ガバナンスとはどのようなもの?効果や対策、企業事例を紹介
健全な企業経営を進めるためには、ガバナンス体制の強化が不可欠です。持続的かつ実効性を持つ仕組みを構築できれば、企業価値や収益力の向上を図れるでしょう。ガバナンスとはどのようなものなのか、経営層が知っておきたい基礎知識を紹介します。
ガバナンスの基礎知識
ガバナンスが注目されるようになった背景には、企業の不正や不祥事が相次いだことがあります。まずは、ガバナンスの意味や似た言葉との違いを見ていきましょう。
ガバナンスとは
企業におけるガバナンスとは、経営層が組織行動を制御するための仕組みです。「統治・管理」を意味する英語「governance」を由来としています。
内部統制を強化する部門の設置や、指示系統を明確化する仕組みの構築などが、ガバナンスにおける取り組みの具体例です。
ガバナンスを強化すれば不正や不祥事を未然に防げるほか、ステークホルダーからの支持も得やすくなります。
ガバナンスと意味を混同しやすい言葉
ガバナンスと似た言葉には、次のようなものがあります。
- コンプライアンス:法令や条例を含めた社会規範を順守すること
- リスクマネジメント:組織的な管理(マネジメント)によってリスクによる損失の回避や軽減を図ること
- 内部統制:健全な企業経営を進めるための仕組み
ガバナンスにはコンプライアンスやリスクマネジメントが含まれます。また、内部統制はガバナンス達成の手段の一つといえるでしょう。
上場企業に求められる「コーポレートガバナンス・コード」
上場企業は金融庁・東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンス・コードを遵守する必要があります。また、非上場企業でも自社のガバナンス強化の参考になるでしょう。コーポレートガバナンス・コードとは何か、基本の5原則と併せて解説します。
出典:コーポレートガバナンス・コード | 株式会社東京証券取引所
コーポレートガバナンス・コードとは
コーポレートガバナンス・コードは、ガバナンス体制の構築時に意識すべき指針をまとめたものです。上場企業や上場を目指す企業に向け、2015年に公表されました。
コーポレートガバナンス・コードには、次の二つの特徴があります。
- プリンシプルベース・アプローチ:抽象的な原則だけを定める(原則主義)
- コンプライ・オア・エクスプレイン:順守しない場合は理由を説明する
プリンシプルベース・アプローチにより、ガバナンスの具体的な事項は各企業の判断に委ねられています。
コーポレートガバナンス・コードの基本原則
コーポレートガバナンス・コードでは、基本の5原則が規定されています。それぞれの内容は次の通りです。
- 株主の権利・平等性の確保
- 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
- 適切な情報開示と透明性の確保
- 取締役会等の責務
- 株主との対話
また、2021年6月の改訂では、主に以下の原則が新設されました。
- 取締役会の機能の発揮
- サステナビリティにおける課題への積極的な対応
- 女性の活躍促進を含む企業の中核人材における多様性の確保
上記はあくまでも補充原則であり、基本の5原則を補足するものです。
ガバナンスの強化で得られる効果
企業がガバナンスを強化すれば、さまざまなメリットがもたらされます。ガバナンス強化で得られる主な効果を紹介します。
企業価値が向上する
適切なガバナンス体制を構築している企業は、法令・規則・倫理を厳守する姿勢を社外にアピールできます。外部からの評価が高まり、企業価値の向上につながるでしょう。
優良企業としての認知度が高まれば、金融機関からも高い評価を得られるため、資金調達力も向上します。株価の上昇により株主の利益が守られることもポイントです。
また、透明性や平等性を確保する企業は、優秀な人材を採用しやすくなります。近年の求職者は給与や労働条件以外の価値も企業に求める傾向があるためです。
収益力を強化できる
ガバナンスの強化で得られる効果の一つに、収益力を強化できることが挙げられます。適切な管理体制を敷いた企業は組織としてまとまるため、収益力の持続的な向上を期待できるでしょう。
増えた分の利益を投資に回せば、市場における競争力の強化にもつながり、さらなる利益を生み出します。好循環による中長期的な成長を見込めることも、ガバナンス強化のメリットです。
労働環境が改善される
ガバナンスの強化で組織の指示系統が明確になれば、従業員の業務範囲や責任範囲も明確になります。より働きやすい職場環境が構築され、従業員にとっても魅力的な企業になるでしょう。
労働環境が改善されると従業員満足度が高まり、離職率の低下につながります。従業員が気持ち良く働けるようになれば、顧客満足度も向上するでしょう。
企業のガバナンス強化対策
企業がガバナンスを強化するためには、どのような取り組みを進めればよいのでしょうか。以下に挙げる施策をチェックし、自社で体制を整える際に役立てましょう。
ガバナンスを社内外に発信する
ガバナンス方針を策定したら、全従業員に向けて内容を発信しましょう。ガバナンス体制の構築は全社的に取り組む必要があり、全従業員の理解が必須です。
ガバナンス方針の内容は担当部門による周知で構いませんが、ガバナンスの重要性は経営者自らが従業員に伝えることが大切です。
また、Webサイトや広報誌などでガバナンス方針を社外に発信し、自社の透明性をアピールする必要があります。
内部統制を強化する
透明性のある情報開示と財務状況の適切な報告を行うためには、内部統制が不可欠です。社内で定めたルールに従って業務が行われているか、監視・指導する体制を整えましょう。
社内ルールは企業理念に沿ったものでなければなりません。企業理念は従業員の行動基盤となるものであり、定まっていなければ見直す必要があります。
監査体制を構築する
企業のガバナンス強化対策の一つに、監査体制の構築が挙げられます。第三者の立場から監査を行える体制を整え、経営陣や従業員による不正を未然に防ぎましょう。
説得力のある監査体制にするためには、独立した立場で客観的に企業を評価できる体制を構築する必要があります。社外取締役や社外監査役を設置すれば、中からは見えにくい問題も発見しやすくなります。
ガバナンス強化の成功事例
自社のガバナンス方針を策定する際は、他社の成功事例が参考になります。ガバナンス強化に取り組む事例を見ていきましょう。
キリンホールディングス
キリンホールディングスは、食から医にわたる領域で世界のCSV先進企業となることを2027年までの目標として定めており、この目標を実現するためのガバナンス体制を構築しています。
最も重視しているのがステークホルダーとの協働です。六つのステークホルダーと事業を通して関わり、社会と共有できる価値の創造の実現に向けてさまざまな取り組みを進めています。
出典:基本的な考え方 | コーポレートガバナンス | キリンホールディングス
パナソニック ホールディングス株式会社
パナソニック ホールディングス株式会社では、経営の基本方針を実現するための基盤として、コーポレート・ガバナンスを重視しています。
多くの事業部で適切な意思疎通や意思決定を行うために、7つの事業から成るカンパニー制を持株会社制に移行し、成長戦略の実現を図っています。また、監査役会を設置することで第三者視点での監視体制が整備されていることも特徴です。
出典:コーポレート・ガバナンス - パナソニック ホールディングス
ガバナンス強化は企業の持続的成長に不可欠
企業がガバナンスを効かせれば、経営陣や従業員の不正・不祥事を未然に防げます。企業価値の向上や持続的な成長を期待できることもメリットです。
上場企業に求められるコーポレートガバナンス・コードについても理解を深め、ガバナンス体制を構築し社内外に向けて情報を発信しましょう。