会社が破産するとどうなる?経営者の個人責任と従業員への影響を徹底解説
資金繰りの悪化や債務超過は、経営者にとって最も避けたい事態です。しかし、万が一の局面に備えて正確な知識を持つことは重要です。適切な知識がなければ、いざという時に誤った対応をしてしまい、経営者個人が重大な責任を負う事態にもなりかねません。
本記事では、会社破産の基本的な仕組みから経営者の個人責任の範囲、従業員や取引先への影響まで、実務的な視点で解説します。破産は最終手段であり、早期に適切な対応を取ることで回避できる選択肢もあることを理解しておきましょう。
会社破産とは?
会社破産に関する正確な知識は、経営判断の重要な指針となります。破産の定義や法的手続きの全体像を理解することで、いざという時に適切な判断ができるようになるでしょう。ここでは破産の基本的な仕組みと、実際の手続きで押さえるべきポイントを見ていきます。
会社破産の定義と倒産との違い
会社破産とは、債務超過または支払不能により事業継続が困難となった会社が、裁判所の監督下で全財産を換価し債権者に配分する法的手続です。破産手続開始の申立てにより開始され、最終的に会社は消滅します。
よく倒産と混同されているケースがありますが、倒産は正確には法律用語ではなく、会社が債務の支払いができなくなった状態を指す一般的な表現です。
倒産には破産のほか、民事再生や会社更生など事業継続を前提とした手続きも含まれます。破産と他の手続きの最大の違いは、事業の継続可能性にあるのです。
民事再生や会社更生では事業を継続しながら債務を整理できますが、破産では会社は清算されます。どの手続きを選択するかは、会社の財務状況や事業の将来性によって判断されるでしょう。
会社破産が決定するまでの判断基準と要件
会社が破産手続を開始できる要件は、破産法で明確に定められています。主な要件は「支払不能」または「債務超過」の状態にあることです。
①支払不能
弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できない状態を指します。一時的な資金不足ではなく、構造的に支払いが困難な状況です。
②債務超過
会社の負債総額が資産総額を上回る状態を意味します。貸借対照表上で負債が資産を超えており、会社の財産をすべて処分しても債務を完済できない状態です。
破産手続の申立ては、債務者である会社自身が行う場合と、債権者が行う場合があり、会社からの申立ての場合は取締役会の決議が必要です。裁判所は申立てを受けて、破産手続開始の要件を満たしているかを審査し、開始決定を下します。
破産手続にかかる期間と必要な費用
破産手続にかかる期間は、会社の規模や財産の状況により異なります。一般的には申立てから終結まで6カ月から1年程度が目安です。手続きの流れとしては、まず破産手続開始の申立てを行います。裁判所が開始決定を出すと破産管財人が選任され、会社財産の調査と換価が進められます。
債権者集会が開催され、配当が実施された後、手続きは終結します。費用面では、予納金として最低でも数十万円から数百万円が必要です。
会社の規模が大きいほど予納金も高額になります。さらに弁護士費用も別途必要となるでしょう。これらの費用を準備できない場合、破産手続自体を開始できない可能性もあるため、資金繰りが悪化する前に早めに専門家へ相談することが重要です。
会社破産を検討すべきケース
資金繰りの悪化や支払遅延などの兆候が見られたら、早期に専門家へ相談しましょう。以下のような状況では、破産を含む法的整理の検討が必要になります。
取引先や金融機関への支払いが滞っている場合
取引先への買掛金や金融機関への返済が遅延し始めたら、経営状況の深刻なシグナルです。一時的な遅延ではなく、恒常的に支払いが困難な状態は支払不能に該当します。
特に注意すべきは、従業員への給与支払いに遅れが出始めたケースです。給与は労働債権として法的に保護されており、未払いが続くと従業員から訴えられるリスクもあります。
経営改善策を講じても効果が見込めない場合
会社の再建を図る方法としては、不採算事業からの撤退、人員削減、資産売却などの事業縮小策があります。また、民事再生手続や私的整理により、事業を継続しながら債務を整理する方法も検討できます。
しかし、これらの代替案を実施しても黒字化の見込みがない場合や、取引先や金融機関の協力が得られない場合は、破産手続が現実的な選択肢となるでしょう。
特に債務超過の状態が深刻で、会社の資産では債務の大部分を返済できない状況では、早期の破産決断が関係者の利益を守ることにもつながります。
資金繰りが回らなくなる前に確認すべきサイン
資金繰りが完全に行き詰まる前に、いくつかの予兆があります。以下のような状況が見られる場合は、経営状況が深刻化している可能性があります。
資金繰りの悪化
- 毎月の資金繰り表を作成しても、常に資金不足が予測される
- 借入金の返済のために新たな借入れを繰り返す自転車操業の状態
信用力の低下
- 金融機関から追加融資を断られる
- 取引条件の変更(支払いサイトの短縮、担保の追加要求など)を求められる
事業基盤の悪化
- 売上が大幅に減少している
- 主要取引先を喪失した
収益改善の見込みがない
- コスト削減の余地がなく、事業の黒字化が見込めない
- 事業モデル自体に問題があり、構造的な赤字が続いている
これらのサインが重なった場合は、弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に早急に相談しましょう。早期の相談により、破産以外の選択肢が見つかる可能性もあります。
会社破産時に経営者が負う個人責任と対処法
経営者の個人責任の範囲は、会社との契約関係により大きく異なります。連帯保証の有無や保有資産の状況によって、破産後の生活に大きな影響が出ることを理解しておきましょう。ここでは経営者個人にどのような影響があるのか、実務的な視点で具体的に見ていきます。
経営者が連帯保証人になっているかが鍵
会社破産時に経営者が個人責任を負うかどうかは、会社の借入れに対して連帯保証人となっているかが鍵です。連帯保証人になっている場合、会社が返済できない債務を個人で弁済する義務が発生します。中小企業では金融機関からの借入れ時に経営者が連帯保証人となるケースが一般的です。
会社が破産すれば、保証債務の履行を求められ、支払えない場合は経営者個人も破産手続を検討せざるを得ないでしょう。
一方、連帯保証人になっていない場合は、会社の債務を個人で負担する必要はありません。ただし、役員としての善管注意義務違反や法令違反があった場合には、別途損害賠償責任を問われる可能性があります。
近年は経営者保証に依存しない融資も増えていますが、現状では多くの中小企業で経営者保証が求められているのが実情です。
処分される資産と残される資産
経営者個人も破産手続を行う場合、保有する財産の多くは処分され債権者への配当に充てられます。しかし、生活に必要な最低限の財産は手元に残すことができます。具体的には、以下のものが該当します。
破産後の生活を保障するため、以下の財産は処分されずに残すことができます。
- 99万円以下の現金 ※破産法第34条第3項第1号
- 時価20万円以下の財産(家具、家電など個別に評価) ※破産法第34条第4項
- 生活に必要な家財道具(衣類、寝具、台所用品など) ※民事執行法第131条第1号
- 仏壇や位牌などの礼拝用品 ※民事執行法第131条第8号
- 退職金の一部(4分の3相当額は原則として差押禁止財産) ※民事執行法第152条第1項第2号
職業や日常生活が制限される可能性も
個人破産の手続き中は、一部の職業に就けない資格制限(欠格事由)があります。弁護士、司法書士、税理士などの士業のほか、宅地建物取引士、生命保険募集人などの金融関連資格、警備員、旅行業務取扱管理者などが制限の対象となります。 なお、株式会社の取締役や監査役については、破産手続が開始されると、会社との委任契約が終了するため一度退任となります(民法第653条)。ただし、これは資格制限ではないため、株主総会で再任されることは妨げられません。
これらの制限は破産手続中のみ適用され、免責許可決定が確定すれば解除されます。
もっとも、選挙権や年金受給権は失われませんし、戸籍や住民票に破産の記録が載ることもありません。過度に恐れる必要はなく、むしろ早期に適切な対応を取ることが重要です。
会社破産における注意事項
破産手続を検討する際には、法的に問題となる行為を避ける必要があります。不適切な対応は、免責不許可や刑事責任につながる可能性があるため、慎重な対応が求められるでしょう。ここでは破産を検討する段階で絶対に避けるべき行為について解説します。
会社資産の売却や隠匿行為がもたらす法的リスク
破産を前提として会社の資産を不当に安く売却したり、隠匿したりする行為は、破産法違反および刑法上の詐欺破産罪の対象となります。
具体的に問題となるのは、時価より著しく低い価格での不動産や在庫の売却、親族や関係者への資産の無償譲渡や名義変更、預金の引き出しや現金の隠匿、帳簿書類の破棄や改ざんなどです。
これらの行為は、債権者の利益を害する不当な財産処分として、破産手続において否認される可能性があります。否認された取引は無効となり、財産は破産財団に取り戻されます。
さらに、詐欺破産罪として懲役刑に処される可能性もあるため、絶対に行ってはいけません。経営が困難になっても、誠実に財産を管理し、適切な手続きを踏むことが重要です。
一部の債権者への返済など偏った支払いの危険性
破産を意識し始めた段階で、特定の債権者にのみ優先的に返済する行為は「偏頗弁済」として問題視されます。債権者平等の原則に反するため、破産手続で否認される可能性があります。
特に注意が必要なのは、親族や友人、取引先など関係の深い債権者への優先返済行為です。他の債権者への支払いが滞っている状態で、特定の債権者にのみ返済すると、後の破産手続で問題となるでしょう。
同様に、一部の買掛金だけを支払って事業継続を図ろうとする行為も、結果的に破産に至った場合は偏頗弁済と判断される可能性があります。
会社破産の影響を最小限に抑えるための早期対応を
会社破産は経営者にとって最も避けたい事態ですが、時には避けられない選択となることもあります。重要なのは、早期に正確な情報を把握し、適切な判断を下すことです。まずは専門家である弁護士に相談し、方針を決めましょう。民事再生や任意整理など、事業継続が可能な方法があれば、そちらを優先すべきです。
従業員や取引先など、関係者への影響を最小限に抑えるためにも、経営状況の悪化を感じた時点で、早めに行動を起こしましょう。それが経営者としての最後の責任であり、新たな挑戦への第一歩となるのです。













