M&A売却の基礎知識と成功のポイント。手続きやメリットを詳しく解説

M&Aによる会社売却は、後継者問題や資金調達などの経営課題を解決し、企業価値を現金化できる有効な手段です。株式譲渡や事業譲渡など、選ぶスキームによって特徴や手続きは異なります。本記事では、M&A売却の流れと注意点を整理し、成功へのヒントを解説します。

M&A売却の基礎知識

企業経営における出口戦略や事業承継の方法として、M&A売却は幅広く活用されています。単に会社を手放す行為ではなく、売り手にとっては経営課題の解決と資金化の機会を、買い手にとっては事業拡大の機会を生むものです。まずは、M&A売却の基礎的な知識を解説します。

M&A売却とは

M&A売却とは、経営者が自社の株式や事業を第三者に譲渡し、その対価を得る取引を指します。会社そのものを譲る「株式譲渡」や、特定の事業や資産を切り出して譲渡する「事業譲渡」などが代表的な手法です。

単なる会社の処分ではなく、後継者問題の解決や事業の承継を実現しつつ、売却対価を得る戦略的な手段として活用されています。近年は中小企業においても活用が進んでおり、経営者にとって重要な戦略の一つです。

M&Aによる会社売却のメリット

M&Aを通じた会社売却のメリットとして、長年積み上げてきた企業価値を現金化できる点が挙げられます。老後の生活資金や新たな事業への投資資金として活用できるため、経営者の引退後の経済的な選択肢を広げることができます。

後継者問題の解決につながることもメリットの一つです。親族や社内に後継者がいない場合でも、M&Aを活用することで事業を外部の適切な買い手に引き継げるほか、従業員の雇用や取引先との関係も維持されやすくなります。

買い手との交渉を通じて、経営者が負っていた個人保証や借入金の連帯保証から解放されるのが一般的であり、心理的・経済的負担を大幅に軽減できる点も大きなメリットです。加えて、廃業を選んだ場合に発生する清算コストや取引先への影響を回避でき、取引先への悪影響も最小限に抑えられます。

M&A売却の基本スキーム

M&Aによる会社売却には、いくつかの代表的なスキームがあります。なかでも株式譲渡と事業譲渡は、広く活用されている基本スキームです。両者の違いや選び方のポイントを見ていきましょう。

株式譲渡と事業譲渡の違い

M&A売却の代表的な方法である株式譲渡と事業譲渡には、明確な違いがあります。それぞれの特徴を以下の表にまとめました。

株式譲渡

事業譲渡

取引主体

株主(経営者など)が株式を売却

会社(法人)が主体となり事業を譲渡

譲渡対象

株式(=会社の所有権・経営権)

特定の事業・資産・権利義務

契約内容

株式譲渡契約を主軸として完結

個別の資産契約や従業員・許認可の移転手続きが必要

実施目的

会社全体の経営権移転や事業承継

不採算事業の切り離し、新規事業への集中など

このように、株式譲渡はシンプルに経営権を移転できるのに対し、事業譲渡は柔軟に事業単位で切り出せる点が特徴です。

会社売却のスキームを選ぶポイント

会社売却におけるスキーム選択では、次のような観点が重要となります。

  • 譲渡対象の範囲:会社全体を売却するのか、特定の事業・資産のみを譲渡するのかを明確にする
  • リスクや負債の承継範囲:簿外債務や訴訟リスクを避けたい場合は事業譲渡が適する場合がある
  • 税務や対価の受取先:株式譲渡は個人株主への資金還元に有利、事業譲渡は法人に資金が残りやすい
  • 事業継続性・承継の負担:許認可や取引契約、従業員の再契約などが必要となるかを考慮する

スキームを選択する際は、税務面・リスク管理・承継の負担などを総合的に比較検討することが大切です。

M&A売却の流れと手続き

会社を売却するM&Aは、思い立ってすぐに実現できるものではありません。情報整理や専門家への相談から始まり、買い手候補との交渉や精査、最終的な契約締結に至るまで段階的な手続きが必要です。売却の流れを体系的に整理して紹介します。

M&A売却の準備

M&Aの準備段階では、「なぜM&Aを行うのか」「どういう形で売却したいのか」といった目的や戦略を明確にすることが重要です。自社の経営状況や財務情報、強み・弱みを整理し、企業価値を把握しておくことで、交渉時の見通しと戦略を立てやすくなります。

また、売却条件や譲渡後の希望を整理し、優先順位を定めておけば、スムーズな交渉と条件交渉が可能になります。M&A仲介会社やアドバイザーとの相談・契約を通じて、実務を支える体制を構築しておくことも重要です。

基本合意の締結からデューデリジェンスまで

M&Aでは、売り手と買い手のトップ面談や交渉を経て、当事者間で条件の枠組みを確認する基本合意書が作成されます。基本合意では、M&Aスキーム・取引価格・支払条件・独占交渉権・スケジュールなどの大枠を整理しますが、独占交渉権など一部を除き、通常は法的拘束力を持ちません。

次に、デューデリジェンス(財務・法務・労務などの詳細調査)が実施され、買い手は売り手の企業価値や潜在リスクを精査します。この過程で帳簿に記載されていない債務や法務上のリスクなど、重大な問題が発覚した場合、譲渡価格の大幅な減額や、最悪のケースでは取引自体が中止(ディールブレイク)となることもあります。

最終合意の締結とクロージング

M&Aの最終合意では、デューデリジェンスの結果を踏まえて条件を最終調整し、法的拘束力を持つ最終契約書(株式譲渡契約や事業譲渡契約など)を締結します。この契約は、譲渡価格・支払条件・表明保証・解除条件といった重要事項が詳細に盛り込まれるものです。

その後のクロージングでは、契約内容に基づき株式や事業・資産の移転、代金の支払い、経営権の引き渡しといった手続きが実行されます。クロージングに進むためには、契約で定められた条件が全て満たされている必要があり、これをもってM&A取引は正式に完了します。

M&A売却を成功させるためのポイント

M&Aによる会社売却を円滑に進め、望む成果を得るためには、いくつかの重要な工夫が求められます。ポイントを整理し、実践的な視点から解説していきます。

企業価値を向上させる

M&Aで高い評価を得られる会社を目指すなら、企業価値を高める準備が欠かせません。財務内容の改善や事業の収益性強化、将来の利益計画の明確化により、買い手にとっての魅力度を高められます。特に、簿外債務や偶発的なリスクを洗い出して処理し、事業の磨き上げを行うことは、譲渡価格を高めて交渉を有利に進める上で重要です。

さらに、自社の強み(技術・人材・知的財産・ブランド)を整理し、買い手が着目する営業権や成長ポテンシャルを明確に示せるようにしておくことで、より高い売却金額と条件を引き出せるでしょう。

最適なタイミングで売却する

M&A売却のタイミングは、売却価格や条件、相手の選択肢の多さに大きな影響を与えます。会社の業績が良い時期や好景気の波に乗っているときは、買い手から高く評価されやすく、売却条件を有利にできるチャンスです。

一方で、業界再編のタイミングや後継者不在・経営者自身の体力や意欲の変化を踏まえた売却は、むしろ早めの決断が功を奏します。M&Aの期間は企業規模により大きく異なるため、余裕を持った準備が必要です。理想的な売却時期から逆算して準備を始め、選択肢と交渉の余地を確保することが重要です。

専門家・仲介会社を活用する

M&A売却では、譲受企業とのマッチングや交渉をスムーズに進めるため、M&A仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)などの専門家を活用するのが一般的です。譲受側の目的やニーズを理解した上で、自社が買い手にとって魅力的な候補となるよう位置づけを明確にする「売り先戦略」を練る支援をしてもらえます。

また、専門家と結ぶ契約には、「専任契約・非専任契約」や「仲介方式・助言(アドバイザリー)方式」の選択肢があるため、報酬体系(着手金・中間金・成功報酬など)や契約の拘束範囲を事前に確認しておくことが重要です。

M&A売却の目的と流れを理解し次の一歩へ

M&Aによる会社売却は、事業承継や成長戦略の手段として幅広く活用されています。株式譲渡と事業譲渡といったスキームの違いや、準備からクロージングまでの流れを理解することが大切です。

さらに、企業価値の向上や適切な売却タイミングの見極め、専門家の活用によって、より良い条件での売却が実現できます。目的を明確にし、計画的に進めることで、M&Aは経営者と企業に大きな可能性をもたらします。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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