リスクマネジメントとは?目指すべき姿や構築・運用のポイントを解説

不祥事や倒産、SNSによる中傷など、企業のリスクに関するニュースが気になる人も多いでしょう。問題が顕在化していないときこそ、リスク管理について考えておくべきです。リスクマネジメントの意味を構築・運用のポイントと併せて解説します。

リスクマネジメントとは

経済産業省の「JIS Q31000」では、組織のリスクマネジメントにおける指針をまとめています。本記事の内容は、JIS Q31000に準拠した資料を参考にしたものです。まずは、リスクマネジメントの意味と重要性を解説します。

出典:リスクマネジメント入門 | 三井住友海上

リスクマネジメントの意味

リスクマネジメントとは、組織で発生し得るリスクを特定し、優先順位の高いリスクに対して事前策や事後策を講じることを指します。

リスクを考える際には、「発生確率」と「発生した場合の影響」の2点が重要です。これらを組み合わせてリスクの優先順位を決定し、対応を進めます。また、同じリスクでも立場や利害関係によって捉え方が異なるため、社内の各部署の視点や利害を考慮することが必要です。

すべてのリスクに対応しようとすると、膨大なコストがかかるため、適切なコスト負担で目的を達成できる範囲を見極めることが、効果的なリスクマネジメントの鍵となります。

リスクマネジメントの重要性

企業を取り巻くリスクは多岐にわたり、中には企業に大きな損失を与えるものもあります。また、近年はビジネスの変化やデジタル化からリスクに対する考え方が変化しており、リスクヘッジがますます重要になってきています。

主な環境の変化とリスクの例は次の通りです。

  • 各種規制緩和:企業間の競争激化
  • ビジネスのシステム化:コンピュータ犯罪の増加
  • 国際化:進出国の政治や経済環境の変化
  • 企業責任の重視:コンプライアンスの重視

これらを先取りするための仕組みづくりとして、リスクマネジメントが重要になっているのです。

リスクマネジメントと似た言葉

リスクマネジメントと意味を混同しやすい言葉には、以下のようなものがあります。

  • クライシスマネジメント:災害や不祥事などの緊急対応発生時に被害を最小限に抑え、迅速な回復を目指すプロセス
  • リスクアセスメント:リスクを特定し危険性を分析すること
  • リスクヘッジ:事前にリスクを軽減または回避するための具体的な対策

クライシスマネジメントは、リスクマネジメントにおける事後策です。また、リスクアセスメントやリスクヘッジも、リスクマネジメントのプロセスの一部と捉えられます。

リスクマネジメントの対象リスク

一般的に、リスクの種類は純粋リスクと投機的リスクに大別されます。それぞれの特徴や例を見ていきましょう。

純粋リスク

純粋リスクとは、火災や自然災害、人的ミスなど偶発的な要因で生じるリスクを指します。これらは損失をもたらす可能性がある一方で、リスクそのものが直接的な利益を生むことはありません。

ただし、損失の回避やリスク対応を通じて組織の信頼性向上や効率性改善につながる場合もあります。このため、「純粋リスクが結果的に間接的な利益に寄与する可能性」を否定するものではありません。

純粋リスクの具体例

  • 財産リスク:火災や地震による物品の破損・喪失
  • 費用・利益リスク:災害による売上減少や施設閉鎖
  • 人的リスク:従業員や経営者の死亡、病気、負傷
  • 賠償責任リスク:過失による法的責任や株主代表訴訟

純粋リスクは損害保険でカバーできる場合が多い点が特徴です。

投機的リスク

投機的リスクは、環境変化や意思決定の結果として、損失とともに利益が生じる可能性もあるリスクを指します。例えば、新しい市場への進出は成功すれば利益を生む一方、失敗すれば損失を招く可能性があります。

投機的リスクの例を確認しましょう。

  • 経済的な情勢の変動:景気の変動、投機の失敗
  • 政治的な情勢の変動:政権交代、消費者の嗜好変化
  • 法的規制の変更:税制改正、法令の改正
  • 技術的な情勢の変化:新発明、技術革新、特許

投機的リスクの大半は損害保険でカバーできませんが、組織におけるリスクであることに変わりはありません。まずは純粋リスクから管理し、状況に応じて投機的リスクにも対象を広げていくとよいでしょう。

リスクマネジメントの目指すべき姿

リスクマネジメントを成功させるためには、目指すべき姿を明確にイメージし、適切な体制を構築することが重要です。JIS Q 31000(リスクマネジメント―指針)では、リスクマネジメントを体系的かつ効果的に実施するための原則を示しており、この指針を活用することで、組織全体のリスク管理を強化できます。

リスクマネジメントの原則

リスクマネジメントで企業が遵守すべき事項です。

  • 価値を創造・保護する:リスク管理は単なる防御策ではなく、組織の価値を高めるためのプロセスです。
  • 全プロセスに統合される:リスクマネジメントは、組織のすべての活動に不可欠な部分として組み込まれるべきです。
  • 意思決定の一部である:戦略的な意思決定においてリスクを考慮することが不可欠です。
  • 不確かさに明確に対処する:リスクを特定・評価し、透明性をもって対応します。
  • 体系的・組織的かつ適切なタイミング:リスク管理プロセスは計画的であり、必要な時に迅速に対応できるようにします。
  • 最も利用可能な情報に基づく:信頼性のあるデータや分析に基づいてリスクを管理します。
  • 組織に適合した設計:組織の規模や文化、目的に応じた柔軟なリスクマネジメントを構築します。
  • 人的・文化的要素を考慮する:リスク管理には、従業員やステークホルダーの視点や文化的要因を組み込むことが重要です。
  • 透明性があり包含的:ステークホルダー全員がプロセスを理解し、関与できるよう配慮します。
  • 動的で再現性があり変化に対応:環境の変化に応じて、リスク管理の方法を適切に調整します。
  • 継続的改善を促進:プロセスを定期的に見直し、改善を繰り返します。

リスクマネジメントの効果を最大化するためには、上記を満たす必要があります。

経営層がコミットすべき事項

リスクマネジメントの原則を満たすためには、経営層が積極的にかかわることが重要です。経営層がコミットすべき事項をまとめました。

  • リスクマネジメント方針を定め承認する
  • 組織の文化とリスクマネジメント方針を一致させる
  • 組織の業績評価指標に合わせてパフォーマンス指標を決める
  • 組織の目的や戦略とリスクマネジメントの目的を合わせる
  • 法律や規制を遵守する
  • 責任や責務を組織内の階層に割り当てる
  • リスクマネジメントに必要な資源を割り当てる
  • 全てのステークホルダーにリスクマネジメントの必要性を伝える
  • フレームワークを常に適切な状態にする

リスクマネジメント体制の構築

リスクマネジメントでは部署の枠を超えた全社的な管理が不可欠です。部署ごとの対応では、部署をまたがるリスクや部署外のリスクに適切な対応を取れなくなります。

部署ごとの取り組みを統括的に確認するために、リスク管理委員会を設置しましょう。リスク管理委員会は取り組みの管理ではなく、部署間の連携を図りながらリスク管理をサポートする組織です。

リスク管理委員会は経営層と直結させ、一定の権限を持たせる必要があります。各部署からスムーズに情報を収集できる仕組みも整えましょう。

リスクマネジメントのプロセス

リスクマネジメントに取り組む場合、実際にどのようなことを行えばよいのでしょうか。リスクを認識しリスクに対処する具体的なプロセスを解説します。

社内外の関係者とコミュニケーションを取る

リスクマネジメントでは、社内外の関係者との継続的なコミュニケーションが不可欠です。社内での目線合わせや社外に対する説明を行う必要があります。

また、近年はステークホルダーの評判が企業にとって大きなリスクになりかねません。社内外の関係者とのコミュニケーションでは、自社に期待していることも把握しておくのが重要です。

組織の状況を確定する

リスクマネジメントプロセスを進めるにあたっては、組織の状況を確定することも大切です。リスクマネジメントの適用範囲やリスク基準など、具体的な取り組みを始める前に決めておくべき事項を確定させます。

「子会社も適用範囲に含めるか」「いくら以上の損害を甚大な損害とするのか」など、リスクマネジメントのよりどころとなるルールを決めておきましょう。

発生し得るリスクを洗い出す

自社で発生し得るリスクを洗い出す作業は、各部署の関係者が集まって行う必要があります。一個人や特定の部署のみでリスクを特定すると、偏った結果になりやすいためです。

企業で生じるリスクは、次の7分野に大きく分けられます。

  • 事故・災害:火災、自然災害、交通事故、労働災害など
  • 法務(訴訟):製造物責任訴訟、環境汚染責任の発生など
  • 財務:不良債権の発生、企業買収、株価の急変など
  • 経済:金利変動、為替変動、税制改正など
  • 労務:ハラスメント、求人難、労働争議など
  • 政治:戦争、貿易制限、外圧など
  • 社会:企業脅迫、テロ、産業スパイなど

リスクの大きさを分析する

リスクの大きさとは、「どのくらいの確率で発生するか」と「発生した場合にどのくらいの影響を与えるか」の両方を考慮した基準です。優先順位を決める際は、リスクの大きさを分析する必要があります。

リスクの分析では影響の大きさを重視しがちですが、影響が小さくても発生する頻度が高いリスクは無視できません。また、影響の大きさは金額だけでなく、人の心身や企業のイメージに与える影響も考慮すべきです。

リスクの優先順位を決めて絞り込む

リスクの大きさを分析したら、リスクごとの大きさを比較して優先順位を付けましょう。リスク対応を行う前に、優先度に応じてリスクを絞り込む必要があります。

自社で発生し得るリスクの全てに対応することは、現実的ではありません。順番を決めずに対応すると、優先度の高いリスクへの対応が間に合わなくなる恐れもあります。

効果的なリスク対応を検討する

リスクマネジメントにおけるリスク対応は、次の2つに分けられます。

  • リスクコントロール:損害予防や拡大防止(リスクの回避、リスク源の除去など)
  • リスクファイナンジング:損害発生後の資金手当て(損害保険への加入など)

上記を組み合わせて効果的なリスク対応を図ります。

リスクマネジメントを継続的にチェックする

リスクマネジメントは対策マニュアルの完成を持って終わりではありません。取り組みがしっかりと進められているか、目標が達成されているかなどを、継続的にチェックする必要があります。

現時点で有効な対策も、ある程度時間が経つと効果がなくなるケースもあるのです。一度決めたルールも定期的に見直し、最適な対策にアップデートしていきましょう。

組織の実情に即したリスクマネジメントを

リスクマネジメントとは、企業で発生し得るリスクを抽出し、事前・事後策を講じることです。近年はリスク環境が変化しており、企業におけるリスクマネジメントの重要性が高まっています。

リスクマネジメントでは、経営層が積極的にかかわることや体制を構築することが重要です。プロセスの進め方についても理解を深め、組織の実情に即したリスクマネジメントに取り組みましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
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