社内転職制度とは?運用事例やメリット、運用における注意点を解説

社内転職制度とは、他部署への異動や職種の変更など同じ会社内で働く場所を変えることを指します。

優秀な人材を確保し、個人のキャリアアップを叶える環境を提供するものですが、制度の進め方や注意するべきことが分からず悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。

本記事では、社内教育制度の概要と企業側と従業側のメリット、実施のリスクとその対応策まで紹介します。

社内転職制度の設計ステップと企業事例も解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

社内転職制度とは

社内転職制度とは、他部署への異動や職種の変更など同じ会社内で働く場所を変えられる制度のことです。

従業員の自己実現やキャリアアップを支援すると同時に、組織全体の人材育成やナレッジ共有の促進に寄与します。

日本では将来的な人口減少が懸念されるなか、AI技術による業務の代替が期待されています。私たちは社会情勢の変化や技術革新の進展にともない、AIでは代替できないスキルやAIを扱うスキルを育むことが必要とされていて、個人が主体的なキャリア開発を進めることは重要です。

社外への転職という手段もありますが、組織文化や社内環境の違いに苦しむリスクもあります。社内転職制度はこのニーズに対応するとともに、企業が社外への人材流出を防ぐ手段として利用される制度です。

また、社内転職制度の類似用語に、社内FA制度と社内公募制度があります。社内FA制度は、従業員自ら異動したい部署へ志願するものです。一方、社内公募制度は部署が社内の従業員へ求人募集をおこない、希望する従業員は手を挙げて選考を受けられる制度を指します。

どちらも同じ会社内で異動する意味であり、社内転職の一種です。

社内転職制度による企業側のメリット

次に、社内転職制度による企業側のメリットを紹介します。

採用コストを削減できる

社内転職制度の活用促進により離職を防ぐことで、新たに社外から人材を確保するための費用や時間が不要になり、採用コストを削減できます。

株式会社リクルートが運営する就職みらい研究所の「就職白書2020」によると、2019年度の1人当たりの平均採用コストは新卒採用で「93万6,000円」、中途採用で「103万3,000円」となっています。この調査は2019年12月〜2020年1月に実施され、全国の新卒採用を行う1,256社から得られた回答です。

社内転職制度を活用すれば、上記の内訳となる募集要項の掲載など外部業者の委託にかかる費用や外部人材のリサーチにかける時間を削減可能です。

参考:就職白書2020 | 就職みらい研究所

企業全体の生産性向上につながる

企業は社内転職制度により、従業員が自分自身の価値をさらに高めて会社に貢献しやすい環境を提供できるため、部署を跨いだイノベーションの創出や企業全体の自己研鑽文化が醸成され、生産性向上が期待できます。

優秀な人材は、自身のスキルを磨いてキャリアアップをし続けたいと考えます。そのため、新たな職種や部署への挑戦は、モチベーションを刺激してキャリアの成長を促進させるものです。加えて、社内転職制度による昇給や昇進が実現した従業員が出てくれば、モデルケースとして他の従業員に対してもキャリアアップの可能性を示唆することができます。

結果として従業員の就業満足度の向上や自己研鑽文化の醸成により、企業全体の生産性向上につながるでしょう。

社内転職制度による従業員側のメリット

次に、社内転職制度による従業員側のメリットを解説します。

大きく環境を変えることなく主体的なキャリア形成ができる

従業員は、会社を辞めずに主体的なキャリア形成ができます。

従業員は社内転職によって、自身のキャリアパスをより具体的に描けるため、自己成長やキャリア開発に積極的に取り組めます。また、異なる部署や職種での経験を積むことで幅広い業務スキルを身につけられ、将来のキャリアの選択肢を拡張可能です。

社外への転職と比較しても、これまで働いてきた環境や文化を知った状態で、キャリアアップ・キャリアチェンジを図れることは、メリットの一つと言えるでしょう。

事前に部署の雰囲気を把握できる

社内転職を行うことで、事前に部署の雰囲気を把握できます。

社内転職では企業の従業員が異動するため、異動先の部署の雰囲気や職種が求めるスキル、能力が事前に把握しやすいです。自身の性格や価値観、働き方などが、異動する部署にフィットするかどうかも事前によく確認してから転職制度を利用できます。

社内転職者は、社外からの転職者よりも企業全体の文化や部署間の連携の取り方を事前に知っているため、新しい環境にも馴染みやすいのが特徴です。

適職への異動により、出世や年収アップにつながる

適職に異動できれば、高い生産性を発揮できるため、出世や年収アップにつながります。

配属辞令は、主に会社の都合で行われ、従業員は指示に従う必要があります。しかし、従業員は配属先の部署の業務内容が自分の特性とマッチせず、自分の適性に合ったスキルを発揮できないことがあるでしょう。

適職へ異動したことでより会社に貢献し多くの利益をもたらすことに成功すれば、結果として出世や年収アップにつながります。

社内転職制度導入の3つのリスクとその対策

社内転職制度の導入には、企業側と従業員にメリットだけでなく、両者にとってリスクもあります。

次に、社内転職制度導入のリスクとその対策方法を解説します。

1. 社内の人間関係の悪化

一つ目は、社内の人間関係の悪化によるリスクです。

社内転職の選考を受けていることが周囲に漏れた場合、他の従業員から他部署への異動を妨げる同調圧力を感じたり、「裏切った」と考えたりする人もいるかもしれません。

また、選考に受かり別部署の異動出来たとしても同じ会社で働いているため前部署の方との関係が悪化するリスクがあり、選考に落ちた際には再び元の部署の従業員と仕事をするため、選考を受けた本人は気まずさや後悔の気持ちを感じる可能性もあります。

このリスクへの対策方法は、人事は社内公募に応募した従業員の情報を採用活動が終わるまで外部に漏らさないよう徹底することです。

採用が決定した時のみ外部に伝えることで、落選した際でも所属部署との関係悪化を防げます。また、人事は個人のキャリア開発の重要性を伝え、社内転職の挑戦を推奨する社風を醸成することもリスクへの対策方法です。

2. 目的外の転職の増加による生産性の低下

二つ目は、目的外の転職の増加によるリスクです。

社内転職の本来の目的は、従業員の自発的なキャリアが実現できることです。しかし、中には現状の仕事に苦痛や不満があり、そこから逃げるための社内転職の利用が増える危険があります。

ネガティブな動機での社内転職が増加すれば、部署や業務内容が変わっても主体的なキャリア形成や開発にならず、従業員が根本的に抱える問題への解決は難しいでしょう。また、組織全体の生産性やモラルに悪影響を及ぼす可能性があります。

このリスクへの対策方法は、ネガティブな動機で社内転職を検討する人が起きないよう各部署へのアンケートの実施や聞き込み調査により、問題点や困り事を把握しましょう。その後、業務を円滑に遂行しながら従業員の不満を解消する方法を考え、積極的に実施することが大切です。

3. 人員バランスの崩れ

三つ目は、部署ごとの人員バランスが崩れるリスクです。

同じ会社でも、部署により文化や雰囲気、仕事の進め方は異なるでしょう。そのため、人気のある部署に人員が集中し、一方で人手不足の部署が出る可能性があります。このリスクへの対策方法は、部署の適正人数を事前に算出することです。

まずは、各部署の業務を棚卸して、現状を「見える化」しましょう。その後、自動化を進めたり無駄な工程を省いたりと効率化を検討した後に、改めて部署に必要な人数を見直してください。

各部署の適正人数を把握した後で、社内転職希望者の所属部署や希望先の部署を把握し、適切な人事戦略の立案と実行を行ってください。

社内転職制度を設計する上でのポイント

次に、社内転職制度の設計ステップを解説します。自社で制度を策定する際に押さえてポイントを紹介しますので、参考にしてください。

明確な基準と規定を設定する

社内転職制度を効果的に運用するためには、選考基準や制度の規定を明確に設定し、それを徹底的に適用することです。

従業員が制度の目的を理解し納得できるようにするためにも、公平性と透明性を重視して規定を整備してください。

設定のポイントは、部署ごとに求める人材・スキルなどを示した要項を作成したうえで、応募は上長に相談せず誰でも可能にすることです。また、応募後は個人情報を適切に管理しながら選考を行い、部長・役員と面接して合格したら配属という流れで進めるのが望ましいです。

規定の設定後は内容を社内に周知して、従業員の理解と信頼を得ましょう。

従業員のサポートとフィードバックを充実させる

社内転職制度の運用にあたっては、従業員へのサポートやフィードバックの提供も欠かせません。

従業員が自身のスキルや能力を適切にアピールし、異部署のメンバーやマネージャーと良好な関係を築いたり、新たな職種や部署での業務に適応したりできるように支援しましょう。

また、落選した人には理由をしっかりと説明して、次回に挑戦できるよう効果的なフィードバックを行ってください。

従業員のプライバシーを保護する

社内転職制度の運用にあたっては、従業員のプライバシーを尊重し、保護することも重要です。

従業員の希望や情報を適切に管理し秘密を保持することで、制度の信頼性と公平性を保ちましょう。

応募者の情報が漏れると当事者の企業への不信感が高まり、他従業員との関係も悪化する可能性があるため、応募者情報の秘密保持は徹底して行う必要があります。

社内転職制度の運用事例3社

最後に、社内転職制度の運用事例を3社紹介します。制度の内容と成果を確認し、自社に取り入れる際の参考にしてください。

1. 富士通株式会社

富士通株式会社は、「ポスティング」と呼ばれる社内公募制度を実施しています。

本制度は職務記述書を用いて役割を定義し、それに基づいて社内採用を行います。また、本制度は異動と昇格の両方を含み、新任管理職はほとんどが社内公募で選ばれるそうです。

実際に2022年度は6,365件のポジションを募集、そのなかで7,902人が応募し、3,419人が合格しています。

本制度により従業員は社内の様々な部署への異動が可能になったため、選択の幅が広がりモチベーションの向上につながっています。

参考:SIer各社が奨励する「社内転職」、富士通は希望者8000人 | 日経クロステック(xTECH)

2. レバレジーズ株式会社

レバレシーズ株式会社は、他部署への異動を奨励し社内公募制度を設けています。

目的は、従業員が新しいキャリアパスを模索し、仕事にやりがいを見出すことです。具体的には、社内公募制度の募集要項を記載した社内求人サイト「レバキャリ」を作成し、従業員の社内転職を支援しています。

実際に、社内公募制度を利用した従業員の満足度は高く、新たな自己成長の機会とやりがいを見出しているそうです。

企業では、異動による従業員のキャリアを支援する風土づくりの必要性を認識し、管理職や事業部長のマネジメント能力の向上を図っています。

参考:内緒で応募もOK、異動拒否はNG…ガチすぎる社内転職制度に「やりがい見つかった」「相談くらいして」と賛否 | ニュース3面鏡 | ダイヤモンド・オンライン

3. ソニー株式会社

ソニー株式会社は、「キャリアチャレンジ制度」という社内公募制度を行っています。

キャリアチャレンジ制度の目的は、従業員が自らキャリアを切り開いていく企業風土を醸成することです。

異動を希望した従業員が採用部門のニーズにマッチすれば、その職種に配属されます。毎年一定数の従業員がこの制度を利用して異動するそうです。

本制度を利用する従業員には「自分が情熱を傾けられるプロジェクトに参加したい」「キャリアの幅を広げたい」など様々な動機があります。

異動した従業員は、新たな視点や経験を得ていて、キャリア開発や将来のキャリア目標を考える良い機会となっています。

参考:人事制度 | 新卒者採用 | 採用情報 | Sony Network Communications 会社情報

まとめ - 社内転職制度を導入するためには

今回は社内転職の概要や企業側と従業員側へのメリット、リスクや設計する上でのポイントを紹介しました。

社内転職は、人材の流出を防ぎ採用にかかるコストを削減するほか、従業員の主体的なキャリア開発や適職への異動により高い生産性をもたらし出世につながるなど双方にメリットがあります。

企業事例を参考にして制度を明確に整備し、個人のキャリア開発を応援する文化を醸成するなど、従業員が社内転職制度にチャレンジしやすい企業作りを行っていきましょう。

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