3つのポイントを押さえながら相続の手続きを進めましょう。

できるだけ早く専門家に相談する

株式の相続は一般的な相続よりも複雑で、専門的な知識が必要な場面が多いでしょう。税理士は相続税の申告や株式評価で力になってくれます。

特に非上場株式の評価は専門性が高く、自力で行うのは困難です。弁護士は遺産分割協議でトラブルが生じた際に相談でき、司法書士には登記関連の手続きを依頼できます。

相続が発生してから専門家を探すのでは遅い場合があるため、できれば生前から顧問税理士や弁護士と相続対策について話し合っておくことをおすすめします。

生前から遺言書作成や生前贈与で備える

会社相続のトラブルを防ぐには、生前からの計画的な準備が欠かせません。

遺言書を作成しておくことで、後継者に株式を集中させる意思を明確にできます。ただし他の相続人には遺留分という最低限の相続権があるため、株式以外の財産も用意しておく必要があるでしょう。

他に、生前贈与を活用して段階的に株式を後継者に移転する方法もあります。贈与税の負担を抑えるため、暦年贈与や相続時精算課税制度などの税制優遇措置を活用するのが一般的です。

生前贈与には時間がかかるため、早期から計画的に進めることが重要なのです。専門家と相談しながら、家族の状況に合った対策を講じることをおすすめします。

M&Aや廃業など他の選択肢も検討する

後継者がいない場合や、事業の将来性に不安がある場合は、株式相続以外の選択肢も検討する価値があります。M&Aで会社を第三者に売却すれば、従業員の雇用を守りながら事業を継続できるでしょう。

売却によって得られた資金は現金化されている分、遺産分割や納税資金の確保がしやすくなります。

それ以外には廃業という選択肢もあります。計画的に廃業することで従業員への影響を最小限に抑えられるのです。

どの選択肢が最適かは、会社の状況や家族の意向によって異なるため、複数の選択肢を冷静に比較検討することが大切です。

会社相続で起きやすい3つのトラブル

会社相続では一般的な相続以上に複雑なトラブルが発生しやすい傾向があります。典型的なトラブルパターンを知り、事前に対策を講じておくことで、円滑な会社相続が可能になるでしょう。

実務でよく見られる3つのトラブルを理解しておくことが重要です。

トラブル1:他の相続人との間で株式の承継をめぐり意見が対立する

経営者が亡くなった後、後継者として会社を継ぐつもりでいても、他の相続人が株式の相続を主張してくるケースがあります。株式が複数の相続人に分散すると、経営の意思決定が困難になり、重要な決議に必要な議決権を確保できなくなる恐れもあるでしょう。

このトラブルを防ぐには、生前に遺言書を作成しておくことが有効です。ただし他の相続人には遺留分という最低限の相続権があるため、株式以外の財産も用意しておく必要があります。専門家と相談しながら、家族の状況に合った対策を講じましょう。

トラブル2:会社の借金の保証人になってしまう

中小企業では、代表者が会社の借入金の連帯保証人になっているケースが大半です。代表者が亡くなると、連帯保証人としての地位も相続の対象となります。

保証債務は相続放棄または限定承認を行わない場合は相続人に引き継がれるため、会社の財務状況が悪い場合、多額の保証債務を抱え込むリスクがあるのです。

対策としては、生前に経営者保証を外す交渉を金融機関と行うことが考えられます。保証債務をカバーする生命保険に加入しておくことも有効でしょう。経営者保証の問題は事業承継における大きな障壁となるため、早期から金融機関と対話しておくことが重要です。

トラブル3:高額な相続税が払えない

業績の良い会社ほど株式の評価額が高くなり、相続税の負担も重くなります。株式は換金しにくい資産であるため、納税資金の確保が大きな課題となるでしょう。

最悪の場合、納税のために株式を売却せざるを得なくなり、経営権を失うこともあります。

こうした事態を避けるには、生前からの計画的な準備が欠かせません。生命保険の活用が最も一般的な対策で、経営者を被保険者とし、相続人を受取人とする生命保険に加入しておけば、相続発生時に保険金が支払われます。

早期からの計画的準備で円滑な相続を実現する

会社相続は一般的な相続よりも専門的で複雑な手続きが必要です。株式の評価、経営権の確保、相続税の納税資金準備など、多くの課題に直面するでしょう。

これらの課題を解決するには、早期から計画的に準備を進めることが何より重要です。遺言書の作成、株式の生前贈与、納税資金の確保など、できることから着手しましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

経営戦略」の他の記事を見る

TUNAG お役立ち資料一覧
TUNAG お役立ち資料一覧