36協定とは?残業時間の基本的な考え方や締結手続きの方法を解説
事業拡大や繁忙期において、労働者に時間外労働をお願いすることは避けられません。しかし、労働基準法では厳格な労働時間の規制があるため、適切な手続きなしに残業をさせることは不可能です。36協定は、企業が法的に時間外労働を認めてもらうための重要な制度であり、人事担当者が必ず理解しておくべき制度と言えるでしょう。
36協定の基礎知識
労働時間の管理は企業経営における重要な課題の一つです。適切な労働時間管理を行うためには、まず36協定の基本的な仕組みを理解することが欠かせません。
ここでは、労働時間の考え方から36協定の必要性まで、基礎的な知識を解説します。
労働時間の基本的な考え方
労働基準法では、労働時間に関して明確な規定が設けられています。法定労働時間は1日8時間、週40時間と定められており、企業が就業規則で定める所定労働時間は、この法定労働時間の範囲内で設定しなければなりません。
具体的には、多くの企業で採用されている9時から18時までの勤務体制では、休憩時間1時間を除いて1日8時間の所定労働時間となります。
この所定労働時間を超えた労働はすべて時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要です。
時間外労働をさせるためには36協定が必要
労働基準法に基づき、企業が労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合には、事前に36協定を締結することが義務付けられています。
36協定とは、労働基準法第36条に規定された労使協定のことで、この協定なしに残業をさせることは法律違反となってしまうのです。
36協定に違反した場合、企業には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、企業名が公表される場合もありますので、注意が必要です。
参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働 について留意すべき事項に関する指針 (労働基準法)
36協定でも残業時間の上限がある
36協定を締結したからといって、無制限に時間外労働をさせることはできません。
2019年の働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制が設けられ、より厳格な管理が求められるようになったのです。原則として、時間外労働は月45時間、年360時間以内に制限されています。
この上限規制は、労働者の健康確保と働き方改革の推進を目的としており、違反した場合は罰則の対象となります。
企業は36協定の締結と同時に、上限規制を遵守するための労働時間管理体制を整備することが重要です。
36協定を適用できないケース
36協定には適用除外となるケースがいくつか存在します。締結ができない主なケースは以下の通りです。
- 18歳未満の年少者
- 育児・介護をしている労働者
- 妊産婦の労働者
- 管理監督者
これらの労働者については、36協定の適用除外となるため、別途適切な労働時間管理が必要になります。
36協定の特別条項とは
繁忙期や突発的な業務増加により、通常の36協定で定めた上限を超えて労働が必要になる場合もあるでしょう。
そのような状況に対応するため、36協定には特別条項が用意されているのです。ここでは、特別条項の仕組みと必要な手続きについて詳しく解説していきましょう。
36協定の上限を超えた残業を認める制度
36協定の特別条項は、臨時的な特別の事情がある場合に限り、月45時間、年360時間の上限を超えた時間外労働を認める条項です。
特別な事情として認められるのは、以下のような場合です。
- 業務の繁忙期
- システム障害等の緊急対応
- 外的要因による業務増加
- 突発的な受注増加
- 天災等による復旧作業
- 法改正対応業務
特別な事情として認められるのは、一時的かつ突発的なものである必要があります。この特例は恒常的な長時間労働を正当化するものではありません。企業は特別条項を設ける際、その必要性と合理性を十分に検討することが重要です。
36協定の特別条項に必要な項目
特別条項付きの36協定を締結する場合、通常の36協定に加えて以下の6つの項目を定めることが義務付けられています。
- 特別の事情
- 労使間の手続き
- 時間外労働の上限
- 適用回数
- 割増賃金率
- 健康確保措置
これらの項目を適切に設定することで、労働者の健康を確保しながら柔軟な労働時間管理が実現できるでしょう。
36協定の上限規制に違反した場合は?
36協定の上限規制に違反した場合、企業は深刻な法的リスクに直面することになります。ここでは、違反となるケースと具体的な罰則について詳しく見ていきましょう。
36協定違反となるケース
36協定違反となる主なケースは複数あります。主なケースを以下に紹介します。
- 協定を締結せずに残業や休日労働をさせた場合
- 36協定を締結したが届出を怠った場合
- 36協定で定めた時間数を超えて労働させた場合
- 特別条項で定めた上限時間を超過した場合
- 年6回を超えて特別条項を適用した場合
- 複数月平均80時間を超えた場合
- 休日労働を含めて月100時間以上労働させた場合
- 年間の時間外労働が720時間を超えた場合
36協定違反の罰則やリスク
36協定に違反した場合の罰則は重く、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。この罰則は使用者である経営者や人事担当者個人に適用されるため、企業だけでなく担当者自身も刑事責任を負うことになるのです。
実際の企業では、労働基準監督署による調査や指導が行われ、改善が見られない場合は書類送検される場合もあるでしょう。
罰則以外のリスクとしては、企業の社会的信頼の失墜が挙げられます。労働基準法違反が公になった場合、採用活動への悪影響や既存従業員の離職につながる可能性があります。
また、取引先からの信頼失墜により、ビジネス機会の損失を招くこともあるでしょう。労働者から未払い残業代や損害賠償を請求される民事リスクも考えられます。
36協定の締結方法
36協定を適切に締結するためには、正しい手続きと必要な書類の準備が欠かせません。労働基準法に基づく重要な協定であるため、手続きに不備があると法的効力を持たない可能性があるのです。
ここでは、協定の締結相手から届出手続きまで、具体的な方法を詳しく解説していきます。
36協定を締結する相手
36協定の締結相手は、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合との間で協定を結びます。
労働組合がない場合や、労働組合があっても労働者の過半数を組織していない場合は、労働者の過半数を代表する者との間で協定を締結することになるでしょう。
過半数代表者を選出する際は、管理監督者でないことと、労働者の過半数による選出であることが条件となります。
36協定届の手続き
36協定を締結した後は、労働基準監督署への届出が必要になります。36協定届は、協定を締結した日から起算して遅滞なく、所轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません。
届出に使用する様式は、厚生労働省が定めた様式第9号または様式第9号の2を使用する必要があるでしょう。
届出方法は、労働基準監督署への持参、郵送、電子申請の3つの方法があります。
電子申請の場合は、e-Govを通じて手続きを行うことができ、時間や場所を選ばずに提出できるため便利です。
届出の際は、36協定書の写しと36協定届を併せて提出する必要があります。適切な届出手続きを行うことで、法的に有効な36協定として効力を発揮することになるのです。
36協定の違反を防ぐための対策
36協定違反を防ぐためには、事前の予防策と継続的な管理体制の構築が不可欠です。労働時間の適切な管理は企業の法的リスクを回避するだけでなく、労働者の健康確保と生産性向上にもつながるでしょう。
ここでは、実践的な違反防止策について具体的に解説していきます。
36協定の内容を周知する
労働基準法では、36協定を労働者に周知することが義務付けられており、見やすい場所への掲示や書面での交付が必要になります。具体的には、休憩室や更衣室への掲示、社内イントラネットでの公開、新入社員研修での説明などが効果的でしょう。
また、36協定の内容だけでなく、時間外労働の上限時間や特別条項の適用条件についても明確に伝える必要があります。
管理職に対しては36協定の法的意義と違反時のリスクについて詳しく説明し、適切な労働時間管理の重要性を認識させることが重要です。
勤怠管理を徹底する
労働時間の把握は使用者の義務であり、客観的な記録に基づく管理が法的に求められているのです。タイムカードやICカードによる打刻システム、勤怠管理システムの導入によって、勤怠管理を徹底しましょう。
また、テレワークや在宅勤務の場合も、パソコンのログ記録やオンラインでの勤怠報告により、適切な労働時間管理を行う必要があります。
定期的な勤怠データの分析により、長時間労働の傾向を早期に発見し、適切な対策を講じることができるでしょう。
従業員の業務や働き方を見直す
労働時間の適正化には、業務の効率化と働き方の見直しが欠かせません。業務量の偏りや非効率な作業プロセスが長時間労働の原因となっている場合は、業務分担の見直しや作業手順の改善を行う必要があるでしょう。
具体的には、業務の優先順位の明確化、無駄な会議の削減、ITツールを活用した業務効率化などが有効と考えられます。
労働者の健康・福祉を確保する
36協定の運用において、労働者の健康確保は最も重要な要素のひとつです。特別条項を設ける場合は、健康確保措置の実施が義務付けられており、具体的な措置を定める必要があります。
医師による面接指導の実施、深夜業の回数制限、終業から始業までの休息時間の確保などが代表的な措置として挙げられるでしょう。
加えて、長時間労働者に対する特別休暇の付与や、ストレスチェックの実施により、労働者の心身の健康状態を継続的に把握することが重要です。
労働者の健康確保は、企業の持続的成長と生産性向上にもつながる重要な投資と考えられます。
36協定について理解を深めよう
36協定の締結から運用まで、すべての過程において法的要件を満たすことが重要ですが、それと同時に労働者の健康確保と働きやすい職場環境の実現を目指すことが大切です。
36協定の理解を深め、適切な労働時間管理を実践することで、企業は法的リスクを回避しながら持続的な成長を実現できます。
労働者にとっても働きやすい環境が整備され、組織全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。