コア・コンピタンスとは?意味や見極める方法、企業事例を紹介
コア・コンピタンスとは、他社に真似できない自社の核となる強みのことです。コア・コンピタンスを確立できれば、市場における競争優位性の強化につながり、競合他社との差別化を図れます。コア・コンピタンスを評価する視点や見極め方、企業事例を見ていきましょう。
コア・コンピタンスとは
コアは「中核」、コンピタンスは「競争力」や「強み」を意味する言葉です。コア・コンピタンスとはどのようなものを指すのか、ケイパビリティとの違いと併せて解説します。
他社には真似できない核となる強み
コア・コンピタンスとは、自社ならではの強みのことです。他社には真似できない技術・人材・販売ルートなどを最大限に生かした経営を、コア・コンピタンス経営といいます。
近年はどの分野でも企業間競争が激化し、ただ商品やサービスを提供するだけでは市場で地位を確立しづらくなっているのが実情です。このような時代でも自社の持続的な成長を目指すために、他社との差異化を図れるコア・コンピタンスが注目を集めています。
ケイパビリティとの違い
コア・コンピタンスと意味を混同しやすいのがケイパビリティです。ケイパビリティとは、製造・販売・サポートなど、バリューチェーン全体に及ぶ企業の強みを指します。
コア・コンピタンスが企業の核となる強みであるのに対し、ケイパビリティは具体的な目標を達成するための実行力です。ケイパビリティ(組織能力)の中で、特に競争優位の源泉となる核心的なものがコア・コンピタンスであるといえるでしょう。
コア・コンピタンスとインサイド・アウト
近年の経営戦略論においては、外部環境分析により事業戦略を立てる「アウトサイド・イン」から、内部資源を活用して事業の成長を図る「インサイド・アウト」に考え方がシフトしています。
コア・コンピタンスは、アウトサイド・インよりインサイド・アウトに近い考え方です。将来を予測しにくいVUCA時代では、市場の変化を受けにくいコア・コンピタンスの見極めが重要になってきます。
ただし、インサイド・アウトがアウトサイド・インに比べ優れているということではありません。両者はあくまでも企業の強みを把握する視点の違いであり、インサイド・アウトにおいても外部環境の考慮は重要であるといえます。
コア・コンピタンスの前提条件となる3つの特徴
ハメル&プラハラードが提唱したコア・コンピタンスの理論によると、真のコア・コンピタンスと呼べるためには以下の3つの特徴を満たす必要があります。
1. 顧客価値への貢献
コア・コンピタンスは、顧客が認識できる価値の向上に大きく貢献するものでなければなりません。技術的に優れていても、顧客にとって意味のない能力では真のコア・コンピタンスとは言えないのです。
例えば、顧客の利便性向上、コスト削減、品質向上など、顧客が実際に「価値がある」と感じられる成果をもたらす能力である必要があります。
2. 競合他社との差別化
競合他社が容易に模倣できない独自性を持つことが重要です。他社も同じような能力を持っている場合、それは競争優位の源泉にはなりません。
この差別化は、技術的な優位性だけでなく、組織文化、人材、プロセス、ノウハウなど、複合的な要素によって生み出されることが多く、そのため模倣が困難になります。
3. 多様な市場への展開可能性
特定の商品や市場にのみ適用できる能力では、コア・コンピタンスとしての価値は限定的です。真のコア・コンピタンスは、複数の事業分野や新たな市場に展開できる汎用性を持っています。
この展開可能性により、一つのコア・コンピタンスから複数のビジネスチャンスを創出でき、企業の成長戦略の基盤となるのです。
コア・コンピタンスを評価する5つの視点
上記3つの特徴を満たすコア・コンピタンスになっているかどうかを判断するために、以下の5つの要素から評価をします。
模倣可能性(Imitability)
他社に真似される可能性のことを模倣可能性といいます。コア・コンピタンスが唯一無二の強みであっても、他社が容易に模倣できるものなら、自社の価値提供は一時的なものになってしまうでしょう。
特定の分野で自社に追いつくことが難しい強みであるからこそ、コア・コンピタンスで生み出された商品やサービスにより持続的に市場の優位性を保てるのです。
移行可能性(Transferability)
移行可能性とは、幅広い商品やサービスに応用できることです。商品やサービスに展開できることはコア・コンピタンスの前提条件の一つですが、特定の商材だけにしか適用できない場合、競争力は弱くなります。
一方、他の商品・サービスや分野にも応用できるものなら、ビジネスチャンスの拡大が可能です。軸となる事業で競争力を確保しつつ、新たな市場での成長を目指すこともできるでしょう。
代替可能性(Substitutability)
別の商品やサービスで同じような価値を提供できることが代替可能性です。他社に真似される可能性がなくても、似たような商品やサービスが存在する場合、長期的に安定するコア・コンピタンスとはいえなくなります。
同じ価値を提供できる商品やサービスが自社のものより安い場合、消費者はより安い方を選択しがちです。コア・コンピタンスを確立するためには、価格競争に巻き込まれない自社ならではの商品やサービスを生み出すことが求められます。
希少性(Scarcity)
希少性とは数が少ないことや珍しいことです。商品やサービスの希少価値が高ければ、そのこと自体が商品やサービスの魅力を押し上げ、消費者の購買意欲を高めます。
模倣可能性や代替可能性の評価をクリアしているコア・コンピタンスなら、希少性のスコアも高水準であるといえるでしょう。
耐久性(Durability)
コア・コンピタンスの耐久性とは、自社特有の強みが市場で長期的に維持されることです。現時点では上記4つの視点から高く評価できても、短期間で強みが消えてしまうようなものならコア・コンピタンスとはいえません。
近年のビジネス環境は目まぐるしく変化しており、将来の予測が困難になっています。このような時代にも市場で競争優位性を保てる強みこそが、コア・コンピタンスになりうるのです。
コア・コンピタンスの見極め方
自社の経営戦略にコア・コンピタンスを導入する手順を紹介します。安易な見極めは損失につながりかねないため、丁寧にステップを踏んで慎重に見極めましょう。
自社の強みを抽出する
コア・コンピタンスを見極める際は、始めに自社の強みを思いつく限り洗い出します。強みの抽出にはSWOT分析やPPM分析といったフレームワークを活用するのが効果的です。
人材や企業文化の視点を加えたり、洗い出し作業に従業員も参加させたりすれば、新たな気づきが生まれる可能性もあります。また、消費者が自社の商材に見いだしている価値をリサーチする方法も有効です。
それぞれの強みを評価する
自社の強みを抽出できたら、次にそれぞれの強みを評価しましょう。前述した3つの前提条件を満たしているものをピックアップし、5つの視点で評価していきます。
5つの視点はあくまでも判断基準にすぎず、全てを満たしている必要はありません。偏った評価にならないよう、部署や役職をまたいだチームで検証を進めていきましょう。
コア・コンピタンスに絞り込む
最終的なコア・コンピタンスの絞り込みは経営判断です。経営陣を中心としたチームを組み、評価が完了した自社の強みの中から一つに絞り込む必要があります。
コア・コンピタンスは新事業の行方を大きく左右するため、慎重に検討することが重要です。長期にわたり新分野に展開できそうな強みを見極めましょう。
代表的な日本企業のコア・コンピタンス
企業事例を見れば、コア・コンピタンスのイメージをつかみやすくなります。代表的な日本企業のコア・コンピタンスを見ていきましょう。
ホンダのエンジン技術
1970年のアメリカ大気清浄法(Clean Air Act)の改正により、厳しい基準をクリアした自動車しか販売できなくなったため、世界中の自動車メーカーが対応に追われることになりました。これをチャンスと捉えて新技術の開発にいち早く着手したのが、自動車メーカーであるホンダです。
ホンダが開発した新型エンジン「CVCC」は、世界で一番早くアメリカ環境保護局の認定を取得しました。さらに、このエンジン技術を自動車以外の分野にも幅広く適用させ、コア・コンピタンスが確固たるものになったのです。
富士フイルムのヘルスケア技術
デジタルカメラやスマートフォンの普及により、富士フイルムの主力であったカラーフィルム事業が衰退する中、同社がコア・コンピタンスとして定義したのが高機能材料とその構造体です。
高機能材料を3次元構造で設計・応用できる技術は、富士フイルムのコア・コンピタンスとして再定義されました。これをヘルスケア分野に転用し、現在も同社を支えるスキンケアブランド「アスタリフト」の開発に至っています。
コア・コンピタンスの確立で競争力を強化
コア・コンピタンスとは、他社に真似されない自社の圧倒的な強みのことです。コア・コンピタンスを確立できれば、長期にわたり市場での競争優位性を保てます。
前提条件や評価する視点を理解し、企業事例も参考にした上で、自社のコア・コンピタンスを見極めてみましょう。