ダブルループ学習とは?シングルループ学習との違いや実践方法を解説
ダブルループ学習は新しいアプローチを生み出す学習方法です。職場に取り入れることで、組織の課題解決や成長を図れるでしょう。ダブルループ学習の意味やシングルループ学習との違い、実践方法について詳しく解説します。
ダブルループ学習とは
ダブルループ学習は、運送業や接客業、介護業といった現場で活用することで、業務改善やサービスの質向上に大きく役立つ考え方です。この学習法を理解するには、シングルループ学習との違いを押さえることがポイントです。以下でその基本的な意味と現場での実例を交えながら詳しく解説します。
ダブルループ学習の意味
ダブルループ学習とは、現在の枠組みや前提そのものに疑問を持ち、問題解決に向けて根本的な見直しを行うアプローチを指します。これは、従来の方法にとらわれず、新しい視点や発想を取り入れることを求められる場面で特に有効です。
例えば、介護業界では、「利用者がリハビリに積極的に参加しない」という問題に直面することがあります。通常のアプローチでは、「もっと声掛けを増やす」「説明を丁寧にする」などのシングルループ学習的な改善策を試みるでしょう。しかし、ダブルループ学習では、「なぜ利用者がリハビリを避けるのか」という根本的な疑問を掘り下げます。その結果、リハビリの時間帯や方法が利用者にとって負担になっていることが分かれば、スケジュールを柔軟に調整したり、代替のリハビリ方法を提案することで、長期的な解決策につなげられます。
また、運送業において「配達が頻繁に遅れる」という課題がある場合、ダブルループ学習では「現在の配達ルートやスケジュールそのものが適切なのか」を問い直します。単に配達員の作業速度を上げるだけでなく、交通量や顧客の要望に応じたルート再設計を行うことで、問題の根本的な解消を目指します。
シングルループ学習との違い
シングルループ学習は、過去の成功体験や既存の方法に基づき、現状を維持しながら改善を図るアプローチです。運送業や接客業でよく見られる例として、「遅延を減らすために配達チェックリストを増やす」や「クレームを減らすためにスタッフの接客スキルを強化する」といった方法が挙げられます。
このアプローチは短期的な改善には効果を発揮しますが、課題の本質的な原因を解消しないため、抜本的な変革にはつながりにくい点が特徴です。
一方、ダブルループ学習では、課題の背後にある仕組みや考え方自体を見直します。たとえば、接客業で「顧客満足度が低下している」という問題がある場合、シングルループ学習では「スタッフの接客態度の改善」や「顧客アンケートの実施」といった対策を取るでしょう。
しかし、ダブルループ学習では「そもそも顧客が何を満足と感じるのか」「市場のニーズが変化しているのではないか」という視点で、サービス内容そのものを再構築します。
ダブルループ学習が注目される理由
現代のビジネス環境は急速に変化しており、これまでのやり方が通用しない状況が増えています。例えば、技術革新や消費者ニーズの多様化により、過去の成功モデルが機能しなくなるケースが少なくありません。
こうした中で、従来の枠組みにとらわれるシングルループ学習だけでは、競争に対応するのが難しいのが実情です。
ダブルループ学習は、このような状況下での柔軟性や適応力を高めるために不可欠です。運送業では、AIやデータ分析を活用して配達効率を高める方法を検討したり、接客業では顧客体験を重視したサービス設計を行ったりするなど、時代の変化に即した対応が求められます。
ダブルループ学習のメリット
シングルループ学習は「改善」、ダブルループ学習は「改革」といわれることもあります。ダブルループ学習で組織の改革を目指すと、どのような効果を得られるのでしょうか。
幅広い視点から問題を解決できる
ダブルループ学習のメリットの一つに、多角的な視点から問題を解決できることが挙げられます。特定の問題に対して、幅広い解決策を考えられるようになるでしょう。
ダブルループ学習では問題を根本から見直すため、場合によっては問題解決自体の必要性を問うケースもあります。アプローチを変えれば問題そのものが消滅する可能性があるためです。
また、従来型の考え方では生じ得ない画期的な解決策が生まれることもあり、思いもよらない売り上げ向上につながる場合もあります。
組織全体のレベルアップを見込める
個人の成長スピードが急激に上がる可能性を秘めていることも、ダブルループ学習を取り入れるメリットです。広い視野で物事を考えられるようになるため、柔軟な思考力が磨かれ、変化に対応する過程で精神面や技術面も向上しやすくなります。
従業員の成長スピードがアップすると、組織全体のレベルアップも見込めるでしょう。市場における競争優位性が高まり、変化の激しいビジネス環境においても売り上げを維持・向上させやすくなります。
組織におけるダブルループ学習の実践方法
ダブルループ学習を職場に定着させるための方法を解説します。各従業員が柔軟な思考力を発揮できるよう、プロセスごとのコツも理解しましょう。
極端に高い目標を設定する
組織でダブルループ学習の実践に取り組む際は、あえて極端に高い目標を設定してみましょう。今までのやり方で達成可能な目標にすると、シングルループ学習で十分なケースが多いためです。
ダブルループ学習では、既存の枠組みや前提を疑うことから始めます。今までのやり方では達成できない目標を設定すれば、考え方を根本から見直す必要があるため、ダブルループ学習につながりやすくなるのです。
ブレインストーミングを実施する
ブレインストーミングとは、複数人で自由に意見を出し合って新しいアイデアの創出を図る発想法です。役職や入社年次、雇用形態などを意識しないことを約束事とし、とにかく発言の量を増やすことを目指します。
全ての意見を肯定的に受け入れるのが、ブレインストーミングを成功させるポイントです。さまざまな意見を集めれば、個人では考えつかないようなアイデアが生まれやすくなるため、ダブルループ学習の一環として効果を発揮するでしょう。
管理職や経営者が実行に移す
ダブルループ学習では斬新な発想が生まれやすいため、新たな施策について部下が自ら行動に移そうとしても、「そんな施策がうまくいくわけがない」といった批判を恐れて実行しにくくなるものです。
管理職や経営者が自分たちの主導で施策を実行に移せば、職場の心理的安全性が高まり、部下から意見が出やすい環境をつくれます。
「うまくいくわけがない」という思考になるのは、既存の枠組みや前提にとらわれているためです。ダブルループ学習の効果を高めるためには、管理職や経営者がダブルループ学習の重要性を理解する必要があります。
ダブルループ学習を促進するフレームワーク
ダブルループ学習では広い視野で物事を捉えることが重要です。以下に挙げるフレームワークは視野を広げるのに役立つため、積極的に取り組んでみましょう。
リフレーミング
リフレーミングは、物事の捉え方や枠組みを意図的に変えることで、異なる視点から新たな解釈やアイデアを導き出す手法です。既存の思考パターンに縛られず、問題を新しい角度から捉え直すための強力なツールとして活用できます。
例えば、実店舗で好調な売れ行きを見せている商材をオンライン市場に進出させたいと考えたとします。この際、競合が存在しないことを「需要がない」とネガティブに捉えるのではなく、「潜在的な市場がまだ開拓されていない」とポジティブに捉えれば、新たな挑戦への足掛かりとなるでしょう。
リフレーミングを意識することで、既存の考えにとらわれず、多様な可能性を検討できるようになります。これは特に、運送業で新たな配達エリアの拡大や介護業界で新しいサービスモデルを検討する際に効果的です。
クリエイティブ・テンション
クリエイティブ・テンションとは、「理想」と「現実」の間に存在するギャップが成長の原動力になるという考え方です。このギャップを埋めようとする意識が、組織や個人の成長を促します。
例えば、接客業で「顧客満足度を現状の80%から95%に引き上げる」といった高い目標を設定した場合、その達成に向けてスタッフのトレーニングや接客体制の見直しなど、具体的な取り組みが生まれます。重要なのは、達成困難と思える目標であっても、それが組織全体にとって挑戦を促すエネルギーとなる点です。
知覚位置の切り替え
物事を認識する際に自分が置かれた場所を知覚位置といいます。知覚位置を切り替えれば物事の捉え方が変わるため、ダブルループ学習に役立つでしょう。
例えば、自分では残業するほど仕事を頑張っていると思っていても、周囲は「残業するのは効率が悪いからだ」と感じているかもしれません。また、残業して実際に会社の売り上げアップに貢献していたとしても、個人レベルでは疲労の蓄積やプライベートの時間の縮小につながってしまいます。
知覚位置の切り替えで複数の視点を持つことの重要なポイントは、全ての視点を等価値で捉えることです。いずれかの視点に正しさを求めるのではなく、選択肢を広げる発想を持つ必要があります。
ダブルループ学習を実践して組織課題を解決
既存の取り組み方に疑問を持つダブルループ学習は、幅広い視点からの問題解決につながります。個人の成長速度が上がり、組織全体の底上げにつながることもメリットです。
先が読めないこれからの時代を生き抜くためには、柔軟な思考力を身に付ける必要があります。職場にダブルループ学習を取り入れ、組織の課題解決や成長を図りましょう。