降格人事でトラブルを防ぐには。人事降格の進め方や円滑な降格のポイント

組織の再編やスキル不足などの理由で役職者を降格させる場面は、どの企業でも起こり得る人事課題です。降格人事は対象者の経済的・精神的負担が大きく、進め方を誤れば訴訟リスクや組織全体のモチベーション低下につながります。本記事では、法的リスクを回避しながら円滑に降格人事を実施するための具体的なステップと、対象者のエンゲージメント維持のポイントを解説します。

降格人事は大きく分けて2種類

降格人事(降格)とは、課長や部長などの役職から一般従業員にポジションダウンさせるなど、社内での地位を下げる人事です。降格は、「人事降格」と「懲戒処分としての降格」の二つに大別されます。それぞれの意味を押さえておきましょう。

人事降格

企業が持つ人事権を行使して、降格を実行するのが「人事降格」です。労働契約に基づき、経営状況の変化や組織再編・対象者の業績不振・業務への不適合などを理由に実施されます。

職位のみを引き下げる場合もありますが、それに伴って給与階級が下がって基本給が減る場合も少なくありません。

懲戒処分としての降格

懲戒処分の一環として降格させるケースもあります。懲戒処分にはさまざまな種類がある中で、降格は懲戒解雇・諭旨解雇に次いで重い処分です。

考えられる理由としては、セクハラやパワハラ・重大な規則違反・不正などです。懲戒については、労働契約法第15条に定められています。

懲戒処分が無効になる場合も

労働契約法第15条によれば、以下の2点が満たされなければ懲戒処分を下しても無効になるとされています。

  • 懲戒対象者の行動の性質・客観的に合理的であること
  • 社会通念上相当である

軽いルール違反程度で懲戒処分として降格させると、懲戒権の濫用として無効になる可能性が高いでしょう。懲戒処分として降格させる場合は、就業規則について懲戒処分についての定めがなければ無効となる点にも注意が必要です。

参考:労働契約法 第15条|e-Gov法令検索

人事降格を進めるステップ

降格人事の基本を押さえたら、実際に降格させるときのステップをチェックしておきましょう。懲戒処分ではなく「人事降格」のケースに絞り、大きく2ステップに分けて進め方を紹介します。

降格させる理由の明確化・事実確認をする

人事降格を実施するには、明確な理由が必要です。組織再編に伴って業績の低い管理職の任を解く、役職に対するスキルや適性の不足・規則違反・勤務態度の不良など、ケースごとに降格させるべき理由は変わります。

まず企業として理由を明確にし、その理由が本当なのかを確認して降格の意向を決めなければなりません。うわさや特定の従業員からの申告ではなく、日報・月報や数値化された成果、面談内容、多数からの評価など客観的な材料をもとに判断すべきでしょう。

対象者と面談して合意形成を図る

降格の方針が固まったら、対象者との面談を通じて合意形成を図ることが重要です。労働契約法第9条は就業規則の不利益変更について従業員の同意を求めていますが、個別の降格においても、対象者の理解と納得を得ることが円滑な実施の鍵となります。

面談の内容は必ず記録に残し、両者で確認することが重要です。口頭での約束や曖昧な表現は後のトラブルの原因となるため、降格の条件、処遇変更の内容、今後の支援策などを文書化し、双方が保管します。

複数回の面談が必要な場合もありますが、性急な結論を避け、対象者が十分に検討できる時間を確保することが、長期的な信頼関係の維持につながるでしょう。

参考:労働契約法 第9条|e-Gov法令検索

ルール違反や人事権の濫用に当たらないかチェックする

企業には人事上の決定について広範囲の裁量が与えられていますが、無制限ではありません。降格は、労働関連法令や就業規則・労働協約など、さまざまな制約の範囲内で実施されるべきものです。

これらのルールに反していなくても、人事権の濫用に当たる場合、人事降格は無効と見なされます。法令や就業規則・労働協約はもちろん、人事権の濫用に当たるケースとも照らし合わせてチェックしましょう。

人事権の濫用と見なされるケース

人事権の濫用になり得る降格には、以下のようなケースがあります。

  • 過度な減給など従業員が著しく不利益を被る
  • 人事戦略上必要がない
  • 自主退職を促すことを目的としている
  • 上司や経営層の個人的な感情を理由としている

同様の事案に対する過去の処分との均衡も重要な判断基準です。同じような業績不振でも、ある人は降格され、別の人は降格されないという不公平な扱いは、人事権の濫用と判断される可能性があります。人事部門は、降格基準の一貫性を保ち、公平な運用を心がける必要があります。

判断に迷う場合は、労務管理の専門家である社会保険労務士や弁護士に相談することが賢明でしょう。

正式に降格を通達する

面談で合意形成ができ、かつ人事権の濫用に当たらないと判断できたら、正式に降格を通知しましょう。人事降格は「辞令」として、以下の項目を記載して本人に通知します。

  • 通知年月日
  • 対象者の氏名
  • 降格年月日
  • 降格前後の職位
  • 降格の理由 ※ケースによる

通知書類は降格後に万が一トラブルが起こったときのため、保存しておく必要があります。

円滑に人事降格を進めるポイント

人事降格によって目的が達成されても、対象者とトラブルが起こったりエンゲージメントが下がって離職されたりすると、企業にとって大きな痛手になります。円滑に人事降格を進めるには、何をすればよいのでしょうか。

対象者と十分にコミュニケーションを取る

人事降格の前後を通じて、対象者との継続的なコミュニケーションは極めて重要です。降格は経済的不利益だけでなく、自尊心の低下や将来への不安といった精神的な負担を伴うため、丁寧な心理的フォローが欠かせません。

制裁的意味合いがない人事降格の場合は特に、綿密なコミュニケーションを取って心理的なフォローをする意識が大切です。組織から見放されたという不安が軽減され、エンゲージメントを保てます。

再昇格のチャンスが得られる制度を整備する

スキルや能力不足による降格の場合、改善努力により再び昇格できる道筋を明確に示すことが、対象者のモチベーション維持に不可欠です。

再昇格までのロードマップを個別に作成し、必要なスキルや経験、達成すべきマイルストーンを明確にすることで、対象者が目標に向かって努力しやすい環境を整えます。

加えて成功事例を社内で共有することも効果的で、降格が必ずしもキャリアの終わりではないことを組織全体に示すことができます。

このような制度は、降格対象者だけでなく、全従業員にとっても公正な人事制度として認識され、組織への信頼を高める効果があるでしょう。

スキル・能力面のサポート体制を用意する

降格理由となった課題を克服するための具体的な支援体制の構築は、対象者の成長と組織の人材育成の両面で重要です。独学での改善を期待するだけでは限界があり、組織として体系的な育成プログラムを提供することが、再昇格を現実的なものとします。

投資対効果の観点からも、既存人材の育成は新規採用よりもコスト効率が高い場合が多くあります。労働力不足が深刻化する中、管理職候補者の内部育成は企業の持続的成長にとって重要な戦略です。

人事部門は、降格者の育成を単なるフォローアップではなく、将来の幹部候補育成の一環として位置づけ、長期的な視点で支援体制を構築することが求められるでしょう。

降格人事は適切な進め方でトラブルを回避

降格人事には企業が持つ人事権を行使して実施する「人事降格」と、懲戒処分としての降格の2種類があります。懲戒処分としての降格させるなら、労働契約法の定めに沿って実施しなければなりません。

組織再編やスキル・能力不足などを理由として行う人事降格では、人事権の濫用に該当すると無効になってしまいます。降格の理由を明確にした上で事実を確認し、対象者本人と面談してよく話し合いましょう。

適切なステップで進めれば、降格人事を実施してもトラブルが起きにくく、エンゲージメントも保ちやすくなります。

著者情報

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