組織戦略とは?離職率改善と生産性向上を実現する立て方を解説

事業は順調に成長しているのに、組織がついてこない。離職率が高く、生産性が上がらない。そんな悩みを抱えていませんか。企業の持続的な成長には、事業戦略だけでなく、それを実行する組織の力が不可欠です。本記事では、組織戦略の基本から具体的な策定方法、成果を出すためのポイントまで解説します。

組織戦略とは何か

事業戦略・組織戦略・人事戦略を明確に区別できているでしょうか。これらを混同したまま施策を進めると、現場の混乱や投資の無駄を招きます。

まずは組織戦略の定義と、関連する戦略との違いを整理しましょう。

組織戦略は事業戦略を実現するための「組織の姿」を描くもの

具体的には、企業が掲げる理念やビジョンを達成するために必要な組織体制、意思決定プロセス、部門間連携などを設計します。

例えば、新規事業への進出という事業戦略があるとしましょう。この戦略を実現するには、専門人材の配置、意思決定プロセスの見直し、部門間の連携強化などが必要です。こうした組織のあり方を設計するのが組織戦略の役割です。

組織戦略がなければ、事業戦略は絵に描いた餅になってしまいます。社員の能力を活かせる体制を整え、企業全体で同じ方向を向いて進むための土台となるのです。

事業戦略・人事戦略との違い

組織戦略と混同されやすいのが、事業戦略と人事戦略です。それぞれの違いを理解しておきましょう。

事業戦略は、市場でどのように競争優位性を築くかを定めた戦略です。どの市場に参入し、どんな商品やサービスを提供するかといった、企業の事業活動の方向性を示します。

人事戦略は、必要な人材をどう確保し、育成し、評価するかを定めた戦略です。採用計画、教育研修制度、人事評価制度などが含まれます。

組織戦略は、これらを実現するための組織構造や役割分担、意思決定の仕組みを設計します。事業戦略が目的地を示し、組織戦略が移動手段を用意し、人事戦略が運転手を育てるイメージです。

組織戦略を立てる2つの考え方

組織戦略には、2つの代表的なアプローチがあります。それが「組織は戦略に従う」と「戦略は組織に従う」という考え方です。

「組織は戦略に従う」は、まず事業戦略を定め、それを実現するために組織を設計するアプローチです。新規事業への進出や事業転換など、大きな変革が必要な場合に、トップダウンで明確な方向性を示して組織を変革します。

一方、「戦略は組織に従う」は、既存の組織構造や能力を前提に戦略を設計するアプローチです。現場の知見や技術力をボトムアップで活かし、組織の持つ独自の能力を競争優位の源泉とします。

どちらが正しいということではありません。自社の状況や目指す方向性に応じて、適切なアプローチを選択することが大切です。変革期には前者、安定成長期には後者が向いているでしょう。

自社の組織課題を把握する方法

組織戦略を立てる前に、まず自社の現状を正確に把握する必要があります。組織のどこに課題があり、何を改善すべきかを明確にしましょう。ここでは、組織課題を可視化する具体的な方法を紹介します。

エンゲージメントサーベイで組織課題を明確にする

エンゲージメントサーベイは、社員の満足度や組織へのコミットメントを測定する調査です。定期的に実施することで、組織の健康状態を数値で把握できます。

サーベイでは、「現在の仕事に意義を感じているか」「上司は適切なフィードバックをしているか」「キャリア成長の機会があるか」「働きやすい環境が整っているか」など、5段階評価で回答できる具体的な質問を設けます。

回答結果を部門別、職種別、年代別に分析することで、課題の所在が見えてくるでしょう。

例えば、特定の部門だけスコアが低ければ、その部門のマネジメントに問題がある可能性があります。全社的に育成に関するスコアが低ければ、教育体制の見直しが必要です。

重要なのは、調査結果を放置しないことです。課題が明確になったら、改善策を検討し、実行する。その結果を次回のサーベイで検証する。このサイクルを回すことで、継続的な組織改善が可能になります。

7Sフレームワークで組織の7つの要素を総点検する

7Sフレームワークは、マッキンゼー・アンド・カンパニーが開発した組織分析の手法です。組織を7つの要素から多角的に分析します。

7つの要素は以下の通りです。

  • 戦略(Strategy):企業の競争優位を築く計画
  • 組織構造(Structure):部門編成や指揮命令系統
  • システム(Systems):業務プロセスや情報システム
  • 価値観(Shared Values):組織が大切にする理念
  • スキル(Skills):組織が持つ能力や技術
  • 人材(Staff):社員の能力や配置
  • スタイル(Style):経営のスタイルや企業文化

これらの要素が互いに整合性を持ち、相乗効果を生んでいるかを点検します。例えば、イノベーションを戦略に掲げながら、システムが硬直的で新しい提案が通りにくい組織では、整合性が取れていません。

各要素を丁寧に分析することで、組織の強みと弱みが浮き彫りになります。どの要素を強化すべきか、どこに投資すべきかの判断材料になるでしょう。

現状と理想のギャップから優先課題を特定する

組織の現状を把握したら、次は理想の姿と比較します。ギャップが大きい領域ほど、優先的に取り組むべき課題となります。

まず、3年後、5年後にどのような組織でありたいかを数値と言葉で明文化しましょう。例えば「従業員数300名、事業部制を導入、マネージャーの8割が部下育成スキルを保有、部門を超えた協働が日常化している組織」など、測定可能な形で記述します。

次に、現状とのギャップを洗い出します。理想の姿を実現するには、何が足りないのか。どの部分を強化する必要があるのか。リストアップしていきましょう。

すべての課題に同時に取り組むのは現実的ではありません。課題に優先順位をつけることが重要です。事業への影響度、改善の緊急性、実行の難易度などを総合的に判断します。

優先順位の高い課題から着手し、段階的に組織を理想の姿に近づけていく。こうした計画的なアプローチが、組織戦略の成功につながります。

自社に合った組織戦略の立て方

組織課題が明確になったら、いよいよ組織戦略の策定です。自社の状況に合わせて、実現可能で効果的な戦略を設計しましょう。ここでは、組織戦略を立てる際の重要なポイントを解説します。

組織の理想像を明確にする

組織戦略の出発点は、目指すべき組織の姿を明確に描くことです。曖昧なイメージではなく、具体的で共有可能な理想像を設定しましょう。

理想像には、組織構造、意思決定の仕組み、社員の働き方、企業文化など、多様な要素が含まれます。例えば、「月1回の部門横断会議で情報共有する体制」「入社3年目までに新規プロジェクトをリードする機会を付与」「四半期ごとのデータ分析に基づく戦略見直し」など、具体的な仕組みとして表現します。

重要なのは、経営層だけでなく、現場の社員も自分の業務との関連を理解できる表現にすることです。例えば「顧客対応の判断を現場に委譲し、上長承認なしで10万円までの値引き判断が可能になる」など、日常業務の変化として示すと効果的です。

理想像を言語化し、全社で共有することで、組織戦略の方向性が定まります。すべての施策が、この理想像の実現に向かっているかを常に確認することが大切です。

中間管理職を戦略実行のキーパーソンにする

どれだけ優れた組織戦略を立てても、実行されなければ意味がありません。戦略を現場に浸透させ、実行を推進する役割を担うのが中間管理職です。

中間管理職は、経営層の意図を理解し、現場の言葉に翻訳して伝える通訳者です。同時に、現場の声や課題を吸い上げ、経営層にフィードバックする役割も担います。

戦略実行のためには、中間管理職への十分な説明と支援が欠かせません。具体的には、経営層による説明会を実施し、質疑応答の時間を十分に設けます。また予算執行権限や人事評価権限など、必要な権限を明文化して委譲します。

中間管理職自身のマネジメント能力を高める支援も必要です。研修やコーチングを通じて、メンバーを動かす力を養います。中間管理職が育つことで、組織戦略の実行力が格段に高まるでしょう。

組織戦略で成果を出すポイント

組織戦略を策定しても、成果が出なければ意味がありません。戦略を確実に成果につなげるために、押さえておくべきポイントがあります。ここでは、よくある失敗を避け、成功に導くための要点を紹介します。

社員が「自分ごと」として捉えるための浸透施策

組織戦略が形だけのものにならないよう、社員一人ひとりが自分の仕事との関連を理解することが重要です。そのための浸透施策を計画的に実施しましょう。

まず、戦略の背景と目的を全社説明会やオンライン動画で共有します。なぜ今この戦略が必要なのか、実現できれば「残業時間の削減」「キャリアアップの機会増加」など社員にどんなメリットがあるのかを具体的に示します。

このとき、会社の都合だけでなく、社員視点での価値を示すことが大切です。

次に、各部門や個人の役割を明確にします。例えば全社目標「離職率を15%から10%に低減」を、人事部は「1on1面談の実施率100%」、営業部は「部内メンター制度の構築」など、部門ごとの具体的な目標に変換します。

定期的なコミュニケーションも欠かせません。進捗状況を共有し、成功事例を紹介し、課題があれば一緒に考える。双方向の対話を通じて、戦略への理解と共感を深めていきます。

組織戦略に合わない人材を採用してしまう失敗パターン

せっかく組織戦略を立てても、それに合わない人材を採用してしまっては台無しです。採用活動と組織戦略の整合性を保つことが重要です。

よくある失敗は、スキルや経験だけで採用を決めてしまうことです。能力は高くても、組織の価値観や働き方に合わなければ、本人も組織も不幸になります。早期離職につながるケースも少なくありません。

採用時には、求めるスキルだけでなく、組織戦略に沿った人物像を明確にしましょう。例えば、協働を重視する組織なら、チームワークを大切にする人材が適しています。挑戦を推奨する文化なら、失敗を恐れず行動できる人が向いているでしょう。

面接では、これまでの実績だけでなく、「失敗から何を学んだか」「チームで意見が対立した時にどう行動したか」など行動ベースの質問で価値観を確認します。このとき、組織戦略を説明した上で「この方向性についてどう思うか」と率直な意見を求めます。

短期間で戦略を変えないよう注意

組織戦略は、一朝一夕で成果が出るものではありません。焦って短期間で方針を変えてしまうと、現場が混乱し、信頼を失います。

組織変革には時間がかかります。新しい制度や仕組みが定着し、社員の行動が変わり、成果として表れるまでには、最低でも1〜2年は必要でしょう。その間、目に見える変化が少なくても、辛抱強く取り組むことが大切です。

もちろん、環境の変化に応じた柔軟な対応は必要です。しかし、戦略の根幹部分は簡単に変えるべきではありません。微調整は行いつつも、大きな方向性は維持する姿勢が求められます。

四半期ごとにKPI(離職率、エンゲージメントスコア、目標達成率など)を確認し、目標未達の項目については原因分析と改善策を1ヶ月以内に実行します。こうしたPDCAサイクルを回しながら、着実に組織戦略を前進させていきましょう。

組織戦略で持続的な成長を実現する企業へ

組織戦略は、企業の持続的な成長を支える重要な基盤です。離職率の改善、生産性の向上、社員エンゲージメントの向上など、多くの組織課題の解決につながります。

事業戦略だけでは、企業は真の成長を遂げられません。それを実行する組織の力があってこそ、競争優位性を築き、変化の激しい時代を生き抜くことができるのです。

組織戦略の策定と実行には、全社的な取り組みが不可欠です。経営層は戦略を自ら説明し予算を確保する、中間管理職は部下との1on1で戦略を日常業務に翻訳する、社員は目標設定時に戦略との関連を明示する。これらが揃って初めて、理想の組織が実現します。

組織戦略を立て、着実に実行していくことで、企業は持続的な成長を実現できるでしょう。まずは自社の組織課題を見つめ直し、理想の姿を描くことから始めてみてはいかがでしょうか。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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