親子での事業承継に使える補助金は?2025年9月の最新情報まとめ

特に中小企業では、事業承継に当たって新たな設備投資などの予算に不安を抱えている場合も少なくありません。中小企業の親族間承継で多い「親から子への承継」に使える補助金について解説します。補助金の種類や適用条件・申請方法をチェックして、事業承継に当たる費用面の不安を軽減しましょう。

親子間の事業承継には「事業承継・M&A補助金」を

親子間の事業承継では、株式を生前贈与したり、相続によって引き継いだりすることが可能です。特に親族内承継には、税制上の優遇措置が用意されているなどのメリットがあります。とはいえ、中小企業の事業承継においては、後継者の育成や新たな設備投資などに伴う資金計画が重要な課題となるケースも少なくありません。事業承継に当たって活用したいのが「事業承継・M&A補助金」です。

補助金事業の概要や公募枠の種類、親子間の承継に活用できる枠について解説します。

事業承継・M&A補助金とは

「事業承継・M&A補助金(正式名称:中小企業生産性革命推進事業 事業承継・M&A 補助金)」は、中小企業基盤整備機構(中小機構)が母体となっている補助金事業です。以前は「事業承継・引継ぎ補助金」と呼ばれていましたが、11次公募から名前が変わっています。

事業承継・M&A補助金は、中小企業や個人事業主(「中小企業者等」と呼ばれる)が事業承継やM&Aに当たって実施する設備投資や事業の承継・再編・統合に伴う経営資源の引き継ぎ、引継ぎ後の経営統合にかかる経費の一部を補助する事業です。

中小企業者等の事業の承継・再編・統合を促進し、生産性を向上させて日本経済の活性化を図ることを目的として運営されています。

参考:事業承継・M&A補助金

参考:12次公募 事業承継促進 公募要領等ダウンロード 「公募要領(12次公募)」PDF P.6 - 事業承継・M&A補助金

事業承継・M&A補助金の枠

事業承継・M&A補助金が「事業承継・引継ぎ補助金」だったとき、公募枠は「経営革新」「専門家活用」「廃業・再チャレンジ」の3枠でした。しかし、現時点で公募申請を受け付けている12次公募では、以下の4枠に変わっています。

  • 事業承継促進:親族内承継や従業員承継などの事業承継(事業再生を伴うものを含む)予定の後継者が中心に取り組む、生産性の向上などにつながる設備投資などを支援する枠
  • 専門家活用:事業の再編・統合に伴って株式譲渡を実施する買い手企業・売り手企業を支援
  • 廃業・再チャレンジ:M&Aで事業を譲渡できなかった中小企業者の廃業・再チャレンジを支援
  • PMI促進:事業の再編・統合に伴って株式や経営資源を譲り受ける予定の中小企業者等の、PMI(中小企業者等の事業再編・事業統合に伴う統合など)促進を支援する

Web上には古い情報が多くあるので、公式サイトから最新情報のチェックが必要です。

参考:令和6年度補正予算 - 事業承継・M&A補助金

親子間の承継に使えるのは主に「事業承継促進枠」

事業承継・M&A補助金の4枠のうち、親子での事業承継に使えるのは「事業承継促進枠」です。廃業・再チャレンジ枠は主にM&Aが不成立の場合に利用される枠のため、親子間承継では通常適用されません。

事業承継促進枠は親子間の承継も対象で、後継者となる予定の子が中心となって取り組む設備投資などの経費に対して支援を受けることが可能です。廃業・再チャレンジ枠とは同じ公募回での申請(併用申請)は可能ですが「専門家活用枠」「PMI促進枠」とは併用申請できません。

参考:12次公募 事業承継促進 公募要領等ダウンロード「公募要領(12次公募)」 PDF P.7 - 事業承継・M&A補助金

親子の承継に使える「事業承継促進」枠の対象となる要件

親子間の事業承継に当たって、事業承継・M&A補助金の「事業承継促進」枠を活用すると費用面の負担が軽減されます。ただし、補助要件に当てはまっていないと支援を受けられません。各要件をチェックして、自社に当てはまるかを判断しましょう。

対象者の要件

事業承継・M&A補助金は枠を問わず、会社が「中小企業等」に該当することが補助の前提です。中小企業等とは、業種ごとに次のように定義されています。これに当てはまらない場合、無条件で事業承継・M&A補助金の対象外となります。

業種

定義

製造業その他

資本金または出資の総額が3億円以下の会社

もしくは常時使用する従業員が300人以下の会社・個人事業主


※ゴム製品製造業は原則として資本金3億円以下または従業員900人以下

卸売業

資本金または出資の総額が1億円以下の会社

もしくは常時使用する従業員が100人以下の会社・個人事業主

小売業

資本金または出資の総額が5000万円以下の会社

もしくは常時使用する従業員が50人以下の会社・個人事業主

サービス業

資本金または出資の総額が5000万円以下の会社

もしくは常時使用する従業員が100人以下の会社・個人事業主


※ソフトウェア業・情報処理サービス業は資本金3億円以下または従業員300 人以下

※旅館業は資本金5000万円以下または従業員200人以下

また、上記の定義に当てはまる中小企業等でも、以下いずれかに該当する場合は補助対象となりません。

  • 資本金または出資金が5億円以上の法人に、直接的・間接的に100%の株式を保有される法人である
  • 申請時に確定している(申告済みの)、直近過去3 年分の各年または各事業年度の課税所得の平均年額が15億円を超えている
  • 次の1〜5に当てはまる「みなし大企業」である
  1. 発行済み株式の総数または出資価格の総額の1/2以上を同一の大企業に所有されている中小企業者
  2. 発行済み株式の総数または出資価格の総額の2/3以上を大企業に所有されている中小企業者
  3. 大企業の役員または職員を兼ねている者が役員の半数以上を占めている中小企業者
  4. 発行済み株式の総数または出資価格の総額を1〜3に該当する中小企業者等に所有されている中小企業者
  5. 全ての役員が1〜3に該当する中小企業者等の役員または職員を兼ねている者である中小企業者

以上の条件を満たした中小企業者等のうち、さらに次の要件をクリアして初めて補助を受ける権利を得られます。

  • 日本に拠点または居住地があり、国内で事業を営んでいる(外国籍の場合、「国籍・地域」「在留期間等」「在留資格」「在留期間等の満了の日」「30条45規定区分」の5項目が明記された住民票を添付して申請する必要あり)
  • 地域の雇用を維持・創出していたり、その地域が誇る技術や特産品などで地域経済に貢献している(貢献する予定である場合も含む)
  • 補助対象者またはその法人の役員が、暴力団など反社会的勢力でない(反社会的勢力から出資等の資金提供を受けている場合も対象外)
  • 法令遵守上の問題を抱えていない
  • 経済産業省や中小企業基盤整備機構から、補助金交付等停止措置または指名停止措置が講じられていない
  • 補助事業完了後は事業化状況報告などを期限までに提出する、公募要領に違反しない、事務局から質問や資料提供の依頼などがあった場合適切に対応するなどのルールを守っている

その他同意や協力が必要な事項もあるので、公式サイトから公募要領もしっかり確認しましょう。

参考:12次公募 事業承継促進 公募要領等ダウンロード「公募要領(12次公募)」 PDF P.9〜11 - 事業承継・M&A補助金

事業承継の要件

事業承継・M&A補助金の事業承継促進枠には、承継予定者や承継そのものにも要件が設けられています。いずれの要件もクリアしていなければ、補助の対象となりません。

<承継予定者の要件>

以下のいずれかに該当すると確認できる

  • 対象会社において3年以上、会社法上の役員(取締役・会計参与・監査役のいずれか)の地位にいた経験がある
  • 対象会社・個人事業に継続して3年以上雇用されて働いた経験がある
  • 対象会社において会社法上の役員であったか、雇用されて働いた経験が通算3年以上ある
  • 被承継者の親族で、対象会社の代表の経験がない

<事業承継の要件>

  1. 対象会社が公募申請をした時点で、3期分の決算・申告が完了している(開業してから法人化して3年たっていない場合には、以下2に記載された開業からの通算年数が5年以上経過していればよい)
  2. 対象事業(個人事業主の場合)が、公募申請をした時点で「個人事業の開業届出書」「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出した日から5年以上たっている
  3. 同一法人(または事業)内の代表者交代で、親族か従業員への事業承継が予定されていること(事業承継後に複数代表となる場合は対象外)
  4. 公募申請をした時点で、承継予定者の要件を満たす、将来経営者になることが十分見込まれる後継者(以下「承継予定者」)が選定できている
  5. 当該法人または事業の承継予定者が、当該法人に在籍している(事業に雇用されている)
  6. 公募申請期日から5年後(以下「事業承継対象期間」)までに事業承継を完了することがほぼ確実であると確認できる(認定経営革新等支援機関から、計画書から事業承継の蓋然性の確認を受けている)
  7. 経営権と所有権(株式や持分など)のいずれも被承継者(親)から承継者(子)へ譲渡されている

このほかに、補助事業期間終了後の事業化状況報告で計画の未達(事業承継対象期間での承継未完了)が判明した場合は交付した補助金は、原則として返還対象となるとされています。12次公募の事業承継対象期間は、公募申請期日である2025年9月19日から5年後(2030年9月18日)までです。

参考:12次公募 事業承継促進 公募要領等ダウンロード「公募要領(12次公募)」 PDF P.12 - 事業承継・M&A補助金

参考:会社法 第329条|e-Gov法令検索

事業の要件

親子間の事業承継に事業承継・M&A補助金の事業承継促進枠を活用するに当たって、事業の要件も確認が必要です。前提として、補助対象となる事業は承継予定者(親子間の場合は子)が中心となって行う、生産性向上などにつながる取り組みでなければなりません。リストに要件をまとめると次の通りです。

  1. 承継予定者(親子間の場合は子)が中心となって行う、生産性向上などにつながる取り組みである
  • 承継予定者が主導して取り組む事業である
  • 承継予定の中小企業者等で行う事業である(事業計画期間の5年において、当法人また事業の存続を前提とする)
  • 承継予定の中小企業者等の経営資源を有効活用した事業である
  1. 補助事業期間を含めた5年間の補助事業計画で、生産性向上要件(「付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)」または「1人当たりの付加価値額」の伸び率が年3%の向上を含む計画であること)を達成する計画を立て、その達成がほぼ確実である
  2. 事業が以下のいずれにも当てはまらない
  • 公序良俗に反する事業
  • 公的な資金の使い道として、社会通念上不適切と判断される事業(風営法第2条に規定される各営業を含む)

参考:12次公募 事業承継促進 公募要領等ダウンロード「公募要領(12次公募)」 PDF P.14 - 事業承継・M&A補助金

参考:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)第2条|e-Gov法令検索

事業承継促進枠で対象となる経費や補助額

親子間の事業承継に事業承継・M&A補助金の事業承継促進枠が活用できると分かったら、次に知りたいのは補助対象の経費や補助額ではないでしょうか。何の経費をどの程度補助してもらえるのかが分かれば、資金計画を立てやすくなります。

補助対象となる経費の要件

事業承継・M&A補助金の事業承継促進枠では、次の要件を全て満たし、事務局が必要・適切と認めた経費に限って補助対象となります。

  1. 使用目的が補助対象事業の遂行に必要なものと明確に特定できる
  2. 補助事業期間内に契約・発注して支払っている
  3. 補助事業期間終了後の実績報告で提出する証拠書類などから、金額・支払いなどが確認できる

全てクリアしていなければ、その経費は対象となりません。3については、適切な帳簿付け・領収書の保管といった行動で満たせます。

参考:12次公募 事業承継促進 公募要領等ダウンロード「公募要領(12次公募)」 PDF P.16 - 事業承継・M&A補助金

補助率と補助上限額

事業承継・M&A補助金の事業承継促進枠で、補助率は、小規模企業の場合は対象経費の2/3以内、その他の中小企業等の場合は1/2以内と定められています。「小規模企業」とは、業種ごとに以下の定義に当てはまるものです。

業種

定義

製造業その他

従業員数が20人以下の会社や個人事業主

商業(卸売業・小売業)

従業員数が5人以下の会社や個人事業主

サービス業のうち、宿泊業と娯楽業

従業員数が20人以下の会社や個人事業主

補助額の上限は800万円(補助事業期間に一定の賃上げをした場合は1000万円)、下限は100万円となっています。賃上げの要件は、補助事業期間終了時に公募申請時と比べて事業場内最低賃金50円以上の賃上げを達成していることです。なお、補助金は事業完了後の精算払い(後払い)となります。補助対象となる経費は、一旦全額を自己資金で支払い、事業完了後に事務局へ報告・申請を行い、審査を経てから交付される点に注意が必要です。

参考:12次公募 事業承継促進 公募要領等ダウンロード「公募要領(12次公募)」 PDF P.11、P.18〜19 - 事業承継・M&A補助金

補助金で親子間の事業承継の負担を軽減

親子間の事業承継には、事業承継・M&A補助金の事業承継促進枠を活用しましょう。紹介した要件に当てはまっていれば、承継に当たる資金面の不安を軽減できます。

申請には「jGrants」という電子システムを使うため、GビズIDプライムのアカウントが必要です。事前に公式サイトの案内に沿って、取得しておくと申請がスムーズに進みます。

また、事業承継・M&A補助金の公募は期間が決まっており、12次公募の申請受付期間は2025年9月19日で終了しました。今後、13次公募が実施される可能性もありますが、公募の有無や内容は都度変更されることがあります。補助金の活用を検討している場合は、今のうちから事業計画の策定やGビズIDの取得などを進めておくとともに、公式サイトで最新情報を定期的に確認することが重要です。随時最新の情報をチェックして、補助金活用に備えましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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