みなし役員とはどのような人?判断基準や待遇のルールを解説
「役員」とひと口にいっても、法律によって定義が異なり、税法上の役員かどうかで待遇のルールが変わります。特に役員かどうかの線引きが難しい「みなし役員」は、人事管理上の重要な課題です。本記事では、みなし役員の定義や判断要件、待遇ルールについて、実務で迷わないための対応方法を含めて解説します。
みなし役員とは何か
みなし役員とは、会社法上では従業員であっても、法人税法上では役員として扱われる人を指します。一般的な役員との違いを正確に理解することは、適切な税務処理と人事管理において不可欠です。以下、法律上の定義を踏まえて、みなし役員の具体的な内容を整理していきましょう。
会社法では従業員でも法人税法上役員と見なされる人
会社法上で役員と定義されるのは、第329条に定められた「取締役」「会計参与」「監査役」の3役です。ただ、法人税法では「役員」の定義が違います。
法人税法では、会社法上の役員に加えて、会社法上では従業員だが実質的に役員と見なす通称「みなし役員」も役員と考える決まりです(同法第2条第15号)。例えば会社法では役員に該当しない執行役員でも、実質的に役員と同じような役割をしていれば「みなし役員」として法人税法上の役員と判断されます。
外部顧問も該当する可能性あり
顧問には、内部顧問と外部顧問があります。外部顧問は会長や社長の補佐や指導をする、外部から招かれた専門家です。コンサルタントや税理士・公認会計士などが選ばれるケースが多いでしょう。
本来、顧問の役割はアドバイスや指導に限定され、経営判断には直接関与しません。しかし実態として経営の意思決定に深く関わっている場合、みなし役員として扱われる可能性があります。
判断のポイントは、単なる助言を超えて経営方針の決定に参画しているかどうかです。例えば、取締役会に常時出席し、事業計画の策定や重要な投資判断に実質的に関与している外部顧問は、みなし役員に該当する可能性が高いといえます。
企業としては、顧問契約の内容と実際の業務実態を定期的に確認し、税務リスクを回避する必要があるでしょう。
みなし役員と判断される要件
みなし役員かどうかの判断は、国税庁のページに記載されている要件を見ると分かります。ただ、書き方が少々分かりにくいので、かみ砕いて理解していきましょう。
従業員以外で経営に従事している人
国税庁が定めている「役員の範囲」に、会社法上の役員以外、つまりみなし役員とはどのような人か書かれています。その一つ目が、次の要件です。
「法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)以外の者で、その法人の経営に従事しているもの」
「使用人」とは、役職を持たない一般の従業員を指します。上記を分かりやすく言い換えれば、「一般の従業員ではなく、企業の経営に従事している人」と読み解けます。具体的なポジションは、以下の通りです。
- 取締役や理事となっていない総裁・副総裁・会長・副会長・理事長・副理事長・組合長
- 合名会社や合資会社・合同会社の業務執行社員
- 人格のない社団などの代表者・管理人、相談役・顧問などで地位や職務から実質的に法人の経営に従事していると認められる人
一定の持株割合があり経営に従事している同族会社の従業員
国税庁の役員の範囲において、同族会社には、同族会社以外とは別の要件が設けられています。次の要件全てを満たしており、経営に従事している同族会社の従業員(使用人)はみなし役員に該当する人物です。
- 会社の株主グループを所有割合が大きい順に並べたとき、その従業員が所有割合50%超の第1順位の株主グループに属しているか、第1・第2順位の株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超えるときいずれかの株主グループに属しているか、第1〜第3順位までの株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超えるときいずれかの株主グループに属している
- その従業員が属する株主グループの所有割合が10%を超えている
- その従業員や配偶者の所有割合が5%を超えている
「経営に従事している」とは
みなし役員の要件のいずれにも登場する言葉が、「経営に従事している」です。法令で明文化されているわけではありませんが、以下のような業務の意思決定に関わっている場合は該当すると考えられています。
- 販売計画
- 仕入れ・生産の計画
- 資金計画
- 人事政策
- 設備計画
役員の指揮下で上記の業務に従事している場合は、「経営に従事している」とは見なされません。
みなし役員に対する待遇のルール
みなし役員に該当する人がいる場合、給与や賞与・退職金は役員と同じく扱わなければなりません。損金に算入できるかどうかが変わってきます。主な待遇についてのルールを解説します。
月の給与
法人税法第34条第1項で、みなし役員を含む役員に支払った月の給与は、「定期同額給与」でなければ事業年度の損金に算入できないとされています※。定期同額給与とは、1カ月以内の一定期間に同額支払われるものです。事業年度の各支給時期の支給額が変わらないことが条件で、決算日から3カ月以内に1回のみ改定が認められています。
定期同額給与でも、株主総会で議事録を作成・保管する、不当に高額な報酬設定をしないなどの注意点を守らないと全額損金に算入できません。
※所轄の税務署長に届け出をすれば、定期同額給与でなくても損金の算入が可能です。
参考:No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)|国税庁
賞与
みなし役員を含む役員に対しては、賞与は支給せず役員報酬に含めてしまうのが一般的です。法人税法第34条第1項の定めにより、役員の賞与は損金に算入できません。
退職金
みなし役員を含む役員の退職金は、適正な金額であって正当な手続きを踏んでいれば、退職金の額が確定した事業年度に全額損金に算入できます。ただし、株主総会での承認が必要です。株主総会で取締役会に一任することを定め、取締役会で金額や支給時期などの詳細を決定する形でも問題ありません。
役員に支払う退職金の「適正な額」は、状況によって変わります。功労金を上乗せする場合、退職金の30%程度までなら適正とするのが一般的です。
雇用保険や社会保険
みなし役員を含む役員は、原則として雇用保険の対象になりません。ただし、工場長や部長などと同時に役員としての立場を持っていて、仕事内容や賃金などから労働者的性格が強い場合、雇用保険の加入対象となります。この場合、事業所を所轄するハローワークへの届け出が必要です。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、役員でも加入要件を満たしていれば加入義務が発生します。従業員(厚生年金の被保険者数)が51人以上の企業で、フルタイム勤務なら役員でも社会保険に加入させなければなりません。
なお、社会保険の適用対象を今後さらに広げていくことが2025年6月に決定しています。厚生労働省が発表している情報は小まめにチェックしておきましょう。
みなし役員に該当するか迷ったときの対応
みなし役員であるかどうかには複数の要件があり、判断が煩雑になりがちです。みなし役員なのか一般従業員なのか迷ったとき、取りたい対応を二つ紹介します。
みなし役員に該当する基準を明文化する
会社法上の役員は、条文に3役が明記されているので判断が簡単です。一方でみなし役員の場合は、実態で判断されます。「従業員以外で経営に従事している人」「一定の持株割合があり経営に従事している同族会社の従業員」という条件について、具体的な例を記載して明文化しておくと判断しやすくなるでしょう。
特に「経営に従事する」は例がないと分かりにくいので、紹介した業務を列挙して判断が容易な状態にしておくと社内共有がスムーズです。
税理士に相談する
もし社内で要件を整理して共有・判断するのが難しい場合、税理士に相談する方法もあります。税理士は法人税を含む税制全般のスペシャリストです。
みなし役員に該当するかどうかの判断には難しい面もあるので、不安があるなら税理士に相談するのが確実でしょう。役員の賃金に関する節税対策の相談にも乗ってもらえます。
みなし役員の定義を知って正しい税務処理を
会社法での役員でなくても、法人税法で役員と見なされる「みなし役員」は、企業の税務処理において重要な概念です。経営への関与度合いや株式保有状況によって判断され、該当する場合は給与、賞与、退職金の税務上の取り扱いが大きく変わります。
みなし役員の適切な管理は、税務リスクの回避だけでなく、公正な人事制度の構築にもつながります。判断基準を明文化し、必要に応じて専門家の助言を得ながら、法令に準拠した適切な処理を行うことが、企業の持続的な成長を支える基盤となるでしょう。