ダイバーシティ&インクルージョンとは?導入効果や成功のポイント
現代の企業には多様化への対応が求められています。ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、企業価値の向上や競争力の強化を図りましょう。ダイバーシティ&インクルージョンとは何か、期待できる効果や取り組みのポイントと併せて解説します。
ダイバーシティ&インクルージョンの基礎知識
ダイバーシティ&インクルージョンは、2つの言葉が組み合わさってできた言葉です。それぞれの概念を理解し、求められる背景も押さえておきましょう。
ダイバーシティ&インクルージョンとは
ダイバーシティとは、年齢・性別・人種・価値観など、さまざまな属性の人が共存している状態のことです。日本語では多様性を意味します。
また、インクルージョンとは、個々の人材が能力を発揮し活躍している状態のことです。元々は「包括」「受容」といった意味を持ちます。
つまり、ダイバーシティ&インクルージョンは、多様な人材を受け入れて個々の能力を最大限に生かすための取り組みを意味します。
ダイバーシティ&インクルージョンが求められる背景
近年はビジネス環境が急速に変化し、消費者のニーズも多様化しています。他社との競争に乗り遅れないためには、多様な人材を取り入れてさまざまな意見を参考にビジネスを進めることが重要です。
また、労働力不足やワークスタイルの変化も、ダイバーシティ&インクルージョンが求められる理由の1つです。人材の確保に困らないようにするためには、従来の価値観にこだわらない採用基準で人材を雇用する必要があります。
多様な人材を受け入れれば、市場のグローバル化についていけるようになるほか、これまでにない視点からのアイデアも生まれやすくなるでしょう。
ダイバーシティ&インクルージョンで持つべき視点
ダイバーシティ&インクルージョンにおける重要なポイントは、さまざまな多様性を受け入れることです。世の中ではどのようなことが多様化しているのか、ダイバーシティ&インクルージョンで持つべき視点を紹介します。
属性の多様性
人材における属性とは、年齢・性別・人種などを指します。ダイバーシティの推進においては、属性の多様性を受け入れて個々の特徴を生かすことが大切です。
例えば、女性の活躍を推進することで、女性ならではの視点からマーケティングの分析を行えます。シニアを積極的に採用すれば、経験を生かして組織づくりに貢献できるかもしれません。
近年は市場のグローバル化に対応するために、外国人の採用を増やすケースも増えています。属性で人材を制限するのではなく、属性に応じた活躍の場を提供することが大切です。
価値観や発想の多様性
ダイバーシティの中でも特に重要なテーマが、価値観の多様性です。これまで日本では、共通の価値観による均質的な組織づくりが行われてきました。しかし、このような状況下では多様な意見や発想が生まれにくく、個々の能力が十分に発揮されません。
価値観の違いを受け入れて多様な意見や発想を引き出すことで、立場を超えたシナジーが生まれ組織の力が底上げされるのです。
価値観の多様化はライフスタイルの変化にも大きな影響を与えています。単身世帯一つとっても、未婚である理由は人によりさまざまです。ダイバーシティ化を進める際は、偏った見方で判断しないことが重要になります。
働き方の多様性
ダイバーシティ&インクルージョンでは、働き方の多様性も意識する必要があります。働き方改革とも関係するため、無視して通れないテーマです。
働き方改革では、労働者が働き方を柔軟に選択できるよう、時短勤務やリモートワークなどの導入が推奨されています。近年はこれに加え、従業員の副業や兼業を認める企業も増えているのです。
副業・兼業を解禁すれば、自社では習得できないスキルが身につきやすいほか、人材の流出を防げる可能性もあります。働き方の多様性を考える際は、副業・兼業の解禁も検討してみましょう。
ダイバーシティ&インクルージョンで期待できる効果
多様な人材を受け入れて個々の力を最大限に引き出せれば、企業にとってさまざまなメリットが生まれます。ダイバーシティ&インクルージョンで期待できる効果を見ていきましょう。
離職率の低下
働き方の多様性を高めることで、フルタイムで働けなくなった人や会社に通えなくなった人も辞めずに済むため、離職率の低下を期待できます。
また、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方に賛同する従業員のエンゲージメントが高まることも、定着率の向上に影響するでしょう。
多様な人材を受け入れていることを企業としてアピールすれば、求職者にとっても魅力的な企業になります。これからの労働力不足に対応するためには、母集団の拡大が必須です。
イノベーションの創出
ダイバーシティ&インクルージョンの推進では、イノベーションの創出も期待できます。さまざまな考え方や価値観を持つ人が集まり、多様なアイデアが次々と生まれるためです。
イノベーションの創出は新しいビジネスチャンスにつながり、新たな市場開拓やさらなる雇用創出も図れるでしょう。ブルーオーシャン市場を独占できる可能性もあります。
多様な人材を受け入れてイノベーションを生み出すためには、個々が自由に発言・行動できる機会を提供することが大切です。
リスク管理能力の向上
多様性を受け入れることは、世の中の変化に対応しやすくなることと同義です。ダイバーシティ&インクルージョンを推進すれば、さまざまなリスクに対応しやすくなります。
例えば、感染症が全国的に拡大して従業員が家から出られなくなっても、リモートワークを導入していれば即座に在宅勤務へ切り替えられます。
リスク管理は企業にとって重要なテーマの1つですが、なかなかリソースを割けない企業も多いでしょう。そのような状況でも、ダイバーシティ化の取り組みを進めていけば、自然と企業のリスク管理能力も向上するのです。
ダイバーシティ&インクルージョンを成功させるポイント
経済産業省の「ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン」では、ダイバーシティ経営を進めるためのポイントを示しています。ガイドラインを参考に、ダイバーシティ&インクルージョンを成功させるポイントを解説します。
出典:ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン | 経済産業省
法令や制度への理解を深める
ダイバーシティに関連する法令や制度を把握しておけば、どのような取り組みを行えばよいのか検討する際の参考になります。補助金や助成金を利用できるケースもあるでしょう。
主な法令や制度を以下にまとめました。
- 女性活躍推進法
- 男女雇用機会均等法
- 障害者雇用促進法
- 次世代育成支援対策推進法
- 高年齢者雇用安定法
出典:女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)|厚生労働省
出典:雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために |厚生労働省
出典:高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~|厚生労働省
経営戦略に取り込む
ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを進めるためには、経営層の理解が不可欠です。経営姿勢と関連したメッセージを発信し、全社的な取り組みを進める必要があります。
多様化の切り口ごとに中長期的な戦略を立て、数値目標を策定しましょう。ポリシーを明確化する際は、業績に関する指標と紐づけることが重要です。
経営会議や全社ミーティングで経営層が進捗を共有し、継続的に取り組んでいることを社内外に発信すれば、実効性の高い取り組みを進められるでしょう。
推進体制を構築する
ダイバーシティの取り組みを全社的に進めるためには、経営トップを実行責任者とした推進体制を構築することが重要です。ホールディングス会社や主要な関係会社とも連携し、グループ全体での取り組みを推進しましょう。
ダイバーシティの推進を経営幹部の業績評価指標に取り入れれば、ダイバーシティへの取り組みの優先順位が上がりやすくなります。ダイバーシティに関するKPIと達成目標を課し、KPIの達成状況を評価指標の1つにするとよいでしょう。
管理職や従業員の意識・行動を改革する
ダイバーシティは全社的に推進する必要があるため、管理職や従業員の意識・行動の改革も不可欠です。
管理職の意識を改革するためには、多様性を生かすためのマネジメントを習得するトレーニングが有効です。多くの研修機関がダイバーシティに関するプログラムを提供しています。
また、従業員には多様なキャリアパスを整備・提示し、ライフスタイルや価値観が異なる人材でも活躍できる環境を提供しましょう。
ダイバーシティ&インクルージョンの企業事例
ダイバーシティ&インクルージョンの推進に役立つのが、既に取り組みを進めている企業の事例です。代表的な企業がどのような施策を講じているのかチェックし、戦略を立案する際の参考にしましょう。
ソニー株式会社
ソニーはダイバーシティ&インクルージョンに関する以下のような取り組みを行っています。
- 女性社員のキャリア意識を向上させる施策
- 女性管理職のマネジメント施策
- 両立女性社員のキャリア形成に向けた施策
- 障害者雇用(合理的配慮・採用・特例子会社)
- LGBTQ関連施策(人事関連制度の適用、社内での理解促進)
- 多様な働き方の実践
また、ダイバーシティ&インクルージョンの教育・研修や講習会を実施し、啓蒙活動にも力を入れています。
出典:ソニーグループポータル | ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン | 基本施策
株式会社ローソン
ローソンもダイバーシティ&インクルージョンを積極的に推進する企業です。主に次のような取り組みを進めています。
- 女性社員選抜型リーダーシップ研修の実施
- 女性社員キャリア開発研修の実施
- 育児休職社員研修の実施
- ダイバーシティ推進冊子の作成・配布
- 育児と仕事の両立支援
- 多様な人材の採用
- 多様な人材が働きやすい環境づくり
ローソンでは社長を推進体制のトップに置き、エリアごとにリーダーを選出して「元気リーダー委員会」を定期開催しています。
出典:従業員との関わり:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)推進|ローソン公式サイト
組織のダイバーシティ化を推進し競争力を高める
ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様性を受け入れた上で、個々の能力を最大限に生かそうとする取り組みのことです。女性・外国人の活躍推進や高齢者・障害者の職場への参加、多様な働き方の制度整備といった施策があります。
ダイバーシティの推進に取り組めば、離職率の低下やイノベーションの創出を期待できます。ダイバーシティ&インクルージョンに取り組んで多様性と包括性を強化し、組織の競争力を高めましょう。