労働生産性とは?計算方法や高めるメリット、向上のポイントを解説
労働生産性を向上させることは、企業の成長と従業員の働きやすさの双方に直結する重要な課題です。限られた人員や時間でより多くの成果を上げることで、企業は持続的な競争力を確保でき、従業員は負荷の少ない働き方を実現できます。この記事では、労働生産性の意味や計算方法、向上させるポイントについて具体例を交えて解説します。
労働生産性の基本
労働生産性は、生産性を評価する上で重要な指標の一つです。具体的にどのようなことを指すのか、まずは言葉の意味を理解しましょう。
労働生産性とは
労働生産性とは、投入した労働量に対する成果の割合を示す指標です。具体的には、労働者1人あたり、または労働1時間あたりの成果を数値化したものを指します。
市場における競争力を強化するためには、生産性の向上が不可欠です。また、人材不足が深刻化している近年は、いかに少ない人数で効率的に業務を遂行するかも重要になっています。最小限の労働力で利益を最大化するには、労働生産性を高める必要があるのです。
日本の労働生産性の現状
公益財団法人日本生産性本部が公表する資料によると、2022年における日本の1人あたりの労働生産性はOECD加盟38カ国中31位、1970年以降で最も低い順位です。また、時間あたりの労働生産性もは30位と、主要先進7カ国(G7)で最下位という結果になっています。
日本の労働生産性が低い理由として考えられるのが、長時間労働の常態化や、労働時間を基準とした給与体系です。また、デジタル技術の活用が進んでいないことも、労働生産性の向上を妨げている可能性があります。
出典:労働生産性の国際比較2023 | 調査研究・提言活動 | 公益財団法人日本生産性本部
労働生産性と業務効率化の違い
業務効率化とは、業務プロセスの見直しや手順の改善により、無駄な作業や時間を削減する取り組みです。生産性向上が成果の最大化を目的とするのに対し、業務効率化はコスト削減や時間短縮を主な目的としています。
業務効率化はより少ないリソースで同じ成果を出すことを目指す取り組みであるため、労働生産性を向上させるための手段の一つともいえるでしょう。
労働生産性の種類と計算方法
労働生産性には、物的労働生産性と付加価値労働生産性の2種類があります。それぞれの意味と計算方法を見ていきましょう。
物的労働生産性
物的労働生産性とは、生産物の数量や重量など物理的な成果生産物の量(個数・重量・体積など)を基準に労働の生産性を測る指標です。
物的労働生産性の計算式は、「生産量÷労働量」です。例えば、労働者5人が2時間で100個の商品を生産した場合、物的労働生産性は次のように計算できます。
- 労働者1人あたりの物的労働生産性:100個÷5人=20個
- 労働者1人1時間あたりの物的労働生産性:100個÷(5人×2時間)=10個
物的労働生産性は生産効率や生産能力を測るのに適しており、製造業などで主に用いられます。
付加価値労働生産性
付加価値とは、企業が製品やサービスを生産・提供する過程で、新たに生み出される価値のことです。
例えば、金属材料を仕入れて自動車を製造する場合、自動車は金属材料よりも高い価値を持つため、仕入れ額と販売額の差額が付加価値となります。
付加価値労働生産性の計算式は「付加価値額÷労働量」です。労働者5人が2時間で製造した商品の売上金額が500万円、それに100万円の原価がかかっている場合、付加価値生産性は以下のように計算できます。
- 労働者1人あたりの付加価値労働生産性:(500万円-100万円)÷5人=80万円
- 労働者1人1時間あたりの付加価値労働生産性:(500万円-100万円)÷(5人×2時間)=40万円
付加価値労働生産性は、企業の収益性や付加価値創出能力を測るのに適しており、サービス業やIT企業などで広く用いられます。
労働生産性を高めるメリット
労働生産性の向上は、企業にとってさまざまなメリットがあります。主なメリットを確認しておきましょう。
人材不足の解消
労働生産性が向上すると、少ない人数でより多くの成果を上げられるようになり、人手不足による業務停滞や事業縮小のリスクを軽減することが可能です。人材不足の状況下でも、事業を継続・拡大していけるようになります。
少子高齢化による労働力人口の減少が加速する中、労働生産性の向上は企業が持続的に成長していく上で、ますます重要な課題となっていくでしょう。
企業競争力の強化
労働生産性を高め、少ないリソースの投入でより多くの成果を出すことで、製品やサービスのコストを下げられます。これにより、価格競争で優位に立つことができ、利益率の向上にもつながるでしょう。
また、生産性向上は業務効率化や品質管理の徹底にもつながり、結果として製品やサービスの質が向上します。顧客満足度を高め、リピーターを増やすことにも貢献するでしょう。
このように、労働生産性が向上すると企業全体にプラスの影響が及びます。
新たな投資の可能性
労働生産性の向上によって生まれた利益やコスト削減分は、新たな事業への投資や従業員のスキルアップに活用でき、企業の成長を加速させられます。
新規事業が付加価値の高い事業に成長すれば、さらに生産性が向上し、企業運営に良い循環が生まれるでしょう。
ワークライフバランスの改善
労働生産性が向上すると、限られた時間でより多くの成果を上げられるため、結果的に従業員の労働時間が減少しワークライフバランスが改善される可能性があります。
休息やリフレッシュが十分に行えるようになり、従業員のモチベーションや集中力が高まれば、企業の売上アップにもつながります。また、従業員満足度が高まって企業へのロイヤリティが高まることで、エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
労働生産性を向上させるためのポイント
労働生産性を高めるためには、企業としてどのような取り組みを行えばよいのでしょうか。労働生産性を向上させるポイントを紹介します。
業務のIT化
業務のIT化は、業務効率化や生産性向上に不可欠な要素です。ITツールを導入することで、定型業務の自動化や情報共有の迅速化、データ分析の効率化などが可能になり、結果として労働生産性の向上が期待できます。
例えば、RPAやAIを活用してデータ入力や書類作成などの定型業務を自動化することで、人的ミスを減らし、作業時間を大幅に短縮することが可能です。また、チャットツールやグループウェアを導入すれば、社内コミュニケーションが円滑になり、情報伝達のスピードが向上します。
データ分析の効率化にITを活用するのもポイントです。BIツールやデータ分析ツールを導入することで、大量のデータを分析し、業務改善や意思決定に役立てられます。
労働時間の削減
労働生産性を高めるためには、同じ業務量をこなすための時間をできるだけ削減することが大切です。限られた時間内で効率的に成果を出すという意識付けが重要になります。
労働生産性の向上に向けた取り組みとしては、労働時間の可視化が挙げられます。勤怠管理システムなどを活用し、従業員の労働時間を可視化することで、長時間労働の原因を特定し改善策を講じることが可能です。
また、ノー残業デーを設定するのも効果的です。時間内に仕事を終わらせる意識を従業員に植え付け、生産性向上を促すことができるでしょう。
業務プロセスの見直し
現状の業務の進め方を可視化し、無駄や重複を洗い出すことで、効率化やコスト削減、従業員の負担軽減につながります。
最初に業務フロー図を作成し、各工程でどのような作業が行われているか、誰が担当しているか、どれくらいの時間がかかっているかなどを把握します。可視化した業務プロセスを分析し、重複している作業やボトルネックになっている工程などを特定しましょう。
課題を解決するための改善策としては、業務の標準化やITツールの導入、アウトソーシングの活用などが有効です。検討した改善策を実行に移したら効果測定を行い、PDCAサイクルを回して継続的に業務プロセスを見直していきましょう。
業務の外注
労働生産性を向上させる手段として、業務の外注(アウトソーシング)は非常に有効です。定型業務や専門性を要する業務を外部に委託することで、社内のリソースを自社のコア業務や戦略的な成長を目指す活動に集中させることができます。特定の従業員に業務が集中する属人化や人材不足を解消できる点も、大きなメリットです。
評価方法の整備
成果が正当に評価されることで、従業員の意欲を高め、主体的な業務遂行を促します。評価方法を整備して従業員のモチベーションが高まれば、労働生産性の向上も期待できるでしょう。
また、評価基準を明確にすれば、従業員は自身の業務目標を理解し、より効率的な働き方を追求するようになります。評価制度を見直す際は、評価基準を明確にし、従業員が納得できる評価制度を構築することが重要です。
助成金の活用
中小企業庁が運営する「IT導入補助金」を活用すれば、一定の条件を満たした場合にITツールの導入費用の一部を補助してもらえます。また、現在は終了していますが、かつては厚生労働省も労働生産性を向上させた事業所に助成する取り組みを行っていました。
地方自治体でも労働生産性の向上に関する補助金制度を運営しているケースがあります。行政が発信する情報をこまめにチェックし、補助金や助成金を環境整備に活用しましょう。
出典:労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます |厚生労働省
労働生産性を高めて自社の競争力を強化
労働生産性が向上すれば、少ない労働力でより多くの成果を出すことが可能になります。人材不足の解消や競争力の強化につながることがメリットです。
業務プロセスの可視化・改善やノンコア業務の外注化、ITツール・システム導入による業務のDX化など、企業ができる取り組みを進めて組織の底上げを図りましょう。