人材育成の課題と解決策。代表的な手法や効果を高めるポイントも

企業が目標を達成するためには、優秀な人材の育成が不可欠です。しかし、人材育成ではさまざまな課題が発生しがちであり、思うように従業員が育たないことに悩む経営者も多いでしょう。人材育成のよくある課題と解決策、代表的な手法を紹介します。

人材育成とは

「育成」と一言で言っても、その意味は幅広く、利用されるシーンによって違った意味を持ちます。

人材育成を施策として定着させるには、そもそも「育成」の定義を理解しなければなりません。

まずは人材育成の定義と、混同しやすい人材開発という言葉の違いについて知っておきましょう。

企業の目標達成のために従業員を育てること

人材育成は、単なるスキルの向上ではなく、企業の戦略目標を実現するための「人材マネジメント」の要です。

その目的は、経営資源の中でも最も重要な「ヒト」を効率的かつ効果的に活用し、組織の競争優位性を高めることにあります。

特に、労働市場が縮小しつつある日本においては、人材育成は「攻めの経営」の柱として欠かせない取り組みです。単なる教育施策ではなく、組織と個人の目標を統合し、持続的な成果を生むマネジメント手法としての視点が求められます。

人材開発との違い

人材育成と人材開発は、いずれも組織の成長に欠かせない取り組みですが、そのアプローチや目的に違いがあります。

人材開発は、従業員が自ら目標を設定し、それぞれのキャリアや成長イメージに応じた方法でスキルや能力を高めていくプロセスを指します。この取り組みでは、従業員自身の内発的な動機付けが重要視され、個人の主体性が育成の中心となります。

一方で、人材育成は企業が主導して行うもので、組織の戦略や目標に基づき、人材を計画的に成長させることを目的としています。企業が求める方向性や成果に応じて、従業員に必要なスキルや知識を習得させることが主眼です。

これらの違いを理解した上で、企業は人材育成と人材開発をバランスよく組み合わせることが重要です。

人材育成のよくある課題

人材育成ではさまざまな課題が発生し、従業員が思うように育たなくなることがあります。課題の解決策を見る前に、人材育成のよくある課題をチェックしておきましょう。

 育成の目的や効果が曖昧

人材育成が効果を発揮するためには、「何を目的として育成を行うのか」「どのような成果を期待するのか」を具体的に定めることが不可欠です。目的や効果が曖昧なままでは、育成に投じた時間やリソースが無駄になり、企業の目標達成に貢献しない取り組みになりかねません。

また、育成活動そのものが目的化してしまうと、研修やトレーニングに参加すること自体がゴールになり、現場での行動変容や成果の向上にはつながりません。このような状況を防ぐためには、育成の目的を明確化し、それに基づいて期待する成果を定義することが重要です。

指導者側だけでなく被指導者にも育成の目的を理解してもらい、研修後の現場における行動変容につなげる必要があります。

 指導者・被指導者のスキルと意識のギャップ

指導者のスキル不足は、被指導者の成長を妨げる大きな要因です。例えば、被指導者の習熟度やニーズを適切に分析できない場合、不適切な業務や過剰な負担を与えてしまい、成長を阻害する可能性があります。

一方で、被指導者が学ぶ意欲を欠いている場合も、育成効果は大きく低下します。非指導者のニーズに合わせたプログラムを提供したり、学び方に合った環境を整備したりする必要があるでしょう。

 人材育成のリソースが不足している

人材育成のよくある課題として、育成にかけられるリソースが足りないことも挙げられます。時間・予算・指導者が不足していると、十分な育成を行えません。

例えば、一般的に指導者は通常業務と並行して非指導者を指導しますが、通常業務が忙しい場合は育成にかけられる時間を確保しにくくなるでしょう。また、人材育成は優先順位が低くなりやすいため、予算の割り当てが後回しになってしまう傾向があります。

 育成が経営戦略と結びついていない

人材育成は企業の目標達成に向けて従業員を育成することです。経営目標や戦略と人材育成が連動していない場合、全体としての成果が薄れやすくなってしまいます。

人材育成の目標は、企業の経営目標や戦略とリンクしていなければなりません。経営層が育成の重要性を認識し、経営目標や戦略に沿った育成目標を設定する必要があります。

人材育成の課題を解決する方法

人材育成の課題を解決するために意識したいポイントを紹介します。自社の課題に対する解決策を検討する際の参考にしましょう。

 目標設定と効果測定を行う

人材育成を行う際は、経営戦略に基づいた具体的な育成目標を設定しましょう。年代・職種・役職に応じて求める人物像をイメージすれば、必要な教育内容を把握しやすくなります。

KPIやROIを用いて効果を測定することも重要です。育成の成果を数値化することで、経営層も育成の重要性を共有しやすくなるでしょう。

 指導者のスキルを向上する

人材育成を成功させるためには、指導者のスキル向上が不可欠です。育成を実施する前に指導者向けの研修やコーチングを実施し、指導スキルの向上を図りましょう。また、成功事例を共有することで、指導者全体のスキルを底上げできます。

指導者のスキル向上を目指すと同時に、指導の質を均一化することも大切です。非指導者全員が同じ動画で学んだり、指導内容のチェックリストを作成したりすれば、指導の質は必然的に均一化されます。

 適切なリソース管理の実施

人材育成のリソース不足が課題になっている場合は、限られたリソースを最大限に活用する工夫が求められます。育成に必要な時間や予算を計画的に配分し、優先順位を明確化することも重要です。

例えば、指導者側の手が空いたタイミングで教育を行うようにすると、いつまで経っても育成が進まない状況に陥りかねません。人材教育に充てられる時間をあらかじめ確保した上で、限られた時間内に効率良く指導を進める工夫が必要です。

 外部研修を使うのも効果的

人材育成を社内で済ませようとする場合、「育成方法が分からない」「指導者が少ない」「指導時間を確保できない」といった課題の解決が難しいケースがあります。

社内での指導が困難な場合は、外部の研修機関を活用することで、専門知識を短期間で学べます。外部研修を通じて新たな視点やスキルを組織に取り入れることも期待できるでしょう。

また、自社で研修を企画する必要がないため、指導者の負担を大幅に軽減できる点もメリットです。

人材育成の代表的な手法

人材育成を効果的に進めるためには、自社の状況や目的に合わせて育成手法を選択することが重要です。適切な手法で育成を行うことで、非指導者側のモチベーションアップも図れます。

以下に挙げる代表的な人材育成手法の特徴を理解し、自社の状況や目的に応じて使い分けるとよいでしょう。

OJT

OJTは実務を通して知識やスキルを習得させる育成手法です。一般的には先輩や上司が指導者となり、業務を実践しながら知識やスキルを非指導者に教えていきます。

研修のために特別な時間を割く必要がない点が、OJTのメリットです。通常業務の一環として実施できるため、業務を進めながら人材を育成できます。

OJTと似た育成手法としては、メンター制度もあります。非指導者と年齢が近い先輩社員が指導者になり、業務面と精神面でサポートする手法です。

年齢が近い先輩社員なら何でも相談しやすくなるため、非指導者に安心感を与えられます。従業員の定着率向上を図れるほか、メンターとなる社員のマネジメント能力も鍛えられるでしょう。

Off-JT

業務を離れて研修を行う育成手法がOff-JTです。一般的には、研修会場やスクールなど職場から離れた場所に対象者を集めて開催されます。

汎用性の高いスキルを教えたり企業理念の浸透を図ったりしたい場合には、Off-JTが有効です。知識やスキルを体系的に習得しやすいほか、受講者同士の交流の場にもなります。

従業員全員に学んでもらいたいことをOff-JTで習得させた後、OJTに移行してそれぞれに実務的なスキルを習得してもらうのが理想です。Off-JTで外部研修を活用すれば、指導者や資料を自社で用意する時間や手間も省略できます。

eラーニング

eラーニングはインターネットと端末を利用して実施する手法です。事前に収録した研修用の動画を視聴してもらい、必要な知識を習得してもらいます。

eラーニングの大きなメリットは、受講者が時間や場所を問わず学べることです。ネット環境とPC・スマホがあればいつどこからでも動画を視聴できるため、リソース不足の課題も解消しやすいでしょう。動画研修後にテストを実施すれば習熟度も確認できます。

OJTやOff-JTを補完する形でeラーニングを取り入れることで、より効率的に人材育成を進められます。従業員全員に一律で習得してもらいたい内容の指導には、eラーニングを積極的に活用するとよいでしょう。

人材育成の効果を高めるポイント

人材育成においては課題の解決に努めることと併せて、効果をより高めるためのポイントを押さえることも重要です。人材育成の施策を検討する際に重視したいポイントを紹介します。

育成内容に優先順位をつける

限りあるリソースを有効活用するためには、育成内容に優先順位をつける必要があります。人材育成の重要課題を階層別に分け、上位層から着手するのがおすすめです。

組織の人事課題は上位層が下の層に影響を及ぼしやすく、上位層の意識が変われば全社的な課題解決につながりやすくなります。役割が多岐にわたる中間管理職の人事課題から着手すれば、結果的に育成の投資対効果も高まるでしょう。

中長期的な方針を立てる

人材育成は一朝一夕で結果が出るものではありません。数年単位で取り組むことで結果が見えてくるため、中長期的な方針を立てることが大切です。

計画を立てずに人材育成を行うと、効果が薄い研修を乱発するだけの状況になってしまいます。経営目標を達成するためのプロセスをしっかりと考え、中長期的な視点に立った取り組みを進めましょう。

人材育成の課題を解消しよう

企業の人材育成ではさまざまな課題が生じます。課題を放置したままにしていると育成の効果が半減し、人材育成の目的である経営目標の達成が遠のくでしょう。

自社の課題を洗い出した上でそれぞれの原因を特定し、適切な解決策を講じることが重要です。自社の目的や状況に合わせて人材育成手法を選び、実施後にはフィードバックや改善も随時行いましょう。


著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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