M&Aとは?手法・メリットから成功させるポイントまで全体像を解説

M&Aは、企業の成長戦略や事業承継において重要な選択肢となっています。経営環境の変化に対応し、競争力を高めるためには、M&Aの基本的な仕組みやリスクを正確に理解することが不可欠です。本記事では、M&Aの基礎知識から実務的な注意点まで、経営判断に必要な情報を体系的に解説します。

M&Aとは

M&Aは企業戦略の重要な選択肢として、多くの経営者が検討する手法となっています。事業承継や成長加速など、企業が直面する課題解決の有効な手段として注目を集めているのです。

ここでは、M&Aの基本的な定義から、国内市場の動向、そして企業がM&Aを選択する具体的な目的について詳しく見ていきましょう。

企業の合併や買収を指す言葉

M&A(Mergers and Acquisitions)とは、「合併(Mergers)」と「買収(Acquisitions)」を組み合わせた用語です。複数の企業が統合したり、他社を取得したりすることで、事業基盤の強化や競争力向上を図る手法を指します。

広義には資本提携・業務提携などを含み、経営戦略として競争力強化や新規事業参入、成長加速、後継者問題の解消などの目的で行われます。日本では、中小企業を中心に「事業承継」「経営資源の補完」「成長戦略の一環」としてM&Aを検討するケースが増えており、単に企業を合併・買収するだけでなく、提携スキームの多様化も進んでいるのが実情です。

M&Aの現状

近年、日本国内におけるM&Aの実施件数は増加傾向にあります。2021年には4,280件、2022年には4,304件と過去最多を更新し、2023年はやや減少したものの4,015件と依然として高い水準です。企業の成長戦略や事業承継の手段として、M&Aが定着しつつあるといえます。

特に中小企業では、後継者不足の解消や経営資源の補完を目的としたM&Aが増加しており、公的支援機関や仲介機関を通じた成約件数も拡大しています。中小企業庁の調査結果によると、2022年度の中小企業M&Aの実施件数は、 事業承継・引継ぎ支援センターを通じたものが1,681件、 民間のM&A支援機関を通じたものが4,036件です。

出典:2024年版「中小企業白書」 第2節 中小企業の成長に向けた取組 | 中小企業庁

出典:事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について

M&Aの目的

M&Aにおける買い手側(譲受側)の主な目的には、時間の節約が挙げられます。自社で新規事業を立ち上げたり市場拡大を図ったりするより、既存の企業を買収することで事業基盤・販路・人材・技術などを迅速に獲得することが可能です。他には、技術力やノウハウの獲得、多角化・リスク分散、競争優位の確保も重要な目的となります。

一方、売り手側(譲渡側)の主な目的は、事業承継の円滑化です。後継者不足や経営者の高齢化により、企業を将来にわたって存続させるための方法としてM&Aが選ばれています。また、投資回収(イグジット)や資産の現金化、企業価値の最大化、事業整理(ノンコア事業の売却による事業の選択と集中)なども目的です。

M&Aの種類とそれぞれの手法

M&Aには買収、合併、提携という大きく3つの手法があり、それぞれに特徴とメリット・デメリットが存在します。

企業の状況や目的に応じて最適な手法を選択することが、M&A成功の重要なポイントです。ここでは各手法の詳細と実務上の注意点を解説し、どのような場面でどの手法が有効かを明らかにしていきます。

買収

買収とは、他社の株式や事業を取得して経営権を獲得するM&A手法です。具体的には株式譲渡・事業譲渡・株式交換・第三者割当増資などがあり、買い手は既存の事業基盤や取引先、技術・人材などを迅速に取り込めるのが強みです。

買収には友好的買収と敵対的買収があり、前者は相手企業の同意を得て進める一方、後者は同意なしに進めるため交渉が複雑化します。買収価格や条件交渉、統合後の組織運営や従業員対応など検討すべき事項は多岐にわたります。買収を成功させるには、十分なデューデリジェンス(企業調査)と文化・制度の調整が不可欠です。

合併

合併とは、複数の会社が法的に一つの会社へ統合する手法で、「吸収合併」(既存の会社を存続会社とし、他を消滅させる)と「新設合併」(新会社を設立し、統合対象企業全てが消滅会社となる)の2種類があります。

合併を行うと、消滅会社の権利・義務・資産・負債が存続会社もしくは新設会社に包括的に引き継がれます。メリットとしては、ブランド力の統合、経営効率の向上、規模拡大による競争力強化が挙げられます。一方で手続きの複雑さは無視できません。許認可の再取得や従業員の労働条件統一、システム統合など対応すべき課題は山積しており、統合プロセスには相当の時間とコストが必要となる手法です。

提携

提携とは、企業同士が合意・契約を通じて協力関係を築き、お互いの強みを共有しながら共通の目的を達成する手法を意味します。「業務提携」と「資本提携」の2種類があり、前者は製品開発や販売ルートの共有、業務効率化などが中心、後者は出資を通じ事業上の結びつきを強めたり、将来的な統合を視野に入れたりすることです。

買収や合併と比較してリスクが低く、柔軟な関係構築が可能な点が特徴です。特定分野での協業から始め、成果を確認しながら関係を深化させることができます。

ただし、目的の共有が不十分だと期待した成果が得られません。提携契約では役割分担や成果配分、契約解除条件を明確に定め、定期的な進捗確認の仕組みを構築することが成功の鍵となるでしょう。

M&Aのメリットとリスク

売り手側のメリットとリスク

売り手企業にとってM&Aは、企業の存続と発展を両立させる重要な選択肢です。事業承継問題に直面する経営者にとって、M&Aがもたらすメリットは大きい一方で、慎重に検討すべきリスクも存在します。

主なメリット

  • 事業承継問題の解決と後継者不在による廃業の回避
  • 従業員の雇用維持と取引先との関係継続
  • 売却による創業者利益(キャピタルゲイン)の確保
  • 個人保証や経営責任からの解放
  • 企業の発展可能性の拡大(大手企業傘下での成長機会)

注意すべきリスク

  • デューデリジェンスや交渉に要する時間とコストの負担
  • 情報漏洩による従業員や取引先への不安拡大
  • 買い手による経営方針変更に伴う従業員の処遇悪化
  • 取引先離れや顧客流出の可能性
  • 譲渡所得税(約20%)による手取り額の減少

これらのリスクを最小化するには、信頼できるM&Aアドバイザーの選定と、適切なタイミングでの従業員への情報開示が重要となるでしょう。

買い手側のメリットとリスク

買い手企業にとってM&Aは、成長戦略を加速させる有効な手段です。時間を買うという最大のメリットがある一方で、投資に見合う成果を得るためには様々なリスクへの対応が求められます。

主なメリット

  • 新規事業立ち上げ期間の大幅短縮(時間の購入)
  • 既存の顧客基盤、技術、人材の即座な獲得
  • 市場シェアの迅速な拡大と競争優位の確立
  • 事業の多角化によるリスク分散
  • スケールメリットによるコスト削減効果

注意すべきリスク

  • 期待したシナジー効果が実現しない可能性
  • 簿外債務など隠れた負債の承継リスク
  • 組織文化の違いによる人材流出
  • 買収価格に含まれる「のれん」の減損リスク
  • 統合後の管理コストの想定外の増大
  • 投資回収期間の長期化

リスクを回避するために、徹底的なデューデリジェンスの実施と、PMI(統合プロセス)計画の精緻化が不可欠となるのです。

M&Aの流れ

M&Aは一気に成立するものではなく、準備から統合まで段階的に進めるプロセスを経ます。各ステップを理解しておくことで、取引を円滑に進めることが可能です。

  1. 準備:目的の明確化、専門家の選定、企業価値の予備評価
  2. 相手探し・交渉:候補企業の選定、NDA締結、情報交換、基本合意
  3. 調査・契約:財務・法務などのデューデリジェンス、最終契約書の締結
  4. クロージング・統合:株式や事業の引き渡し、決済、PMIによる統合

このように、M&Aには複数の段階があり、それぞれで適切な準備と対応を行うことが成功の鍵となります。

M&Aにおける企業価値評価の算定方法

M&Aでの企業価値評価(バリュエーション)は、売り手・買い手双方が適正な価格を判断するために欠かせないプロセスです。代表的な算定方法は次の3つがあります。

  • コストアプローチ:資産と負債を時価で評価し、純資産価値を算出する方法
  • マーケットアプローチ:類似企業の取引事例や株価指標を基に推定する方法
  • インカムアプローチ:将来キャッシュフローを予測し現在価値に割り引く方法

実務では複数の手法を組み合わせることで評価の精度を高めます。最終的な売買価格は評価額を基準としながら、交渉により決定されることが一般的です。評価の妥当性を確保するため、第三者の専門家による評価を取得することも重要でしょう。

M&Aにかかる費用や税金

M&Aでは、売買代金そのものに加えてさまざまな税金や費用が発生します。これらを十分に理解していないと、想定外のコストが生じて資金計画に影響することもあるため、事前に確認しておくことが欠かせません。

  • 税金:株式譲渡益には約20%の税率が適用され、法人の事業譲渡では法人税や消費税が課される場合がある
  • 費用:仲介会社への着手金・中間報酬・成功報酬などがあり、成功報酬は取引金額の4~5%程度が目安
  • その他:デューデリジェンス費用、企業価値評価料、契約書の印紙税や登録免許税なども必要

こうした費用は案件規模やスキームによって数百万円から数千万円に及ぶこともあります。特に中小企業では、これらのコストが経営に与える影響は大きく、費用対効果を慎重に検討した上でM&Aの実行可否を判断することが重要となるでしょう。

M&Aを成功させるためのポイント

M&Aで失敗を避け、望む成果を得るためには、計画段階から統合後までの一貫した準備と戦略が重要です。目的を明確にしないまま進めると、取引条件や期待するシナジーがあいまいになり、失敗につながりやすくなります。

また、専門家の活用も成功率を大きく左右します。M&Aアドバイザーやファイナンシャルアドバイザーなど経験豊富な専門家のサポートにより、適正な企業価値評価や交渉戦略の立案、潜在リスクの発見が可能となります。

特にデューデリジェンスでは、財務、法務、ビジネス、人事など多角的な調査が必要であり、各分野の専門家による精査が欠かせません。

最も重要なのはPMI(統合プロセス)への取り組みです。取引成立後の組織統合、システム統合、企業文化の融合が不十分だと、期待したシナジーが実現せず、むしろ組織の混乱や人材流出を招きます。統合計画は取引前から策定し、経営陣のコミットメントのもと着実に実行することが、M&Aの真の成功につながるのです。

M&Aの全体像を理解し自社の成長戦略に生かす

M&Aは買収、合併、提携という多様な手法を通じて、企業の成長加速や事業承継問題の解決を可能にする重要な経営戦略です。メリットを最大化しリスクを最小化するには、各手法の特徴を理解し、自社の状況に最適な選択を行うことが求められます。

成功のためには、明確な目的設定、専門家の活用、徹底的なデューデリジェンス、そして統合後のPMIまで、一貫した戦略と実行力が必要です。費用や税金などのコスト面も含めた総合的な判断により、M&Aを自社の持続的成長につなげることが可能となります。

経営環境が激変する中、M&Aという選択肢を適切に活用することで、企業価値の向上と競争優位の確立を実現していきましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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